二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1626096384723.png-(161148 B)
161148 B21/07/12(月)22:26:24No.822898933そうだねx1 23:26頃消えます
雨は嫌いだ、窓の外で降りしきる雨を見上げながら思う。
濡れる事や練習できないのが嫌なわけではない。

ただ練習メニューが限定され、使用したい施設も埋まってしまう。
今日も予定外の雨のせいで、午後の行動計画が狂ってしまっていた。

また何よりも辛いのは故郷のドイツと違って、

「蒸しますね」
「ん? ドライ入れたんだけど、利いてないか?」

愚痴ともいえない私の呟きに、トレーナーがパソコンから顔を上げた。
窓から視線を切り、首を横に振って彼に否定の意思を伝える。
まったく都合の悪い時だけよく働くヒト耳な事。
梅雨の蒸し暑さに辟易してはいるが、ここトレーナー室は快適だった。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
121/07/12(月)22:28:13No.822899624+
そっかと破顔すると、トレーナーはまた視線を小さなノートパソコンに落とす。

また室内に沈黙が訪れる……先程からこれだ。
予定の潰れた午後、せっかく担当バが部室来ているというのに会話もない。

私の手にあるのは、最近調子を上げているジャスタさん等の資料データ。

ふぅと今度は聞こえないように小さく息を吐いた。
本当に気が利かない人だ、私の小さな機微や変化など気付いてもくれない。

『今日は雨だしゆっくりしてくれていいぞ。まだ梅雨はしんどいだろ』
『問題ありません。それよりも出来る事はありませんか?』

追い出そうとするようなトレーナーに詰め寄り、渡されたのが資料だった。
もう少しこう、時間があるからお茶に誘うなどを彼には出来ないのか。
221/07/12(月)22:30:20No.822900462+
恨みがましい目で眺めるも、こちらに気付いた様子もない。
先程から真剣な目で何かを見続けている。

もしかして私と同じものだろうか?
普段の気の抜けた表情ではない事に、つい私は興味を引かれた。
静かに背中へ回り込み、画面をのぞき込む。

「……私の、レース?」

小さなパソコンで流れていたのは、私が七番人気を覆し唯一勝ち得たG1の光景。
不意を打つ予想外の映像に、胸の奥が軋む。

もう思い出の中にしかない、過去の栄光。

あるはずのない胸痛を堪えていると、不意にトレーナーが私を振り仰いだ。
321/07/12(月)22:30:37No.822900577+
 
 
 ・ ・ ⏰ ・ ・
 
 
421/07/12(月)22:32:46No.822901394+
「私のレース?」

突然、頭上から落ちてきた少女の声に、意識が現実へと呼び戻される。
いつの間にか背後に担当ウマ娘のエイシンフラッシュが立っていた。
背中を取られるとは、想像以上に集中していたらしい。

「ああ、一番理想的で綺麗に勝てたからな。また分析してたんだよ」
「分析するほどのものですか?」

画面から俺へ向けられた視線は何処か冷ややかだった。
既に何度も検証しただろうと言っているのかもしれない。
が、俺は肩を竦めて告げた。

「フラッシュが気持ちよく走れたレースだ、もっと分析できる」
「勝てたのはたまたまです。周囲もフロックだって言ってるでしょう」
521/07/12(月)22:33:03No.822901506+
心にもない事を言うフラッシュに、俺は苦笑いを浮かべた。

世間では彼女の勝ちを一発屋だという向きはある。
血統だけが取り柄の実績と実力が釣り合わないウマ娘だと。

週刊誌などの特集記事を思い出し、鼻で笑い飛ばす。

「まぐれで勝てるほど温い顔ぶれじゃなかっただろ」
「なら私は運が良かったんですね」
「そうやって彼女たちの努力を否定するのは良くないぞ」

呟きに、フラッシュが口を噤んだ。
自分で思う以上に強い口調だったかもしれない。
年頃の子相手に何をしているんだと自己嫌悪を覚える
どうせ毒皿だと肩を落としながら、続ける。
621/07/12(月)22:33:35No.822901707+
「何より俺はフラッシュの努力を運で片付けて欲しくない」
「子供みたいなことを言いますね」
「悪いかよ」

冷徹にも聞こえる揶揄いの声に、返事もぶっきらぼうになる。
周囲の声に振り回されるのが子供だと言われればそうかもしれない。

しかし眼前のフラッシュがどれだけの思いで毎日練習をしていたか。
それを知っている以上、彼女が軽んじられるのは納得は出来なかった。
皆努力はしている? そうだ、その皆に入る資格と才能がある。

掛かり過ぎかもしれない、だけど俺は愛バの頑張りを信じている。
唇を突き出した俺を笑っていたフラッシュの顔が唐突に陰った。

「でも、あの後から勝てていません」
721/07/12(月)22:33:51No.822901826+
「そりゃたまたま運が悪かったんだ……後は俺の指導不足だな」

冗談っぽく言ってみせるが、後半は俺の本心だった。

どんなウマ娘にも輝く部分は必ずある。
努力と才能があるのに勝てないのなら、それはトレーナーの責任だ。
内心の自嘲を知らないのか、フラッシュが溜息を吐く。

「さっきと言ってる事が違うじゃないですか。いい加減な人ですね」

呆れたように言うと、俺を押しのけるように身を寄せてきた。
鼻先を黒い艶やかな彼女の髪が掠め、花の香りが漂う。

「おいおい、ちょっと近いぞ」
「画面が小さいから仕方ないじゃないでしょう」
821/07/12(月)22:34:04No.822901910+
そっけなく呟いたかと思うと、フラッシュが笑みを浮かべて振り向く。
彼女にしては珍しい、悪戯っぽさを含む少女っぽい笑顔。
普段見慣れないものだけに、俺はつい怪訝に感じてしまう。

「買い換えて差し上げましょうか? これでも稼ぎはあるので」
「生徒に買い換えさせるって、あのなぁ」
「けど古いから仕方ないじゃないですか。分析するなら新しい方が良いでしょう」

違いますかと、同意を求めるようにフラッシュは首を倒した。
稼ぎ云々はともかく、確かに買い換えるのは一つの選択だろう。
最新の設備は用意した方が良いし、分析に意欲的なのも良い事だ。

「……それでも、今のこれがいい」

自然とそんな言葉が俺の口から零れ、続きが溢れ出す。
921/07/12(月)22:35:59No.822902690+
「古いといっても新しいのと大差ないし、使い慣れてる」
「そうでしょうかね。実際触れば違いも分かると思いますが」
「だとしてもお気に入りなんだよ。まだまだやれるさ」

妙に食い下がるフラッシュから視線を切り、頬杖を突く。
たかがパソコンの買い替え程度の話に、何を熱くなっているのか。
けれども言葉にして、ノートパソコンへの愛着を自覚をする。

そうとも、まだやれるさ。

内心で毒づくと、フラッシュが呆れた吐息を漏らした。

「まったく強情な人ですね。ならもう言いません」

折角の機会を棒に振るなんてとのフラッシュの詰りが耳に痛い。
1021/07/12(月)22:36:56No.822903057+
きっと彼女なりの親切心だったのだろう。
無為にした事を済まなく思うも、それでも自分の選択を信じたい。

と、さっきから気になっていた事をおずおずと切り出す。

「なあ、もしかして香水かなんかしてるのか?」
「急にどうしたんです」
「なんか良い香りがするなー、と思ってさ」

言ってから気付く――――これ、セクハラ発言じゃね?
錆びついた鉛管のように硬くなった首を横に向ける。
鋭いフラッシュからの蔑視を覚悟したが、それはなかった。

こちらから視線を外し、肩を縮こまらせて俯いている。
心なしか頬も赤い。風邪かな?
1121/07/12(月)22:37:21No.822903233+
「その、カレンさん達に勧められたシャンプーに変えてみたんです」
「へぇー」

照れるような囁きに、思わず感嘆の声が出る。
日本に来た当初のフラッシュは周囲に壁を感じさせた。
そんな彼女が友人と仲良くしているのはトレーナーとして感慨深い。

頬が緩む俺を、彼女がちらりと見やる。

「嫌では、ありませんか? 男性は強い匂いを嫌がると聞きます」
「うんにゃ、俺は気にならないよ。フラッシュに合ってると思うし」

思った事をそのまま口にした。
別に嫌な匂いとも感じないし、彼女には好きを伸ばして欲しい。
雨を背中にフラッシュが少しだけ安堵の笑みを見せてくれた、そんな気がした。
1221/07/12(月)22:38:15No.822903602そうだねx9
以上です
そろそろ梅雨が上がり、良馬場になる模様
1321/07/12(月)22:38:59No.822903869+
なんだか好きな雰囲気だ...
1421/07/12(月)22:39:02No.822903889+
あのフラッシュさんを手玉に取る大人な空気…!
1521/07/12(月)22:39:20No.822903991+
クソボケだが良いトレーナーだ
1621/07/12(月)22:39:34No.822904107そうだねx11
>こちらから視線を外し、肩を縮こまらせて俯いている。
>心なしか頬も赤い。風邪かな?
1721/07/12(月)22:39:41No.822904146+
いい…
1821/07/12(月)22:40:24No.822904415そうだねx4
女房と畳は新しい方がいいって言いますよ?
1921/07/12(月)22:41:39No.822904884そうだねx6
>女房と畳は新しい方がいいって言いますよ?
新しい畳の香りがなんとなく居心地悪いときもあるだろ?
2021/07/12(月)22:42:27No.822905230そうだねx5
横でビバップ見てたからもうCV山ちゃんになっちゃったよ…
雌になりそう
2121/07/12(月)22:42:30No.822905255+
気持ちを自覚したら一気に詰めてくるから今の内に彼女への攻め手を作っておきましょう
2221/07/12(月)22:42:43No.822905342そうだねx10
>女房と畳は新しい方がいいって言いますよ?
女とワインは古い方が良いって君のお隣さんは言うのさ
2321/07/12(月)22:43:09No.822905507そうだねx8
みんなの前ではお姉さん的な人が
大人の男にはめちゃくちゃ面倒くさくなるの好き
2421/07/12(月)22:43:43No.822905719そうだねx3
…ばかな人
2521/07/12(月)22:47:19No.822907149そうだねx3
>心なしか頬も赤い。風邪かな?
こら!
2621/07/12(月)22:48:46No.822907726+
これホントにクソボケかしら
恋愛の酸いも甘いも吸って吸われて枯れちまったようにも見える
2721/07/12(月)22:49:12No.822907875そうだねx8
>みんなの前ではお姉さん的な人が
>大人の男にはめちゃくちゃ面倒くさくなるの好き
祝勝会とかの少し面倒臭い宴席でめっちゃ完璧に対応こなした後に二人っきりになったらあの子を見てたとか私を助けてくれなかったとかめっちゃ面倒臭いフラッシュ
2821/07/12(月)22:50:37No.822908450そうだねx2
クソボケというよりは大人な感じ
2921/07/12(月)22:50:43No.822908484そうだねx2
隠れてタバコ吸ってるところに毎回現れて取り上げて欲しい
3021/07/12(月)22:51:31No.822908794そうだねx4
良い意味でフラッシュのことは護り育てる子供でアスリートだと思ってる
だが…フラッシュにとっては…
3121/07/12(月)22:52:45No.822909296+
こういう大人が詰め寄られてアワアワしちゃうのは私性合
3221/07/12(月)22:54:00No.822909813そうだねx7
俺エスパーだけどこの娘はあともう一回だけ大勝負で勝てるよ
3321/07/12(月)22:55:00No.822910210そうだねx2
>隠れてタバコ吸ってるところに毎回現れて取り上げて欲しい
赤マル吸ってそう
3421/07/12(月)22:55:51No.822910577そうだねx1
>俺エスパーだけどこの娘はあともう一回だけ大勝負で勝てるよ
けっエイシンフラッシュなんてダービーだけの一発屋だろ!
3521/07/12(月)22:58:19No.822911591そうだねx4
やっぱりこのコンビ制度は若いお嬢さんには毒すぎる…
3621/07/12(月)22:58:54No.822911845そうだねx2
>俺エスパーだけどこの娘はあともう一回だけ大勝負で勝てるよ
俺未来人だけど天覧レース優勝して感極まったトレーナーと一緒に陛下に向かって最敬礼するよ
3721/07/12(月)22:59:07No.822911941+
 
 
 ・ ・ ⏰ ・ ・
 
 
3821/07/12(月)22:59:59No.822912305そうだねx5
――――トレーナー、貴方は本当に嫌な人。

少しだけはにかむ彼からそっと身を離し、備品を入れた戸棚へ向かう。

「どうせならコーヒーを淹れますね。頭も冴えますし」
「お、ありがとう。フラッシュの淹れたのは美味いからな」

本当に嬉し気なトレーナーの声が私の背中を撫でていく。
大した事じゃない、練習と手順を徹底すれば誰でも淹れられる事なのに。
肩越しに視線だけを彼に向ける。

「別に。好きでやっている事ですから」
「それでもだよ、ありがとな」

生意気な口を聞く私に、またトレーナーは笑いかけた。ああ、その顔だ。
3921/07/12(月)23:01:09No.822912732そうだねx3
いつも貴方は私に欲しい言葉を言ってくれる。
胸の奥が熱くなり、完璧な受け答えが出来なくなるから。

だから、嫌な人。

もっとカレンさんやファルコンさんみたいに話せたらと思う。
けれども分かっているのだ、この嫌悪感が後ろめたさなのだと。

トレーナーなら言ってくれると分かっていて、言わせている自覚。

輝くものを見て目が眩む思いで、彼から目を逸らした。
慣れた手つきで準備を進めつつ、背中で彼の視線を受け止める。

今だけは注目を独占できていると暗く思うと同時に、不安も沸き立つ。
下の世代から新しい強い光が続々と頭角を表している。
4021/07/12(月)23:02:54No.822913451+
気弱な暴君、我が道を行く奇行子、鬼の貴婦人。
皆、才能がある優秀なウマ娘だ。

それでもトレーナー、貴方は私のような小さな光を見ていてくれますか?

「Erb' und Eigen, ein' und all':leuchtende Liebe, lachender Tod.」
「ん? 今何か言った?」

慌てて口を噤み、コーヒーが出来ましたとだけトレーナーに告げる。
あんな抜けた彼だが、私を担当するだけあってドイツ語は堪能だ。
なのにあんな事を言ってしまうなんて、流石に気が緩みすぎだろう。

気弱な心を振り払い、コーヒーを二つ机へ運ぶ。
カップを手渡すとまた彼はありがとうと口にした。何でも言う人だ。
いつの間にか用意された私用の椅子に腰かけ、身を寄せる。
4121/07/12(月)23:05:10No.822914417そうだねx1
>Erb' und Eigen, ein' und all':leuchtende Liebe, lachender Tod.
>継承と所有、そしてすべて:輝く愛、笑う死。
…?
4221/07/12(月)23:05:52No.822914737+
「やっぱりフラッシュのコーヒーは美味い、って近くない?」
「仕方ないでしょう。ほら、再生して下さい」

コーヒーか私のせいか、苦笑しつつトレーナーはパソコンを操作した。
小さな画面を肩をくっ付けながら、二人して眺める。
映っているのは会心の走りを見せた、かつての私。

「雨が上がって夏になったら、秋に向けてトレーニングだ」
「えぇ分かっています」

返事をしつつ流し目を送れば、食い入るように画面にみいる貴方。
……少しだけ昔の私にチクリとした黒い想いを抱えつつ、決意する。

夏になれば思い切り走ろう、練習しよう。
秋の重賞に狙いを定め、策を練り、力をつける。
4321/07/12(月)23:06:39No.822915091そうだねx2
そして、

「勝ちますよ、私は」
「ああ分かってる。全力でサポートするから任せてくれ」

勝ちを信じて疑わない、貴方の期待に応えるためにも。

けれども思ってしまうのだ。
そっと流行りの香油をつけた尻尾をトレーナーの腕に絡ませる。
諦めたのか特に嫌がりも振り払おうともせず、彼は苦笑した。

「くすぐったいって」
「これくらい別に良いでしょう」

ああ――――このままずっと、雨ならいいのに。
4421/07/12(月)23:10:04No.822916610そうだねx4
梅雨が明ければ良馬場、良馬場です!
関係ありませんがドイツはかの有名なニーベルングの指環が生まれた国だとか
それではオペラオーとオペラ談義する話とか読みたいが失礼する
4521/07/12(月)23:10:04No.822916616そうだねx3
>>Erb' und Eigen, ein' und all':leuchtende Liebe, lachender Tod.
>>継承と所有、そしてすべて:輝く愛、笑う死。
>…?
ニーベルングの指環
4621/07/12(月)23:10:24No.822916749そうだねx3
ニーベルングのジークフリートかこれ…
4721/07/12(月)23:10:35No.822916833+
>ニーベルングの指環
ああ元ネタあったんだ
4821/07/12(月)23:12:13No.822917565そうだねx3
元はゲルマン神話の英雄だしなジークフリート…
4921/07/12(月)23:12:27No.822917659そうだねx2
これは…思ったより掛かってるな
5021/07/12(月)23:13:40No.822918253+
色男なのは結構だけど背中刺されて死ぬなよトレーナー…
5121/07/12(月)23:14:04No.822918421+
光り輝く愛に微笑む死に私の唯一にして全てを捧げましょう…でいいんかなぁ
楽劇だから正しい訳を求めること自体がナンセンスな気もするが
5221/07/12(月)23:17:09No.822919707+
ファル子達にはフラッシュの不機嫌な顔こそ
誰にも見せない甘えた顔なのが知れてると良い
5321/07/12(月)23:17:58No.822920042そうだねx2
山ちゃんと諏訪部のどっちで再生してもいいわけか
女の子になりそう
5421/07/12(月)23:23:10No.822922211+
>Erb' und Eigen, ein' und all':leuchtende Liebe, lachender Tod.
私の唯一つの宝物、輝きと共に愛し、笑いながら堕ちよう


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