来たるフォワ賞、そして凱旋門賞を目前にした俺達は、合宿への参加を取りやめ早々にフランスへと飛び立った。 そしてパリ、シャルル・ド・ゴール国際空港。 彼女の実家が用意したというプライベートジェットによる空の旅を終え、フランスへの第一歩を踏みしめた俺達二人を出迎えたのは一台のリムジン。 思わず緊張する俺をよそに、彼女は慣れた様子で車内へ入り、お兄さんもどうぞこちらへと手招きしてくる。 「大丈夫ですよ。そのうち慣れます」 ぎこちなく乗り込む俺に対して、学生服ではなくレースワンピースにストールで着飾られた彼女はそう言って微笑んで見せる。 俺にはとてもそうは思えなかったが、彼女が言うのならきっとそうなのだろう。 リムジンは俺達を乗せて空港から宿泊先へと移動する。 その道中、チェックインまでに時間があるとの事でパリの観光名所を軽く案内してもらえることになった。 エッフェル塔、オペラ座、ルーブル美術館――そして、エトワール凱旋門。 「……もうすぐですね」 「……そうだな」 今年のフォワ賞、凱旋門賞はロンシャン競バ場が大規模改装を行っている最中の為にシャンティイ競バ場で執り行われるはずだった。 しかしURAの支援のおかげで、秋のフォワ賞の開催までにはすべての施工が完了する見通しが立ったとのことで、今年は例年通りロンシャン競バ場で行われる事となった。 凱旋門賞の呪いという負のジンクスを打ち破りたい彼女にとって、それはこの上なく良い報せだった。 「……お兄さん」 「どうした?」 「私を信じてくれますか?」 そう言ってじっとこちらを見つめる彼女の瞳は、どこか自信なさげだ。 流石の彼女も異国の地で不安なのだろう。 だがそれに対する返事など、決まりきっていた 「あたり前じゃないか。俺はダイヤが勝つって信じてる。今も、そしてこれからも、ずっと」 あの時から、彼女の輝きを消させはしないと決めたのだ。 それはこれからも変わる事はない。 「……ごめんなさい、変な事を言ってしまって」 「良いんだ。お前が望むなら、何度だって俺は言うさ」 一通りパリの名所を巡った後、リムジンは今回の目的地へと向かっていく。 パリにあるもう一つの凱旋門であるカルーゼル凱旋門、そしてチュイルリー庭園の隣に建つ一際豪奢な建物 パラスホテルと呼ばれる、五つ星より上と評価されたフランス最上級のホテルのひとつ。 それが、今回の遠征に当たってダイヤの両親が用意したという宿泊先だった。 「……」 チェックインを済ませ鍵を受け取ると、荷物を預けていたベルボーイに案内されエレベーターエントランスへと向かう。 「……本当にいいのか?」 「?」 その途中、彼女にだけ聞こえるように声をかける。 何が言いたいのかわからなかったらしく、彼女は可愛らしく首をかしげてこちらの方を見る。 「……学園に申請していないんだろう、ここ」 海外レースに出走する場合は、その全額を学園が負担する決まりとなっている。 しかし、彼女は全て私費で支払うと言っていた。 「ああ、そういう事ですか」 ようやく合点がいった彼女は納得し、安心させるように言葉を投げかける。 「そう不安そうになさらなくても大丈夫ですよ。お母様もお父様も、今回の旅こ――遠征計画については全て認めてくださいましたから」 「……」 「な、なんですか」 「……いや、なんでもないよ。息抜きは大事だしな」 「……! そうです、息抜きは大事ですからね! いっぱい楽しみましょうお兄さん」 今から気を引き締めていても仕方がない。緊張ばかりでは疲れるし、なによりフォワ賞までまだ十分に時間はある。 たまにはゆっくりと羽を伸ばすのもいいだろう。 「でも、ちゃんとトレーニングはこなしてもらうからな」 「はーい」 エレベーターはホテルの最上階へ向かう。 そこは、最近リノベーションを経て生まれ変わったばかりの、ホテル最上階に位置するルーフトップスイート。 パリの景色を360度一望できるテラスが特徴の、このホテル自慢のスイートルーム。 部屋へ案内してくれたボーイに礼を言い、幾ばくかのチップを握らせると、彼はごゆっくりおくつろぎください、とこちらへ一礼し退室していく。 その直前、ダイヤが何事か彼に耳打ちする。するとボーイはこちらへ意味深に目配せしそのまま去っていった。 ボーイが去った後二人で軽く部屋を見て回る。 総て大理石でできているというバスルーム。優美な景色が一望できる広大なテラス。 落ち着いた色合いながら高級感あふれるサロンスペースとダイニングルーム。 ……そして、ひとつだけのベッドルーム。 映像や写真越しでしか見たことのないような世界が、目の前に広がっている、 改めて、俺の担当であるサトノダイヤモンドとは住む場所が違うのだと思わされるのだった。 「……お兄さん」 彼女の呼ぶ声にそちらへと振りかえる。 先ほどまでの様子とは違い俯き気味に俺の足元を見ていた。 「……どうした?」 なんだか心配になって、彼女に近寄ろうとする。 と。 「お兄さん……!」 「――うおっ!?」 どん、という音がしそうな勢いで俺は彼女に抱きついてきた。 あまりの勢いに一瞬倒れそうになるが、どうにか耐える。 ミルク系の優しく甘い香りが鼻腔をくすぐる。それは、ダイヤが好んで付ける香水のものだった。 「お兄さん、お兄さんお兄さんお兄さんお兄さん……! やっと、やっと二人きりになれました……っ!」 互いの隙間を埋めるかのような力強さで、ダイヤに抱きしめられる。 ――そう、ウマ娘の力で、力いっぱい。 そのあまりの力強さに、背骨は悲鳴を上げはじめ、肺からは少しずつ空気が押し出されだんだんと息苦しくなる。 「ま、待っ……!お、落ち着いてくれ、俺は逃げないから……!!」 「あっ……ご、ごめんなさい……つい」 俺の懇願に、彼女はどうにか腕の力を緩めてくれた。 が、抱きつかれたままなのは変わらない。。 「……まだ夜じゃないぞ」 外はまだ日が沈んですらいない。恋人同士の……というには、些か早い時間のように思えた。 「いいんです。先ほど、スタッフの方にしばらく誰も来ないようにと言っておきましたので」 どうやら先程ボーイに何か言っていたのは、この為の準備だったらしい。 「……今じゃなきゃダメか?」 「ダメです。いっぱい甘えさせてください」 「……わかったよ」 彼女はこういう時、頑として譲らないのは知っていた。 俺は観念して、彼女の腰にそっと手をまわし抱きかえしてみせる。 「ん」 彼女は眼を瞑り、瑞々しくプルンとした唇をそっと突き出してみせる。 「それは?」 「……ちょっとお兄さん?」 「冗談だよ」 ジト目で睨め付けてくる彼女に冗談めかした笑みを返すと、そのまま顔を近づけていく。 「もう……んっ……」 互いの唇が重なりあう。だがそれだけではまだ足りないと、俺の唇を割って口腔へダイヤの柔らかな舌が侵入する。 そんな彼女の求めに答えるように、俺は舌を絡め返す。 「んっ、んっ……ぁ……むっ、ん…ちゅっ……」 舌を絡め合い、吸い合い、唾液を互いに流し込む、ダイヤと蕩ける様なキスを交わす。 「んっ、ふっ…んちゅっ……ぁ……んんっ…」 何度も繰り返すうちに、彼女の瞳がとろんと蕩け、細まっていく。 「……はぁ、はぁっ、んっ…………んむっ、んんぅっ……んーーっ……」 互いに夢中になって舌を絡め合う。 愛おしさと恍惚感、そして下腹部がぐつぐつと煮えたぎるのを感じる。 ダイヤは太股を擦り合わせながら俺の背中に回していた腕を頭にまわし、更に激しくキスをする。 「はぁ、はぁ……んむっ……っちゅ……れろっ……はっ……んぅっ……んむっ……んんっ……」 それは今まで二人で交わしてきたどんなキスよりも長く、心地の良いキスだった。 始まりのあの日に交わした一方的なキスとも、愛を誓い合ったキスとも違う。 舌と舌が絡まる度に、はあっ、と甘い吐息が口の中に流れてくる 「んっ、ん……ふぅっ…………んっ……ぁんっ……ん……ちゅっ……ぁ……」 「じゅるるっ……ふぅっ……んっ……」 やがて不意にお互いから口を離す。 お互いの唾液が、二人の間に淫靡に輝く橋をかける。 「……ねえ、お兄さん……私、そろそろ限界なんです」 彼女は俺の頭に腕をまわしたまま、そっと耳元で囁く。 「あの夕焼けで交わしたキスの時からずっと、ずぅっと我慢してきました……お兄さんは私の事を大事にしたいのはわかってます。でも私はもっと、深く繋がりたいんです」 ……彼女が度々俺の事を誘っているのは薄々気付いていた。だが、彼女は学生の身だ。 彼女がそれを望んでいたとしても、卒業までは待つべきだと思っていた。 「お兄さん」 耳元で言葉を続ける。 「……避妊だって、気にしなくていいんですよ」 ――それは悪魔のような、ひどく甘い誘惑だった。 「私ね、"あれ"を飲んでるんです」 彼女達ウマ娘という種は、娘と呼称される通り、その全てが例外なく女性としてこの世に産まれてくる。 そして女性である以上、月のものとは切っても切れない関係にあり、特にレースに挑む彼女らにとってそれは死活問題だ。 特に若いうちは不安定で、更にその程度もほぼ無痛から苦痛すら感じる娘まで、その差は様々だ。 その為URA、ひいてはトレセン学園において使用が推奨され、費用を全額負担している薬がひとつ存在する。 本来は彼女たちが心置きなくレースに参加できるよう、ホルモンバランスを整え、女性特有の問題を回避する為に使われるもの。 だがそのイメージは一般的に―― 「ピルを、飲んでるんです。だからいっぱいナマで、してもいいんですよ」 ――みだらな行為の為に、使うものだと思われているもの。 「いーっぱい、私の奥に押し付けて……お兄さんの……せ、せーし……そ、注いじゃってもいいんですよ……」 誘惑の囁きは、それまで聞いた彼女のどの声よりも甘く、脳を痺れさせる。 「それに……」 ダイヤは俺の右手を掴み、反対の手で僅かにたくし上げたスカートの下へゆっくりと俺の手を導いていく。 指先に、肌触りの良い、おそらくシルクの布を通して感じる、暖かく柔らかな彼女自身の柔らかな感触、 そして指先を濡らす彼女の秘所から溢れる透明な液体と、ぐちゅっ、といういやらしい水音。 「んっ……ここ……ぁ……お兄さんとのキスだけでぇ……こんな風に、なっちゃったんです……んっ……♡」 自らの秘所に導いた俺の指先を、何度も押し付け、上下に擦らせる。 その度に耳元をにかかる甘い喘ぎと、ぐちゅぐちゅとなる水音、そして刺激にビクりと震える彼女の体が、段々と俺の思考を奪っていく。 もう、限界が近かった。 ……我慢していたのは俺だって同じなのだ。 「ねえ、お願いです……」 不意に俺の腕を自らの股間から離させ、僅かに上に持ち上げたと思えば再び股間に押し当てられる。 しかし何か感触が違う。 先ほどまで手の平で感じていた布は今度は手の甲に当たっている。そして指先に先ほどよりもはっきりと伝わる、液体と彼女の窄まり。 つまり今、俺の手は―― 「ぁ……いっぱい……んぅっ……愛して、ください……♡」 ――プツッ、と何かが切れる音が聞こえた気がした。