「トレーナーさーん」 「どうした?」 「釣り行きましょうよー」 「…ダメだ、風邪ひいたら困る」 あーだこーだとグズる我が愛バセイウンスカイ。外はあいにくの雨、このまま外に出すと彼女は風邪をひいてしまう。体調管理もトレーナーの仕事のため、泣く泣くスカイには部屋でくつろぐ様に指示した。 しかしそれが気に喰わないようで、先ほどからベッドでじたばたとしながら釣りがしたいと駄々をこねる。ここ数日まともに釣りに行けてないのが本音だろう、その目には徐々に涙が溜まりつつあった。さぁさぁと外から聞こえる雨音がBGMのように部屋に入り込み、そのシーンを彩っていく。 「まー…それならしょうがないですかねえ。昼寝でもしときますよーっと」 「是非そうしてくれ」 短い会話をしたのち、可愛らしいお姫様は雨音につられ眠りの世界へと誘われる。次第に部屋の中にはパソコンを打つ音のみが響き、それが自分の瞼をも重苦しく閉じようとしてくる。 完全に瞼が閉じようとしていたところに、突然膝に重さを感じて意識を覚醒させる。目の前にある空色の綺麗な髪を揺らすその子は、まさに先ほどまで眠りこけていた眠り姫のはずだった。 「…おはようございます?」 くるり、と体だけを捻ってこちらに微笑む彼女が愛おしく感じてしまい、次第に手からキーボードが離れていく。無機質なプラスチックのカチッと言う音がなったと思えば、次の瞬間には彼女を抱き寄せていた。 「…起きたところ悪いが、俺ももう限界だ…」 「…はい、おやすみなさい。」 そういって、椅子を支えにしながら後ろに体を預ける。彼女がいい具合に抱き枕となって、眠気は意外にも早く訪れた。静かに閉じる瞼の最後に映ったのは、同じく眠るように体を預ける彼女の細やかな重みで。時計が無作為に鳴らす音をBGMに、二人は夢の世界へと旅立っていった。 目がゆっくりと覚めていく。暗闇の中、椅子に座ったまま眠りこけていたのをすぐさま思い出す。電気をつけようと起き上がろうとすると、未だにくうくうと寝息を立てるスカイを起こさないようにどかそうとする。が、少し面白いことを思いついてさっそく実行に移した。 ひょい、とスカイを抱えたまま電気をつける。時計を確認すると既に門限は過ぎており、スマホを確認するとたづなさんと美浦寮の寮長から数分おきに電話が入っていた。慌てて最新の着信から電話をかけ、事情を説明して今日はこちらで預かると説明する。その間にもこんこんと眠り耽るお姫様を抱えながらトレーナー室を出、寮の自室へ向かう。雨は既に止んでいたが、あの独特なにおいが鼻をつんとつく。スカイのほうを気にしながらゆっくり歩いて寮へ向かっていく。ウマ娘寮は既に眠りに入っているのかほとんどが灯を消しており、校舎には事務室のところのみが弱く明かりをともすばかりだった。ともすればそれは日付が変わろうとしていることを意味し、それを理解すると足早に寮へ向かう。自室に入って、まずはスカイをベッドに寝かせる。着替えとかはどうしようかと考え、とりあえずは洗ったばかりのシャツを着せるために制服を脱がそうと試みる。脱がすこと自体は初めてだが、理事長から受けさせられた講習で大体の構造は理解していたため、ゆっくりとボタンなどを外していく。しゅるり、と上着が、スカートが脱げていく。これ以上のことを毎日のようにしているおかげか、不思議と興奮はしなかった。そのままシャツを着せ、ゆっくりと転がしてからタオルケットをかける。制服はハンガーに掛けておき、自分は洗濯するためにシャツを脱ぐ。しかしここで替えの部屋着を切らしていることに気づき、まぁスカイも起きないなら自分が半裸でも大丈夫かとそのままにしておく。夜も遅く、流石に寝ておくかとスカイの横に寝転んだ。 「…可愛いな、ほんと。」 すうすうと寝息を立てる彼女を優しく撫ぜる。柔らかい髪が手のひらを滑って、滑るたびに彼女の体温が手を通して全身に伝わる。ほんのりと暖かい、愛らしい暖かさ。銀の輪を輝かせるその指を引き寄せてから、ゆっくりと外す。自分のペアリングと同じところに置いて、彼女をもう一度抱きしめた。ダイレクトに伝わる体温が体を包んで、眠気がまた襲い掛かってきた。その時ふと、すうと鼻に入るスカイの匂いに下半身が反応してしまう。この前やってしまったお香事件の時、スカイが面白がって香水として作ってもらっていたものだったはず。マズいな、と思いつつも眠気が勝って、次第に瞼は重くなる。反対に自己主張が激しくなるそれは、スカイのやわらかい柔らかな太ももに潰されるように埋め込まれ、睡眠欲と性欲が戦い始める。が、不戦勝ともいわんばかりに性欲は敗北しそのまま委縮していった。そして体を睡眠欲に委ねながら、ゆっくりと眠りに入っていった。 朝日が訪れを呼び、目の前で縮まりながら抱き着く可愛らしい生物にも朝を告げる。 「…ん…ん!?」 驚いたようにはっと起きるが、力は弱い。恐らく寝起きというのもあるのだろうが、それが余計に心を虜にする。 「おはようお姫様、よくお眠りになりましたか?」 わざとらしく気取った声と言葉でスカイをからかう。しかし思った反応が返ってこず、怒らせてしまったかなと後悔の念が背筋を伝う。 「…ど、どへんたいとれーなーさん…」 瞬間に放たれた言葉に胸を打たれる。予想外の答えと、やたらと色づいたその声色に昨日のお預けを食らったそれは一気に首をもたげる。ふに、とスカイの太ももに沈むそれを彼女も認識したらしく、またしても顔を赤くしていった。 「…あー…その、やましい気持ちがあったわけじゃない…んだ。」 「…今日は、いいですよ。」 「え?」 「…今日は…やすみ、なので…トレーナーさんが、したいこと。…しても、いいんですよ…?」 ぎゅう、と抱き着きながら上目遣いでそうねだる。あぁ、この子にはかなわないなと思いながらも、昨日の香水の意味をここでやっと理解した。 「…ああ…しょうがないな、えっちなスカイ。…昨日できなかった分、たっぷりするからな。」 「…はい…♡」 夕陽が消えて夜が訪れるまで、二つの影は一つにつながったまま逢瀬を楽しんでいた。