去年までであればこの時期、大会を前に興奮冷めやらぬ生徒や
熱血ウマ娘が、レース場を好き放題に使えるまたとない機会と
自主練に打ち込んでいる姿も散見されるのが通例であった
それがぱたりと止んだ
理由は単純、トレセン学園に代々伝わる七不思議のとある目撃談が
ここ最近頻繁に取りざたされるようになり、みな怖がって近づかないのだ
それは首のないウマ娘。夜な夜なレース場に現れるという亡霊
学園の制服を来てスカートから尾を伸ばしているが、彼女に首から上は無い
それ以外の情報は不正確で、素足に上履きであるとも、栗毛だった
いや青鹿毛だったと様々な噂が飛び交っていた

おおかた入学したての中等部一年生で尾ひれがついて広まったのだろう
生徒会やトレーナー陣も沈静化のため夜練自粛を呼びかけた結果
一切の照明が落とされた漆黒の校庭は、彼女のような
意図せずとも夜ふかし気味となったウマ娘の聖域となっていた
タマモクロスことタマは、パドックに入ると早速準備運動を開始した
「ガッコの明かりもぱったりと消えとるし、寂しいもんやなぁー」
足腰を丹念にほぐしながら独り言をぶつぶつと続ける
決して怖いからではない。関西人の例に漏れず黙っていられない性分と
幽霊より地震カミナリ火事オヤジを恐れる習性がそうさせるのだ
ふと、真隣のパドックで芝生を踏むような音が聞こえた気がした
股関節を伸ばしつつ横を見やると、他の生徒の下半身が見えた

が、声をかけてくる素振りはない。まさか、いや―――そのまさか…やないか？
昼、オグリキャップに言われた何気ない一言をタマは思い出した
「タマは背が低いから、パドック越しだと首なし幽霊に見えるんだが？」
要するに、見間違えられたタマが昨今の怪談騒ぎの元凶だと
親友に言い掛かりをつけられたのを思い出したのだ。カッチィ〜〜〜ン！！！！�T！
彼女は激怒し、その誤解の原因を除かなければならぬと決意した
「見ぃ下ぁあ〜〜げてぇ〜〜ごらんん〜〜〜」
黙ったままのお隣さんをパドック越しに睨みながら、汚い声で語りかける
「う゛ち゛は゛ゆ゛う゛れ゛い゛や゛な゛い゛で゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛〜〜〜」
ようやく、ゲート真正面を剥いたまま硬直していた足の片方がこちらを向く
ここで柔軟を上半身に移し、両手を天に向かって伸ばしたりジャンプ
パドックの仕切りを超えた高さに自身の一部を見せて生きてますとアピールをする

「いやー、こないな丑三つ時に丁度ええ練習相手ができてよかったわ。
　時間も時間やし、マイル１本勝負でええか？」
そう問うてから数秒、ようやくお隣さんのつま先が再び正面に向き直った。了解の合図だ
「―――ほな、ボタン押すで？」
そう言うなり、個人練習用に設置されたパドック内のボタンを勢いよく押す
これで数秒以内に全ゲートが一斉に開き、レースが開始される
１……２……３…バァンっ！！
弱々しい月明かりの下でも出走の瞬間をタマは見逃さなかった
足音からして約２バ身ほどの差を付け、序盤からリードを保った
タマモクロスはそのままカーブに突っ込み、インベタで出口まで抜けていった
しかし相手の足音は真後ろまで迫ってきた。いつ相手の呼吸音が届いてもおかしくない

これを同じ追い込みバの脚質と見抜いたタマは、先んじてスパートを掛け始める
「負っけへんでぇぇぇ〜〜〜〜！！！」
自分よりも歩数の少なく、かつ力強い脚音は斜め後ろから徐々に近づいている
ゴールまであと２ハロン、１ハロン。遂に相手の指先が視界の端に入ってきた！
「んんんぁああああ〜〜〜！！！！１！」
腹の底から力をひり出し、より前のめりになり、迅速果断な逃げ足を発揮した
ほんの気持ちだけ、差を開く事に成功したところでタマが先にゴールを抜けた
「よっ…！しゃっ、あーっ！！」
たった2人ぽっち、月以外には誰も観客すらいない寂しいレースにも関わらず
全力を出し切り、見事勝利したタマは思わずウイニングランをしていた

「よっしゃ！今宵はっ、勝たせてっもろたでっ！なあっ！――――――あ？」
振り返った時、レース場にあったのは漆黒の闇だけであった
つい数瞬前まで、互角の戦いを見せていた筈の、名前も姿も知らないお隣さんは
存在した気配すらその場に残ってはいなかったのだ

好敵手の姿を探してテクテクとコースを逆に歩き、パドックまで戻ると
ゲートの一番端に誰かが倒れていた。近寄ってみれば白衣のウマ娘
アグネスタキオンであった

面白い

数分後に駆けつけたマンハッタンカフェによれば
タキオンは七不思議を確かめようと実験していたとのこと
寮舎まで運んで明け方に目覚めたタキオンは、うわ言のように何度も訴えた
「出たんだ、隣に。学生服を着た、首のない、ウマ娘が」
それは、ちょうどジャージ姿のタマモクロスが競争を挑んだ
お隣さんのいたパドック位置であり、服装も一致していた
レース中に肉薄されたにも関わらず、呼吸音がしなかったのは……
もし、勝負中に振り返っていたら……
もし、先行されたりしていたら……
幸いなことに。その晩以降、首なしウマ娘の目撃談はぱたりと止んだ

ヒで読んだウマ娘怪談で寝付けなくなったのでその二次創作です
「」レーナーに良い夜があらんことを

深夜にちょうどいい怖さだありがとう
マヤノトップガンのコミュに出てきたような怪談が
学園にもあるのかね

ゴーストハンタータマ…

呪いのお裾分けやめーや！

フクトレ呼んでこよう見えるだけだけど

タマを追えるレベルの脚を持ちながら発揮する前に用途変更された哀しきウマソウルはそれなりにいそう

面白かった
首がないって何があったんだろうな…

いいよね...
面白かった

何らかの事情で産まれて来れなかったウマ娘がウマソウルに導かれて現れたみたいな

>フクトレ呼んでこよう見えるだけだけど
そういえば史実だとフクのお姉ちゃん(兄)の死因ってたしか練習中の首の怪我だったよね…

ホラー物大好きだからありがたい…

倒れてるのをアグネスデジタルと空目してしまいコイツウマ娘同士の絡みならなんでもいのかってなってしまった

トレーナーには見えてるのにフクキタルには見えないアネキタルは私性合

幽霊にも負けないなんてタマはさすがだな

フクキタルシナリオ然り割と怪異とか理解し難い存在が出てくる世界観だから怖い

テイオーの幽霊とかいるしな

カフェ似の人もトレセン内ふらついてるよね

カフェ似の人はスペちゃん達のお父ちゃんかもしれないんだよな…

こえぇな〜

>「見ぃ下ぁあ〜〜げてぇ〜〜ごらんん〜〜〜」
声はすれども姿は見えず…

これか
https://www.pixiv.net/#/artworks/89752485

しかしタマの方が怪談に成りそう