「しかし…タキシードなんて初めて着たな…これ高そうだ…汚したらどうしようか…」
周囲の豪華絢爛な食事スペースからあえて目を逸らしつつひとりごちる。先に到着したのは自分だけのようで、キングについて尋ねると、女性は支度に時間がかかるとの事。それはそうだ。
「あ……貴方……？」
呼ぶ声に振り向く。そして動けなくなった。
目の前には美しいエメラルドグリーンの勝負服…いや、パーティードレスで身を包んだキングヘイローがほほを赤らめて所在なさげに立っている。その姿は日頃の堂々とした態度からは想像もつかないほどに年齢相応の少女といった雰囲気で、不覚にも脳を揺らされたような衝撃に襲われた。

速かったなへっぽこ怪文書……

「なにか…言ったらどうなの、へ……へっぽこ」
まるでキングのためにあつらえられた衣装だ。そうとしか言えないほどに彼女に似合っている。キング自身も薄い化粧は日頃からしているが、それとはまた別のメイクなのだろう。色気のようなものを感じて目が離せない。何とかからからになった喉を唾で湿らせてから素敵だ、と伝えるとどこか調子を崩したような声色で
「そ、そう……」
とだけ答え俯いてしまった。その間隙を見計らったように、着席をボーイに促される。言われるがままに席に着くと、対面に座ったキングと目を合わすのが困難だった。言ってしまえば、見違えた彼女に気後れをしてしまっているのである。

待ってたぞ

おかしい...何かいい雰囲気だ...

これはキングはすべてを知ってしまったかな

前菜から順に、ほどよい量…しかしどれも味は一流の料理が次々と運ばれてくる。テーブルマナーは以前キングに教わったが、それを思い出して実践するだけでいっぱいいっぱいで…助けを求めるように彼女を見ようとして、気恥ずかしさから目を逸らしていると、キングは笑っていた。
「ふふ、なによ、へっぽこ。おのぼりさん丸出しじゃないの。一流なんだから、しっかりしなさいよね」
声に棘はなく、本当におかしかったのだろう。声音からそれを察することができ、いつものキングだと緊張が徐々に解れてくる。
「そんなこと言われても、こんな高級な料理なんて食べたことないし…」
「ここには私たちしかいないのよ？気負う必要もないわ。調子が狂っちゃうから普通にしてなさいな。それが私達の一流でしょう？」

いい娘だよキング…

そう。一目を憚ること無く、泥を浴びてなお立ち上がり決して首は下げない。路線変更なんてなんのその。自分のための一流を張り続けることに意味がある。どこかでいったような言葉を聞いて、深呼吸。もう、大丈夫だ。
「それにしても、素敵な夜景だ。いい場所だな、メジロシティって」
「そうね。私も初めて来たけどそう思うわ」
極上の料理に舌鼓を打ちながら、会話と夜景を楽しむ。この機会をくれたメジロマックイーンには感謝をしなくてはなるまい。
「それから、お母さんとはうまく行っているのか？」
「何？藪から棒に。別に、普通よ。電話をすれば帰ってこいだのなんだの。腹立つのよね。私は私の王道を行くだけなのに。…………でも」
でも？
「将来の事は、最近少し考えるようになったわ」
そうか、と目を細める。目の前にいるキングヘイローはもう親への反目と誰かのために一流を騙る少女から、大人の女性の顔つきになっていた。自惚れかもしれないが、恐らく自分もそうなのだろう。キングヘイローの走りに惚れ、彼女のとなりにいるために一流を騙った。しかし今は、そう。普通に、隣に立てている、と思いたい。

「キング……」
「なに？」
言葉が次げない。自分は、彼女のとなりに立つにふさわしい一流足るだろうかなんて…言葉で確認するようなことは、したくなかった。霧散した言葉から話題を拾い集めようと模索しているうちに、今度は彼女が自分を呼んだ。
「ねぇ、あなた」
「なに……かな」
「私ね、いつか自分のお店を持とうと思うの」
それは…どこかで聞いたような話だった。
「お母様は、一流の服のデザインをして、一流の人に着せて…世界的に有名な人になったわ」
悔しげにキングの母のデザインを見ていた彼女を思い出す。
「私はね、一流を目指す誰にでも勝負服を作りたい。この手で。自分のために一流を名乗る子達に」
その目には、炎が宿っている。
「それでね、小さなアパートから始めるの。最初は服を作って、どこかお店に置いて貰って…もちろん最初から全力よ。made by KING…そして、どんどん注文が増えて、有名になって…」

夢を語るキングは、夢見る少女ではない。その未来予想図は、絶対にそうなるだろうという確信が持てる。ずっと隣で歩いてきたからこそわかる。彼女は『そうなる』だろう。
「だから」
そう、ここで
「あなたに生涯私を支える権利をあげる」

や…やった！

「……え？」
「というか義務！これは義務よ！私だって路線変更したんだもの…あなただってそれぐらいしてもいいでしょ！！」
キングの爆弾発言に思考が追い付かない。ちょっと待って…自分の夢のためにここでお別れって話なんじゃ……
「はぁ！？なに言ってんのこのおばか！！そんなはずあるわけないじゃない！！へっぽこ！！ドへっぽこ！！！！」
「だって話の流れがそんな感じだっただろ！？」
全く締まらない。おかしくて、笑えて、涙が出てくる。それはキングも同じなようで…二人でしばらく声をあげて笑い続けた。

「私の名前は？」
キング
「誰よりも賢く？」
気高く聡明なウマ娘
「ならば当然？」
みんなが憧れる一流で
「そう！つまり…この世の頂点にもっともふさわしいウマ娘の名こそ」
キングヘイロー！！
「そしてその私が隣にいてほしい…そう思っているのは……」
キングが立ち上がる。倣って立ち上がると、胸に軽い衝撃。そして背伸びをした彼女は……。

こんどは時間足りそうね

「マックイーン？」
「あら、パーマー。ごきげんよう」
「結局あれ、なんだったの？言われたから渡したけどさ」
指で四角を作ったメジロパーマーはメジロマックイーンに尋ねる。メジロ振興券の事だろう。
「実は、メジロシティにキングヘイローさんのお母様のデザインを戴きたく思いまして」
「全然わかんない」
「つまり、キングヘイローさんの近況報告をして、トレーナーさんとの一心同体の後押しをする。それが条件でしたの」
「だからなんなんだってばー！！」

二つ仲良くハンガーにかけられたドレスとタキシード。それらに付与されたタグにはテーラードバイ……そう、キングヘイローは気がついた。試着の時点で背中を押されていたことに。彼女自身のための一流の夢、そしてその隣に必要なのは…
ここはメジロシティ。一心同体を掲げ古いアパートメント(新築wifi完備)から始まった街。その街は一心同体も、一心同体になりたい心も受け入れて…そして同じく一流を掲げたキングヘイローも、一流を目指す者に寄り添う夢に今動き始めたのだった。
【Case by king fin】

おしまいです
KINGOFPRIDE発動したのに差しきれず2スレ目突入して申し訳なかった

受け継がれし新築ボロアパート…

>一心同体を掲げ古いアパートメント(新築wifi完備)
>(新築wifi完備)

良い話なんだけどメジロシティなんだよな…

メジロシティもたまにはイイ仕事してんねぇ！

ボロアパート（新築）は毎度笑ってしまう

ここからうまぴょいしまくる生活が…

>古いアパートメント
うｎ
>(新築wifi完備)
…うｎ？

でもキングとトレーナーは一流だから節度ある一心同体ライフを送れるだろう
最初の１年くらいは無理かもしんないけど

築６０年の新築木造ボロアパートだからな

>でもキングとトレーナーは一流だから節度ある一心同体ライフを送れるだろう
>最初の１年くらいは無理かもしんないけど
お母様を見る限り多分…

メジロと聞いて身構えたけどめっちゃいい話だった...

いい話だしマックイーンもいつもみたいに色ボケしてないしまともなんだけどでもメジロシティなんだよな…って気持ちが拭えない！

どうしてもキングママのこしらえた服を出したくて…もうメジロしかないって…

メジロシティっていかがわしいホテル街じゃなかったんだ

>メジロシティっていかがわしいホテル街じゃなかったんだ
今回うまく噛み合っただけで基本的にそうなのでは？

>メジロシティっていかがわしいホテル街じゃなかったんだ
ちゃんと物陰でやってるから…

ホテル以外でも科学館やお寿司屋さんでも一心同体できるからいつでも安心の街だよ

>メジロシティっていかがわしいホテル街じゃなかったんだ
何処にも休憩室や専用スペースがあるだけで
とてもいい都市ではあるんだ

一心同体なら住みやすい街

キングから呼ばれるへっぽこは慈愛に満ちていそうで大好きです

良い… さすがメジロシティだ…

財力にモノ言わせて作られた都市だからそりゃいい街だよ
ただ一心同体に全ての比重が寄せられてるだけで

コンセプトが統一された都市だからそこに合わせて生きる分には最高なんだ

スズカさんとかも資質最強過ぎて特に問題も起きずに終わったからな…

一心同体とは必ずしも肉体的な結びつきを必要といたしません
ですが

これからもドンドン書いてくれ