「はぁ……」
零れる、重い溜息。
それが聞こえているのに、何も変わる事無くお酒をコップに注ぐ彼。
なんでしょうね、この人。ほんとなんなんでしょうね。
いつも、こう。
私が好意を見せると、酷い返しをしてくるんですから。
お掃除をして綺麗にした部屋で、まだ私が居るのに酒盛りを始めたのは許します。
……確かに、お酒で判断が鈍って、もしかしたら本心が聞きだせるのではないか。なんて疚しい気持ちもありましたけれど。
でも、これは酷いじゃありませんか。
それに彼だって、気づいている筈なんです。
私が本気だという事。そして……。
「……その程度で陰るような物ではないなんて、わかってる癖に」
「ﾌﾞｯ!!」

「なんだよ俺の屁に連動して襲いかかってきやがって！！俺のケツとなんかリンクしてんのかお前はいでででで！！やめろ噛み痕残そうとするな！！」

『なぁ、グラスワンダー』
『予約していいか？』
『スカウト全部断ってんだろ？んじゃあ、今もまだグラスワンダーの担当になりたがってるのは俺だけだよな』
『次の選抜レースで勝つまで、待ってっからさ』
あの頃は今より、もう少しまともな風貌でした。
今ほど草臥れてませんでしたし、髪型も整っていたような。
……無精髭は、変わらずでしたけれど。
彼の目。真っ直ぐ私を見つめる彼の目に、私は射貫かれたのかもしれません。
あの目が、あの言葉が、今はもっと好きになる。
だって。こうやって逃げ回る彼が一心に告げてくれたんですよ？
私が良い。待ってでも、私と共に歩みたい。
そんなのまるで……プロポーズなんですもの。
初めて聞いた時は、これも縁でしょうか……なんてくらいにしか、考えていなかったのに。
……なのに。
思い返すだけで、こんなに胸を高鳴らせるなんて。

「トレーナーさん」
「んー？」
コップを傾けながら、私の方なんて見もしない。
良いですよ？それも信頼だって、勝手に受け取ってしまいますから。
「この三年間、色々な事がありましたね」
「あー、そだな」
彼と共に駆け抜けた、この三年。
多くの栄光を掴み取れたのは、間違いなく私一人の力だけではありません。
彼が居てくれたから。ぶっきらぼうに、私だけを見てくれていたから。
……だから、返ってくる反応がわかってても。私だって、彼だけを見つめていたい。
「トレーナーさんは、私が好きですか？」
「いや……？あぁ、酒注いでくれたらまぁギリ好きって言えっかな」

「おい！この取っ組み合いもう恒例行事みてぇになってるけどよ！！ここ俺の部屋だぞ！折角掃除しただろうが！聞いてんのか！！おまっ見える場所に噛み痕つけようとすんじゃねぇよ！！」
「……見えねぇとこなら良いってワケじゃないんだよおバカ！！脱がそうとするのやめろ！！どこ噛む気だよ！！いや言わなくていいから離れアッ」

「もうっ……」
「あ痛ったぁマジでぇ……ゾンビ映画かよ……」
……私、知ってるんですからね？
本気なら、私なんて組みかかっても、すぐに振りほどけちゃう事くらい。
でも、これはご存知ですか？
こうして、ふざけながらも私に合わせてくれる貴方を、もっと好きになってしまう事。
どこまでも揺らいでいるようで、どこまでも私を想ってくれる貴方が好き。
「トレーナーさん」
「んぐ、んぐ。かーっ！割るために買った炭酸水だけど単品でいけんなこれ。で、なんよ？」
「私、諦めませんから。覚悟して、逃げてくださいね？」
「ゲェエエエエエエッフ！失礼」

「失礼！！失礼って言った！！ちゃんと言った！！失礼って言ってましたよ俺！！その頭に付いてる耳は飾りか！？失礼って言えば何でも許されるわけじゃない？それはそうだねアァッ

グラス……流石に男の趣味が悪いと思いマス……

だめんず好きはどうしようもないデース！

不退転にも程があるデース…

エル。
奉仕する喜びを知りなさい。

トレーナー意図的にダメンズになろうとしてるデース…

というよりトレーナーさんグラスの好意に応えるのちょっと怖がってません？

>というよりトレーナーさんグラスの好意に応えるのちょっと怖がってません？
>私が好意を見せると、酷い返しをしてくるんですから。

他人の好意に応えるのが怖いトレーナー…

一回り下の未成年はちょっと…

こんなだらしなくて情けない男はやめろって行動で示そうとしてくる
不退転