隣室が俄に騒がしくなった数分後、事が収まった気配を感じてこっそりと覗いてみれば、散々に荒れた部屋の中央で折り重なる様にして倒れた同期とグラスワンダーがいた。
とりあえず気を失っていたグラスワンダーは我が愛バに任せて、辛うじて意識のあったコイツを自室へと引きずって今に至る。
あの惨状を見る限り何が起きたかは想像に難くない。恐らく掛かってしまったグラスワンダーからの襲撃を受けたのだろう。

コイツは凄まじく勘がいい代わりに、フィジカルに恵まれていない。人間とウマ娘との差を埋めるのが技術と言っても、限度はある。コイツが如何にしてグラスワンダーを抑え込み、無力化出来たのか非常に興味がある。というか後学のために是非とも教えて頂きたい。

「薙刀を顕現させてきたから、喉への突きを誘って……強く踏み込んで来たところに合わせて出合いで水月撃ち抜いた」

「アホなの？」

前言撤回、聞かなきゃ良かった。コイツこんなシグルイだったっけ？そりゃウマ娘でも人体と構造がそう変わらん以上急所も変わらない。いくら頑強なウマ娘であろうと鍛えた成人男性の水月突きに自らの推進力で突っ込めば、内腑はひしゃげる。もう少し専門的な話をすれば、神経叢を強く圧迫され激痛を感じると共に、横隔膜は一瞬停止して呼吸困難を誘発する。
そこまですれば確かに行動不能に落とし込めるだろうが、一歩、いや半寸間違えれば首が落ちる所業は決して正気の沙汰では無い。

夫婦はいとこほど似るとはいうが、トレーナーと愛バもまた然りというところか。
同期の命知らず、いや不退転っぷりにぶるり、と身を震わせていると、トレーナー室の扉が勢いよく開いた。

「トレーナーさん！グラスを保健室に連れて行ってきマシタ！！」

「おう、ご苦労さん」

「お安い御用デース！！」

頭頂部で結えてなお余る豊かな髪の毛を靡かせながら、マスクを着けた我が愛バ、エルコンドルパサーが堂々と入場してくる。
そして満面の笑みで俺の胸へと飛び込んで───

そのままの勢いで、俺の身体ごと窓ガラスを突き破った。
一瞬の内に感じた浮遊感から、背中を襲う決して頼りなくは無い硬さの物を割る感覚。
そしてそのまま地面へ投げ出される筈だった俺の身体は、代わりに青いマットへ叩きつけられた。

「いっつつ……エル、お前やりやがったな」

「ふふん、トレーナーさん。常在戦場の気持ちで居なければ、エンターテイナーであるエルのトレーナーは務まりまセンよ！」

エルのウマソウルで形成されたリング。その中央で腕を組み、大胆不敵な笑みと共に此方を見下ろすエルは、その余裕綽々な言葉の調子とは裏腹に、片脚で前を掻き、鼻息は荒い。

（随分と掛かっているな……アイツらに当てられたか……）

「オイオイ、今日はまた随分とラフだな。ベビィフェイスからヒールに転向かい？」

マイクパフォーマンス。プロレスの定番であり、時に試合以上に重要視されることもあるそれは、俺とエルのコミュニケーション手段の一つ。
掛かりを解く為にあらゆる言葉を投げかけながら、俺は先輩の教えを再び受ける為に霞掛かった記憶の奥へと脚を踏み入れた。

「お前は頭が良いからな、まず距離感を間違えることはないだろう」

「まあ、当然ですね」

当時の俺は身体ばかりでなく頭もでっかちで、詰め込んだ知識の量だけでトレセンの猛者達を蹴散らすことができると信じ込んでいた。
だから、先輩に二、三教えを受けただけの感覚精神論者な同期に叩き伏せられた時は、屈辱を通り越して憤死するところだった。

「だからこそ距離を詰めろ。お前はドライ過ぎるんだよ、多少暑苦しいくらいが丁度いい。それに、肉体的にもお前にはそれが合っている筈だ」

「はあ？同じ墓場に引き摺り込もうってタマですか？」

人生の墓場のゴール板までコンマ数秒、レコードも狙える先輩の言う事に耳を疑ったけれど、自分の力量を知ったばかりの俺は憎まれ口を叩く以外出来なかった。

「テメー、良い度胸だ。そのデカい身体に理ってもんを刻んでやる」

カーンッッッ！！！

試合開始のゴングが耳を貫く。現実に引き戻された俺は猛然と向かってくるエルの額を迎え撃つべく構えた。

ガゴッ！！！

石と石をぶつけたような鈍い音が辺りに響き渡り、互いの眉の上では、塗りたくり過ぎたリップの様な妖艶な紅が熱い接吻を交わしながら、二人の口元へと降りてくる。

明滅する視界の中に浮かぶ、ベロリ、とそれを舐めとるエルの表情に、欲情にも似た昂りを感じる。

恋人のように両の掌を絡ませあい、そのままがっぷり四つ。如何に俺の身体がデカくとも、素のままでウマ娘の膂力に対抗出来るほど化け物では無く───だから俺は先輩に叩き込まれた理を使う。

また間合いかよ！

己の筋肉を、関節を、肉体の全てを理解の下に置き、力の流れを支配する。大を小に、弱を強に、左を上に、右を奥に、自由自在に。そして支配するのは俺だけでなく、エルまでも。
同期のような天性の感覚を持たない俺に先輩が授けてくれたのは、全てを躱せる距離感覚では無く、全てを受け止め、いなすゼロ距離の理だった。

ググ、と少しずつエルの身体を押し返す。側から見れば驚嘆の一言に尽きる、只人が本気のウマ娘を後退させるこの光景。

力比べでは形勢不利と見たエルは即座に組んだ手を切り、恐るべき速度のラッシュに移行する。拳、手刀、体当たり、蹴り。全ての打撃を受け、その衝撃のみをあらゆる方法で散らし、いなす。受けていなす、受けていなす、受けていなす。

永遠と須臾を繰り返す乱打は、唐突に終わりを告げた。
ギチリ。
左腕にエルの掌が、指が、食い込んでいる。
ニタリ、とエルの口角が上がる。
このままフィニッシュホールドに持ち込む気か。投げか、固めか、それ以外か。
だがそれは───

「悪手だ」

呟いた瞬間、エルの膝がガクリ、と落ち、頭は俺の腰程まで沈む。

「迂闊だな。俺の掌を掴まなければ大丈夫だとでも？」

驚愕の表情で此方を見上げる片膝立ちのエル。俺はその膝を踏み台にし、そのままエルの側頭部へ膝を振り抜いた。

エルのしなやかな身体がリング端へ吹き飛ぶ。ゴロン、ゴロン、と転がって、うつ伏せのまま動かない。

「態とらしいぞ」

俺は受けるダメージを受け流して最小限にしたり、組んだ状態で抑え込む程度は出来ても、ウマ娘に通用するダメージを生み出す事は出来ない。

お前も人間辞めてんだろ！

ここまでしなきゃいけないならもう負けても良いかな…？

「エヘヘ、トレーナーさんには何でもお見通し、デスネ！」

倒れ伏したエルは、そのままの状態から腕の力だけで倒立し、そして天高く跳ね上がった。
輝く太陽を背に受けて、コーナーポストに怪鳥が舞い降りる。

「さあ、トレーナーさん！パフォーマンスはここでオシマイ！次は本気の第二ラウンドへ突入！デース！」

俺はとっくの昔に本気なんだがな。エルの手形が鮮やかに残る左腕を摩りながら、改めて種の違いと言う名の暴力を感じる。

「Por favor acepta todo de mi parte.」

そう恍惚とした表情で呟いたエルは、再び空へと舞い上がる。

第二ラウンドを告げるゴングを聴きながら、俺は先輩を想う。

この世界のトレーナーは殉職率の方が高そうですね…

掛かり怖すぎない？

先輩、あなたの教えには感謝しますが、やっぱり精神的な距離感は必要だったんじゃないでしょうか。

以上です

先日のグラスの時にエル。も見たいと言っていただけたのと、今日の夕方にえっちなグラスの鴨葱があったので負けじとえっちに書きました

えっち…？

いやー年頃の女の子との距離感は難しいですね！

えっちっていうかエッヂの効いた話だよこれ

HはHでも

いやぁH(ot)な試合でしたね！

HELL

Heat upしてるなー

ウマ娘と頭突きしあって意識保ってるとか鉢金でも仕込んでんのか

>「Por favor acepta todo de mi parte.」
ワタシの全てを受け入れてくだサーイ…♥️

夢枕獏？

いつも不思議なんだけど体重が人間と大差ないなら筋密度も人間相応だろうに
どうしてあれだけのパワーを発揮できるんだろうねウマ娘って…

首への一撃を誘っての後の先はお互い殺す気満々すぎだろ
この世界のかかりってそういう…

>いつも不思議なんだけど体重が人間と大差ないなら筋密度も人間相応だろうに
>どうしてあれだけのパワーを発揮できるんだろうねウマ娘って…
タキオンもなんでだろうと言っています

体重は常に秘密だぞ

掛かりを察知できないトレーナーはいずれ死ぬ

「おや、トレーナー君。あそこにいるのは君の教え子ではないか？」

「ん？ああ、ホントだ。向かい合ってるのはエルコンドルパサーかな？」

「そういえば彼が担当だったか。ふふ、若い才能が戯れ合う姿は微笑ましいな」

「あれは戯れ合うとは言わないよ……あ、エルコンドルパサーの手が……食いこんどる」

「「……ふふっ」」

バトル漫画で殺気を察知する感じか？
この世界の掛かり察知は

こいつら似た者同士なんだ！

当然の権利のように薙刀やリングを無から生成するな

ｶｲﾁｮｰ！

マーベラス空間を筆頭にウマ娘は領域展開を手軽にできるのは知ってるな？
ゲキマブとカレンチャンも使えるし

この世界観だとタイトレがヤバイ

ゴルシなんかは領域展開できないからクリークに競り負けたりするのか

手に汗握る作品だった
>先日のグラスの時にエル。も見たいと言っていただけた
もしかしたらレスしたの俺かもしれない
申し訳なかった

>この世界観だとタイトレがヤバイ
ヤエノムテキとタイキのマッチは見てみたい

競馬しろよ！

FINISH HIM

QTE発生しまくってない？

タイキとファストドロー勝負って死ぬじゃんと思ったけど銃だったら威力は引き分けだから一番生存率高いかもしれない

>この世界観だとタイトレがヤバイ
飛び道具かぁ

面白そう

>タイキとファストドロー勝負って死ぬじゃんと思ったけど銃だったら威力は引き分けだから一番生存率高いかもしれない
生存率とは

銃弾で銃弾を撃ち落とすタイトレですって？

銃撃戦を統計学的に分析して敵の攻撃の軌道と射程を数理学的に導き出すことで常に回避行動を取りつつ攻撃を行うしかない

ゴム弾ってあるだろう
あれヘビー級のボクサーの拳くらいの威力があるらしいな

>銃弾で銃弾を撃ち落とすタイトレですって？
タイトレの見た目イメージが次元になってしまった

>生存率とは
ウマ娘を指導して生き残れる確率のこと

ブルボンがブッピガンしそう

グラスのトレーナーはよく頭上に危が浮かんでるやつだ…

トレセンって世紀末か何か？

お前らトレーニングしろよ

ポストから飛び込んできたエルに有情猛翔破を決めるトレーナー

領域展開とか固有結界とかアルター能力とかオーバーソウルとかスタンド能力とかに人体の技術のみをもって渡り合う事ができてこそトレーナーであるならそれはウマ娘にとって貴重なお見合い相手であるな…

同じ黄金世代としてスペやキングやスカイはどう思う？

ウマ娘を導くトレーナーが担当の子より弱いわけがないからな…

>ブルボンがブッピガンしそう
もうパイロットの誰かがトレーナーやってるまである

掛かりこわ…

お友達とかいてスタンドと読む

故人的にはゴルシの振り回す錨とかスぺちゃんのメテオを避けるトレーナーなんかを見てみたい気もする

オグリは雪原召喚して何するんだよ…

>故人的にはゴルシの振り回す錨とかスぺちゃんのメテオを避けるトレーナーなんかを見てみたい気もする
たかがメテオくらい押し出してやる！
とかかな

ライスが危険すぎる

>オグリは雪原召喚して何するんだよ…
…スケート？

>同じ黄金世代としてスペやキングやスカイはどう思う？
スペは星が降ってくるしスカイは海が出てくるから…
キングはカッコよく汗拭いててくれ

ライスは明らかに暗殺術使いだから気が抜けなくない？

>オグリは雪原召喚して何するんだよ…
かき氷勝負かな…

>故人的にはゴルシの振り回す錨とかスぺちゃんのメテオを避けるトレーナーなんかを見てみたい気もする
ゴルシはもう書いてる

スペちゃんはウチのトレセンにはいませんので……

薔薇の中でくるくるしたり人混み掻き分けてるだけのウオダスは平和だな

ドバイ召喚してるっぽいファル子…

>>オグリは雪原召喚して何するんだよ…
>…スケート？
ウワーッ会長とキスしてる！？

テイオーは空をスキップできるんだよな
じゃあトレーナーも…

ｳマﾑｽﾒﾑクー空間でウマ娘は通常の3倍のパワーを発揮するのは知っているな？

>ｳマﾑｽﾒﾑクー空間でウマ娘は通常の3倍のパワーを発揮するのは知っているな？
あ
あ

>テイオーは空をスキップできるんだよな
>じゃあトレーナーも…
ニンジャ道具か立体機動装置で…