前の日に掃除も洗濯も済ませてしまった。夜10時に洗濯物を回してしまったのだが幸い日曜日なのでご近所さんには迷惑はかかってないだろう。
　その日の夕食は草太さんの作ったカレーライス。草太さんの作る料理はなんでもおしいい
カレーライス、肉じゃが、シチュー、ハヤシライス…「それ全部同じじゃない！」って千果にLINEで突っ込まれたけど無骨ながら美味しいのだ。具材は草太さん好みなのか大きめにカットしてある。女の子が大きな口で食事する事はあまり恥ずかしい事じゃないみたい…らしい。そういう草太さんも好きだ。
　草太さんはカレーには牛乳派だ、グラスにスプーンを入れる派だ。私は中学校までは牛乳は飲めたけど高校になってからお腹を下すようになってしまって。低脂肪牛乳ならギリギリ大丈夫。
だから、我が家の冷蔵庫にはホモ牛乳と低脂肪牛乳の二本が置いてある。草太さんのは１リットル私のは500ml、それもカレーの日にだけ買う。
「わがままなのはわかっているんだ。でも低脂肪牛乳は飲んだ気がしないんだよすずめさん」という草太さんなりのこだわりがあるみたいだ

草太さんの家ではドラム式洗濯機が置けない。乾燥機はブレーカーの関係で置けない。それに今は夜だから外干しはできない。草太さんの家にはベランダがないけど屋上に洗濯物干し場がある。少し変わったアパートだ。
　もう草太さんの家じゃないのに、草太さんと私の家なのに。
環さん家は環さん家、私の家はきっと宮古に置いてきてしまったんだろう。それは一生消えないであろう。
部屋に服を全部干したら部屋が少し蒸し蒸しする。
「少し窓、あけようか」と草太さん、3月のまだひんやりとした冬が抜けきれていない空気が入り込んでくる。
窓を明け、電気ストーブを焚き、サーキュレーターを回すというなんとも不思議な光景が目の前に広がる。
―――時計は外した。スマホの電源も切った。テレビは付けない、ラジオも付けない。だって今日はそういう日だから

草太さんのシステムベッド？ハイロフトのベッドはとっくの昔に撤去した。そのスペースには私の私物が置いてある。
草太さんの閉じ師に関する文献で部屋はミチミチにあふれている。リビング…というか居間に当たる空間は実質６畳もない。
「引っ越す時には書斎は絶対必要ですね」と二人で笑ってる。
　今、ちょうど引っ越し先を探している。
今日も実は下見をしに行った、土曜からの夜勤明けの私は半分寝ていて記憶が怪しいが、吉祥寺の物件を見に行って赤羽と北千住と国立の物件を新たに紹介されたらしい。
国立はさすがに仕事場（聖蹟桜ヶ丘）との兼ね合いもあるからパス、吉祥寺の物件が赤羽や北千住よりやすかったのが以外だったしかも3LDK、ただし築78年、曰く付きだ。

その後、二人で映画を見に行ったのだけど、私は疲れて寝てしまった。だって静かな映画だったんだもん！子守唄にはちょうどいいや…生れ出づる悩みをもつ男女を描いた静かな映画だったのは覚えている。
上映後、「いびきかいてなかった？」って草太さんに顔を真っ赤にして聞いた。「映画に集中しいてそれどころじゃなかったよ」と草太さん。よかった、けど草太さんが真剣に見るんだからよっぽどすごい映画だったんだろう。配信に出回ったらまた見てみよう。

それにしてもコンビニのおばあちゃんとアングロサクソン系のお姉さんと別れるのは寂しいが二人で棲むにはこの部屋は狭すぎる。
「彼氏とワンルームとかシティガールやん、素敵やん」と千果は言ってくれる
たしかに清貧は美しいと思うがプライベートスペースが一切ないと少し困る。お互い、目のやり場に困る瞬間はある。
二人分の布団を敷いたら布団がはみ出してしまう。それくらい狭い部屋なのだ。当然、草太さんの大きい体躯は布団からはみ出すし、お互いの身体が常に触れ合った状態で眠る形になる。…二日目とかはちょっと困る。
　けどこうして常に草太さんと触れ合えるのがなによりの幸せだったりする。私にとってはの話だ、多分引っ越してもダブルベッドで寝ることになるだろう。草太さんがよければの話だけど。
―――時計は外した。スマホの電源も切った。テレビは付けない、ラジオも付けない。だって今日はそういう日だから

「疲れちゃった…今日はもう寝よう」私は切り出した。夜勤明けから午後23時まで起きっぱなしは辛い（映画で寝てたのはカウントしないで）
「すずめさん、少しお話しよう―――」
寝る前に草太さんはいろんなお話をしてくれた。普段はこんなお話するタイプじゃないのに、
おじいさん、羊郎さんに引き取られる前のお話が多かったちいさい頃のお父さんとの思い出話が多かった。お父さんと虫取りをした話、市民プールに毎年夏につれてってもらった話、
はじめて外房でほんものの海を見た時の話がとてもよかった。「おとうさん、こんなに広かったら岸まで泳ぎきれないよ」って草太さんはお父さんに言ったらしい。
草太さんは小さい頃から素朴な子だったんだなぁって、とてもニコニコして聞いていた。

草太さんにお姉さんがいたというのはびっくりした。6歳近く年が離れていてずっと一緒だったって草太さんは言っていた。
そして、若くして亡くなったという話もしてくれた。草太さんいわく「姉さんにも閉じ師の才能はあったかもしれないね」と話す。その瞳は悲しそうだった。
「姉さんの事が本当に好きだった」と何度も何度も話してくれた。そういう草太さんの弱い所を聞けたのは私自信本当に嬉しかった。頼ってくれてるといいか背中を預けてもらえてる感覚に近い。
―――時計は外した。スマホの電源も切った。テレビは付けない、ラジオも付けない。だって今日はそういう日だから

お姉さんの話をした後、草太さんと一つになった。眠気なんて吹き飛んでしまうような気持ちいい瞬間が私に訪れる。
れから、丸一日、カーテンは閉めっぱなし。エアコンつけっぱなしで一日中、くっついて過ごした。
お腹が空いたらアルミ鍋に作り置きしたカレーをだらしない格好で食べて、そしてまた身体を重ねて過ごした。
そう、今日はとても素敵な日だった、きっと明日も素敵な日だ。そう思う事にしている
もう日記は黒いクレヨンで塗りつぶさない。だって私は光の中で大人になっていくのだから―――

明けの明星が私達を照らす、
遮光カーテンを勢いよく明ける。薄紫色に近い朝焼けが御茶ノ水の窓枠いっぱいに広がる、そして私は草太さんに、それに私自身にこう告げるのだ。
「おはようございます」そう大寧にはっきりと明るく、十分立派に元気に告げた。
自分自身の身体が光に映えていく。光に満ちて私は大人になっていくのを実感した。
もう何も怖くない…けど、たまには思い出してもいいよね…お母さん―――
時刻は3月12日午前5時40分を指していた。
私は光りの中で大人になってゆく―――

おわり

この日だもんな…

あいつ

あいつ

いいよな…

いい…

よしなよ

>私の家はきっと宮古に置いてきてしまったんだろう。それは一生消えないであろう。
やめてくれ

そういう日だったのか…

そういえばあの日だったねすずめさん
忘れてたよ

あいつ草太の話になると急に早口になって気持ち悪いな

芹沢のレス

すずめのおかあさんしりませんか？おかあさんもすずめをさがしてて
きっとすごくしんぱいしてるからはやくおかあさんのところにいかなきゃいけないんです
すずめのおかあさんはびょういんでおしごとをしていておりょうりとこうさくがじょうずで、なんでもつくってくれて…
おうちが…おうちがなくなっちゃっておかあさんすずめのばしょがわからなくなってて

>すずめのおかあさんしりませんか？おかあさんもすずめをさがしてて
>きっとすごくしんぱいしてるからはやくおかあさんのところにいかなきゃいけないんです
>すずめのおかあさんはびょういんでおしごとをしていておりょうりとこうさくがじょうずで、なんでもつくってくれて…
>おうちが…おうちがなくなっちゃっておかあさんすずめのばしょがわからなくなってて
やめてくれカカシ
やめてくれ…！

こういう3.11の過ごし方
いいと思うよすずめさん

>れから、丸一日、カーテンは閉めっぱなし。エアコンつけっぱなしで一日中、くっついて過ごした。
>お腹が空いたらアルミ鍋に作り置きしたカレーをだらしない格好で食べて、そしてまた身体を重ねて過ごした。
>そう、今日はとても素敵な日だった、きっと明日も素敵な日だ。そう思う事にしている
>もう日記は黒いクレヨンで塗りつぶさない。だって私は光の中で大人になっていくのだから―――
こいつら！

あのね、すずめ今はどんなに悲しくてもね
すずめはこの先ちゃんと大きくなるのだから心配しないで
未来なんか怖くない！あなたはこれからも誰かを大好きになるし
あなたを大好きになってくれる誰かともたくさん出会う
今は真っ暗闇に思えるかもしれないけれど、いつか必ず朝が来る
あなたは光の中で大人になっていく、必ずそうなるの
それはちゃんと決まっていることなの
私はね、すずめの明日―――

>あのね、すずめ今はどんなに悲しくてもね
>すずめはこの先ちゃんと大きくなるのだから心配しないで
>未来なんか怖くない！あなたはこれからも誰かを大好きになるし
>あなたを大好きになってくれる誰かともたくさん出会う
>今は真っ暗闇に思えるかもしれないけれど、いつか必ず朝が来る
>あなたは光の中で大人になっていく、必ずそうなるの
>それはちゃんと決まっていることなの
>私はね、すずめの明日―――
プレーンな奴久々に見た