自分が何故無口で口下手なのかということを考えると、自分に自信がないからだ。
ならば自信をつけてやればいい、しかし自信は一朝一夕に付くものではない。
仮初めのものでも自信を付けるには、そのままの自分ではなく「立派な誰か」を演じることだと手に取った自己啓発書に書いてあった。
明るい人気者の有名人の真似をすれば性格も少しはその方向に向く。
だが、彼女を支え自分の無口を補うにはただの有名人を演じるのでは足りない。もっと立派な存在を真似すれば……

そうか、神だ。
この世で最も立派な存在、神を演じれば自分も多少は喋れるかもしれない。
それもバクシンの神であれば彼女も自分のアドバイスを聞くだろう。完璧な作戦だ。

もし万が一バクシンオーにバレたとしても、こんな痛々しく滑稽な男を好きになることなど絶対にありえないだろう。
一人二役でトレーナーとバクシンの神を巧みに演じ続け、彼女が無事競技人生を終えるまで側で支え続けられればそれでいい。

特定の衣装のような変装アイテムを用意しようかと思ったが、万が一その変装道具がバクシンオーに見つかったらまずい。
そうした衣装を置いておく場所もトレーナー室か寮くらいにしかない。隠すのは難しそうだ。
ならどうすればいいか。かんたんなことだ。
その場にあるものを臨機応変に上手に使って完璧な変装をすればいい。

同時に、ニシノフラワーのトレーナーやミホノブルボンのトレーナーにも協力を頼んだ。
彼らは最初は「こいつは何を言っているんだ？」とでも言いたげな嫌な顔をしていたが、最後には「昼飯でもおごってくれるなら協力してやる」と言ってくれた。
友人が少ない自分には２人のその協力がすごくありがたかった。
特にあれこれ文句を言いながらもいつも最後には協力してくれるニシノフラワーのトレーナーには感謝の言葉もない。

準備を整えたある日、トレーナー室でバクシンオーと話していた途中に「トイレ」と席を外し変装をした。
そして初めてバクシンの神としてバクシンオーの前に現れた。
ちなみに最初の変装はゴミ捨て場に落ちていた特撮ヒーローのお面で顔を隠し、体はこれもゴミ捨て場に落ちていたボロボロのカーテンをマントのように羽織って隠した。

「ちょわっ！？あ、あなたは！？」
「恐れることはないバクシンオー…私は驀進の神だ」

自分でも驚くほどにすらすらと言葉が出る。いつもの自分とは大違いだ。
これなら驀進の神として彼女を支えることができるかもしれない。
だが彼女はこちらを怪訝な顔で見ている。
…やはりダメだったのか？

「バクシンの神…！？ま、まさか…貴方様はあのバクシンの神、バクシン・シーン様なのではっ！？」
「そうだバクシンオー…いかにも私はバクシンの神、バクシン・シーンだ…」

バクシン・シーンと言う神様が本当にいたのかは知らなかったが、うまく話を合わせたおかげでバクシンオーは完全にこちらをバクシンの神だと思いこんでいるようだった。作戦成功。

「なぜバクシンの神が私のもとに！？」
「おおバクシンオー…天に選ばれしバクシンの申し子よ。悩んでいるのだね。可愛いお前に特別な助言を与えに天界より下天して来たのだ…」
「さ、さすがはバクシン・シーン様！そうなのです、悩んでいまして！実は最近…」
「お前の悩みは聞くまでもない。悩んでいるのだね？自身のスタミナの伸び悩み、戦術面の不勉強、最近夜食にこっそり食べているコンビニスイーツ…」
「オォー！！さすがバクシンシーン様！何でもお見通しなのですね！」

こうして初対面でバクシンの神として完全に信頼を得た。完璧な変装と設定のおかげだろう。

そしてそれからというもの、様々な場所にバクシンの神バクシン・シーンとしてバクシンオーの前に現れ助言を行った。

時にはバケツをかぶりモップを携え。
海では大量のワカメで顔を隠し大きな真鯛を持ち。
デパートでは植木鉢をかぶり花束を抱え。
誕生日にはリボンを巻いたプレゼントボックスを顔に付け。
ファン感謝祭ではアメフトの防具で全身を覆い。
花壇では土嚢袋を頭と体に身に付け。
ニシノフラワーのトレーナーとミホノブルボンのトレーナーに協力してもらって積み上げられたタイヤと化したこともあった。

どの変装も完璧で、完璧に神を演じ切った。
どのアドバイスも「トレーナーの言うことは聞くように」と最後に嗜めることで日頃のトレーニングに疑いを持たせないようにもした。
サクラバクシンオーも周囲の皆も誰一人として自分がバクシンオーのトレーナーだということに気付いていなかっただろう。
特にミホノブルボンはこちらを目を輝かせて見ていたし、ニシノフラワーに至っては完璧な神を演じすぎたせいか声すら出せない態度を示していたからだ。

バクシンオーの前にバクシン・シーンとして現れるのは常に何かの節目だった。

彼女が悩んでいる時。
彼女が困っている時。
彼女が怒っている時。
彼女が悲しんでいる時。
彼女が道を誤ろうとしている時。
彼女が迷っている時。

彼女が心乱されまっすぐに驀進できない時、バクシン・シーンとしてアドバイスを与えた。

誕生日の日には出張だと偽って事前に彼女の実家ヘ行き、両親をトレセン学園まで連れて行った。
バクシンオーだけでなくその両親も騙してしまったことに良心が痛むが、立派な大人であるご両親も騙せているならバクシンの神への変装は完璧の域だと言っていいだろう。
その際に誕生日プレゼントとして桜の花の形の髪飾りをプレゼントしたが、素の自分ならプレゼントを渡すどころか店に入ることすら出来なかっただろう。
バクシンの神の格好だからこそ堂々と店に入り、アクセサリーを買うことが出来た。

バクシンオーが長距離を制覇するその日まで、トレーナーとバクシンの神の一人二役がバレないように支える。
そして引退したその先、彼女は自らと同じような華やかさを持つ男性と出会いバクシン的に幸せになることだろう。
そうなれば自分のことなどすぐ忘れてしまうだろうが、結婚式くらいには呼んでほしい。

「おぉ…私の可愛いバクシンオーよ…」

「あ、あなたは…バクシンの神！バクシン・シーン様！！」

そして今日も、自分はトレーナーと時々バクシンの神として彼女を支える。
自画自賛するわけではないが、自分ほどウマ娘との適切な距離感を保てているトレーナーはいないと思う。
これほど暗く存在感のないトレーナーなど彼女は引退すればすぐに忘れるに違いない。
少し寂しい気もするが、これが理想的。理想的なウマ娘とトレーナーの関係なのだから。

「――本当に、大好きですよ」

バクシン・シーン様の三次創作の二作目です
完璧に騙せている上に男性観も破壊せず引退したらすぐ忘れられそうなトレーナーなので完璧な距離感ですね

クソボケきたな…

バクシン・シーン様サイド初めてみた
良かったよ…

バクシン・シーンepisode0初めて見た

>そこで自分は、バクシンの神を名乗ることにした。
初手からおかしい

バクシンを無礼すぎでは？

バクシンオーが察して合わせてくれたんだろうな初回

可愛い人すぎる…

バクシン・シーン様割とクソボケのアホだった…？

ぼくこれ知ってる
破れ鍋に綴じ蓋ってやつだ

付き合いいいなニシトレとブルボントレ…

>付き合いいいなニシトレとブルボントレ…
友情の賜物だな
あとは相談1回につき食堂のAランチ

>バクシン・シーン様割とクソボケのアホだった…？
それはそう

バクシン・シーンの存在を無邪気に信じてるのなんて本人とブルボンくらいだよ…

>極度の口下手で、不器用で、根暗で、他者とまともに会話もできない。
こんなこと言ってるトレーナーがそれでも悩める自分にアドバイスしてくれようと四苦八苦しながら慣れないことに手を付けている！
いかがですか解説のバクシンオーさん？

可愛い人…

あ、あばたもえくぼ……

>いかがですか解説のバクシンオーさん？
上手に騙してくれてます♥

好きになったら短所だって大抵は長所になるもんだ

ここのトレーナーは今まで十文字以上喋ったことないからな…バクシンシーン様がいなかったらどうなっていたことか…

ブルボンは男子小学生メンタルしてたからな…

バクシンオーさんに宝物は何ですかと質問すると必ず懐から不器用な人間が作ったのであろうバクシン祈願と書かれたボロボロのお守りが出てくる

いいですよね手玉にとられてるのは自分でした

やり方が致命的におかしいだけで結果だけ見ればほぼパフェコミュなんだよなこのトレーナー
だからこそ余計に性質が悪いというか…

>そこで自分は、バクシンの神を名乗ることにした。
お前か！

さっさとくっつけばいいと思います

>バクシンの神の格好だからこそ堂々と店に入り、アクセサリーを買うことが出来た。
堂々と…堂々と…？

ニシノさんは賢いね…
きっとトレーナーどももみんなそう思ってるよ…

>>バクシンの神の格好だからこそ堂々と店に入り、アクセサリーを買うことが出来た。
>堂々と…堂々と…？
確か過去にフラワーショップを訪れていたはず
…頭に植木鉢を被った状態で…

>ニシノさんは賢いね…
>きっとトレーナーどももみんなそう思ってるよ…
ﾐﾎｯ?

>鍋を破るな割れ
（破れ鍋でわれなべって読むんですよ）

>>いかがですか解説のバクシンオーさん？
>上手に騙してくれてます♥
上手かな……上手かも……

すぐバレるような変装で流石に両親が騙されるわけないから完璧な変装なはず！

>（破れ鍋でわれなべって読むんですよ）
初めて知ったわ申し訳ない

マスター
あれはバクシントレーナーでは？

素敵な魔術師さんだね、委員長にぴったりだ。

委員長がシンデレラみたいじゃないか

>ここのトレーナーは今まで十文字以上喋ったことないからな…バクシンシーン様がいなかったらどうなっていたことか…
どういう経緯でスカウトしたんだろうな

>すぐバレるような変装で流石に両親が騙されるわけないから完璧な変装なはず！
((なんだこいつは…ここで合わせとかないと…))
↓
((彼ならうちのバクシンを任せられる！))

>（破れ鍋でわれなべって読むんですよ）
◆知らなかった…

>マスター
>あれはバクシントレーナーでは？
(鳴らない下手な口笛)

新幹線とプレゼント購入はプレゼントボックス被って行ったのか…

ブルボンに良くない影響与えてないか……？

>新幹線とプレゼント購入はプレゼントボックス被って行ったのか…
自分もラッピングしてプレゼント届けたのかもしれない

ニシノフラワーちゃんのツッコミスキルがモリモリ成長しとる

>ブルボンに良くない影響与えてないか……？
マスター　私も同様のユニットを要求します
要求が受理されない場合　午後以降のトレーニング効率が　30%減少します

>「バクシンの神…！？ま、まさか…貴方様はあのバクシンの神、バクシン・シーン様なのではっ！？」
助け舟を出されてる…

三次創作ってことは元怪文書が！？
見逃していた

>ニシノフラワーちゃんのツッコミスキルがモリモリ成長しとる
成長してるのはスルースキルだと思う

多分バクシン一家が学園に来た回
後で委員長が両親に私はあの人と一緒になろうと思っていますって頭下げてるよね

一番悪い影響を受けてるのはバクシンオーだよ…

おお…バクシンオーの母君父君よ。悩んでいるのだね？娘の誕生日、久々に娘に会いたい気持ち、住宅ローン大丈夫かな…

バクシン・シーンの恰好でお店に入っちゃダメだよ！

>おお…バクシンオーの母君父君よ。悩んでいるのだね？娘の誕生日、久々に娘に会いたい気持ち、住宅ローン大丈夫かな…
>「オォー！！さすがバクシンシーン様！何でもお見通しなのですね！」

バクシンオーの親ならバクシンオーが選んだ相手を否定することはあるまい

最後まで騙してくださいね♥

>バクシン・シーンの恰好でお店に入っちゃダメだよ！
>それに安心せよ、人よけの呪文をかけてある」

(これがバクシンオーの言っていた…！)(本当にやるんだその変装！)

手段が奇特だけど悩める委員長を導く為だし実際効果上げてるからな…

バクシン・シーンと鴨葱の三次創作だけどこれは三次創作という呼び方でいいんだろうか

>バクシン・シーン様の三次創作の二作目です
一作目あったのか…

>(これがバクシンオーの言っていた…！)(本当にやるんだその変装！)
バクシンママは以前トレーナーのことを可愛い人と言っていてな…
下手するとバクシンパパも同類の可能性があるんだ…

>手段が奇特だけど悩める委員長を導く為だし実際効果上げてるからな…
なおニシノ神はやる気を落とし寝不足になった

あのシリーズは毎度読んでてトレーナーさんが委員長の好感度稼ぎすぎてて冷や冷やしてる

>>(これがバクシンオーの言っていた…！)(本当にやるんだその変装！)
>バクシンママは以前トレーナーのことを可愛い人と言っていてな…
>下手するとバクシンパパも同類の可能性があるんだ…
バクシンママ2000メートルの良馬場なら滅茶苦茶強そうだもんな…

ニシノ神もこうして大人への経験値を貯めていくのであった

三次創作と三次創作が揃う時……男性観の破壊が訪れる……

バクちゃんいいよね…