「主爺です。今回の面接を担当します」 「主爺」 「それでは面接を始めます」 「よ、よろしくお願いします……」 「……医学科を修了されていますが、何故医者にならなかったのですか?」 「医者を目指していたのは本当です。ただ……」 「ただ」 「不特定多数の人間と触れ合う…接触するのが苦手な人間であることに今まで気づかなかったんです」 「なるほど、臨床実験などに携わるというのは」 「実験が嫌いで……こう、結果の分かってることを再現するのが不毛だという意識が抜けなくて……」 「なるほど」 医者の道を断念して放蕩生活をしていた俺の下に、名家の使用人の求人が舞い込んできた。 完全に迷走していた俺はそれに軽い気持ちで応募し、なぜか合格した。 他にも、女のようで実は男だという青年や、完全に身内であろう立ち振る舞いが出来過ぎている少年などが合格していたようだ。 けれど、これは地獄に入るための入国審査でしか無かったのだ。 「これから5年間、貴方達には側近として必要な知識、肉体、立ち振る舞いなどを完璧に習得してもらいます」 強制的に寮生活を始めさせられ、24時間365日体勢で監視。一瞬でも気を抜けば即減点の過酷な生活が幕を開けた。 背筋は伸ばして指先にまで常に気を配り、あくびなどしようものなら即アウト。 あらゆる不摂生、体調不良を許さず、常に模範的な生活を送ることが【最低条件】である。息抜きなど存在しない。 この時点で9割が脱落した。俺はなんかクリアできた。 それに加えて様々な技能の習得を義務付けられた。 ウマ娘の名家であることからトレーナーライセンスは最優先。 他にもベッドメイクや給仕、各種管理技能や語学、ビジネススキルやサービス業務など幅広い経験を専門的に学ぶ。 無論勉強に当たっても模範的な振る舞いが求められる。 字やノートの使い方が汚ければ即指導が入り場合によっては脱落。どの参考書を選ぶか、というところまで評価されるので情報収集スキルも必要とされる。 肉体面も最高峰が求められた。 柔道空手ボクシングなど、対不審者用の体術は2種類以上をマスターすることが必須である。 実践は各地の大会を利用して行われる。無論成績が悪ければ脱落だ。 その道を究める猛者に立ち向かうのは並みならぬ根性が必要である。これは流石にぎりぎりだった。 他にも柔軟な体の使い方を習得するため体操。いざというときのための水練は救命師資格の取得と並行して行う。 流石に我々も人間なので休息は欠かせない。 休息は指定された量でで最高のパフォーマンスを発揮できるように訓練された。今の俺は時間単位で正確に完璧に目覚めることができる。 立ったまま、寝返りなし、様々な条件の下質の高い睡眠を得る能力も重要である。 これら過酷な訓練に立ち向かうにあたって、俺達には一つの物が支給される。 それはリボンだったり、ピンだったり、ハンカチだったりする。 要するに顔も分からぬ自分の主人を思ってその身を捧げろということだ。 上に書いた無理難題の羅列を完璧にクリアできなくとも、一日も欠かさず架空の彼女のことを考え、奉仕の心を忘れない精神、それこそが最も求められる資質なのではないかと今では思う。なぜって俺はあの中で落ちこぼれだったからだ。 ヅカ系男の娘は体術に難はあったが各種資格は腐るほど習得した。小さい彼は年不相応にイカレたスペックを持っていた。 それに比べれば多少医学知識のあるだけの俺の何と不甲斐ないことか。細い体にあまり筋肉は付かず、資格も両手で足りる程度しか取れなかった。 けれども受け取ったリボンの主のことを思わなかった日はないし、それを思うと頑張れた。 この子に恥じない自分になろうと最大限努力した。結果が伴わなくとも認められるところはあったのだろう。 そういう訳で5年の研修を終え、正式にメジロ家の使用人として配属……とはいかなかった。 最後に待ち受けていたのは房中術。つまり””性欲抜きでエッチなことができる””ようになるための訓練だった。 これは本当に死ぬかと思った。自分でもぎたいと思ったことは2度3度では足りない。 勃起はおろか視線が泳いだ時点で死。そのくせ相手役が満足できないとそれはそれで補修である。 こればっかりは二人も苦労していたが、結果全員が突破したのだから、我らながら大したものである。 長くなったがこれで俺が執事になるまでの経緯は終わりである。 研修を終え、しばらく下っ端使用人として別邸で働いていたところ、主爺から招集を受けた。 曰く、俺にある令嬢の側近を任せてくれるとのことだった。 差し出された写真を受け取り、簡単なプロフィールを流し読みする。 メジロアルダン。 それが、俺がつかえるべき主人の名だった。 初めてあったときは彼女は清潔な、悪く言えば少々無機的な部屋の中で一人だった。 おばあ様が俺のことを紹介すると、彼女は目を輝かせて歓迎してくれた。 病弱なので外に出たことが無く、そのため俺のくだらない与太話を何とも楽しそうに聞いてくれる。 無理してはしゃぎまわって熱を出すときもあった。俺が選ばれたのはこういう些細な体調不良くらいはなんとかしてほしいからだろう。 彼女が大きくなるにつれて、病弱さにも程度が見え始めた。 このままいけば外に出て、トレセンに通うことも夢ではないなんてこぼしたらそれはそれは涙をにじませてまで喜ばれたものだった。 トレセンに入学できるか不安になったときは、手を握って励ました。子供の夢を守りたいというのが半分、本気で彼女なら進学できると考えていたのが半分だった。 思えばこのころから、俺の人生の主役は俺からアルダンお嬢様に変わったのだろう。 その後もすくすく成長して、トレセン学園に念願の入学を果たした。 俺もトレーナーとして彼女を支える傍らで、小さい悩みが出来た。 体の発育が著しい。まだ学生だというのに、非常に魅力的な女性として完成しつつあったのだ。 それだけなら心に仕舞えば済む話であるが、そうはならない。 彼女がフケった。発情期である。 春先に向けてウマ娘を悩ませるとびきり面倒な生理のようなもの。 メジロでは性交によってこれを鎮めると聞いたときはこの家狂ってると思わずにはいられなかったものだ。 夜、お嬢様の自室でそのことを説明すると、真っ赤になってベッドでぱたぱた悶えてしまった。 無理もない。 お嬢様も概要くらいは聞かされていて、それが目の前の男と性交することを求められているのに大人しくしているほうがおかしいのだ。 そして自分も、いざ目の前にお嬢様とまぐわう機会が訪れたとあって平常心を保つのに精いっぱいだった。 幼いころから見守り続けた彼女に、仮初とはいえ想いをぶつけることができる。ここに性欲を挟まないのが一流のメジロ家使用人なのだろうが、俺にはひた隠すのでギリである。 本来なら彼女の判断を待つべきところ、掛かってしまって、判断を催促してしまうくらいに。 そしてその晩、俺とお嬢様は交わった。 穴あきドロワで局部だけ露出したお嬢様に肉棒をぶち込む瞬間は一生頭から離れないだろう。 感度良好で軽く動くだけで善がり狂う様子は抑えた嗜虐心を必死に引き出そうとし、甘く艶のある声が普段とのギャップを感じさせてより興奮を煽った。 最終的にはお嬢様の潮吹き絶頂に合わせてゴム中出しを決めてしまう。 禁欲生活に加えて極上の雌に虚構とはいえ種付けできたことで、その射精量はゴムから逆流するほどになり終わった後は俺も腰が抜けた。 なんとか鞭を打って後始末をし、普段通りに振る舞えるように努めたが、どうしても気持ちが浮ついてしまう。 「おかしくなりそうだ……」 小声でつぶやいてしまったのは、お嬢様に聞かれていないと信じたい。