二次元裏@ふたば

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45950 B21/05/02(日)06:01:49No.798419636そうだねx2 09:12頃消えます
「アタシ。…開けて」

インターフォン越しに短く呟く。しばらくして目の前の部屋からドタドタと足音が聞こえ、玄関のドアが開かれる。

玄関から顔を覗かせたのは私のトレーナー。

ドアの前に立つ私を見つけると、今が冬という事を忘れそうになるほどの暑苦しい笑顔を見せ、私を部屋へと招き入れる。私は軽く挨拶をしつつ、なるべく彼の顔を見ないよう、俯きながら彼の部屋に入った。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
121/05/02(日)06:02:09No.798419656そうだねx3
今から1ヶ月前のクリスマス。

普段の感謝の気持ちを示すべき。具体的にはトレーナーへプレゼントを渡すべきである。というような事をチケットとハヤヒデに再三捲し立てられ根負けした私は、彼へのクリスマスプレゼントを選ぶ事になった。

だが何をどうすれば良いのか、頭が回らない。考えるのが面倒になった私は適当なオススメの贈り物をショップに選んでもらった。

貰った相手が緊張しない、重くないものがいい。使った後はポイと気軽に捨てる事のできる消耗品がいい。言い訳めいた条件を考える事ばかりに気を取られ、誰に贈るモノかなんて考えもしなかった。

全てを適当に処理した結果、彼の手に渡ったプレゼントは、ウマ娘用尻尾トリートメントのギフトセットだった。唖然とする彼を前に、私自身も言葉を失った。渡した後でプレゼント選びが失敗していた事にようやく気付いたのだ。
221/05/02(日)06:02:30No.798419675そうだねx1
混乱した私は手渡したばかりのプレゼントを奪い返そうとした。だが彼はプレゼントを貰えた事自体に驚いていたようで、タイシンがくれたものだから大事にすると言い、返してくれなかった。

チケットやハヤヒデにこの事実が知れたら、何を言われるだろうか。あまりにも間抜けだった自分に、頭を抱えた。

その出来事だけで済めばまだマシだった。その日の別れ際、ラッピングされた袋を彼から渡された。彼もプレゼントを用意していたらしい。中身は、以前彼と二人でいる時に、ちょっと気になっていると口にしたことのあるデザインのスニーカーだった。

寮に帰った後、貰ったスニーカーを試し履きしてみると、シンデレラが履くガラスの靴の如く、サイズは私の足にぴったりフィットした。

同室のクリークさんも私のイメージにぴったりで似合っていると褒めてくれたが、褒められれば褒められるほど、自分の情けなさが際立つようだった。

ベッドの中で何度も溜息をつき、その日は眠りについた。
321/05/02(日)06:02:48No.798419694そうだねx2
「…昨日のアレ、本当に持って帰ったの」
翌日、練習生の姿もまばらになった夕暮れのトレセングラウンド上で私は彼に尋ねた。

「勿論!ありがとうなタイシン!」
バカでかい声に暑苦しい笑顔、サムズアップ付きで質問に対する返答が返ってくる。…アンタはチケットかっての。

「…あのさ。思ったんだけど、アレがプレゼントって意味分からなすぎるでしょ…だから、別の物をあげる。何か欲しいモノ言って」
「あんまり気にしないでくれよ。俺はもう十分すぎるくらいタイシンから色々なものを貰ってるんだから。いいよ」
ああ、もう…この男は。分かれ。惨めさでいっぱいの私を助けると思って、言って。彼の胸倉を掴んで叫びたかった。が、言えるはずもない。かといってこの先の話を器用に繋げる言葉も持たなかった私は、目の前の、体格差のある彼の顔を無言でただ見上げた。訴えるように。…もしかしたら威圧するような目だったかもしれない。

困ったような表情で、彼は目を泳がせる。数瞬の沈黙。

さすがに無茶振りが過ぎたかと諦めかけた時、彼が口を開いた。
421/05/02(日)06:03:26No.798419726+
「…ドライカレー」
「ドライ…は?」
聞くところによると、以前バレンタインの時に私から貰ったドライカレーが相当美味しかったらしい。

「いやドライカレ―って。あんなの大した料理じゃないし、この前作ったし。せめて別の料理がいい」
「じゃあ鍋にしよう!いま冬だからな!!!」
なんで鍋…とも思ったが別案にしろと言ったのは私だ。無下に却下も出来ない。結局、次の休日の夜、彼の部屋で鍋料理を振るうことになった。
521/05/02(日)06:03:57No.798419765そうだねx1
「出来たよ」
彼の部屋のリビングにある小さいテーブル上に鍋敷きを置き、季節の野菜・白身魚・魚介類・鶏つくね等々の具材が入った土鍋を置く。自前で用意した黄金色の出汁にどの具材も満足気に浸かり、それぞれ食べ頃に火が通ったようだった。
土鍋はトレセン寮に入る時、あの人が私に持たせてくれたものを持参した。それなりに値の張る、立派な土鍋だ。
ふたを開けると、もうもうと湯気がたちのぼる。それを見た彼も、デスクで進めていた仕事を打ち切ったようだった。

「いい匂い!これ絶対美味いなタイシン!」
「感想は食べた後でいいから。はい取り皿。熱いよ」
「ありがとう!いただきます!」
この人はいつも真っすぐな事しか言わない。何と返せば良いのか、困る。私は助けを求めるようにぐるりと彼の部屋の中を見渡す。

ふと彼のデスクの上を見ると、箱に入った例のトリートメントが飾ってある。
「…やっぱり置いてるんだ。アレ」
「ああ。朝に家を出るとき、ボトルに向かってタイシンが無事一日過ごせますようにって願掛けもしてるからな!」
「なんのご利益もないよ…バカ」
621/05/02(日)06:04:32No.798419801そうだねx1
彼は箸で取った具を口に運ぶたび、ひたすらに、美味しい、ウマい、を繰り返し食べていた。
私はそのたびに、そう。とか、
ふうん、良かった。とか、返事をした。

私は味見を兼ねて時折鍋をつついては、彼と雑談を交わしていた。鍋は、まあまあのデキと言える味で安心した。その時、
「ゴホ、ゴホッ」
食べ進めながら雑談をしていたせいか、気道が一瞬食べ物で塞がった。口許をおさえながら、ふと彼の顔を見ると、その表情が凍り付いている。
「大丈夫。むせただけ」
「でも」
「本当。もう平気だから。炎症はだいぶ前に落ち着いたっての。…本当にダメな場合、アンタにちゃんと言う。もう、黙って無茶はしないから」
彼は少し心配そうな顔だったが、私の言葉を聞いて頷いてくれた。

話が止まった。一瞬の静寂が訪れる。
…私は、少し気になっていた話をすることにした。
721/05/02(日)06:04:59No.798419833そうだねx1
「…ねえ、この前グラウンドで言ってたよね。私から色んなものを十分にもらったとかって。アレ何の事?私、アンタに迷惑や心配ばかりかけてた気がするんだけど」
「そんな事無いさ。俺みたいな名も無い新人トレーナーがタイシンと数々の大レースを経験して、果てにはURAファイナルズの決勝―。すべてが夢みたいな話だよ。タイシンだって、前よりずっと喋ってくれるようになって嬉しい事だらけだ」
記憶を手繰り、一つ一つ思い出すように彼が答える。

「もう十分ってさ。それってさ、私の相手すんの、もう十分ってこと?」
言った後に後悔した。この憎まれ口は、どうにかならないのだろうか。どこまでも愚かで、ひねくれた言葉しか生み出せない自分。

「そういう意味では…」
そんな事を思ってもいなかったのか、彼はキョトンとしている。またも沈黙が訪れる。

何言ってるんだろ、アタシ。なんでこんなにバカなんだろう。ああ、逃げ出したい。顔を見られたくない。彼から目を背け、俯き、口を閉じる。途端に目から涙が溢れそうになる。
821/05/02(日)06:05:34No.798419862そうだねx1
沈黙を破ったのは彼だった。

「タイシン、今度一緒に水族館に行こう。前にタイシンと会った、あの静かな水族館に」
私は顔を上げる。彼はいつも通りの優しい表情で私を見て喋りかけていた。

「…水族館、華やかじゃない方の?」
「そう。タイシンが好きって言ってた方」
「…いいよ。好きだよ。アタシ。あの場所」
「俺もだ!これで先の楽しみがひとつできた。…タイシンもさ、やりたい事あれば何だって話してほしい。タイシンが話したい事あれば、俺は何だって聞くから」
「…うん…知ってる…ずっと前から知ってる…なのに、アタシ、バカだ…ごめん」
彼は私に笑いかける。気にしてないからと。その笑顔につられて、強張っていた私の体から力が抜けていくのを感じる。少し出ていた涙を彼に気づかれないように拭う。

「あ、もう門限の時間だな」
思い出したかのように彼が呟く。部屋の時計は確かに寮の門限の30分前の時刻を指していた。
921/05/02(日)06:06:06No.798419884そうだねx2
「今日はごちそうさま。本当に美味しかったよ。後片付けはいいから」
「…お粗末さま」
あっという間の時間だった。もっと、一緒に居たい。ここにもう少しいれば、何かが変わりそうな。

「タイシン?」
「え?」
あんまり私がぼんやりしていたのか、彼が声を掛けた。

「体調、本当に大丈夫か?」
「…問題無いって。調子良いから。本当。シッポだって、ホラ」
椅子から立ち上がり後ろを向き、シッポがツンと立つところ、意のまま操れるところを見せる。
1021/05/02(日)06:06:34No.798419912そうだねx2
「本当だ。尾離れがいいな。毛ヅヤも完璧と言っていい。うん」
彼は私の尻尾をまじまじと見て言った。尻尾の先を軽く捕まえ指の腹で触れたりもしている。至って真面目に。トレーナー目線で。私の体調を見定めるように。

私はなぜだか急激に全身が燃え上がるような熱を感じた。体中から汗がワッと溢れ出そうになる。

「…もういい…?」
「あ、ごめんな。つい」
「……別に…いいんだけど…お風呂まだだから…あんまシッポキレイじゃない……から…」
ふと視界の端で、デスク上に置かれたシッポトリートメントのボトルが目に入る。頭に血がのぼる。体を包みつつあった熱が更に増していく。顔が、頬が、紅潮している。に、違いない。

「か、帰る」
私はカタコト気味に、短い言葉を放ち帰り支度を始めた。
1121/05/02(日)06:07:17No.798419949そうだねx2
「送るよ。あと、あの土鍋大事なやつだろ。一緒に持っていく。洗うから一瞬だけ待ってくれ」
「いいよ。一人で帰る」
本当は、まだ居たい。帰りたくない。だけど、いつものように虚勢を張る。

「…土鍋、置いといて。一人だとあんなバカでかい鍋使うことないんだ。また今度何か作りに来るからさ」
また、この部屋を訪れる理由が欲しかった。
「…おやすみ」
玄関で、おろしたての、ぴかぴかのスニーカーを履く。悪いことをしたわけでも無いのに逃げるように足早に部屋を出た。

「うん、おやすみ。気をつけてな」
彼の声を背で聞き外に出る。部屋の外は別世界のような寒さだった。夜の冷気に小さな体がさらされる。心まで凍り付きそうな寒さだった。言い様の無い寂しさもこみ上げてくる。トレーナー寮の入り口を出るころ、さっきまで感じていた体の火照りは消えていた。それほどに外が寒かった。早く帰ろう。

「タイシン!」
後ろから声をかけられビクリとする。後ろを振り返ると走って追いかけてくる彼の姿があった。
1221/05/02(日)06:08:09No.798419996+
「やっぱり送っていくよ。もう暗いし、遅い。ほらこれ」
私の両の手にひとつずつカイロを渡す。ほんのり温かい。体に、少し熱が戻ってくるのを感じる。

「…アンタの分は?」
「俺は別に…鍋も食べて暖かいし」
「バカ。…手出して」
この、お人好しの片手を取りカイロとあわせてぎゅっと握った。力強く。

彼の顔を見上げる。彼は驚いたような顔を見せていたが、すぐに私にいつもの笑顔を見せる。私も、できる限りの笑顔を彼に見せて応えた。二人並んで、冬の夜の道を歩き始める。

「ありがとう」

言いたかった言葉。ずっと言えなかった言葉が自然と口から出ていた。

何も言わず寮から外出したまま戻らない私を心配し探しに来ていたチケットが私達を発見し、大声を上げて駆け寄ってきたのはそれから数秒ほど後の事だった。
1321/05/02(日)06:08:54No.798420037+
オワリ
時系列はタイシンURA後です 温泉行けていないので温泉には行けていないタイシンとトレーナーです クソ長いですごめんね

あとタイシンが尻尾トリートメントしてもらう展開にしたかったけど根性が足りなくてできませんでした
1421/05/02(日)06:09:16No.798420058そうだねx49
い゛い゛は゛な゛し゛た゛よ゛お゛お゛お゛!゛!゛!゛!゛!゛
1521/05/02(日)06:10:28No.798420120+
尻尾トリートメントはまた次回に…ということですね
1621/05/02(日)06:10:52No.798420144そうだねx25
朝から良い物を見た
>あとタイシンが尻尾トリートメントしてもらう展開にしたかったけど根性が足りなくてできませんでした
これは坂路調教ですね
1721/05/02(日)06:11:12No.798420168+
素晴らしい…
1821/05/02(日)06:17:38No.798420506そうだねx3
根性が足りていないようですね
根性を重点的に鍛えましょう早く
1921/05/02(日)06:21:20No.798420711そうだねx8
タ゛イ゛シ゛ン゛が゛ト゛レ゛ーナ゛ーさ゛ん゛と゛手゛つ゛なぎデート゛し゛て゛て゛私゛も゛嬉゛し゛い゛よ゛ぉ゛ぉ゛
2021/05/02(日)06:21:31No.798420720+
いい……
2121/05/02(日)06:24:18No.798420853+
いいぞ…自分のぺースで幸せになっていけ…
2221/05/02(日)06:25:06No.798420914+
でもお風呂は一緒に入れ…
2321/05/02(日)06:29:29No.798421139そうだねx4
担当の心をこんなにも乱したトレーナーは一生責任取らなきゃダメでしょ
2421/05/02(日)06:44:33No.798422010+
開幕からトリートメント案件を期待していたのに残念ですよ私は
ゆっくりとでいいから書け
書いて
2521/05/02(日)06:53:46No.798422667そうだねx3
良いものを読ませてもらった
ありがとうね
2621/05/02(日)07:16:22No.798424454+
書き込みをした人によって削除されました
2721/05/02(日)07:16:47No.798424491そうだねx2
>書いて
このトレーナーは父親や指導者といった目線でタイシンを見ていたので展開が作れませんでした タイシンがトレーナーを見る目線は家族や父に対するものとは違うので近い将来末脚が爆発すると思います
2821/05/02(日)07:18:57No.798424684そうだねx1
タイシンによる追込逆ぴょいはしっくり来るよね…
2921/05/02(日)07:29:39No.798425594+
普通にこんなイベント発生しそうだから困る
3021/05/02(日)07:33:53No.798425945そうだねx7
>「バカ。…手出して」
>この、お人好しの片手を取りカイロとあわせてぎゅっと握った。力強く。
彼らのペースを保ってますね!私の性癖には会っていますよ!
3121/05/02(日)07:34:54No.798426029+
目撃されたが最後情報ダダ漏れすぎる…心配してくれてるから悪いこと言えないし
3221/05/02(日)07:41:40No.798426772+
B「ほう…尻尾を触られて拒否も蹴り飛ばしもしないタイシンですか…フフフ…」
3321/05/02(日)07:52:03No.798427930+
タ゛イ゛シ゛ン゛が゛可゛愛゛い゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛
3421/05/02(日)07:53:16No.798428093そうだねx1
せっかく贈ったのに使わないとあれだしという理由でおうちでトリートメント(まだ恥ずかしいので水着で)する回はまだですか
3521/05/02(日)07:55:59No.798428451+
B「抱けーっ!抱けーっ!」
3621/05/02(日)07:57:11No.798428597+
タイトレはこれくらい正解の選択肢を選び続けるんだろうなって信頼感がすごい
3721/05/02(日)07:59:19No.798428863+
突如興奮する気振ライアンたち
3821/05/02(日)08:03:09No.798429308そうだねx1
タイシンがトレーナーの部屋にめちゃくちゃ入り浸ってるのいいよね…
俺もタイトレビワトレチケトレが居酒屋で管巻くだけの怪文書書こう…
3921/05/02(日)08:08:46No.798429944そうだねx1
>タイトレはこれくらい正解の選択肢を選び続けるんだろうなって信頼感がすごい
正解選択肢なのに暑苦しすぎるせいで若干面倒くささも発生するのが実にタイトレ
4021/05/02(日)08:18:04No.798431130+
ナリブ実装でタイシンが反撃気ぶりしてくれたら面白いがどうなるかな…
4121/05/02(日)08:23:49No.798431933+
一方ブライアンはトレーナーと二人三脚で走るGIレース開催案を生徒会に提出していた
4221/05/02(日)08:24:11No.798431999+
この小せぇ水族館が
私が今からスケジュール計画してやる
4321/05/02(日)08:26:28No.798432351+
こんな初々しさあるタイシンだけどしれっとトレーナーの部屋に私物を置くことに成功してる…
4421/05/02(日)08:35:14No.798433892+
年を重ねる毎にトリートメントの隣にタイシンの尾用のブラシやオイルやらが増えるんだよね…
4521/05/02(日)08:46:33No.798436734+
これはもう自分用のお弁当と一緒にトレーナーのお弁当も作り始めるやつだと思いますよ私は


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