アタシが産まれて二回目に泣いたのはお父さんに抱っこされた時だったという。 男の人を見かけるたびに酷く怯えるようになって使用人さんたちを困らせてたらしいから、きっと先天的に男の人が苦手なんだと思う。 それからもう少しして物心がついたくらいの頃、そのころにはアタシの周りの使用人は皆女の人で固まってた。 「ドーベル様は本当に人形さんみたいですね……」 「こちらの服もお似合いになるのでは!」 「いいえこっちの方が!」 可愛がってくれてたことは分かるんだけど、それでもアタシには刺激が強かったみたいで、だんだんと女の人にもぐずるようになってしまった。 そんなのだから小学生になるくらいには、別荘で片手で足りる程度の使用人たちと暮らすようになったのだ。 小学校でもよく注目されて、それが嫌で堪らなかった。 人見知りは悪化するし、友達はできないし、そのくせ孤高の令嬢なんて持て囃されるからタチが悪い。 男子の好機の視線が苦痛で、女子の羨望と嫉妬の混じった視線が気持ち悪かった。 家のイメージを悪くしないように大人しくしてたけど、全部投げだして部屋にこもっていたかった。 そうやって社交性とは無縁の、いま思えばかなり甘やかされてた生活にも転機があった。 それが、エアグルーヴ先輩。 オークスとエリザベス杯を制したその走り様が格好良くて、インタビューも、ウイニングライブも堂々とこなすその在り方は、まさにアタシにとっての理想だった。 あんな人になりたいと思ってからは、今までの逃げるような生活を何とか変えようとした。 人見知りを克服するために挨拶を頑張ってみたり、なるべく人の役に立つことをしてみたり、 勉強も運動もいっぱい頑張って、おばあ様にトレセンへの入学を認めてもらった。 その数日後に、あの人を紹介されたのだ。 「お初にお目にかかります、ドーベル様。おばあ様よりあなたの側近を仰せつかりました」 綺麗な女の人だと思った。 身長はアタシよりちょっと高いくらいで、執事服に包んだ細い体にはたおやかな立ち振る舞いが染みこんでいて、まるで少女漫画の王子様のようだった。 あどけなさの残る顔立ちにしては声は低めだったけれど、そこもカッコよかった。 「最近ようやく研修を終えたばかりで未熟なところも多々あると思います。どうかご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」 「こ、こちらこそ…よろしく」 「彼にはトレセンでの専属トレーナーも務めてもらいます。仲良くするんですよ、ドーベル」 「は、はいっ、おばあ様。私頑張りま」 「……彼?」 「はい、彼は男性です」 「恐縮です」 「え、えええええええぇぇ!?」 「ドーベル様、お帰りのお時間です」 「ん、今行く」 この奇妙な側近との生活は、思いのほか上手くいっている。 まずなによりアタシの男性不信が発動しない。自分の性根が面食いみたいでちょっと癪だけど、ギスギスするよりはずっとマシ。 アイツはトレーナーとしても執事としても優秀で、デビューからここまで順調とは言えないながらも頑張れて来れている。 桜花賞は負けたけど、次のオークスは絶対負けない。……樫の盾、あの人に近づく第一歩。 「…最近なんか暑くない?」 「そうですか?春先らしい気候だと思いますが…一応、冷房を効かせますね」 「うん……」 そして、オークス当日を迎えた。 「体が、熱い……」 冷房も聞いているのに寝間着には汗がうっすら滲んで、体を冷やさないようにすぐ着替えた。 アイツにも一応伝えたけど、何か思案するだけで特に何も言ってこない。 まあ体調が悪いという訳ではなく、むしろ気持ちが昂って仕方がない。 桜花賞にはなかったこの感覚は、なんだか吉兆のような気がするのだ。 勝負服に着替えて、地下道で気持ちを整える。 浮足立つ気持ちを必死でコントロールしようと瞑想していたら、背後からアイツが話しかけてきた。 「ドーベル様」 「…何?今集中してるんだけど」 「差し出がましいようですが、一言だけお許しください」 いつになく真剣な調子で、アイツは言った。 「どうか集中を切らさぬよう。さすれば今日のレース、必ず勝てます」 アイツの言った通り、アタシはオークスを制した。 全力でゴールだけを見据えて、衝動のままに脚を動かすのが楽しくて仕方が無かった。 むしろゴールラインを横目に駆け抜けた時、もう終わりか、なんて悲しくなったくらいだ。 インタビューの間もずっと落ち着かなくて、アイツが隣で指示してくれなかったら変なことを口走っていたかもしれない。 その後も走りたい衝動がずっと止まらなくて、家まで走って帰ろうなんて思っていたら、アイツに強引に手を引かれて控室に連れ込まれたのだ。 「……何、気分いいから水差さないでほしいんだけど?」 「今、ドーベル様はフケておられます。このままでは明日以降の練習に障りますので処置をと」 フケる。とは初めて聞いた単語だった。 ……いや、クラスメイトの雑談から漏れ聞いたような気がする。 「こんなに楽しく走れるなら、処置なんて必要ないんじゃないの?」 「興奮状態では怪我のリスクも高まります。何卒ご理解を」 「……そう、分かった。どうすればいい?」 その時の私はフケる意味も知らなければ、その処置で何をされるかも理解していなかった。 「僭越ながら、ドーベル様にオナニーの経験はお有りでしょうか」 「お、オナっ!?あるわけないでしょ!何、セクハラ!?」 突然何を言い出したかと思えば、この変態は何を考えているの!? 「……分かりました。ですが処置には臀部、お尻を出してもらう必要があるんです」 「…っ、おばあ様に言いつけるから!」 「どうぞ、こちらお電話でございます」 何を考えているのか、こいつは自分の生殺与奪を握らせてきた。 いい度胸だ。そんなことでアタシの意思は揺るがないことを教えてやる。 「……もしもし、おばあ様!」 「ドーベル、オークスの走り見ていましたよ。よく頑張りました」 「ありがとうございます。でも、それより大事な話が……」 事の顛末を説明して返ってきた返事は、私の予想を裏切るものだった。 「彼の言うことは事実です。恥ずかしいかもしれないけど、アルダンもマックイーンも通った道ですよ」 言葉が出ないままに、おばあ様との連絡は切れてしまった。 「ドーベル様」 「うるっさい、すればいいんでしょすれば!」 自棄になって下着に手を掛ける私をアイツは制した。 「何!?お尻見せればいいんじゃないの!?」 「どうか落ち着いてください。こちらにも色々と準備しておりますゆえ」 一拍置いてから、アイツは言った。 「ドーベル様を傷つけたいわけではないことを、どうかご理解いただけませんか」 (で、するのがこの仕打ち?) 「無礼は重々承知でございます」 今、私は簡易ベッドの上で目と口を塞がれ、両手両足を縛られている。 「視覚を遮ると体験の実感が薄れます。手足を縛らせていただいているのは、反射的に手が出ないようにでございます」 お尻だけを突き出した間抜けな恰好で、スカートが捲れあがっているのを感じる。 今にも恥ずかしくて死にそうだが、おばあ様の言うとおり我慢するしかなかった。 「では失礼します」 今下着がずり下がって、アイツに生尻を晒してしまった。 (…ホントに見られた。最悪……) 触診でもするかのように股の間を探られている。恥ずかしい。 それで手が離れたかと思ったら、細い何かが股の穴に入ってきた。 (っ、何!?……ひゃっ、温か……) 細いのは多分管で、何か温かいものが注入されていく。 甘く股間が痺れるような感じがしてむず痒い。太ももをすり合わせて何とか耐える。 「器具が挿入ります。痛かったら手を上げて下さいね」 「うっ、ふーっ…ふーっ……」 何かが私の中に入ってくる。 温かくて細い棒のようなもので、乙女の聖域に無遠慮に踏み込まれる。 先っぽの方がちょっと膨らんでて、一番奥に突き当たる。 「んんうっ……!」 ちゅくちゅくと音が鳴って、棒が私の中をひっかきまわす。 まるで何かを探るように壁を押し込んだり、一番奥で円を書くように押し付けられて、 片手は入り口の下を抑えるように、親指でへりの硬いところを執拗に練り上げてくる。 (早く……終わって……!) 轡と唇を噛んで必死に知らない感覚の波に耐える。 棒が中に押し込まれるたびにびりっと来て、奥で押し付けられるたびにぞわぞわが止まらない。 どうにか感覚を逃がしたいのに、身動きが取れなくてなすがままなのが怖い。止められない。 「んふー……❤んふーっ……❤」 自分を繋ぎとめるので精一杯で、これいじょ──────── ❤! (な、あ?) 「弱点みっけ」 「んーっ!んーん!ん、んん、んん❤んっ❤❤❤」 くちくちと一点をひたすら勢いよく苛め抜かれて、全身の感覚が真っ白になる。 意識がふわりと浮き上がって、そのまま勢いよく振り回される。 何度もあそこから水が噴き出しても、恥ずかしいと思う余裕すらない。 (やだっ♥とめてとめてとめてぇっ❤) 繰り返し繰り返し高いところから突き落とされるようなもので、もう私の自我はぼろぼろ。 呼吸もできないぐらい狂わされて、いつ自分が気絶したのかも覚えていなかった。 …………… 「……あっ!」 「お目覚めですか。ドーベル様」 簡易ベッドから跳ね起きると、シャワー上がりなのか肌着姿で髪を拭いているアイツと目が合った。 (やっぱ体細い…けど、意外と筋肉ある……) 初めてみるアイツの無防備な姿に、一瞬完全に見とれてしまって、された所業を思い出すのに時間が掛かった。 「ア、アンタ何てことしてくれたの!?」 「申し訳ございません。何分実施は初めてで……体の調子はどうでしょうか」 「どうもこうもない!…なんか、無駄にすっきりした気分……」 「それを聞けて安心しました」 いつの間にかアタシは普段着に着替えさせられてて、勝負服も綺麗に畳まれて鞄に入っていた。 一瞬許可なく裸を見られたことに激昂したけど、それが続くほどの体力は残っていなかった。 「マックイーンも、皆も、こんなことしてるわけ……?」 「今回の処置は簡易的なものなので、また短いスパンでフケる可能性があります」 「あれで簡易版!?」 「はい、ドーベル様には本格処置は早いと判断しましたので」 冗談じゃない、思い出すだけで頭がおかしくなりそうなアレより凄いことを皆してるわけ……!? がっくりと体から力が抜けて仰向けに倒れこむ。 「今日はこのまま連れてって……」 「かしこまりました。失礼します」 荷物をまとめたアイツにお姫様抱っこされてレース場を後にする。 帰ったらアルダン辺りに話聞いてみようかな……