1.ライスのお姉さまはとっても忙しい人。 まだ若いけど優秀でいろんな子を担当してるの。 だからライスは今日も1人でトレーニング。 でも大丈夫だよ。ライス1人でもがんばれるもん。 でももう少しだけ、お姉さまにライスのこと見てほしいな…。 「あっ…」 とつぜん目の前の景色がぐるっと回ってお空が見える。 いけない、考えごとしながら走ってたら転んじゃったみたい。 ライス…ダメな子だ。 しばらく起き上がれずにぼうっとお空を見上げてたら遠くから足音が聞こえてくる。 「ライス!大丈夫か?!」 心配そうなお顔で走ってきた男の人は…ブルボンさんのトレーナーさん。 よそのトレーナーさんに迷惑かけちゃうなんてライス本当にダメな子だ…。 「そのままじっとしてて。保健室まで連れてくから」 ブルボンさんのトレーナーさんはライスの背中と膝に手を入れてすっと持ち上げる。 絵本でしか見たことなかったお姫様だっこ。 トレーナーさんの体はおっきくて温かい。ちょっと汗の匂いもする。 思わずトレーナーさんの胸に顔をうずめるとブルボンさんがちょっと困ったお顔でライスのこと見てた。 「ライスは軽いな」 歩きながらライスに微笑みかけるトレーナーさんの笑顔は王子さまみたいで…。 ライスちょっと頭がぼうっとしてきちゃった。 保健室のベッドに寝かせてもらったあとトレーナーさんは 「ライスのトレーナーには連絡しとくよ。ブルボンのトレーニングがあるからごめんね」 謝りながら保健室を出ていった。 もっとトレーナーさんに看病してもらいたかったな…。 だけどライスのトレーナーはお姉さまだからワガママ言わずにお礼だけ伝える。 トレーナーさんが保健室を出ていくと廊下の方から 「疲労の蓄積を確認。マスター、私のことも持ち上げて練習場まで戻ってください。ライスにしたように」 ブルボンさんの声がした。…そっか。そうなんだね。ライスにはわかるよ。ブルボンさんはトレーナーさんのこと…。 結局とくに怪我はなくて、ライスはまたすぐ走れるようになった。 だけどお姉さまはライスのこと心配して、お姉さまが忙しい時はブルボンさんのトレーナーさんがトレーニングを見てくれることになっちゃった。 だから今日もブルボンさんのトレーナーさんにマッサージを受けてるの。 2人きりのトレーナー室。この前のお姫さまだっこを思い出してライスちょっとドキドキしちゃう。 マッサージも終わる頃、廊下の方から小さな物音がした。 トレーナーさんは気づいてないみたいだけど…そっと廊下の方を見てみるとドアの隙間からブルボンさんがこっちを見てた。 「よし!じゃあ今日のマッサージは終わりな」 ライスの足から手を放して立ち上がるトレーナーさんはまだ気づいてないみたい。 だからライスは…ちょっとイジワルしちゃう。 「トレーナーさん」 「え?」 彼の首元に手を回して引き寄せ、唇を重ねる。 「ラっ…ライス?」 トレーナーさんのお顔は真っ赤になってる。かわいい。 「お姉さまの代わりにライスのことお世話してくれるお礼」 慌てるトレーナーさんに二度目の口づけ。こんどはちょっと長めに。 「次の菊花賞でライスが勝ったらまたお姫さまだっこしてほしいな。だめ?お兄さま?」 扉の方に目をやるとブルボンさんがすごいお顔してる。 それを見てライスは体の奥の方からゾクゾクしたものが溢れてきちゃいそう。 ああやっぱりライス、ダメな子だ? 2.菊花賞はライスが勝った。 お客さんはみんなため息ついてたけど…ライスは気にしないよ。 だってライスにはお姉さまとお兄さまがいるから。 涙目のお姉さまにひとしきり抱きしめられたあと、ライスはお兄さまに会いに行った。 レース場の控室、ブルボンさんのお部屋。 ドアをノックしようとしたら、中からお兄さまが出てきた。 きっと中にはブルボンさんがいるのかな。お兄さまはライスの手をとってお部屋からそっと離れる。 「おめでとう。ライス」 お兄さまは少し寂しそうなお顔で微笑んでくれた。 「ありがとうお兄さま。ライスの走り見ててくれた?」 「ああ…ちゃんと見てたよ」 お兄さまはそっとライスの頭に手を置いて撫でてくれる。 「お兄さま…菊花賞に勝ったときの約束…覚えてる?」 「あ…ああ。お姫様抱っこ…だったな?今は…人目があるからまた今度…」 人目…?お兄さまの目線を追うと、さっきまでいたお部屋の前でブルボンさんがこっちを見てた。 「お兄さまひどい…ライスがんばって走ったのに…」 「ごめんな…でも今はちょっと…」 「わかった。もうお姫様だっこはしなくていいよお兄さま。そのかわり…」 残念だけどお兄さまを困らせるのもつらいから…。ライスはこんなときのために考えてたかわりのご褒美をお兄さまにおねだりするの。 「お兄さまのお部屋の鍵が欲しいな…」 「お兄さま?朝だよ?」 お部屋の鍵をもらってからライスは毎朝お兄さまのお部屋に通うことにしたの。 お洗濯をしたり、ご飯を作ったり。 ライスがいないとお兄さま、お洗濯も溜まっちゃうしご飯もちゃんとしたもの食べないから。 最初はお兄さまも戸惑ってたみたいだけど… 「ああ…おはようライス。今日もありがとう」 ベッドから出たお兄さまがライスの小さな体をギュッと抱きしめる。 今ではこれがライスの日課になっちゃった。 「それじゃあライス先に行くね。お兄さま?」 ライスはお姉さまと朝のトレーニングがあるからいつものようにお部屋を出て、階段を下りて、外に出る。 いつもと同じ幸せな朝。だけど今日はちょっと違ったみたい。 外に出てみるとブルボンさんがいたの。 「ライス、最近朝早くどこかに出かけているようですね」 「うん…?だけどブルボンさんには関係ないことだから…」 「マスターの匂いがします」 さすが二冠バのブルボンさん。お鼻も一流みたい。 「何故ライスからマスターの匂いがするのですか」 ブルボンさんは怖いお顔でライスのこと見下ろしてくる。 本当はお兄さまとの秘密にしておきたかったけど…仕方ないよね。 ライスは制服のポケットから鍵を取り出してブルボンさんに見せる。 「ライスがいないとお兄さまご飯もちゃんと食べないから…お世話してあげてるんだ」 やっぱりブルボンさんはお兄さまから何も聞かされてなかったみたい。 ビックリしたお顔をして…そっと右手をあげた。 「返してください。マスターは私のマスターです。私からマスターに返却しておきます」 「ダメだよ!ライスがいないとお兄さま…お洗濯もしないし…」 「ならば私が代わります。ライスの手を煩わせることもありません」 ブルボンさんはあげた右手をそっと鍵に伸ばす。 これはライスがもらったご褒美なのに…。 なんでブルボンさんはライスとお兄さまを引き離そうとするの…? この前のキスのときみたいに…体の奥の方から湧き上がってくる気持ち。 ゾクゾクして…ドロドロした気持ち。 ライスは取られまいとお部屋の鍵をぎゅっと胸元で抱きしめる。 「違うの…ブルボンさん…」 「何が違うというのですか」 「これはね…ライスが菊花賞で勝ったからご褒美にもらったんだ」 「菊花賞…」 「ブルボンさんは何着だったの…?菊花賞」 固まるブルボンさんの横をライスは走ってすり抜ける。 またブルボンさんのこと傷つけちゃったな…。 ライスほんとにダメな子だ…。 でもごめんね。ブルボンさん。 やっぱりこれは譲れないの。 ブルボンさんのマスターは、ライスのお兄さまだから。 3.俺は同僚トレーナーである彼女のことが好きだった。 まだ俺と同じくらいの年だが実力を買われていて何人もの担当をもつ彼女。 ライスシャワーがお姉さまと慕う彼女。 だからライスが練習中に転倒したとき、真っ先に駆け付けたのも下心がなかったといえば嘘になる。 結局のところライスを通じて彼女との仲を深めることには成功した。 …だが俺に好意を向けてきたのは彼女ではなくライスシャワーの方だった。 合鍵を渡して以来、彼女は毎朝トレーナー寮の俺の部屋を訪ねてくる。 まだ俺が目を覚ます前から洗濯をし、散らばった書類を並べ掃除をして朝食を作る。 正直言って嫌な気はしない。 こんな可愛らしい娘が毎朝甲斐甲斐しく世話をしてくれるのだ。男としては本望だろう。 だが最近はスキンシップも多くて…。 毎朝ハグを求められるし思えばキスされたこともあった。 正直このままの関係は俺にとってもライスにとっても彼女にとっても、そして俺の担当であるブルボンにとっても良くはないだろう。 ライスが焼いてくれたトーストをかじりながら物思いにふける。 「どーしたもんかなぁ…」 今日はブルボンの朝練はお休み。 のんびり支度していこうと思っていた時だった。 ピンポーン 朝から来客。ライスが忘れ物でも取りに来たのかと思ったが合鍵を持っているから違う。 俺は寝巻のまま玄関に行き鍵を開けた。 「マスター、おはようございます」 立っていたのは制服姿のブルボンだった。 「ど…どうしたブルボン。今日は朝練休みだったよな」 まずいと俺は直感で思った。何故ならさっきライスが部屋を出ていったばかりだったから。 ブルボンにはライスのことを話していない。理由はないが…なんとなく話せなかった。 「さきほどライスに会いました」 「そ…そうか。まぁとりあえずその…上がるか?」 嫌な予感は的中した。とりあえず他のトレーナー達の耳に入れたくない話になりそうなので部屋に招き入れる。 「マスターはライスと恋仲なのでしょうか」 玄関の扉が閉まると靴も脱がずにブルボンはそう切り出した。 「ライスのこと黙ってたのは謝る。ごめん。でも付き合ってるとかそういうことじゃないんだ」 「そうですか。よかったです」 ブルボンは靴を脱ぐと俺の手を取り部屋に入る。 テーブルに置かれた食べかけの朝食を一瞥すると…俺をベッドに放った。 「ブルボンッ?!どうした?」 「マスター。私を抱いてください」 ベッドに背中から倒れこんだ俺は、突然彼女が発した言葉を理解できない。 「ブルボン…それはどういう意味だ?」 「言葉通りの意味です」 抱く。まぁこの状況ならそういう意味なんだろう。 「それはその…心に決めた人とすることでな…女の子が気軽に言うことじゃないんだ」 「ライスはマスターに好意を抱いています。このままでは取り返しのつかないことになりかねません」 「それで抱く…か。今はブルボンのことで精一杯だから安心してくれ。俺はそういった相手をつくるつもりないよ」 「ですがライスがその気になればウマ娘の力にはかないません。そうなる前に先手を打ちます。キセイジジツと言うそうです」 「どこで覚えたんだそんなこと…」 「マスターは私を性的対象として見れないでしょうか」 ブルボンはベッドに倒れこんだままの俺の前で制服に手をかける。 はらり、はらりと服が落ちていき目の前には下着だけになった彼女がいた。 「お…落ち着けブルボン。菊花賞も終わったばかりで疲れてるんだろう。まずは冷静になろう…な?」 「菊花賞…ライスに敗れた菊花賞のことですか?」 火に油を注いでしまった。 ブルボンはベッドに乗り俺の上に覆いかぶさる。 以前から思ってはいたが…ブルボンの発育はなかなかのものだ。 膨らんだ胸や締まった腰が情欲を掻き立てる。 担当トレーナーである以上抑えてきた感情が下腹部へと集まって股間を反応させた。 それに気づいたブルボンは俺のズボンに手をかけて、一気に下着ごとおろす。 「大丈夫です。マスターはそのままじっとしていてください」 ブルボンは俺の上で大人びた黒の下着を横にずらす。 ゆっくりと腰を下ろしていくと俺のモノとわずかに触れた。 今ならまだ戻れる。ちゃんと話せばブルボンも考え直してくれる。 「ブルボン…やめよう。こういうのは将来ちゃんと好きな人を見つけて…」 「好きです」 「え?」 「マスター…好きです」 ブルボンは潤んだ瞳でそう言って、腰を落とした。 下腹部に伝わる熱い感触。 朝から自室で担当とまぐわうというシチュエーションに背徳感と興奮を味わいながら俺は彼女の望み通り抱いてやった。 朝の短い時間だけでは足りず、学園を休ませた。 そのあとは体力が尽き日が傾く頃まで…ブルボンの体を堪能してしまった。 すっかり日も落ちて寮に帰る途中、ブルボンさんに会っちゃった。 今日はお休みしてたみたいだし、ライス朝あんなこと言っちゃったから会うの気まずいな…。 「ライス、今朝は失礼しました」 何を言われるかと思ったけどちょっと予想外。 「ううん、ライスも言い過ぎた…でもお兄さまのお世話は譲れないよ?」 「了解しました。明日からもマスターのお世話をお願いします」 あれ?思ってた反応と違ってなんだか拍子抜け。 お話もそこそこにライスの横を通り過ぎていくブルボンさん。 すれ違う瞬間、ふわっとお兄さまの濃い匂いが香ってきた。 そっか…そうだったんだ。 ブルボンさん今日はお休みして泣いちゃってるかなと思ってたけど。 お兄さまに慰めてもらってたんだね。 ブルボンさんがその気ならライスだって負けないよ。 明日はいつもより早くお兄さまのお部屋にいかなきゃ。 4.下腹部に伝わる熱い感覚で目を覚ます。 昨日はブルボンと朝から致してしまい、俺も彼女もトレーニングどころではなかった。 今日からちゃんと彼女と向き合ってトレーニングに集中しよう。 ぼんやりしていた意識が次第にハッキリとしてくる。 それと相まって下腹部に伝わる感覚も次第に強くなって…。 あぁ…もう出そう。 …ん?出そう? ハッとして目を開くと制服姿のライスが馬乗りになっていた。 「あっ…お兄さま…おはよう?」 「ライス…何して…」 俺の下半身は彼女のスカートに隠れていて何が起きているかは見えない。 だがこの熱い感触が現実を突きつける。 「お兄さま苦しそう…いいよ?ライスに全部出して?」 「ダメだライス!今すぐ抜いて…」 意思とは裏腹に、強い快感を与えられた体は正直だった。 成すすべもなく、ライスの中で果てる。 「あっ…お兄さまの熱い…ライスで気持ちよくなってくれたんだね?」 顔を真っ赤にしたライスは口づけをして、そのまま俺の首元を強く吸った。 「ライス…どうして…」 「朝お部屋に来てみたらお兄さまのズボンが膨らんでて…とっても苦しそうだったから。ライスがなんとかしなくちゃーと思って」 少し照れくさそうに語るライス。スカートから覗く細くて綺麗な脚を白く濁った液体が伝う。 「ライス…もっと自分を大切にしてくれ。こういうことはこれっきりにしよう」 「うう…ごめんね?お兄さまはライスとじゃ嫌だった…?」 「いや…嫌とかじゃないけど…」 嫌とかじゃないけど君のトレーナーにバレるのがマズい。 俺は君のトレーナーに恋してるから。 なんて言えるはずもなく目をそらすとライスはそれを察したかのように顔を耳元に寄せて 「大丈夫だよ?お姉さまには黙ってるから?」 他に誰もいない部屋なのに小声でささやいた。 朝から疲労困憊だったがなんとか1日を乗り切り、空が赤く染まる頃にブルボンと2人でトレーナー室に入った。 トレーニング後のマッサージとミーティング。いつもの日常だ。 そつなくこなしていつもならここで終了…だが俺は話があると言って彼女と向き合った。 「昨日のことなんだが…」 ふだん表情の少ない彼女がパッと目を見開いてこちらを見る。 「ブルボンの気持ちは嬉しいけど今はトレーナーとして君を支えたいんだ」 だから昨日のことはお互いに忘れよう。そう告げると彼女は 「嫌です」 「…ブルボン?」 思えばこれまで彼女に何かを拒否されたことはなかった。 「マスターはたった1日で私に飽きてしまいましたか」 「飽きたとかではないけど…」 ブルボンはジャージの首元を引っ張って、胸の谷間を強調して見せる。 「もう私のことは…抱けませんか」 目を潤ませて彼女は俺を見上げた。 「ブルボン、俺は好きな女性がいるんだ。君のことを一番に愛してやれない」 「今は一番でなくて構いません。いつかマスターの一番になれる日が来るよう善処します」 俺はこれ以上大切な愛バを突き放すことができなかった。 「今夜マスターの部屋に伺います」 そう言い残してブルボンはトレーナー室を出ようとする。 「それとマスター」 ドアノブに触れたブルボンは、向こうを向いたまま俺に語りかけた。 「首元に虫刺されの痕があります。随分悪い虫と察します」 「首元…?」 自室に戻ってから鏡を見ると、今朝ライスにつけられたであろうキスマークがくっきり残っていた。 担当の娘たちのトレーニングを見届けて、寮のポストを開けると実家からの手紙があった。 「はぁぁぁ…」 思わずため息が出る。 内容は見なくてもわかる。どうせお見合いをセッティングしたから帰ってこいとかそんな話だ。 学園のトレーナーとして働きだしてからは仕事一辺倒で、彼氏なんてつくっている余裕はなかった。 仕事にのめりこんでいくほど担当の娘たちはそこそこ結果を残し、学園の信頼を得てしまうと徐々に担当する娘の数も増えていった。 ライスみたいに手のかからない良い娘もいるけど…いやライスもこの前練習中にケガしちゃったか。 その一報を聞いたときの私は随分と焦っていたと思う。 私が目を離したばっかりに、ライスは出来のいい娘だから一人にしておいても大丈夫なんて油断したばっかりに…と。 結果的に大したケガではなかったが…今後学園から担当を増やすよう打診されてもちゃんと断ろうと心に決めた。 だけどライスのケガは悪いことばかりではなかった。 同僚トレーナーである男の子がライスの面倒を見てくれるようになったのだ。 たぶん私と同じくらいの年で、背も高くて…顔立ちも整ってて…優しそうな彼。 ちゃんとお話したのはまだ数回程度だけど、ライスもお兄さまと慕ってるみたいだしきっと良い人なんだろう。 結婚…か。 まだそんな気にはなれないけど、もう私も良い年だし彼氏くらいいても良いよね。 まずはライスの面倒みてくれてるお礼に、彼をご飯にでも誘ってみよう。 私が彼とお付き合いすることになったらライスも祝福してくれるかな。 ライスシャワーだけに。ふふっ。 5.「付き合おっか、私たち」 同僚トレーナーである彼女からそう告げられたのは、初めての食事から数か月が経った日の事だった。 ライスの面倒を見てくれてるお礼がしたいと彼女に誘われたときは飛び上がって喜んだものだが、どちらからともなく予定を合わせて2人でオフを過ごすようになってからは悩みの方が大きくなった。 彼女と付き合うことになったら、ブルボンとライスはどうなるんだろうか。 俺はどうしたらいいんだろうか。 その悩みは解決を迎えぬまま、今日という日が来てしまった。 彼女への返事は決まり切っている。 「うん。俺もずっと君のことが好きだった」 「もー…なにそれ。じゃあこれからもよろしくね」 彼女は人目も憚らずに俺の頬にキスをすると、一人学園の方へ歩き出す。 学園まで2人で帰ると目立つので、最寄り駅からはそれぞれ帰路につくのが俺たちのルールになっていた。 まだ頬に熱を感じながら彼女の背中を見送ると、駅前で適当に時間を潰して俺も学園に戻る。 道すがら、手をつないで歩くトウカイテイオーとシンボリルドルフのトレーナーとすれ違った。 ルドルフのトレーナーは俺とブルボンのように専任だと思っていたのだが…テイオーも担当するようになったのだろうか。 ついさっきできた俺の彼女も、ライスはじめ何人か担当しているので珍しい話ではないだろう。 最近の彼女は若手トレーナーの有望株として学園外からも注目されている。 ついこの間も雑誌の取材を受けたとかなんとかで…同じトレーナーとしては負けていられないが、彼氏としては誇らしい限りだ。 自室に戻りシャワーを浴びると、日も落ちていい時間になっていたので冷蔵庫から作り置きの料理を温めて夕食にする。 最近ブルボンが料理に凝っているとかで、暇を見つけては俺の部屋で手料理を作り置きしていく。 一人だとどうしてもコンビニ弁当ばかりになっていたが、最近は朝ライスが朝食を作ってくれるし夕食もこうしてブルボンが作ってくれるしで日に日に健康体になっていくのを感じる。 翌朝、よく寝たはずなのに何故か重い体を起こすといつものようにライスが台所に立っていた。 「おはようライス」 「あ、おはようお兄さま!」 今日はねー和食にしてみたんだーとしっぽを振りながら食卓に美味しそうな料理を並べるライス。 いつもならここで朝練に向かうのだが、今日はダイニングテーブルの向かいに腰かけた。 「ライス?」 「ねぇお兄さま。何かライスに伝えることはない?」 ニコニコでこちらに語りかけるライス。 おそらく昨日のことだろう。きっと彼女から聞いたに違いない。 「ああ。実は君のトレーナー…お姉さまとお付き合いすることになったんだ」 「うん!昨日お姉さまから聞いたよ!おめでとうお兄さま!ライスもうれしい!」 俺の心配は杞憂だったようで、ライスは俺と彼女の関係を祝福してくれた。 「でも…ね?お兄さま…?」 「ん?」 「お姉さまは男の人とお付き合いするのは久しぶりだから…その…えっちなこととかは…まだやめた方がいいと思うんだ」 「え…?ああ。そうだなありがとうライス。さすがに俺もいきなりその…そういうことはしないけどまぁ気を付けるよ」 突然のことに驚いたがまぁ…ライスはお姉さまのことが大切なんだろう。 「だから…ね?お兄さまがもしえっちなことしたくなったらライスに言って…?ライス頑張るから!」 彼女と付き合ったことでライスとの関係も途切れるものと思ったが…そうではないらしい。 「今朝も…ね?お兄さまのためにライス頑張ったんだー」 ライスはおもむろにカバンを開けると、中から口を縛った使用済みの避妊具が出てきた。 「ライス…それは…」 たっぷりと液体の入ったそれを眺めてライスは頬を染める。 「お兄さまとお姉さまのためにこれからもライス頑張るよ!だからこれからもよろしく…ね?お兄さま?」 1日のトレーニングを終えてブルボンとのミーティング。 「マスター、昨晩のおかずは如何でしたか」 「あー!とても美味しかったよ!ありがとうブルボン」 「そうですか…よかったです。頑張って勉強した甲斐がありました」 「ブルボンの作る料理はいつも美味しいよ。…でそのことなんだけどさ」 朝はライスに言い返す隙も与えられなかったので早めに切り出す。 「実は俺…彼女ができたんだ。だからブルボンにご飯を作ってもらうのも今後はどうかなと思って…」 「彼女…」 「もしブルボンが作りたいんだったらお昼のお弁当とかさ!作ってくれると…嬉しいというか…ブルボン…?」 彼女はいつかのように手を掴むとそのままソファに俺を放り投げた。 「どうしたんだブルボン…んっ!」 ソファの上で俺にウマ乗りになった彼女は唇を重ね舌を這わせる。 「ダメだブルボン!ここは俺の部屋じゃないから!だれか来たらどうする…」 「私ではダメなのですか」 「え?」 「私はマスターのことを誰よりも知っています。誰よりも一緒の時間を過ごしています。誰よりも…愛しています」 ブルボンの瞳から涙が零れ、俺の頬を濡らす。 「私は…マスターの一番になれないのですか…」 「ブルボン…」 レースでもなんでもないところで担当にこんな顔をさせるなんて俺はトレーナー失格だ。 もうブルボンの隣にいる資格なんてないのかもしれない。 そんな俺の考えを知ってか知らずか、ブルボンは涙を拭って真っすぐ俺を見た。 「取り乱してしまい申し訳ありません」 「いや構わないけど…ブルボン俺は…」 「マスターの好きにすれば良いと思います」 「え?」 「ずぼらなマスターのことですから女性とお付き合いなど長く続くはずがありません」 「いやそれはまだわからないだろ…」 「いえ絶対に続きません。マスターの隣は誰がふさわしいのか、今にわかります。」 「強気だな」 「だから今夜はせめて…」 ブルボンは俺の胸板に顔をうずめる。 「マスターの体くらい、私の好きにさせてください」 その夜、トレーナー室の明かりは遅くまで消えることはなかった。 6.「ブルボン、今日から一時的に担当を増やすことになった。知っているとは思うがライスシャワーだ。仲良く…な?」 午後のトレーニング前。俺はトレーナー室で待っていたブルボンにライスを預かることを伝えた。 「マスター。これは何の冗談ですか」 「いや冗談じゃないんだ…あくまで一時的だから!…な?仲良く…」 「ブルボンさん?よろしくね?」 「嫌です。マスターは私のマスターです」 「ブルボンさん…お兄さまを困らせないで?」 ライスはブルボンの手を取って微笑みかける。 「すこしの間お兄さま半分こ…ね?」 今でもあの日のことを思い出しては冷や汗をかく。 結局その後はうまくやれてる…と思う。 何故こうなってしまったかといえば彼女の問題だ。 俺の彼女であり、同僚トレーナーであり、ライスの担当トレーナーである彼女。 これまで若手トレーナーの有望株として担当の娘たちを立派に育ててきた彼女だが、不幸にも最近トラブル続きなのだ。 ある娘はケガで出走予定のレースをキャンセルし、ある娘は調子が上がらず連敗続き…。 よくあることと言えばそれまでだがこれまで上り調子だった分、彼女が疲労とストレスで弱っていくのは誰が見ても明らかだった。 学園からは少し休むよう言われたがそれを拒んだ。ならばせめて担当する娘の数を減らすようにとのことで、以前から目をかけていた俺の元にライスがきたというわけだ。 今日は久々のオフ。 根を詰めすぎるのもよくないということで彼女をデートに連れ出したのだが…やはり相当疲れているようだった。 「このままライスは君が担当してくれないかな。その方がライスのためにもなるから」 なんて言い出す始末。あれだけ連れ添ってきた担当だ。思い入れも相当あるはずなのに手放すなんて普通じゃ考えられないだろう。 さすがにそれはいま決めかねるけど俺にできることならなんでも言ってくれ!と伝えたら、「じゃあこれ書いて」と婚姻届が出てきた。 なんでも早く結婚しろとうるさい両親がストレスだから、これを見せればしばらく黙ってくれるだろうとのことで。 実際に出すわけじゃないからと言われれば断る理由もない。バッチリ捺印までしてやった。このまま関係がうまく進めばいずれ必要にはなると思うが…まだ早い話だろう。 そんなこんなで俺もずいぶん精神を削ったデートの帰り道。 彼女と駅前で別れ、一人夕暮れの商店街を抜けて寮へ戻る。 自室の鍵を開け中に入ると玄関にブルボンの靴があった。 「マスター。明日のオフは私の買い物に付き合っていただけませんか」 「明日か…すまない明日はその…デートなんだ」 「左様ですか…。わかりました。それでは明日は夕食を作ってお待ちしています」 昨日の会話を思い出す。 彼女ができたと伝え、ライスを預かることになったと伝え、ブルボンはだんだんと変わっていった。 人目を憚らずに体をくっつけてくるようになったし2人きりになれば口づけをせがまれる。 ライスのいないタイミングを見計らってトレーナー室で体を重ねることも増えた。 こんな関係はお互いのためによくないとわかっては…いる。 トレーナーとして一番大切なのは君だと言葉ではいつも伝えているのだが、言葉だけでなく体でも伝えないとブルボンは不安定になってしまう。 全て俺の至らなさがブルボンをそうさせてしまったのだ。 靴を脱いで狭い廊下を抜け部屋に入る。 ブルボンの姿はキッチン…ではなくベッドにあった。 「ぁ…マスター…おかえりなさぃ…」 ブルボンは少し苦しそうな息遣いで俺に話しかける。 右手は下腹部へ伸び、左手には洗濯機に放り込んだはずの俺のワイシャツがあった。 「ブルボン…何してたんだ?」 ベッドに近づき彼女の体にかけられていたシーツを剥がすと、生まれたままの姿の豊満な体が露わになる。 あまりに美しく淫らな光景に、俺は思わず唾をのんだ。 「マスター…もうしわけありません…マスターのにおいでがまんできなくて…」 「ベッドをこんなに濡らして…トレーナーとして躾が必要だな」 「はい…マスターおねがいします…」 大事そうに握られていたワイシャツを奪ってブルボンの手首を縛ると、彼女の綺麗な脚を強引に開かせた。 「ぁ…マスター…」 蕩けた顔のブルボンがキスをせがむ。 昔の俺がこの光景を見たらどう思うだろうか。 まだ現役で第一線を走る担当にこんな顔をさせて。 恋仲かと言えばそうではなく。ただ体を重ねるだけの関係。 もしライスが転んでいなかったら。もし菊花賞でブルボンが勝っていたら。 余計なことに頭を巡らせながら避妊具の口を縛ってゴミ箱に放り込む。 ブルボンにシャワーを浴びさせ、2人で食卓を囲む頃にはすっかり日も落ちていた。 「ライスのトレーナーはいつ復帰されるのですか」 あくまでライスのトレーナーであり、マスターの彼女と言わないところがブルボンの心境を現しているといったところか。 「別にお休みしてるわけじゃないんだけどな。まぁ今は担当を減らして頑張ってるから立ち直ってくれると思うよ」 「そうですか…。そうなったらライスは彼女のもとに戻るのですよね?」 「あ…ああ。そうなんじゃないか…な?」 俺は昼間彼女に言われたことを思い出してつい目を逸らしてしまう。 「マスター?何か問題があるのですか」 「いや…?特にないよ」 「マスター」 ブルボンは箸を置くと綺麗な手を俺の両頬に添えた。 「マスター。私はマスターを信じています。トレーニングに関わることでマスターは私に嘘をつくような人ではありません」 ブルボンはまっすぐ俺を見た。こう言われてしまっては逃げようがない。 「そうだな…すまないブルボン。実は今日彼女からライスを正式に担当してくれないか聞かれた」 「それでマスターは…なんと答えたのですか」 「ライスの意見も聞かないと何とも言えないって」 「ではライスの返事次第でマスターは…ライスのトレーナーになるのですか」 「いやまだそうと決まったわけじゃないけど…」 「そうですか…」 そのあとも他愛のない会話をしてブルボンは寮へ戻ったがその様子はどこか普段とは違って…なんだか何かを決心したようだった。 「あ!お兄さま?おはよう!」 翌朝目を覚ますと俺の上にはライスがいた。 「あぁ…ライスおはよう」 今日も彼女のスカートに阻まれて大事な部分は見えないが、俺はライスとまぐわっていた。 「お兄さま…?今日もライスにいっぱい出して?」 「あぁ…気持ちいよライス…もう出そう…」 この状況に慣れてしまった自分が怖い。だがそんなことは関係なしに快楽の波は押し寄せてくる。 「ライスっ!もう!」 「お兄さまっ?」 熱を感じながら果てる。ライスは俺の上で小さな体を震わせていた。 「ライス…今日もよかったよ」 「嬉しい…お兄さま好き?」 いくらライスを叱ったところで朝のこれは変わらない。だったらもう受け入れてしまえと最近は思うようになった。 まだ繋がったまま軽い口づけをする…そのときふと人の気配を感じた。 廊下の方に目をやると…俺の愛しの彼女がそこにいた。 「ど…どうして俺の部屋に…」 「話があるって君が言ってるから部屋に行くようブルボンさんに鍵渡されて…そんなことより」 目が合う。 「2人とも…何やってるの…?」 7.「じゃあ今日のミーティングは終わり!明日はオフだから2人ともちゃんと休めよ」 お兄さまは会議があるからと言ってそそくさとトレーナー室を出ていきました。 お兄さまがライスの代理トレーナーになって数週間。ブルボンさんは相変わらずライスとあんまりお話したくないみたいです。 「ブルボンさん…?今日もお疲れさま」 「ええ。では失礼します」 お兄さまの後を追うようにお部屋を出ようとするブルボンさん。 ライス、なんだかいじわるしたくなっちゃいました。 「あっ」 ブルボンさんの足元にわざとカバンを落としちゃいます。 チャックをしてないカバンから荷物が散乱しました。 「大丈夫ですか」 ブルボンさんもさすがに無視はできなかったみたい。散らばった荷物を拾ってくれました。 ふでばこ…ノート…そして…。 「これは…」 ブルボンさんは白い液体の入ったそれを手に取ります。 「ごめんねっ!?ブルボンさんそれは…」 ブルボンさんもウマ娘なんだから匂いでわかるよね。それがお兄さまのだってこと。 「ライス、これは一体なんですか」 「それは…ね?お兄さまのが朝おっきくなってて辛そうなときに…ライスがなんとかしてあげるんだ」 「これも…朝のお世話の内ですか」 「うん…そうだよ??」 しばらく固まるブルボンさん。 ちょっとやりすぎちゃったかな。でもブルボンさんも同じコト…してるよね? 「鍵を返してください」 「お兄さまのお部屋の鍵?でもこれはライスが…」 「菊花賞のことなんてもう知りません」 ブルボンさんは声を荒げてライスの言葉を遮りました。 「朝からこんないかがわしいことをするライスにマスターは任せられません」 「いかがわしいこと…それはブルボンさんも同じ…だよね?」 「どういう意味ですか」 「ライス…知ってるんだよ?ブルボンさんがこのお部屋でお兄さまに甘えてるの」 「…。」 「あのソファで、ますたー?今は私だけを見てくださいますたー?って」 「…。」 「いつもクールなブルボンさんもあんな声で啼くんだね?」 ブルボンさんはお顔を真っ赤にしてまた固まっちゃいました。 「じゃあライスもう行くね?明日も朝からお兄さまのお世話?しなきゃだから」 ライスは落ちてた残りのものを拾ってお部屋を出ました。 お休み明けの朝。 ライスはいつも通りお兄さまのお部屋に入ります。 鍵をかけて、靴を脱いで、ベッドへ。 ライス、今日は朝起きたときからお兄さまのがとっても欲しくて…お兄さまの上に跨る頃にはすごい濡れちゃってました。 下着を脱いでお兄さまのパジャマをそっとおろします。 そしたらお兄さまのがビクンと跳ねて…ライスもうがまんできません? 今日もよろしくお願いします?って意味をこめてまずは先っぽに口づけ。 腰の位置を合わせてゆっくり下ろしていくとライスは幸せに満ちていきました…。 「ライス…今日もよかったよ」 「嬉しい…お兄さま好き?」 最初は戸惑ってたお兄さまだけど、最近はライスのこと褒めてくれるようになりました。 おなかの下の方に熱いお兄さまのものを感じながら口づけをします。 そういえばライス、今朝はお兄さまのが早く欲しくて焦ってたからあれを付け忘れちゃいました。ライス、ダメな子だな…。 そのときお兄さまがふと廊下の方を見ました。ライスも目をやると…そこにはお姉さまがいました。 「ど…どうして俺の部屋に…」 「話があるって君が言ってるから部屋に行くようブルボンさんに鍵渡されて…そんなことより2人とも…何やってるの?」 やっぱりブルボンさんにいじわるしすぎちゃったかな…。 お姉さまに見られちゃうなんて…。 お兄さまはお顔を真っ青にして言葉に困ってます。 でもお兄さまのはライスの中で硬くて大きいままで…お姉さまに見られてるのにライス続きがしたくなっちゃいました。 「お兄さまのお世話をしてるんだよ?お姉さま」 「お世話って…ライス。それ…その…入って…るよね…」 ライスはスカートを履いたままだったからお兄さまとの繋がりは隠れたままでした。 「うん??お兄さまのお世話…だよ?」 ライスはもう我慢できなくて腰を動かします。 「ライス…やめっ…」 お兄さまは苦しそうに唸りました。 だけどライスはやめてあげません。今のライスは悪い子です。 静かなお兄さまのお部屋には水音とベッドのきしむ音だけが響きます。 ふとお姉さまの方を見ると、立ち尽くしたままどこかで見たことあるようなお顔をしてました。 それは…そうお兄さまに初めて口づけしたときのブルボンさんのお顔にそっくり。 お姉さま…ダメだよそんなお顔されたらライスもっと悪い子になっちゃう…。 ライスはお兄さまと一緒に果てました。だけどまだ足りなくて…そのまま続き? ベッドがびしょびしょになった頃、お姉さまはもういませんでした。 その日のトレーニング後、ライスはお姉さまに呼び出されました。 久しぶりに来たお姉さまのトレーナー室はリハビリとかメンタルケアの本が散らばっててなんだかピリピリした雰囲気でした。 「ライス…いつから彼の…お世話してたの」 「菊花賞の後からだよ。お姉さま」 「そっか…ライスは私が彼と付き合い始めたとき応援してくれたよね?」 「うん!お姉さまとお兄さまには幸せになってほしいの」 「じゃあなんでこんなことするの」 「お姉さまはお付き合いするの久しぶりでしょ?だからいきなりえっちなこととかするのは怖いかなって…」 「ナメないで」 「お姉さま?」 「私だってそれくらいするし…彼は私のものだから」 お姉さまは涙を拭ってライスを見ました。 「ライスでも許せない。もう私の彼に近づかないで」