私に興味がないのか、尊重してくれているのか。
それなりに長い付き合いになっているのに明かしてくれませんけど。

少し気持ちが陰っていると、トレーナーの視線に気付く。
どうやら手元の本、レシピ集に興味があるらしい。

「どうかしましたか？」
「いや、集中して読んでたから何でかなって」

前は俺が背中に立ったら隠してただろ、と彼は苦笑した。
そうだったでしょうかと首を傾げる。
思い出せないが、気が散って集中できなかったのかもしれない。
そこで無駄な思索を打ち切り、口を開く。

「今度またローズさん達とお茶会をする事になりまして」

「ああ、お菓子を作ってあげるのか。フラッシュのは美味しいからな」
「……まあかねがねそう言う事です」

面と向かって褒められると、言葉に詰まる。
恐らくファルコンさん達と違い、おべっかだと感じるからだろう。
そんな見え見えのお世辞には乗りません。

頬が熱くなるのを誤魔化すように、咳払いを挟んで本を広げて見せる。

「このお菓子に挑戦しようと思うのですが、どうでしょうか」
「いいんじゃないか、美味しそうだし可愛い感じだ」

男性の目から見ても可愛いと思うのなら、そう外れないだろう。
私から受け取った本をペラペラとトレーナーは捲っていく。
と、その手が急に止まった。

「お、これも美味しそうだな」

嬉々とした表情でトレーナーがページを見せてくる。
レシピを読んでみれば、また作るのが面倒そうなお菓子だった。
呆れた気持ちでジト目で彼を睨め上げる。

「なんです？　まさか私に対する挑戦か当て付けですか？」
「どうしてそうなるんだよ！？　俺はただ――――」

必死に弁解しようとするトレーナーのお腹が、グゥと大きな音を立てた。

「美味しそうだなって、思って……」

照れるように赤くなった顔をトレーナーは背けた。
お腹と口が繋がってるんでしょうか？　まったく正直というか、何というか。

　・　・　⏰　・　・

――――何故俺はここに居るのか？　思わず天井を見上げた。

「どうしたのトレーナーさん？　ほらこっち来てよ☆」
「そうだね、もっと色々と話して欲しいかな」

逃避気味だった意識もウマ娘達の声ですぐに現実に戻された。
視線を下げればスマートファルコンやローズ達が笑顔でこちらを見ている。

――――だが笑うという行為は本来攻撃的なもの。

そして獣が牙をむく行為が原点である。
確か俺の先生がそんな事を言っていたが……今なら事実だと分かる。

眼前のウマ娘達は獲物、もとい弄りネタを前に目を輝かせていた。
まあ年頃の女の子だから、辛うじて理解できなくはない。

理解できないのは自身の置かれた状況だった。

（なんで俺が女子会もとい、お茶会に参加してるんだ……？）

長机の参加者たちに男は俺一人、他は皆ウマ娘だ。
先日、突然フラッシュから

『今度の休日は予定を開けておいて下さい、いいですね？』

そう半ばゴリ押しされて、今日手を引かれるままここに至っていた。
恐らく彼女によって参加枠に捻じ込まれたのだろう。

明らかな部外者、招かれざる客。

……その筈だが、周囲から注がれる好奇の目に影は見えない。

助けを求めるようにキッチンにいるフラッシュに目を向けた。
だが俺のSOSにまるで気付かず、傍に居るウマ娘に愚痴っている

「それでですよ？　突然私からレシピを取り上げたんです」
「トレーナーさんが？　それでどうしたの？」
「『フラッシュのお菓子は美味しいから、是非これを作って欲しい』と」
「へ〜それで〜。よっぽどフラッシュさんのお菓子が気に入ってるのね〜」

やれやれと言った調子のフラッシュに、ピサがコロコロと笑う。
楽しげに会話をするウマ娘達とは逆に、俺は胃が縮む気分だった。

あのフラッシュさん？　事実と全然違わない？　俺の台詞変わってない？

つい問い質したい思いが込み上げる。
だが隣に座るファルコンに肘でつつかれ、想いは儚く散った。

「トレーナーさんも情熱的な事を言うんですね♪　このこの☆」
「フラッシュさんのお菓子を食べた事があるんだね」
「あ、ああ。お茶請けにって時々差し入れしてくれてて……」
「そうなんだね。うん、けど分かるよ」

気品の漂う仕草でローズが頷いて見せた。
事実としてフラッシュの作るお菓子は美味い。
そう確かに美味いのだが……。

「だからすみませんね、人を増やしてしまって」
「構わないよ。こういう趣向も悪くないと思うから」

申し訳なさそうにフラッシュが謝罪するのを、ローズは鷹揚に許す。
周囲が俺が『無理矢理』参加した動機として納得する程には、美味だ。
ウマ娘達の微苦笑に対して、俺は愛想笑いを浮かべて内心を誤魔化す。

（い、言えねえ。頼んでないなんて今更言えねえ……）

「本当に仕方のない人ですよ、本当に」

愚痴りながらもフラッシュはカシャカシャとボールをかき混ぜる。
ファルコンやピサ達から向けられる微笑ましいものを見つめる眼差し。

弁解したくなるが……まあいいかと溜息を吐く。

手作りのお菓子が食べさせて貰えるのに不満はない。
彼女の面子を潰す必要はないし、何より担当の息抜きにもなるのだ。

ちらりと視線をキッチンへと向けてみれば。
不平を零しつつも、なんだかんだと機嫌よく作業するフラッシュが見える。
甘い香りが漂う中で、こういう時間もそう悪くないと息を漏らした。

フラッシュはなんだかんだ献身的に尽くしてくれる気がする
あと某キングダムさんはキングみたいに優雅にお茶会開いてそうなイメージ

👁ローズ君？私は呼んでくれないのかい？

ローズキングダムとヴィクトワールピサ？

ギムさんとローズは社会人になってからの付き合いだからね……

この頃の親父はまだ知り合ってないからな…

>この頃の親父はまだ知り合ってないからな…
つまりどっかで自販機蹴飛ばす親父を目撃するのか…

話盛っちゃうフラッシュ可愛い…

いいよね
大勢の前でこれ私のツレですって自慢されるの

>いいよね
>大勢の前でこれ私のツレですって自慢されるの
（（推せる…））

>👁ローズ君？私は呼んでくれないのかい？
一応舎弟や🦍にボコられてる秋天前の想定だから…

「さぁお菓子が出来ましたよ」
「それじゃあ皆頂こう――――」

ﾋﾟﾝﾎﾟﾝﾊﾟﾝﾎﾟﾝ
『ローズさん壊れた自販機の件で話があります。至急職員室まで』
「ボクじゃないです……」ｼｵｼｵ

ってなるオチも考えたけど哀れ過ぎて止めたよ

よかった...
またやったね。って注意される🌹くんは居なかったんだ...

やっぱフラッシュ可愛い

>いいよね
>大勢の前でこれ私のツレですって自慢されるの
ああこれ牽制も兼ねてるのか
さすがフラッシュ抜け目ない

最近ぴょいぴょいしてるのが多かったから助かる

何か似たようなやつを読んだことあるな

>ローズキングダムとヴィクトワールピサ
もっと１０世代の集団幻覚増えて欲しいけど解像度が解像度が低い！
たわけシップとローズくんくらいか？ヒルノダムールはカフェ似でいけるくらい？

いやあ…仕方ないですねトレーナーさんは！本当に仕方ないんですよ！ってノロケじゃねえかなこれ…

折角だしこの状況を楽しもうとファル子やローズたちとの会話が盛り上がりだすとキッチンのフラッシュの愚痴がさらに発動する

フラッシュ料理に夢中だから少し他の子といい雰囲気になっても…

キッチンからそっと伺うようにテーブル席に目を向ける。

楽しげにファルコンさん達と談笑するトレーナーの姿があった。
……今こうしてお菓子を作っているのは私なのに、随分楽しそうですね。

若いウマ娘なら誰にでもいい顔をするのでしょうか？
少し泡だて器を握る手に力が入り、ミシリと音が鳴る。
何か一言注意しようとするより先に、耳に皆の声が届いた。

『それで？　フラッシュさんとは良い関係なの？』
『どうかな……逆に世話をして貰ってる方が多い気がするよ』
『随分と自分を卑下するね』
『違うよ、フラッシュが真面目で優しいから至らなさに気付かされるんだ』

照れるような誇らしいような表情で、トレーナーは頬を掻いた。

何を言っているのやら、もう！　恥ずかしい人ですねっ！
そんな言い方じゃ惚気話だと思われてしまうじゃないですか！
こちらまで照れ臭くなり、顔を見られたくなくて伏せる。

案の定、テーブルで彼はローズさん達に揶揄われていた。
恥ずかしい事を言った罰です、甘んじて受け入れて下さい。

それに、と泡立つクリームを眺めながら、皮肉気に唇を歪める。

――――本当に至らなくて、色々と支えられているのは私の方だ。

去年からパッとしない成績が続き、調子は低迷している。
ダービーだけの一発屋、フロック、もっとも幸運なウマ娘。

それがマスコミの、周囲の評価で数字として否定はできない。

けどトレーナーは、彼はいつだって笑い飛ばした。

『周りなんか気にするな、フラッシュはフラッシュの走りをしたらいい』

焦らず私らしいレースが出来るよう、彼は今も私だけの専属でいてくれていた。
今日だって趣味のお菓子作りでで息抜きできるよう取り計らってくれたのだろう。
私だって魂胆くらいお見通しですからね、まったく。

ちらりと顔を上げれば、楽しげに話を続けている皆の姿が。

相変わらずトレーナーが墓穴を掘るような事を言い、皆が囃し立てる。

あぁこういう展開は悪くない――――だって外堀が埋まるから。
想定よりも話は盛り上がっていますが結構、まだ予測の範疇です。
こうして彼が私との事を話せば話すほど、契約が切り難くなる筈だ。

例え不調が続くウマ娘でも、例え素直に感謝が出来ない私でも。
日本には恥や世間体、という文化があるとか。
だから周囲に関係を匂わせれば、ずっと契約を続けるしかない。

……そう契約の継続のため。特にその、そういう他意はありません。
ただ彼ほどのトレーナーをずっと手放したくないだけです。

その時、彼と視線が合い、息が止まりそうになる。

「お、フラッシュ。何か手伝おうか？」
「――――いえ、大丈夫です。もう出来ますよ」

だから平静を装い、こうしてお菓子を振舞うのも普通の事。
マカロン、キャンディ、マロングラッセ、指環の入ったケーニヒスクーヘン。
……さて次は何にしましょうか。なんでも食べさせてあげますよ？

マロングラッセは作るの確かにクソめんどいな…

これでちょいツンフラッシュ視点もおしまい
最後のお菓子は『おかし言葉』でググれば分かる
エロがなくてごめんね…

ウワーッ！

私はいいと思う

>フラッシュ料理に夢中だから少し他の子といい雰囲気になっても…
👁　👁

>>フラッシュ料理に夢中だから少し他の子といい雰囲気になっても…
>👁　👁
（柵の割れる音）

よかった…