二次元裏@ふたば

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133747 B24/04/06(土)20:12:15No.1175534813そうだねx1 21:17頃消えます
「ねぇ。
足し算と引き算だったら、どっちが好き?」
少し暖かくなり始めた春の昼下がりの陽気を、シービーの唐突な質問が切り裂いた。
「急だなぁ」
「いいからいいから。どっちが好き?」
奇妙な質問と言う他ない。だが、彼女が実に楽しそうにこの手の奇妙な行動に出るのは、そう珍しいことではなかった。
「うーん。好き嫌いで考えたことないからなぁ」
「あははっ、だよね。
でも、考えてほしいな」
そして自分も、彼女のそういう行動に付き合うのが、嫌ではなかったのだ。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
124/04/06(土)20:12:39No.1175534975+
改めて、彼女の質問を繰り返してみる。
計算そのものには、もちろん思い入れはない。小学校で初めてそれを習ったときだって、不真面目な自分は退屈な授業のひとつとしか思わなかったし、彼女が反対に勉学に喜びを見出すタイプとも思えなかった。
とすれば、足し算や引き算を使うような状況で考えることになるのだろうか。だとしたら──
「強いて言うなら足し算かな」
「へー、そっか。なんで?」
答えが漸く捻り出したものならその理由だって何ということもないのだが、それを話すのも楽しいのだと、最近になって気づくようになった。
彼女のよく通る声が、そんな気にさせるのかもしれないけれど。
「足し算してるときのほうが、引き算のときより幸せなことが多かった気がするからな。
お年玉を合計でいくらもらったとか、そういうの」
224/04/06(土)20:12:55No.1175535096+
「そっかそっか。
よかった。アタシも足し算のほうが好きだよ」
満足げにそう口にした彼女は、手に持っていたハンバーガーを一口頬張った。それを美味しそうに飲み込んでみせた後で、今度は手を出して、と仕草で要求してくる。
「だから、今日は足し算の日にしよ」
そうして差し出した手には食べかけのハンバーガーが、目の前には楽しそうに目を細めて口を開ける彼女の整った顔立ちがあった。

「お昼ごはんにきみを足したら、何になるのかな」
彼女が口にした問は、ただの足し算のくせにひどく魅力的だった。
324/04/06(土)20:13:11No.1175535228+
あーん、と喉の奥から出た彼女の甘い声が、頭の中で繰り返される。その度に頬が熱くなるのを自覚しながら、引き寄せられるように彼女の口元にハンバーガーを持っていった。

「ふふ。
さっきより美味しいかも」
その一言だけで腹も心も満たされてしまう自分が、少しだけ悔しくなった。
424/04/06(土)20:13:32No.1175535402+
公園のベンチに腰掛けて、数日前のそんなやりとりを思い出す。
一人旅は彼女の十八番だ。行き先も告げずに出かけていったとしても、それを咎め立てする権利も、そのつもりもない。
ただ、ひどく寂しい。思い出を反芻して一時だけそれを忘れて、終わってみれば彼女がここにいないことを思い出して、また寂しさが募る。
そんな柄にもない感傷が、夕日の下に自分を連れ出したのかもしれない。いつも連れ出してくれる彼女が、隣にいない代わりに。

溜息で丸まりかけた背中に、唐突に重みと温もりを感じた。
驚いたけれど、振り向きはしなかった。誰が背中にいるのかなんてわかりきっていたし、だからこそ彼女にほんのささやかな仕返しをしたかったのだ。
「綺麗?夕日」
「…うん。眩しくて真っ直ぐ見れないけど」
524/04/06(土)20:14:08No.1175535703+
どこに行ってたのとか、色々と言いたいことはあったはずなのに、彼女が帰ってきたと思うとそれが全部どうでもよくなった。
「おかえり」
「うん。ただいま」
そのやりとりができただけで、ひどく安心する。
「思ったより早かったな」
「引き算が苦手だからね」
それでも、次の言葉にはせめてもの皮肉を滲ませたはずなのに、彼女は声を弾ませたまま事も無げに答えた。
肩口に彼女の重みを感じると、伸びた耳が頬を擽る。
「不思議だね。足しても引いても1は1なのに。
きみの重さは、足すときと引くときだと全然違うんだ」
引かれていた重みがゆっくりと満たされる感触は、どこまでも心地良かった。
624/04/06(土)20:14:25No.1175535835+
ああ、本当にずるい。
「だからさ。いっぱい足してよ。
引いちゃった分も取り戻せるようにさ」
彼女も自分と同じだったと思うだけで、こんなに胸がいっぱいになるなんて。
724/04/06(土)20:14:37No.1175535946+
きみから早く誘ってほしくて、とすん、とすんと背中を当ててみる。心が通じ合っているとわかっていても、あえて言葉にしてみるというのもいいものだから。
「今日はうどんにしようかな」
「ふふふっ。やった。
じゃあ、お邪魔しちゃおう」
少し照れくさそうに、きみはアタシの好きなものを言ってくれる。洒落てるわけじゃないかもしれないけれど、アタシにはそれがいちばん心地よかった。
きみにしかできないやりかたで、アタシと一緒にいたいって言ってくれたから。

それでも振り向いてはくれないのは、黙ってどこかに行ってしまったことにまだ拗ねているのだろうか。そんなことをしても、怒るどころか可愛らしいだけなのに。
「こっち向いてよ。
もう星が見えてるから」
でも、やっぱりきみの顔が見たい。
そのために、きみのところに帰ってきたんだから。
824/04/06(土)20:14:51No.1175536036+
「これで足せてるのかな」
自嘲するようにはにかむきみの横顔が少しだけ見えて、ずっと感じていた気持ちが強くなるのがわかる。
きみがきみのぜんぶを使って、アタシを満たそうとしてくれてる。それがわかるのが、ひどくうれしい。
だから、アタシも伝えたいんだよ。そんなきみが、どこまでも好きだから。

ちゅ。
「ん…ふふっ」
振り向きざまに奪った唇を、離さないように頬に手を添える。
「だいじょうぶ。
足せてるよ。ちゃんと」
夕日が眩しくて目を開けられない。
でも、いいんだ。
きっときみの顔は、夕日と同じくらい綺麗に、赤く染まってるってわかってるから。
924/04/06(土)20:15:04No.1175536158+
きみがいないとさみしい。
そんなきみがさみしそうにしていると、なんだかうれしい。
「帰ろ?ふふっ」
きみもアタシと同じなのが、何も言わなくても伝わってくる。躊躇いながらも最後にはアタシの手を握り返してくれる、きみの手の温もりが愛おしくて。

不思議だな。
「いてくれてうれしい」と、「いないとさみしい」の重みって、なんでこんなに違うんだろうね。
ああ、そうか。
いてくれるとうれしいから、いないとこんなにさみしいんだ。
1024/04/06(土)20:15:14No.1175536238+
うれしいからさみしい。
さみしいことがうれしい。
イコールでつながった足し算と引き算の答えを、アタシはいつまでも掌の中に感じていた。
1124/04/06(土)20:15:59No.1175536596そうだねx3
おわり
シービーと他愛のない日常を過ごしたいだけの人生だった
1224/04/06(土)20:18:26No.1175537755そうだねx1
うどんもあーんしてもらっちゃうんでしょう
1324/04/06(土)20:21:46No.1175539334+
言わないけどお互いに寂しがってる間柄
1424/04/06(土)20:23:08No.1175540000+
初めてトレーナーがシービーに作った料理がうどんなんだよね
1524/04/06(土)20:26:10No.1175541373+
シービーは素直すぎるしシビトレは素直になれない
だからキスでわからせる必要があったんですね
1624/04/06(土)20:28:53No.1175542742+
膝の上に猫みたいに乗っかたら重いってって言われてちょっと拗ねるシービー
じゃあやめちゃうよって言って重みがなくなったら寂しそうな顔してるシビトレを見て満足げに笑うシービー
1724/04/06(土)20:32:53No.1175544647+
いつもの場所でいちゃつかれてちょっと気まずそうな屋上組
1824/04/06(土)20:35:51No.1175545938+
いつもより早く帰ってくるようになるのが自分でも不思議なシービー
1924/04/06(土)20:37:21No.1175546594+
どうせそのうち掛け算もするんやろ!?
2024/04/06(土)20:39:48No.1175547737+
不器用な誘い文句いいよね
2124/04/06(土)20:43:43No.1175549562+
逆にシービーがあーんしたりもしててほしい
2224/04/06(土)20:49:52No.1175552393+
引くのが怖くなるくらいに思いっきり足し合え…
2324/04/06(土)20:56:38No.1175555430+
ナチュラルに同棲してる…
2424/04/06(土)20:59:53No.1175556870+
CB早く別衣装来い
2524/04/06(土)21:06:36No.1175559873+
一人旅の後はいつもの倍くらい甘えてくるんだよね


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