【アッパーガイオンゴリラ区画、武装UNIXバン車内:ナイトキャップ】 キョート・リパブリック、アッパーガイオン東部ゴリラ区画。ガイオン市街と外界を隔てる外壁の大門「ゴリラ門」に接するこの区域は、伝統と美観、奥ゆかしさを標榜するアッパーガイオンにおいても治安レベルは実際低い。 巨大な外壁一枚で隔てられた外界の周辺には市民IDを持たぬ者達の貧民街が形成され、さながら堰板を差し込まれたドブ川めいた様相である。 大門にほど近いストリートの一角に停車された武装UNIXバンの後部。2人のザイバツニンジャは、顔を見合わせ困惑していた。 「オイ、本当にコイツなのか?」「…そうらしい」 ザイバツ・アデプト、ブラッドマチェーテとマウストラップ。ザイバツ傘下のヤクザクランのひとつ、グレートスズメ・ヤクザクランのギルドへの無断シノギの情報から、ゴリラ区画にてクランが運営するという裏賭博場へのケジメに派遣された次第である。 上客の集う今夜、オヤブンが店を訪れる事は確認済み。その場を抑えるとともに、この背信行為の裏にあると目されるソウカイヤないし暗黒メガコーポ…別組織の干渉の影から、電算機室による捜査および支援も行われるとの通達があったが、二人の元に届いたのは電算機室からの直接支援ではなく、一台のUNIXバンだった。 バンの中には最新型ハッキング用UNIXと機材が隅々まで敷き詰められ、支援としては実際申し分ないと言えたが、問題はその中央のUNIXチェアーを倒し、いびきをかいて眠りこけるニンジャだった。支給品のブルーライト低減眼鏡から電算機室のニンジャであることは間違いないが、半開きの口からは涎が垂れ、お仕着せられたようなサラリマンめいた装束のワイシャツとネクタイはだらしなく乱れ、その上に寝間着めいたずんぐりしたドテラを羽織っている。 「オイ!起きろクズめ!」「…フガッ!」ブラッドマチェーテがチェアを蹴り飛ばすとそのまま勢いよく前面のキーボードまで倒れ込み、やがて億劫そうに顔を上げゆっくりと向き直る男。その目元は薬物中毒者のそれらしく暗く窪んでいる。 「アー…?ドーモォ、誰…?かと誰か。ナイトキャップ…です」「チッ…ドーモ、ナイトキャップ=サン。ブラッドマチェーテです」「マウストラップです」いかに胡乱であろうともニンジャであればアイサツされれば返さねばならぬ。古事記にもそう書かれている。 「クソが!電算機室は一体何を考えてやがる!こんな使い物になりそうもない寝ぼけ野郎を寄越すとは!」毒づくブラッドマチェーテに、多少は詳しいマウストラップが頭を抱え説明する。 「電算機室が試験的に始めたハッカーニンジャの現地派遣サポートらしい。噂ではオフィスに存在するだけで士気の下がる輩の要するに厄介払いだとか聞いたが、これほどとは…」電算機室の慢性的人手不足…実際消耗品の奴隷ハッカー達の損耗は勿論。特にハッカーニンジャ不足の深刻さは、経験・未経験を問わずギルド内でリクルートを続けている様からも有名だ。故にこのような明らかに風紀を乱す、問題あるニンジャもカマユデ送りにせず登用しているのだろう。 「モチヤッコ…モチモチ……ウフッ」二人の会話がまるで耳に入っていないように、半分閉じた瞼で首の端子から伸びたままのLANケーブルを指で弄ぶナイトキャップ。彼はモータルの時分から重篤ザゼン中毒者だ。 「もういい!コイツは要らん!所詮はギルドの威光を解さぬコウモリめいた情けないヤクザの締め上げよ!まどろっこしいハッキングなどせずとも適当に腕の五、六本ケジメすれば泣いて洗いざらい全て情報をぶちまける!そして殺す!」「だな」 荒々しくバンの扉を閉めると、肩をいからせたブラッドマチェーテとため息交じりのマウストラップはそのまま「シャブシャブ」「おふくろの味」「やすしときよし」等、キョートらしからぬ卑猥な看板の立ち並ぶビルのあわいに消えていく。 そしてバンの中に一人残されたナイトキャップは、また暫く船を漕いだのち…思い出したように緩慢な手つきで首のLANケーブルをUNIXデッキに直結した。そして懐から取り出したザゼンタブレットをバリバリと噛み砕き更にスキットルの酒で転がし流し込む。危険なマリアージュがニューロンに浸透し、虚ろな目で更に遠くを見つめながら曖昧に微笑む。「アアアアマーイ……」 ◆ 「マッタ」ブラッドマチェーテとマウストラップが目的の会員制裏賭博場『シゾロチョウ』に今まさにエントリーしようとした瞬間、IRC携帯端末から突如静かな声が響く。「誰だ!?」「アイエッ!?」 「誰とは。さっきアイサツした仲じゃないか?では改めてドーモ、ナイトキャップです」ナイトキャップ?先ほどのロクデナシが?呆気に取られた二人をよそに一方的に会話は続く。 「既に店のセキュリティは掌握済み、荒事は最小限でいいから楽にしてくれ。グレートスズメ・ヤクザクランの裏帳簿情報も吸い上げてる。その端末に送るから上手くインタビューに使うといい。音声ログで確認したがさっきの君らの随分な物言いだったら気にする必要はない。もっと酷いヒステリーに日頃晒されているものでね」 またしても顔を見合わせ困惑する二人。ナイトキャップの物理肉体は今もバンの車内で小刻みに痙攣しながら涎を垂らし続けている。 「スマートにやろうじゃないか。見せしめが必要なら少しずつLAN直結テーブルの客をフラットラインさせるか、稼働中のスロット台ごと爆発させていく。一斉の方が良いかな?」 ◆ナイトキャップ (種別:ニンジャ)  DKK:0 名声:1  所属:ザイバツ 性別:男 カラテ    3  体力   3 ニューロン  6  精神力  6 ワザマエ   4  脚力   2/N ジツ     0  万札   0(-12) ◇装備や特記事項 ▶生体LAN端子LV1、オーガニック・スシ 『◉ニンジャソウルの闇』『知識:ドラッグ』 ◆賽◆ IRCニンジャ名鑑#93 【ナイトキャップ】 ザイバツ電算室に拉致された奴隷ハッカーに偶然ニンジャソウルが憑依し、なし崩しにヴィジランスの派閥下に組み込まれた。 憑依以前から慢性的なザゼン中毒にあり、それはニンジャになっても変わらない。ストーカーからはろくでなしのクズ扱いされている。 ◆子◆ ◆ブラッドマチェーテ なんかてきとうによういしたニンジャだ。脳筋 ◆マウストラップ なんかてきとうによういしたニンジャだ。ひょろい