CE.70 血のバレンタインから始まったコーディネーターのみのコロニー群プラント、地球に住むナチュラルを中心とした地球連合の戦争は多くの人間を巻き込みながら拡大し、一年を超えてもまだ終わりを見なかった。 C.E.71年6月、宇宙においてはザフト有利の膠着状態であったが、地球の最前線とプラントを結ぶ航路は大忙しであった。 何隻もの船が一つの塊となって、地球へ向かい、反対にプラントへ向かっていた。 その航路の途中にはザフト軍の補給基地も建造されていた、この基地はつぶした菱形を真ん中で割ったような見た目の浮きドックタイプで、艦船の修理や補給、人員の急速に使われていた。 その中の一つ、1隻の補給艦が入港し修理を受けている補給基地を狙う、不穏な影があった。 「頭、偵察に出したメビウスの情報来ました!」 「こちらに回せ」 「はっ!」 暗唱空域の中、デブリに紛れて2隻の船が息をひそめていた。 1隻はナスカ級高速駆逐艦、もう一隻はローラシア級フリゲート、どちらもザフトの軍艦だがその船体は濃紺が塗装されていた。 彼らは1年近く暴れている宇宙海賊であり、この日も獲物を狙っていた。 「補給基地にコーネリアス級1隻、周りにはナスカ級1隻、整備されてるあれは拿捕された奴みたいだな」 「積み荷は残ってますかね?」 「いや、もう運び出されてるだろ」 メビウスから送られてくる情報から、獲物の状態を判断する。 今回はあまりいい獲物ではない、荷物がなければ海賊は儲からない、儲からないのだが。 「あのナスカ級、海賊狩り担当の1隻だな」 「他の海賊からの情報なら間違いなく」 「ならあのコーネリアス級は巻き込まれた哀れな連合の船か…」 ザフトも前々から海賊の被害には頭を抱えており、その対策としては対海賊のパトロール強化ぐらいしかなかった。 海賊の多くは捨てられた船にわずかな戦力、MSを満載した軍艦1隻で十分に相手で来た。 この海賊の艦艇も、開戦初頭に気密が破れて放棄されたのを回収したものである、火力は十分であり、今なら不意打ちができる。 「…よし、あの犬っころを潰す、カリブに連絡、MSを発進させるが襲撃はジョンソンの主砲発砲後と」 「了解!」 「お前ら、今回の襲撃は厄介な番犬の排除が第一、基地の中にいるコーネリアス級は余力があれば奪い取る、わかったな!」 「はっ!」 「よし!微速前進、レーダー範囲ギリギリまで接近、その後シグーを出す!」 2隻は暗唱空域から抜け出し、標的へと忍び寄る、その間にも艦載していたシグーが発進していく。 ある程度まで近づくと、攻撃準備に入る。 「相手は新米だといいんだがな」 「こちらも軍人なんですがね」 「そうなんだがな」 この海賊の多くは元軍人であった、MSパイロットたちはコーディネーターだが、彼らも地球の国家で軍人をしていたが、コーディネーターであるが故に追い出され海賊になった者たちであった。 彼らも1年以上MSを動かし、最近手に入れたシグーに乗り換えたが、相手はザフト、製造元であるがゆえこちらより強いパイロットがいることは考えられる。 どの程度の被害が出るかは、先手を取れるかどうかであった。 「射角調整、抱えてるMSごと潰さねぇと被害が出るぞ」 「わかってます…-コンマ3…止まってる相手で助かる」 「うてぇ!」 頭の指示が飛ぶと、艦の主砲が放たれ、補給基地に横付けしていたナスカ級を貫く。 被害はわからないが、カタパルトのハッチ部分から爆炎が上がったことから、格納庫に被害が出たことは明らかであった。 「MS隊突入!」 「ナスカ級を仕留めろ! シャトルも用意するんだ!」 「分捕りですか?」 「コーネリアス級を奪い取るだけだ、選抜は任せる」 「了解!」 補給基地では海賊側のシグーがナスカ級から飛び出してきたジンを重斬刀でもって3機がかりで袋叩きにし、格納庫へと弾丸を叩き込む。 基地からもジンが出撃するが、飛び立つ前にハチの巣にされ爆散する。 海賊のシグーは練度も高く、連携もとれていたが、この補給基地にそのものの防衛隊の練度は低かったようである。 そうして基地を一時的にでも制圧すると、制圧班を乗せた艦載艇がコーネリアス級に到着、奪い取って離脱を開始する。 「コーネリアス級奪取しました!」 「頃合いだな、MS隊も退避しろ、基地を破壊する」 「了解、主砲用意!」 「カリブと合わせろ…てぇ!」 ナスカ級ジョンソンとローラシア級カリブの主砲が補給基地を貫き、一瞬で火球となり、空のチリとなった。 残酷ではあるが、こうしておけば襲撃者が海賊なのか、連合軍なのか判別できなくなる。 生き残るためには、必要なことであった。 「よし、これでしばらくは討伐隊が来ることはないだろ」 「コーネリアス級はどうしますか?」 「売り払って経費に充てる」 「世知辛いですな」 海賊であっても生活にはお金がかかる、今回の襲撃で海賊側の死者はいなかったが、MSを動かしたことにより消費した推進剤に弾薬と、消耗品は必ず出る。 船を襲い荷物を、船を奪って売り払い金に換える、そうしなければ海賊はこの混沌の世界を生き抜くことはできなかった。