目が覚めて、ここが保健室であることは理解した。
けれど傍らには知らない黒髪の少女がいた。
その後やってきた袖を余した子、小さいのに態度は大きい子、緑のCAみたいな人、いずれも自分のことを一方的に知っていた。
そこでようやく自分の名前もわからないことを理解した。

どうも自分は記憶喪失らしく袖を余した子が演技の入った宣告をすると、傍らの子は酷く狼狽したようだった。
けれどどうやら性根は気丈なようで、お兄さまのために頑張るからね、と弱弱しく意気込んでいた。
ひとまず現状と、黒髪の子はライスシャワー、袖の子はアグネスタキオンなど各人の名前、
自分がウマ娘のトレーナーであること、学園併設の寮で生活していることを伝えられた。
いずれも他人事のようで、脳内はどこか冷めていた。

教えてもらった部屋でなんとか一泊すると、どうやら状況が変わっていた。
アグネスタキオンは明らかに動揺しており、ライスシャワーの顔には隠せない絶望が見える。
事情を聞くとどうやらこれは実験の事故で、本来一日で元に戻るはずが何故か丸一日経っても進展が無いらしい。
諸々の検査を受け、何も分からないことが分かった。やっぱりどこか他人事だった。

目覚めてから一ヵ月で少しずつ色々なことを理解した。

"自分"のこと、我ながらずいぶんと優秀なトレーナーだったようだ。
ライスさん──当たり障りないように敬称を用いることにした──に見せてもらった記録によると、菊花賞、天皇賞春など多くの重賞で勝ちを収めている。
同期の桐生院さんからの慕われぶり、理事長の秋川さんとその秘書たづなさんからの信頼にもそれが表れていた。

彼女、ライスさんのこと。
始めは気丈な子かと思ったが中身はずいぶんと脆そうだ。時折声やしぐさに震えが混じる。
お兄さま、とは血縁を示すものではなく親愛の証であるとのこと。”自分”は余り人の目を気にするタイプではなかったのだろう。
ウマ娘、とのことで走りも見せてもらった。
ステイヤーの評に違わぬ、粘り強いスタイルだと感じた。ただ心因からフォームが乱れているのでそこの矯正は必要だろう。

他にも様々なことを理解した。トレセン学園、URA、うまぴょい伝説……は今もよくわからないが。
ただどれも、自分のことでは無いように感じた。

「お兄さま！今日はね…」
今日も彼女は献身的に振る舞う。大好きな"お兄さま"の為に。
並んで座って彼女の持ってきたファイルを閲覧する。座高の差からちいさな頭が視界の端にうつる。
この体でどれだけの物を背負っているのだろう。"お兄さま"はどれだけの力になっていたのだろう。
なら、自分は……

「──お、兄、さま……」
つぶやく声に我を取り戻すと、自分の手がライスさんの頭に伸びていた。
無意識のうちに頭を撫でていたようだ。当惑の目がこちらを見上げる。
まずいことをしたかもしれない。ひとまず謝罪──
「あ、うっ……」
一瞬で潤み切った目、こらえるように結ばれた口元、そして、
「ううっ……うっ…っ…はぁっ……う…」
泣いていた。今まで、彼女が表立って泣いたところは見たことが無かった。
ずっと、ずっとこらえていたのだ。
挫折を共に悔やんだ人が、栄光を共に喜び合った人が、
弱気な彼女が変わるまで寄り添い続けた人が、居なくなった寂しさはとてもまぎれるものでは無い。
「……うっ、うう……お兄さま……」
彼女には、"お兄さま"が必要なのだ。

そしてそれは自分ではない。

昼からライスがひどい目に会いすぎてる…

がんばるぞー！おー！が可愛いから仕方ないのだ

ライスもトレーナーも曇ってる
タキオンが可哀想なので何かフォローを…

記憶喪失で新たに発生した自我がつま弾きにされるのお辛い…

>タキオンが可哀想なので何かフォローを…
発端となったスレではちゃんと一日で記憶が戻ったモルモットから結婚指輪送られて
一日中眺めてうへへってやってたよ

目覚めてから今まで、自分について問うたことは一度や二度ではない。

お前は何者だ。
なぜ何も覚えていない。

周りの人は皆やさしかった。当然だ。優秀なトレーナーの一大事だから。

元々の記憶は戻るのか？
仮に戻ったとして

疎外感は日に日に強くなった。やさしい世界で身勝手に孤独だった。

それは今の自分なのか？

心配されているのはライスシャワーのトレーナーで、何もわからないまま放り込まれた自分ではない。
沢山の人が彼の帰還を望んでいて、自分が自分でなくなることを望んでいる。
彼女らはそんなこと考えていないだろう。考えているのは自分だけだ。
自分ひとりで孤独の川に入水を試みている。どうしようもなく大馬鹿だ。
通り抜ける好意に最大限の配慮を込めて返す日々ばかりだった。来るかもわからない消滅に怯えながら眠りにつく夜ばかりだった。

そんなときに彼女の涙を見た。

日もすっかり落ちたころ、寝床とは逆方向に歩を進めた。
三女神の像、想いを繋ぎ、次代へ託すと信じられた学園のパワースポット。
人間の想いも受け取ってくれるかはわからないが、できることはしなくてはいけない。

>発端となったスレではちゃんと一日で記憶が戻ったモルモットから結婚指輪送られて
このルートだと戻ってないじゃん…指輪もらえないじゃん…

寂しいのは彼女の方だ。自分ではない。
求められているのは彼の方だ。自分ではない。
だから自分は消えるべきだ。
彼が戻って来られるように。彼女の哀しみを連れて。
お願いします女神様。どうか彼女に、ライスシャワーに、
大切な人を返してあげてください。

目が覚めると、ここが保健室であることを理解した。
そして傍らにはいつもの黒髪の少女がいた。
その後やってきた袖を余した子、小さいのに態度は大きい子、緑のCAみたいな人、いずれも俺のことを重病人でも見ているかのような目で見ていた。
自分の名などを尋ねられたので返答してやると、全員が歓喜に沸き上がった。

日付をみると1ヵ月ほどが経過していた。ライスから自分が記憶喪失になっていたことを告げられた。
その間はトレーニングも休んで治療に専念していたらしい。覚えは全くないが、焦燥から解放された安堵に満ちたタキオンのいでたちからなんとなく事情は察された。
彼女の涙をぬぐって、言うべきことを一言。

「ただいま」

昼の続きです fu37729.txt
途中間が空いたのはラーメンの鍋洗ってたからです

救済されたようなので許すが…

ラーメンの鍋より先にやることあるだろ！！

ラーメンの蓋と傷心の「」どっちが大事なんだよ！

我こういう芽生えた自我が自己犠牲する流れ辛い！

これからはカップにしろ

ちょっとおつらぁい…

>ラーメンの蓋と傷心の「」どっちが大事なんだよ！
ラーメンだな…

タキオンとラーメンの鍋はどう落とし前つけてくれるわけ

ライスと一緒に三女神の像を通りがかったとき、突如トレーナーの脳内に溢れ出した存在しない記憶。
記憶を失って見知らぬ人々に囲まれる俺。ライスに日夜付き添われる俺。
そして自己嫌悪と陶酔の余り恥ずかしい脳内発言をする俺……
「うわあああああああああああっ！」 ｻﾞﾊﾟｰﾝ
「お、お兄さま！？」
噴水に飛び込んで風邪を引いた。看病するライスは心なしか楽しそうだった。

んもー

焦らすなあ全く！

>他にも様々なことを理解した。トレセン学園、URA、うまぴょい伝説……は今もよくわからないが。
うまぴょい伝説について分かるんだったら教えてくれ…

上手いこと引継げてよかったね
下手したら戦人ルートだった

>我こういう芽生えた自我が自己犠牲する流れ辛い！
我こういうの好き！でも後味すっきりハッピーエンドの方がもっと好き！

私の性癖には合っていますよ

よかった…
一人だけ孤独に消えていった記憶喪失のお兄さまは居なかったんだ…

記憶を返してあげてください。のくだりがライスのトレーナーらしさがちゃんとあるのがなんかいいね

記憶喪失中の記憶も取り戻したならライスにたくさん感謝するイチャイチャも…あるね？

>…あるね？
かいて

続いていた…

融合したのか…？

三女神「いいってことよー」

想いを受け継ぐ場所だからな