風を感じながら、足を動かす。
ほら、私は大丈夫。あのバイクよりも早く走れる。あの自動車よりも。あのウマ娘よりも…………。
──遅い。
以前なら何でもなかった距離を走っただけで、めまいと吐き気に襲われて、壁にもたれかかる。
──重い。
私の身体に宿る生命の重さが、どうしようもなく足を重くさせる。
あれほど速さを求めた身体が丸みを帯び、アスリートでなく母としての身体へと変わっていく。
──痛い。
こんなにも苦しいものだなんて思わなかった。
こんなにも変化を兆すものだなんて思わなかった。
知っていたのなら私は……私は──
脳裏に浮かびそうになった最低な感情を、かぶりを振って打ち消す。
「バクシンオーっ！」
背中にかかる声に振り向くと、心配そうな表情をした彼が立っていた。

迎えの車にのって、2人の家に帰った。
なにも言わずに飛び出してきたから、家のなかは散らかったまま。
彼が手際よく用意してくれた夕食を静かに食べ終えてからも、暫く無言が続く。
先に口を開いたのは彼の方だった。
「……やっぱり、走れないのが辛いのか？」
「……辛くないとは、言えませんね」
走ることだけを考えて過ごしてきた。
速さだけを求め、勝つことに執着してきた。
それでも、愛さえあれば母親になれるのだと、そう思っていた。
愚かなる私は、そこに至るまでの道程を、想像することすらしなかったのだ。
「……いいじゃないか、バクシンオー。ずっと走り続けてきたんだ。一年くらい、身体を休めたって──」
……あなたの口から、その言葉を聞きたくなかった。

「……あなた。いいえ、トレーナーさん。その一年間で……私はどれくらい遅くなりますか？」
「……それは」
「日々、変わっていくのを感じるんです。私というアスリートが、この子の母親へと作り変わっていくのを。それはきっと、生き物として正しい変化なんでしょう」
「…………」
「だけど私は正しくないんです。欠落しているんです。こんな私が母親になりないなんて望んではいけなかったのです。どこまでも自分本意で、とても模範的などではなく、私は……私はっ……」
「……もう、いい、言わなくたって……」
「私はっ……この足が遅くなるくらいなら、こ、こんな子なんて……いなければいいって」
「バクシンオーッ！」

彼の腕が近づいてくるのを感じて、叱られる、叩かれると、でもそれが当然の反応だと、私はぎゅっと目を瞑って耐えようとした。
だけれど彼は強く私を抱き締めて、すまない、と謝る。肩口が彼の涙で濡れていく。
「ごめん……ごめんな……お前の気持ちをわかってやれなくて……」
「いいえ……私の方が……」
私も嗚咽を抑えられなくなって、彼の肩に顔を埋めて涙を流す。
遅すぎた。お互いのことを理解しているようで、なにもわかっていないことを、もっと早く気づくべきだった。
そうすればもっと──

あなたが産まれるまで、たくさんの困難がありました。
ちゃんとした母親になれるか心配だったけど、欠落した私だけれど、あなたに精一杯の愛情を捧げられるように、たくさんたくさん準備をしました。
醜い感情に包まれて、自分のことも、あの人のことも、あなたのことも嫌いになりそうだった時も、よく耳を澄ませれば聞こえてくるあなたの生命の息吹に、私を心から思ってくれるあの人の言葉に、いつも救われてきました。
だから、ありがとう。
この世に産まれてきてくれて。
ねえ、声を聞かせてください。
あなたの声を。
そうすれば私は頑張れるから。
お願いだから──

委員長やスズカのように誰よりも速く駆け抜けることをアイデンティティーとしている子はマタニティーブルーに成りやすそうですよね
と思い立って書きました

…人の心とかないんか？

ブルーどころか闇落ちしそうな勢いなんですけど

俺は辛い
耐えられないかもしれない

不穏ッ！ちゃんと生まれてきたのかね！！

闇墜ちというか…

重いから安心できるところまで書きなさい

温泉旅行で手なんか出しちゃうからこんな

>ねえ、声を聞かせてください。
ちょっとまって
まって

なーんか全体的に過去形ですね(すっとぼけ)

これ乗り越えてお流れオチって悪魔か何か？

>温泉旅行で手なんか出しちゃうからこんな
温泉旅行から7年くらいたってそうだからセーフ！

不穏度が高すぎるわ！

赤ちゃんはまだうまく喋れないからね

だ…だって速さのためなら子供なんていらないって…

バクシンバクシンバクシーン！って鳴き出すって
今に見てなよ

ファッキンスリーゴッデス！！！

>三女神
>だ…だって速さのためなら子供なんていらないって…
おめえここで死んでも文句は言えねえぞーテメー！

「」はなんだかんだ最後に幸せになるんなら大丈夫だ
だから分岐にすればいくらでも落としていい
そうすれば見たい奴だけが見るからみんなハッピー

子供は無事だからセーフ
子供は

でわたしのお母さんが産まれたってワケ

実際本能的に走ることが大好きな種族だから臨月頃のストレスはヒトミミよりはるかにすごそう

>でわたしのお母さんが産まれたってワケ
キタちゃんのレス

マタニティブルーが重そうだね…
アスリートとしての自分が終わっていくのを大きくなるお腹を見て気づくんだ

こうして生まれたのがサクラスターオーだ
年代が逆だけど

これで死んだら人生短距離すぎる

原作バクシンはうまぴょい中に死んだからな…

単純に早く生まれてこないかなーってだけじゃないの？

「産まれてきてくれて」って表現を考えると、妊娠中じゃなくて出産後なんだよな
でも帝王切開全身麻酔でもなければ産声が聞こえないわけがないので…久々に倒しがいのあるスリーゴッデス案件な気がするな…

適正は因子で乗り越えられるけどホルモンには誰も逆らえないから…

きっと泣きつかれて眠ってるんだよ…