携帯のメモ機能で買っていく支援物資をピックアップしていく
自分も基本健康な方だとは言え、風邪を引いたことくらいはある。その時に欲しかったもの、必要だったものを思い出してメモをとる
風邪薬は……自分の机の引き出しを漁る。あったあった、ちょっと前に買った解熱剤。流石に今の時間まだ薬局は開いてないし、これを持っていくとしよう

「ん、ん………むにゃ？」

そんなことしてると、横のベッドがもぞもぞ動く
布団の中から寝ぼけ眼のウマ娘が御登場。起こしちゃったか

「ごめんタイム、起こしちゃった」
「んぅー。いいよぉ………」
「今日はタイム休みだろ？まだ寝てなよ」

そうするぅ、と布団に潜っていく同室のウマ娘、タイムトゥヘヴン。相変わらず、朝に弱い奴
念のためのマスクも付けて。よし、準備完了だ

「おやすみ、タイム」
「んぅー………」

今度は邪魔しないようにそっとドアを開けて外に出る
さて、まずはコンビニまでひとっ走りだ。買い物リストは作ったし、さっさと買って届けてやるとしよう
いつも通りの一日……だったはずが
まさかの友人の看病という、思いがけない展開となってしまった

●

「さて、メイケイエールの部屋は………」

栗東寮にやってきて、事情を話して入って廊下を歩く
来たことがないわけじゃないけど、ていうか何度も来てるけど他所の寮っていうのはやっぱりどこか落ち着かない
早めにコトを済ませて出た方がいいのかな。でもまぁ、今回はしっかりした理由があるわけだし堂々としてればいいか

「確か……前回来たのって………」

ソダシちゃん……映画……うっ、駄目だこれは思い出すな。去れ、忌々しい記憶！！！

「………と、あったあった」

頭をブンブンふって邪悪な記憶を振り払って、目的の部屋の前で足を止める
そういえば鍵は開いているのだろうか？そんなに症状が酷いならベッドから立たせるのも悪いかもしれないけど………

「メイケイエール。大丈夫か？」

ドアをノックして、軽くドアノブを回してみる
鍵は……かかってないようだ。ソダシちゃんが気を回してくれたか

「入るぞ、メイケイエール」

そっと戸を開けて、中をのぞき込む
室内はカーテンが閉まったままで薄暗く、綺麗に整頓されている
その横にあるベッド……そこに、布団に入ったままの彼女を見つけた

「おい、大丈夫かメイケイエール。起きてるか？」

コソコソと声を静かに問う。寝ているのなら無理に起こすことは無い。このまま荷物をメモと一緒に置いていけばいい
その声に反応して、もぞもぞと動く布団
顔を出した彼女……メイケイエールと薄暗い中目が合った

「ソング、ラインちゃん？」
「起きてたか。風邪ひいたって聞いたから、見舞いに来たんだ」

その顔は薄暗い中でもわかるほどに紅潮していて
ああ、これは相当つらいんだな。咳込む姿を見て、改めて現状を認識できた

「食欲はあるか？」
「ん……今は、食べられ無さそう、です」
「そうか。ゼリー飲料買ってきたから、少しよくなったら飲んでおけ。レトルトのおかゆは……あとでソダシちゃん帰ってきたら温めてもらえばいいか」

あんまり説明が長くなっても辛いだろう。ビニールから色々取り出して、取り急ぎ必要な事だけ伝えていこう

「風邪薬持ってきたから。熱は何度だ？」
「さっき………こほっ。３８.７度で………」
「結構重症だな………解熱剤、飲んでおけよ」

いつもの大声元気はなまる娘の影は鳴りを潜め、そこにいるのは弱った一人のウマ娘
ここまで弱った姿は、初めて見たかもな……それなりに付き合いも長くなってきたけど、いつも大声張り上げて走り回ってるイメージがどうしても強く残ってるので違和感が凄い

「ソダシちゃん、今日は何時くらいに帰ってくるって？」
「ごほっ。午前中であがり、です」
「じゃあリンゴも置いておくか。後で剥いてもらえ。あとポカリ。水分だけはちょっと無理してでも多めにとっておけよ」

とりあえずコップ………あったあった。これでいいか
ポカリを一杯注いでおく。スポーツドリンクだったら無理なく飲めるだろうし

「ソングラインちゃん………練習、は？」
「先輩方から連絡受けてきたんだよ。ソダシちゃんが先輩方に連絡してくれててさ。それで、練習前に寄らせてもらったんだ」

適当に椅子を借りて座って、メイケイエールに視線を合わせる

「お腹痛いとかはないか？」
「大丈夫です」
「じゃあ、とにかく暖かくして寝ないとな。あと何かあったらすぐに連絡しろよ？あとでまた様子見には来るけど」
「ん………」

もぞもぞと口のあたりまで布団を上げて横になってるメイケイエール
いかん、これ放置していいのか？と心配になってきた

「ソングライン、ちゃん」
「ん？なんだ？」

まだ苦しそうだが、なんとか声を絞り出したかのような感じだ
……声を聞き取るのに苦労するメイケイエールとか、本当に珍しいな

「りんご、食べたいです」
「え？食欲出たか？」
「少しだけ……あの、細かく切ってほしい、です」

なんだ、食欲が出たならよかった。でも………

「無理してないか？」
「してないです………けほっ」
「ん、わかった。少し待て」

リンゴ……とりあえず一個でいいか。これでも多いかもしれないし

「お皿借りるぞ」
「はい。その……棚に、あります」
「ああ、これか。ちょっと電気つけるぞ」

電気をつけてお皿と果物ナイフを取って、また椅子に座り直す
普段からあのプレハブ小屋でアレコレやってたのが役にたつ。リンゴ一個剥くのなんて朝飯前だ
なんならウサギさんにしてもいいけど、今回は患者の意向をくんで、細かく切ってと

「ほら、できたぞメイケイエール。なんなら擦り下ろそうか？」
「いえ……いただきます」
「食べたら解熱剤飲むんだぞ」

ゆっくりと上体を起こしたメイケイエールが、ゆっくりと楊枝の刺されたリンゴに手を伸ばす
ゆっくりゆっくり、少しずつ。いつもの姿からは考えられないほど静かに丁寧に食べていく

（そういえば、こいつ結構なお嬢様だったな………）

忘れがちになるけど、メイケイエールはかなりいいところのお嬢様だ
その食べる量に圧倒されて見落としがちだけど箸の使い方や所作には隠しきれない育ちの良さや教養が見て取れる
風邪によって出力にセーブがかかっている今、その面が強く出てきているのかもしれない

（大人しくしてればただの美少女なのにな）

本人には言わないけど

「少しは食べられそうか？」
「はい。ありがとうございます」
「無理しなくていいからな。全部食べ切らなくても」

リンゴが食べられるということは、まだ多少マシな状態か

「ごちそうさまでした」
「うん、食べられたな。はいポカリ」
「んく、んく………」

少しずつ静かに、でもちゃんと水分補給している
この分なら回復も早そうだ。あとでソダシちゃんにも連絡しておこうか

「あ、そうだ。忘れてた。メイケイエール、前髪どけろ」
「え？こうですか？」

買ってきておいてよかったよかった。それを剥がして、メイケイエールの額にくっつける

「ほい」
「んみ」

冷えピタ。これがあると結構楽になるよね
効果はどの程度あるのかはわからないけど、無いよりはあった方がいいだろう
本当なら氷枕とかもほしいけど……先輩方、持ってないかな

「解熱剤も飲んだか？」
「はい。飲みました……こほっ」

うん、まだ辛そうだけど……これ以上悪化はしないだろう。多分だけど

「もしこれ以上体調悪くなるんだったらすぐに病院行くんだぞ？」
「わかりました……んぅ」

少し眠くなってきたのか、メイケイエールは目をこする

「無理しないで寝ておけ。あとでゼリーとか食べられたら食べて、今日一日ゆっくりしておくんだぞ。ポカリも置いておくから」
「はい。ソングラインちゃん」
「ん？なんだ」

布団に再び潜りこんだメイケイエールは、もぞもぞと口元を隠して

「ありがとう、ございます」

………まったく、なんだかなぁ
綺麗な髪を掬うようにして指を差し入れて、ゆっくり撫でてやる
熱くなったその熱に、少しでも早く静まれと願うように

「気にするな。早く元気になって練習に来い、メイケイエール」
「はい………んぅ………」

そのまま眠りに落ちるメイケイエールを撫で続け、小さな寝息を立て始めるところまで見守った
まったく、普段からこれだけ静かなら
そんな事をふと考えたけど

（………それはそれで怖いから、いつもの方がいいな）

そう思い直して、想像の中のいつもお淑やかなメイケイエールに少し笑ってしまう
早く出てこい。じゃないと隣が静かすぎて落ち着かないんだ、なんて
それこそ本人には言えないし言わないけど

「さて、そろそろ………」

練習に行くか、と静かに立ち上がろうとしたら
手に、何か妙な抵抗感があった

「ん？………あー」

メイケイエールの手が、私の袖を掴んでいた
結構しっかり握られちゃってる。無理に、というか起こさないで外すことも不可能じゃない。けど………

「……ｽｩ ｽｩ」
「………まったく」

はぁ、と呆れのため息をついて
空いてる手で携帯を取り出して、連絡先をすすっと探して通話ボタンを押した

「……あ、お疲れ様です先輩。ええ、はい。今メイケイエールの様子を見て………」

かくかくしかじか。メイケイエールの現在の状態をしっかりと伝えておく
そして、どうするかギリギリまで迷ったけど………

「ソダシちゃんが午前だけの練習で帰ってくるそうですので。それまで、様子見てても大丈夫ですかね」

もう一度椅子に腰を下ろして、苦笑いしつつ………そんなお願いを

「ええ、はい。わかりました、ありがとうございます」

お礼を言って、通話を切る
そういうことならと快諾してもらえてよかった
薬を飲んだとはいえ、この後どうなるかわからないし。もし悪くなるようなら病院に連れて行かないといけないしね
保健室でもいいんだけど、移動も辛そうだし自室療養で何とかなるならそれが一番だ
風邪の時は、冬眠するクマのように眠ることが大事だ。とにかく免疫力で勝負するのが大事になってくる
だから、今はゆっくり休んでもらおう。少し寝苦しそうに寝息を立てる友人の頭を撫でながら、そう決めた

「早く元気になって戻ってこい、メイケイエール」

少しでも、彼女の苦痛が和らぐようにと
少しでも早く、あのおてんば娘が戻ってくるようにと
そう願いを込めて、そのサラサラの髪を掻き分ける

「……そんぐ、らいんちゃん………」

うわごとのように呼ぶ名前が自分のものだったのを、どこか気恥ずかしく思いながら

「……おやすみ」

その苦しそうな顔を見守るようにして、ソダシちゃんが帰ってくるまでの時間は過ぎて行った

●

「………ベタすぎるだろう」

ゴホッゴホッとせき込みながら自虐に走る。というか、それ以外に言えることは無い
熱は……確か３７．９度。うん、問答無用だこれ

「お見舞いに行って風邪移るとか、漫画じゃないんだし………」

あの後。メイケイエールの風邪が回復したのとほぼ同時期に今度は私の方が体調がおかしくなった
念のために熱を測ったら案の定で。先輩方に連絡を入れて、練習を休むことになった

「………喉、痛い」

タイムが置いて行ってくれたスポドリを飲むけど、喉の乾きにも似た痛みはおさまらない
頭も痛くなってきた。冷えピタは貼ったけど、焼け石に水と言うか

「なんか、食べないと………」

すると、耳に入ってきた小さな音
何かを、細かくたたくような………

「……だれ？」

その控えめなノックに、出せる限界の声を出して返答する
カチャリ、と静かにノブを回す音。タイムが帰ってきたのだろうか

「ソングラインちゃん」

しかし、その声はタイムのものではなく
もぞりと体を動かしてみてみれば………そこには、買い物袋を手にして微笑む、彼女の姿があった

「メイケイ、エール」

もうすっかり元気になっただろうに、静かに、音を立てずに部屋に入ってくるメイケイエール
ドアをゆっくり閉めてこちらに向かってきて、ベッドの脇に座り込んで

「リンゴ、買ってきましたよ」

そう言ってちょっと悪戯っぽく笑う彼女は……ああ、間違いない
騒がしくて元気はなまる印のいつもの姿とは違うけど、間違いなくメイケイエールだ

「食べられそうですか？」
「……ん。少しなら」
「じゃあ、今剥きますね。薬と、ポカリも持ってきましたから。ゼリーもあるので、食べられるときにどうぞ」

……完全にあの時と正反対の状況になってしまった
リンゴをわざわざ買ってきてくれたのは完全に狙ってるだろう。そのくらい、熱に侵された頭でもわかる
だけど、

「だから、早く元気になってくださいね？ソングラインちゃん」

そう言って撫でてくる彼女の掌が、心地よくて

「みんな、待ってますから」
「………ん」

リンゴを剥き始めたその音を聞きながら、少し気恥ずかしい感じに体をよじり
早く治そう。そう決めて、彼女の好意に甘えることに決めた

以上。風邪ひきかけたから酒飲んでメイソンした

しおしおエールちゃん好きだ

いいメイソンを補給できた

風邪なら酒飲んでないで寝ておけ

ｷﾀ━━━━━━(ﾟ∀ﾟ)━━━━━━ !!!!!

>No.1167906554
お手描きありがとうございます！

>No.1167906554
ソングラインちゃんのぱかプチ欲しいな…

ソダシは無駄に風邪引かなそう

>ソダシは無駄に風邪引かなそう
ふふ…バカにされた気がしたし…