1.(初体験の話) はっ、はあっ……ごめんなさい、遅れました! ちょっと思ったより用事が長引いてしまいまして…… そういえば、これはいったいなんの集まりなのでしょうか? 呼ばれたまでは良いのですが、内容をちゃんと聞けていないもので…… はつたいけんのはなし? それはつまり……ええ……? ――ちょうどいいから次は貴女の番? …………ええっ!? 私とお兄――ト、トレーナーさんとのはじめてをって事ですか!? そ、そんなの恥ずかしすぎて言えません……っ! みんな話してるからって言われても、私来たばかりで誰の話も聞いていませよ!? こんなことならもう少しお兄さんと――あ、今の無しです!なんでもありません聞かなかったことにしてください! ……話してくれたら考える? うぅ……本当ですよね? 約束ですよ? …………凱旋門賞へ向けてフランスに向かった最初の日です。 フランスにはパラスホテルと呼ばれるホテルがあるんですけど、私の家の方で奮発して、その中でも選りすぐりの場所を選んでそこのスウィートルームを借りたんです。 フォワ賞にも出るので、ホテル側にも無理を言ってるのを承知で一か月ほど部屋を取っていました。 はい。私の方は最初からそこで結ばれるつもりでした。 トレーナーさんは何度誘っても、そういうのは卒業まで待とうの一点張りだったので、こちらから勝負をかけたんです。 お兄さ――トレーナーさんの私への愛は本物だって信じてますし、それを疑った事なんて一度もありません。 ……でも、キスだけとか、抱きしめ合うだけとかじゃやっぱり足りないじゃないですか。 話を続けますね。部屋まで案内してくれたボーイの方に、しばらく部屋には誰も来ないよう伝えてからトレーナーさんに抱きついてキスをせがみました。 ……それで、ですね。トレーナーさんとお付き合いするようになってからよくキスするんですけど、実はその度にその、ショーツの方が、ですね。……はい。 えっと、そんな感じなので、彼の腕を掴んでアソコを直接触って確かめてもらったんです。 キスでこんな風になる私の事を、どうか愛してくださいって言葉を伝えながら。 後はそのままベッドに連れていかれて押し倒されて。 ……恥ずかしいんですけど、私の方が辛抱できなくなってしまいまして。 準備なんていりません、そのまま貫いてくださいって懇願したら、我慢できなくなったトレーナーさんがそのまま私の初めてをもらってくれました。 はじめてだから痛いとか、何かが破れる感覚とか、血が出るみたいな話は聞いていたのでちょっと覚悟していたんです。 けど、そういうのは一切ありませんでした。むしろ最初から腰が浮くような気持ちよさだったんです。 ……良かったと思いますよね? でも当時の私は逆に怖くなってしまいまして。 今思うとあり得ないんですけど、私が知らないうちにこの身に何かあったのではないかなんて考えをしてしまって、酷く動揺して、遂には泣き出してしまったんです。 そんな私に、お兄さんは落ち着くまで大丈夫だよって優しく抱きしめて、キスしてくれて。 やっと落ち着いてきた私に、激しい運動をしているうちに膜が破れているのはよくあることだよって、教えてくれたんです。 それに、私がどうであっても愛してるこの気持ちは揺るがない。絶対だって。 その言葉を聞いた瞬間、不安だった胸の中が全部好きと幸せでいっぱいになりました。 ……あとですね。お兄さんは全然動いてないのに、私の大事なところがきゅんきゅんってなってしまって、それだけで達しそうになっちゃったんです。 必死にイキそうなのを我慢してたんですけど、お兄さんには苦しそうに見えたみたいで、大丈夫かって心配してくれた時は嬉しさでまた上り詰めそうになってしまって。 せめて一緒にが良かった私は我慢しながら、大丈夫です、お兄さんが気持ちいいように動いてくださいって。そう答えたんです。 最初の方は、私に気を使ってなのかとてもゆっくりとした動きでした。 でも、ですね。その時の私はもう何をされてもイキそうだったので、正直生殺しにされている気分でした。 だからもっと激しく動いてくださいっておねだりしながらキスをして、必死に耐えたんです。。 さっきも言いましたけど私、初めてはどうしても一緒が良かったので。まさか快感に耐える事になるなんて思ってもいませんでしたが。 私の言葉を聞いて、お兄さんもだんだんとペースを上げて、深く抉る様に、どちらかといえば私を味わうかのような腰使いに代わっていきました。 最後の方は余裕が無かったからか、ちょっとだけ乱暴で。それでも、もうギリギリのところで張りつめていた私が達するのには十分なものでした。 私に腰を深く強く押し付けて、一番奥でお兄さんが中にいっぱい出してくれたのを感じた瞬間、頭の中は今まで我慢していた快感で真っ白になりました。 ずっとイキっぱなしで――後でお兄さんに聞いたんですけど、その時10秒くらい痙攣してたって。 お兄さんのは、私の中で固いままでした。していないんだ。なのにお兄さんが私の中から引き抜こうとしたから、こう言ったんです。 私は大丈夫ですから、お兄さんが満足するまで、いっぱい私の体を使ってくださいって。 ――覚えているのは、ここまでです。 ……その、日が沈む前にそういうことを始めたんですけど、落ち着いた頃には日付が変わる前だったんですよね。 お互いにベッドの上から抜けようとしたら、揃って腰が抜けていて動けなくなっていまして……結局、朝までそのままでした。 キスの時にこっそり元気になるお薬を流し込んだのがちょっと効きすぎたんですね、えへへ。 ……え?ナマでそんなにされて大丈夫だったのか、ですか? 元々レースの調整の為にピルも飲んでますし、出場停止をもらうような薬品も使ってないですよ。だから安心してください! これで私の話は終わりです。レースの結果もご存じのとおりですよ、フフッ♪ ……ちゃんと言ったから、みなさんさっきの事は忘れてくれますよね? 2.(距離感) ウマ娘とトレーナーは適切な距離感を保つ事が大事だと、先輩は言っていた。 彼女達に入れ込み過ぎるな、特に異性同士であるならば若い、言ってしまえば思春期の彼女達の男性観を壊してはならない、と。 確かに、チームトレーナーならともかく専属となると、自然と彼女達ウマ娘との距離感は近くなってしまう。 年上の異性が自分の為に時には熱心に、時には献身的に、しかもつきっきりで自分一人を支えてくれるのだ。 親愛と恋愛の区別が曖昧な時期にそんな体験をすればどうなるかなんて、想像に難くない。 『お兄さん』 ――しかし。 しかしだ。幼い頃に既に会っていた場合はどうなるのだろうか。 『指切り、しませんか?』 小さな頃の約束を、幼い思い出と笑わず再会を果たしたとき、それは彼女の中の男性像を守ったことになるのか、それとも。 「どうかしましたか?」 彼女の名はサトノダイヤモンド。俺の担当ウマ娘である。 彼女との出会いは、もう何年も前になる。 河川敷で小石に足を取られて転んだ彼女に慌てて駆け寄り、怪我の手当をしたのがきっかけだ。 それから随分と懐かれてからしばらくたったある時、実は互いにトレセン学園入りを目指しているなんて話をした時に、こんな話をされたのだ。 もしかしたら今日で会えるのは最後かもしれない。 だから約束してほしい。 もしも学園で再会できたなら、その時は私の担当になってくれませんか、と。 俺なんかの言葉で少しでも彼女のやる気が出るのならばと、軽い気持ちで彼女と指切りを結んだのを覚えている。 所詮は小さな頃の約束だ。トレセン学園に入学するその頃には、彼女の方は忘れているだろうとも思っていたのだ。 「お兄さん? さっきからボーっとしてどうしたんですか?」 まあ、そんな事はなかったわけだが。 「昔の事を思い出していてさ。ほら、河川敷の」 「まあ、懐かしいですね……」 じっと自分の左手を見る。 あの時約束を交わした小指の隣には、彼女と対になる銀の指輪が嵌められていた。 「あの時は君とこんな風になるなんて、まったく想像していなかったな」 「そうですか?私はあの時からずっと、いつかこうなる事を望んでいましたよ?」 「そっか。じゃあ、俺は守れたのかな」 「?」 「こっちの話さ」 改めて、先輩の言葉を思い返す。 ウマ娘とトレーナーは適切な距離を保つ事が大事だ。俺達は彼女達の男性観を壊してはいけない。 俺は彼女との約束を果たし、その男性観を守る事は出来た。それは間違いないと信じている。 だが、距離感の方はどうなのだろうか? 「ダイヤ」「はい、なんでしょう?」 「俺と君の適切な距離って、なんだろうな?」 「また変なこと考えてますね……えいっ」 彼女は疑問を呈す俺に対して、急に抱きついてきたかと思えば、その胸に顔をうずめてきた。 「これが私とお兄さんとの適切な距離です。他の誰でもない、私達だけの距離感です」 「そうか」 「わかりましたか?」 「……充分に感じたよ」 他の誰でもない彼女がそう言うなら、そうに違いない。 俺はダイヤの事を優しく抱き返しながらそう思うのだった。 ;おまけ ;「お兄さんって、いつも夕陽をボーっと見てますよね」 ;「……そうか?」 ;「そうですよ。学園で再会してからずっと、そんな感じで眺めてましたよ?」 ;「なにか理由があるんですか?」 ;「さあ?」 ;「さあ?って……」 ;……夕陽の向こうから自分と似たような誰かが呼び掛けてくる気がするんだ、などとは言えない。 ;彼女との約束を今度こそ忘れないよう。 ;今度こそ、誰も泣かないように。 ;――約束を忘れるとは、何の話だろうか? ; ;「本当に何でもないよ。さ、行こう」 ;少なくとも俺は忘れることはなかった。それでいいのだ。 ;夕陽の中の誰かは手を繋いで帰る俺達を見て静かに微笑み消えて行った、気がした。