1 「さて……この後どうしましょう」 普段ならトレーニングをしている時間帯。しかし生憎、今日のトレーニングは休みである。 「ライアンも今日は忙しいそうですし……あら?」 考え込んでいると、ふと人影が目に入る。 トレーナーさん。 嬉しいときも、挫けそうなときも、いつもそばで、一心同体となって支えてくれた私のトレーナーさん。 駆け寄ろうとして、彼の近くにあったもう一つの人影を見て足が止まった。 「彼女はたしか……桐生院さん?」 彼と同じくトレーナーであり、彼の同期でもある、黒髪の女性。 彼はどうやら、彼女と談笑中であるらしかった。 少し離れたところで、会話している二人を眺める。別にやましいことなど何もないのだから、こそこそする理由はない。 だがなぜか、気付けばこうして二人の会話に聞き耳を立てていた。 「すみ――――こう――――――付き――――」 「気に――――――は、一緒――――から」 距離があるせいか、会話がうまく聞き取れない。少し近付こうか――そう思案していると、二人が移動し始めた。 「二人で……何処へ行くのでしょう……?」 気になる。そう思ったときには、既に足は動いていた。 何処かへと向かう二人へついて行くと、そこはアクセサリーショップだった。 「アクセサリー……? トレーナーさんが……?」 私のトレーナーさんは、いわゆる"お洒落"というものにまるで興味のない人間であった。 装飾品らしい装飾品はもちろん、服装のバリエーションすらほぼ皆無な人間である。 数年来の付き合いである私ですら、彼のスーツ姿以外は数度目にした程度というほど。 「大方、桐生院さんに連れられて無理矢理……といったところでしょうか」 しかし、これを機に彼がお洒落をするようになれば、それはそれで僥倖である。 その日は道中にあったケーキ屋に寄り、帰ることにした。 それから数日、どうやらトレーナーさんは休みのたびに桐生院さんと何処かへ出かけているようだった。 ある日はスポーツ用品店へ、またある日はコスメショップへ。 私のトレーナーさんは、彼女と二人で、色々なところへ―― ある日。いつものようにトレーニングを終え、解散した後。日も落ちて暗くなる頃。 私は、何処かへ向かうトレーナーさんの後をつけていた。 彼が向かった場所には、桐生院さんがいた。いつものように、後をついて行く。 ――到着したのは、有名な高級ホテル。 なんで。どうして。 答えは出ず、気が付けば私は寮の前にいた。 部屋に戻り、ベッドへ潜る。その日はなぜか、目が冴えてなかなか眠れなかった。 「どうした、マックイーン」 トレーニングを終え、トレーナー室へと戻った後。彼はいつもの無表情のまま、私に問いかけた。 「なにがですの」 「元気がないみたいだが。何かあったか」 何かあったか? あったに決まっている。だがその原因である張本人は、原因にまるで気付かない様で。 「……別に、なにもありませんわ」 つい、態度がきつくなってしまう。 「……? なんか怒ってるか」 「っ、別に! 怒ってません!」 あなたの所為で、私はこんなにも心を乱されているというのに。 感情を表さない無表情のままそう言い放つ彼に、堪えきれず声を荒げてしまった。 「何か悩みがあるなら聞くぞ」 その言葉を聞いた瞬間、今まで感情をせき止めていた何かが壊れる音がした。 「悩み? 悩みですって!? あるに決まってるでしょう!? 知ってますのよ私! あなたが休みの日が来るたびに何をしているのか!」 「毎週毎週毎週毎週、女性にうつつを抜かして!」 「行けばいいじゃないですか! 愛しい彼女のところに! 私なんて放っておいて!」 横暴だ。私に彼の休日の行動に口を出す権利なんてない。そう理解していても、溢れ出る悪態を止めることはできなかった。 辛くてたまらない。悲しくてたまらない。 「いや、待て、彼女? 何のことだ」 「誤魔化さないでください! 見たんですのよ! あなたが、この前、彼女と……桐生院さんとっ、ホテルに入っていったのを!」 そこまで言い終えると、無表情だった彼の顔が何かに気付いたように変わった。 「誤解だ」 「誤解!? 何が誤解…「少し待て」 彼はそう言って私を制すると、小走りで自分の机へと向かい、そこから何かを取り出した。 「少し早いが……誕生日、おめでとう。マックイーン」 そう言って、彼は私に小包を差し出した。 「……どういうことですの」 「まぁ、説明するから聞いてくれ」 結論から言うと、別に桐生院さんは彼の彼女でもなんでもなかった。 私へのプレゼントを用意しようとしたものの、彼は今まで他人にプレゼントするという経験がまるで無く。 何をプレゼントしたものかと困り果てていたところを、桐生院さんに相談に乗ってもらっていたらしい。 例の高級ホテルも、誕生日に連れていくレストランの下見だったそうだ。 「っ……それで私を悲しませているようでは、本末転倒ですわっ!」 「……面目ない」 「謝っても、許しませんわ」 そう言うや否や、申し訳なさそうに目を伏せる彼の胸へと飛び込んだ。 「……許してほしければ、私を、満足させてくださいませ」 「――さん、トレーナーさん」 ホテルの一室。隣で眠る彼へと声をかける。 「もう、眠ってしまわれましたか……?」 「……いや、どうした」 彼は目を開け、答える。 「その、この前は……申し訳ありませんでしたわ」 「気にするな。あれは……俺が悪い」 そう言ってしばらく見つめ合ってから、彼に抱き着く。 「トレーナーさん、好きです、愛してますわ ……どうか、ずうっと一緒にいてくださいませ」 私がそう言うと、彼は私を強く抱きしめてくれた。 彼の腕の中は、今まで使ってきたどんなベッドよりも、よく眠れる気がした。 2 「マックイーン! アタシにもチュッってしてくれよー!」 私の平穏な日常は、その一言によって見事にぶち壊された。 トレーナー室に入って来るや否や、ゴールドシップさんは私の方へ向かってくると大声でそう言い放った。 「きゅっ、急になんですの?」 "チュッ"という単語に覚えた動揺を顔に出さないよう堪えつつ、私がそう聞き返すと、 彼女は何とも言えない顔をした後、私に携帯の画面を突き出した。 そこには、私が今朝、愛しの彼に向けて送ったメールの文面が表示されていた。 「なっ、なぜそれを……」 「なんでーって、マックイーンから送信してきたんじゃねぇか」 慌てて携帯を取り出しメールを確認する。メールの送信先は彼ではなく、チームのグループになっていた。 ――――チーム? まさかと思いメンバーたちの方を向くと、みな少しバツが悪そうな顔をしていた。 やってしまった。 冷静に考えると恋人相手でも少し恥ずかしいようなメールを、よりにもよってチームメンバーに全体公開してしまった。 恥ずかしさのあまり顔を両手で覆って俯く。 「あ、あの、マックイーンさん……ライスは……その……い、良いと思うよ?」 「そうですよ! むしろラブラブでいいことじゃないですか!」 「やめてくださいまし……そのやさしさがつらいですわ……」 そうこうしている内に、トレーナーさんが部屋に入ってきた。 ――が、顔を覆って俯いている私を見て困惑しているようだった。 「何があったのか」と問う彼に、ゴールドシップさんが同じように携帯を突き出した。 「……あー」 彼はそれを見て理解したのか、ソファに座って俯いている私の隣に腰掛けた。 「マックイーン」 彼が私の名を呼ぶ。しかし、恥ずかしさのあまり顔を見ることが出来ない。 その様子を見て、少し考えるような仕草を見せた後。 彼は俯いたままの私の頭を両手で優しく包み、少し強引に私の顔を自分の方へと向けさせて。 「んむっ!?」 そのまま私にキスをした。 「ワァオ」 「わ、わわわわわっ」 周囲から驚きと感嘆の声が上がる。 ライスさんは顔を真っ赤にして両手で口を押え、ゴールドシップさんはなぜかドヤ顔をしている。 「な、な、ななっな、何をするんですの!?」 「チュッと」 「いや……いやそういうことではなくて!」 驚きと恥ずかしさと嬉しさでさらに真っ赤になる私を尻目に、淡々と答える彼。 眉一つ動かさない彼の余裕が、今は少し腹立たしかった。 「………………」 「………………」 お互い無言のまま、見つめ合う。 「……あ! そういやこれから用事があるんだったわ! じゃあな!」 ゴールドシップさんは誰に言うともなくそう叫び、ドアの前でサムズアップをして出ていった。 「あっ、ラ、ライスも……」 「私も……」 他のメンバーたちも彼女に続き、部屋を出ていく。 部屋には、私と彼の二人だけが残された。 どうすればいいかわからず押し黙っていると、彼が口を開いた。 「腕枕もしておくか」 「……お願いしますわ」 こうなったら、もういっそ思う存分いちゃついてやろう。 そう思いながら、私はソファに横になった。 3 「かっとばせー! ユ・タ・カー!」 殺風景な部屋にテレビから流れる野球中継の音と、それに似合わない少女の声が響く。 声の主は、椅子に座りながらコーヒーを飲む俺の膝の上で 甘味を片手に彼女の贔屓の野球チームの試合に夢中になっていた。 「! やりました! やりましたわ! ユタカー! ありがとうー!」 どうやら彼女の応援する選手がなにかいい感じのプレーをしたようだ。 膝の上でマックイーンが興奮気味にぴょんぴょん跳ねている。 あまり膝の上で暴れられるとこちらもしんどいのだが、過去に一度うっかり 「重い」と漏らしてしまったせいで丸一日口を利いてもらえなかったことがあるので我慢する。 「ふふっ、さすがユタカ、これなら勝ったも同然ですわね……」 膝の上。愛しの彼女の興味は全て画面の向こうの選手たちに向けられている。 野球観戦は彼女の楽しみ。邪魔をするべきではないのはわかっているが―――― 「……? トレーナーさん?」 マックイーンが、選手たち――というより、他の男――に、夢中になっている。 そのことが妙に苛立ちを覚えさせる。面白くない。 気が付けば、彼女のことを後ろから抱きしめていた。 「あ、あの……あまりそう強く抱かれると苦しいですわ……」 応えず、彼女の後頭部に顔を埋めて抱きしめる腕にほんの少し力を込める。 すると、マックイーンは手に持っていたケーキの皿を近くのテーブルに置いてこちらへ振り向いた。 振り向いたマックイーンと目が合った。しばらくそのまま見つめ合う。 不意に、彼女から交わされる接吻。抱きしめ合い、お互いの舌を絡め、唾液を交換する。 「んっ……あむ……はっ――んむっ」 砂糖の味。ケーキがコーヒーの苦みを塗りつぶす。 「ぁ――ぷはっ」 絡めた舌を解き、離す。唾液の糸が伸びて、切れた。 テレビから流れる中継の歓声だけが部屋に響く。 もう一度口付けをしようと彼女の頬に手を当てたとき、それを遮るように気の抜けた音声が流れた。 ――――お風呂が沸きました。 「……お風呂、入りましょうか」 ――少し熱めのシャワーで頭を冷やす。もう少し冷静になったほうが良いだろう。 今の自分は正直かなり気持ち悪い。これはちょっと擁護できない。 そうしてシャワーを浴びていると、ガラガラと。彼女の入ってくる音が聞こえた。 自分の頭を洗ってから、彼女の入浴を手伝い、二人一緒に向かい合って浴槽に浸かる。 浴槽はお世辞にも広いとは言えず、マックイーンはほとんど俺の足の上に乗るような体制になっていた。 「その……邪魔してすまない」 そう言うと、マックイーンは少し微笑んで「問題ありませんわ」と答えた。 「それに――――」 彼女は近付いて、身体をピタリとくっつけて両腕で俺の首を抱えるように抱きしめる。 「私にとっての一番は、あなたですので」 結局あれから風呂で少し盛り上がってしまい、気が付けば二人とものぼせてしまっていた。 ベッドの中、自分に引っ付きながらすやすやと寝息を立てる彼女を見ると、色々考えていたこともどうでもいいように思う。 「おやすみ、マックイーン」 眠っている彼女にそう声を掛け、自分も眠ることにした。 「……心配しなくても、私はずうっとあなたの傍にいますわ」 彼の呼吸を聞き、眠ったのを確認してから目を開けて、そうつぶやく。 いつもは自分が彼に嫉妬してばかりで、彼が自分に嫉妬するということは無かったが―― いざ自分が嫉妬される立場になってみると、意外と心地よく。成程、案外悪くない。 それはそれとして。野球観戦で彼が嫉妬した、という事実は、覚えておいて損はないだろう。 そう思いながら、彼の首筋に吸い付く。 首筋には、真っ赤なキスマークが残った。 4 マックイーンのメール流出事件――――通称、"おはよー!チュッ(笑)"事件から数日。 彼女のメールについて学園内で知らない者はいないほど拡散され、マックイーン本人も開き直って以前より学園内でくっついてくるようになった。 俺についても「チュッ(笑)される人」とかいう不名誉(?)な称号をつけられたり、 担当との関係性についての相談を受けるようになったりするようになった。 ほんの少し前にも、あるウマ娘の担当トレーナーに「最近担当の距離感が近い」という相談を受けたばかりである。 因みに、「受け入れてやれば?」という旨の返答をしたところ苦い顔をされた。なら初めから聞かないで欲しい。 ――と、そんなこんなで。今は授業を終えたマックイーンをトレーニングの為に迎えに行く最中だ。 「あら、マックイーンちゃんのトレーナーちゃんじゃない! お元気かしら?」 廊下を歩いていると、背中から突然声を掛けられた。振り向くと、そこにはサラサラのロングヘアを靡かせた筋骨隆々の大男が立っていた。 彼女(?)は通称"おネエさま"。2メートルはあるかという長身に、ウマ娘たちへの愛をこれでもかと詰め込む漢女。俺の先輩でもある。 「ええ、まあ」 「それなら良かった! ところで、聞いたわよ~あのウワサ! アッツアツじゃない~このっこのっ」 そう言いながら彼女は俺を親指のような人差し指でつんつんつつく。噂とは多分例の怪文書のことだろう。 「はあ」 「相変わらず反応薄いわね……駄目よそんなんじゃ! ほら、笑顔笑顔っ」 そう言って彼女は自分の口角を指でクッと押し上げた。悪い人ではないのだが、なんというか、こう。やり辛い。 「それにしても、愛されてるわねトレーナーちゃん! 少し妬けちゃうわ!」 なんのことだろうか。そう思っていると顔に出ていたのか、 彼女は"ここ"と口パクしながら首筋を人差し指でポンポンと叩き、逆の手で手鏡を差し出した。 受け取った手鏡で自分の首筋を確認すると、赤いキスマークが一つ、あまり目立たず、それでいて注意深く観察すれば簡単に見つかる位置につけられていた。 「いつの間に……」 「んっふふ、首筋にキスマークだなんて。マックイーンちゃんもロマンチストね」 「え、何でですか」 すると彼女は少し驚いた顔をして教えてくれた。なんでも、キスは場所によって意味があるらしい。 髪へは思慕。頬は親愛。唇なら愛情。首筋には―――― 「あ! トレーナーちゃんその顔いいわね! グッドよ!」 そう言いながらいつの間にか取り出した携帯をこちらに向けて写真を撮っていた。俺の写真なんて取ってどうするのだろうか……? あの後彼女と別れ、マックイーンのいる教室の前まで来た。一呼吸おいてから扉を開ける。 「あ、来た! ほらマックイーンさん、トレーナーさん来たよ!」 扉を開けた瞬間、教室内のウマ娘たちが一斉にこちらに注目する。 最近ずっとこんな感じである。さすがにちょっと辟易してくる。 「マックイーン、行くぞ」 声を掛け、足早に教室を立ち去ろうとすると、観衆から「今日はチュッてしないのー?」とヤジが飛んだ。 横目でマックイーンを見やると、満更でもなさそうな顔でこちらを見ていた。 どうやら乗り気のようである。であれば、応えるしかないだろう。 向かい合って肩を掴んで、ゆっくりと顔を近づける――最中、先ほどの会話の内容を思い出した。 予定を変更し、片方の手を背中へ滑らせて顔を捻り、首筋へ。 不意を突かれてあっけにとられるマックイーンに改めてキスをし直し、彼女を抱きかかえて教室から退出した。 ――後日、増えたキスマークをゴルシにからかわれるのは、また別の話。 5 「また随分と汚れたな」 そう言いながら彼女の髪にシャワーを当て、こびりついた泥を洗い流す。 雨の日のレースで汚れるのは仕方のないことだが、今日は特に汚れがひどい。 シャンプーを手に出し泡立ててから、髪を傷つけないよう細心の注意を払いながらやさしく髪を揉む。 一緒に風呂に入り始めた頃は慣れない長い髪に悪戦苦闘していたが、今ではすっかり慣れて会話しながら洗えるくらいにはなった。 「でも私、雨の日のレースも案外嫌いじゃありませんことよ?」 「それは……なんでだ」 手を動かしたまま、鏡の向こうの彼女に視線を向ける。 「だって、こうしてあなたに身体を洗って貰えるんですもの」 なるほど。それなら俺も嫌いじゃないかもしれない。 シャンプーを落とし、トリートメントとコンディショナーをして髪は終わり。 身体を洗う前に、まずシャワーで全身の泥を軽く流す。 それからラックからボディタオルを取り出し、泡立ててまずは背中から擦り始める。 痛くないよう、慎重に洗う。ある程度背中を洗い終え、前を洗おうとすると突然ボディタオルを奪い取られた。 これでは身体を洗えない。困った。仕方がないので素手で続行する。 腕を彼女の脇の下に通し、後ろから抱き着くような形で前を洗い始める。 首元から順番に、手のひらで洗っていく。胸元、みぞおち、下腹部。 胸元は指も使ってマッサージするように。下腹部は優しく撫でるように。場所によって洗い方も変えていく。 「んっ――ふっ、ぅあ、ぅう、ぁ」 小さく、零れるような声をバックグラウンドに身体を洗い続ける。途中、少し声の大きくなる箇所を入念に。 「ぁ……くっ――ひぅっ!?」 わき腹のあたりを少し強めに撫でる。この辺を撫でると、彼女はいつも大きな声を出す。 「はぁっ、はぁ、はぁっ……」 少し息の荒くなった彼女を横目に、胴体をおおよそ洗い終えたことを確認し、ピッチリと閉じた彼女の両足に手を伸ばす。 次の場所を洗うため、両足の隙間に指をねじ込み、ゆっくりと開かせた。 風呂から上がり、身体を拭いてから彼女を椅子に座らせ、髪を乾かすためにドライヤーをセットする。 個人的にはこの作業が一番お気に入りである。 ドライヤーで乾かされふわふわになった彼女の髪と、そこから香るシャンプーの匂いを楽しんでいると、 自分が今世界で一番幸せな気がしてくる。いや、実際そうなのだが。 念入りにドライヤーで乾かし、髪に湿り気がないことを確認して彼女をリビングへ帰す。 先ほどまで彼女が座っていた椅子に座り、自分の髪を乾かそうとしたとき、リビングに戻った彼女の声が響いた。 「逆転負けしてますわーーーー!?」 6 「これ」 トレーナーさんは、そう一言だけ言って透明なビニールに包まれた何かを差し出しました。 なんでしょう、と受け取って確認すると、それは一輪の真っ赤な薔薇でした。 「薔薇……?」 「作った」 私が首をかしげていると、説明するように一言。 "作った"という言葉を疑問に思い、受け取った花をよく見てみると、それは良くできた砂糖細工でした。 しかしまたなぜ急に、と私が不思議に思っていると、彼の方から詳しい経緯を説明してくれました。 何でも、最近トレーナーの間では、担当するウマ娘に対して手作りの花やトロフィーを送ることが流行っている、とのこと。 言葉足らずなことが多い彼が珍しく饒舌に話してくれたのは、もしかすると彼の照れ隠しだったのかもしれません。 「しかし、これだけ出来がよいと食べるのがもったいないですわね」 悪戯っぽく笑ってそう言うと、彼は少し困ったような顔をしました。 「……また送ってくださいますか?」 「ああ。お前が望むならいくつでも」 約束ですからね――そう言って、私は花びらを一枚、口へ放り込みました。 7 「はぁ~~っ、幸せですわ~~~!」 学校の食堂。大量のスイーツに囲まれて幸せそうなマックイーンを隣の席で眺める。 ちょうどレースの予定がひと段落したので、そのお祝いと労いとして今日は彼女が満足するまでスイーツを食べさせることにした。 笑顔で甘味を頬張っている彼女を見ると、これは正解だったようだ。 それに、幸せそうにしている彼女を見ていると俺も嬉しくなる。 「――と、こう私ばかり楽しむのも申し訳ないですわね」 彼女がスイーツを食べる手を止めてこちらを向く。 こちらとしては、彼女が楽しんでくれればそれでいいのだが。 「んー、どれかいい感じのものは……」 彼女は品定めするように手を動かし、何かを閃いたような顔になった後、モンブランを手に取った。 「これでしたら……はい、あーんっ、ですわっ!」 手に取ったモンブランの頂点にある甘栗にフォークを突き立て、それを俺に差し出しながら彼女は満面の笑みでそう言った。 「えっ。いや、良いんだぞ別に」 戸惑いながらそう返す。 なぜなら、モンブランの甘栗が彼女の一番お気に入りの部分であることを知っていたからだ。 「私はトレーナーさんに食べて欲しいんですのよ。――それとも、私のあーんを受けてくださらないのですか?」 うむ。そう言われてしまったら食べるしかない。正直"あーん"は少し恥ずかしいが…… 「あ、あー、ん?」 そう言いながら少しぎこちなく口を開け、彼女のフォークを待つ。 そんな俺を見て、彼女は微笑みながらフォークを口に近づけ―― ――口に入る直前にフォークを引っ込め、そのまま自分の口に放り込んだ。 口に栗を含んだ彼女が悪戯っぽく笑う。 あっけにとられ、口を半端にポカンと開けたまま硬直していると、突然彼女に後頭部を両手で掴まれ、そのまま強引にキスをされた。 予想外の連続に脳のリソースが追い付かずフリーズしていると、口の中に何か硬いものが放り込まれた。 驚きながら舌でそれを確認してみると、どうやら栗のようだった。 ――なるほど。 状況を理解したころには、既に彼女は両手を離し、唇を離そうとしていた。 とりあえず逃がさないように今度はこちらが両手で彼女の頭を掴む。 「んんっ!?」 すると反撃を予想していなかったのか、彼女が目をまん丸にして驚く。 受け取った栗を舌で少し転がした後、前歯を使って栗を半分に割る。 そしてそれを驚いている彼女の口の中に放り込んで、ついでに軽く舌を絡めてから彼女を解放する。 「んっ……もう」 「仕返しだ」 少し不満げにこちらを見つめる彼女に微笑みながら返す。 「でしたらこちらも……こうですわっ」 すると今度はショートケーキのイチゴを先ほどの栗と同じように口に含み、抱き着きながらキスをしてきた。 こちらに体重をかけて身体を預けてくる彼女の腰に手を回して、先ほどと同じようにイチゴを噛み分けてキスをしながら彼女へ押し返す。 それが終われば今度はチョコを、グレープを、メロンを、色々なものを二人で分け合いながら食べた。 「あのー、お二人さん、そう言うんはできれば二人だけのときにやってくれんやろか」 声に反応して目を向けると、そこには心底呆れた表情のタマモクロスが立っていた。 「仲ええのはええことやけどな、もうちょい周りは見た方がええで」 そう言われ周囲を確認すると、食堂中のウマ娘たちやトレーナーたちが全員こちらを見ていた。 中にはいくつか見知った顔もある。こちらを指さしながらひそひそと話をしている者もいた。 そのことにマックイーンが気付くと、顔を真っ赤にして急いで残ったスイーツを食べ始めた。 恥ずかしくてもスイーツは食べきるのか。 ――そんなことを考えながら、甘味を口いっぱいに頬張る彼女の頭を撫でようと手を伸ばしたら、後頭部をタマモクロスに思いっきり叩かれた。 すごく痛かったので、とりあえず今度から彼女は怒らせないようにすることにした。 8 寮の一室、皆が寝静まった真夜中のこと。 薄暗いワンルームの部屋で、ベッドの上に座って向かい合う2人を脇に置かれたランプが照らす。 事に及ぶのはこれが初めて、というわけではない。 しかし、色事の始まりというのは何度目になっても少し緊張するものだ。 「んっ……ちゅっ……」 しばらく見つめ合って、淡く照らされた彼女の頬に手を添えて接吻を交わし、互いの舌を絡ませながら空いたもう片方の手で彼女の寝巻きを脱がせていく。 ボタンを上から順番に外し、脱がし終えたらそのまま胸元へと手を伸ばす。 彼女の控えめな膨らみを優しく、マッサージをする様に指先でなぞると、びくびく、と彼女の身体が小刻みに震える。 胸の先端には触れないよう指を動かすと、彼女は切なげな声を漏らしてこちらの服の裾をぎゅっと握る。その仕草が愛おしくて、つい意地悪をしてしまう。 「んぁっ……んっ、んぅっ……♡」 触れるか触れないか、くすぐるような動きで愛撫を続ける。 裾を掴む力が強くなる。 「〜〜〜っ!!」 今まで触れていなかった先端を人差し指で弾くと、彼女は息を呑んで大きく身体を跳ねた。 彼女の肩を掴んでベッドにゆっくりと押し倒し、自分の服を脱いだ後、残っていた彼女のズボンへと手を掛ける。 「来てくださいまし……♡」 一糸纏わぬ姿で両手をこちらへと伸ばして彼女がそう求める。 予め用意しておいたゴムがしっかり装着されていることを確認し、重なるように上から覆いかぶさってゆっくりと彼女と繋がる。 お互いに両手を相手の背中に回して抱き合い、確かめ合うように唇を重ねて求めあう。 ゆっくり、ゆっくり。彼女の身体に慣らしていくように少しずつ腰を動かすと、抱き合う彼女の腕に力が入る。 「ぁ、ふっ……んんぅ……」 ぱちゅ、と腰がぶつかるたび、甘く蕩ける彼女の声が耳をくすぐる。 「んっ、あっ、あ”ぁっ……♡」 速度を上げると、彼女の声も激しさを増す。 その声に呼応するように気持ちは昂り、より一層燃え上がる。 「あ”っ、あ”あ”っ♡ ぅあ”あ”♡」 盛り上がり始めた彼女の頭を抱き、首元に噛みつかせて声を抑えさせる。 以前、興が乗りすぎた結果、まぐわった翌日に隣の部屋を使っている同僚のトレーナーから「声がうるさいから抑えてくれ」と苦情が飛んできたからだ。 動きが激しくなるにつれ、抱きしめる腕と首筋を噛む力が強くなっていく。 首と背中に痛みを感じながらラストスパートをかける。 「ん”っ、ん”ん”っ、ん”ーっ♡」 首筋に温い吐息の感触。呻き声が限界であることを伝えてくる。 左腕で背中を一際強く抱きしめ、右手で頭を包むと、彼女も両足をハサミのように曲げてこちらの腰をガッチリとホールドする。 そのままピッタリと密着して彼女の奥へと熱を吐き出す。 がくがくと震える彼女を押さえつけるように、彼女を包む腕に力を込めた。 「はぁ……はぁ……っ、マックイーン」 熱を出し切り、一息つく。なおも抱き着いて離れない彼女の背中をトントンと数度叩いて放してくれと合図を送る。 「ん、むぅ……」 少し不満げに腕と足を解き、噛みついていた首から口を離す彼女の頭を軽く撫でて、少しの休憩とゴムを取り換えるために彼女から少し離れる。 「別に、つけなくても構いませんのに……」 ベッドの上に座りながら彼女がぼやく。いや、いくら避妊済みだと言ってもつけておくに越したことはないだろうに。 そんなことを考えながら新しいゴムを手に取って、ベッドに腰掛け取り換えようとすると、手に持っていたゴムを奪い取られた。 咎めるように彼女の方を向くと、枕を抱きしめてうつ伏せに寝転がっていた。 そっちがその気なら、と、うつ伏せになった彼女に近づきぷらぷらと揺らしている尻尾をぎゅっと握りしめる。 するとそれは予想していなかったのか、尾を掴まれた彼女の身体が大きく跳ねる。 掴んだ尻尾を手綱のように引っ張って腰を持ち上げ、四つん這いのような体勢で腰を突き出させる。 左手で持ち上がった腰を掴み、いつの間にか再び熱を蓄えていたそれを、乱雑に彼女に突き立てた。 「ん”っ!? ふっ”、う”ぅ”っ”♡」 ごつ、ごつと奥底を叩けば、抱きしめた枕に顔を埋めて必死に声を嚙み殺す彼女の口から嬌声が溢れ出る。 先ほどとは違う、貪るような遠慮のない責めを繰り返す。途中、腰を掴んでいた左手を離し、彼女の臀部を平手で軽く力を入れて叩くと、彼女は身体を大きく震わせる。 右手で尻尾を引っ張りながら、時折左手で平手打ちをし、しばらくの間そうして彼女を犯し続けた。 「疲れた……」 シャワーを頭から被りながら、ふうっと一息。 あれからずっとこちらが主体となって彼女を責め続け、もう身体は疲労困憊であった。 汗をかいた身体をシャワーで軽く洗い落としていると、不意に浴室の扉が開かれ、マックイーンが入室してくる。 「マックイーン? まだシャワー中だから少し待っててくれ」 「お構いなく。そのままで結構ですわ」 そう言って彼女はこちらに抱き着き、右手で今は萎びた状態のそれを握った。 「……マックイーン?」 「先ほどまで散々良い様にされてしまったので。今度はこちらの番ですわ」 ――――どうやら、休めるのはまだしばらく先になりそうだ。 9 最近、学園での私たち……私とトレーナーさんへの扱いが酷い。 ――いや、理由は非常に明確である。例のメール流出事件以降、キスを始めとしてお姫様だっこや投げキッスキャッチ、果ては口移しまでと好き放題イチャつきまくった所為である。 今やこの学園において"バカップル"と言えば私とトレーナーさんを指し、"色ボケ"だの"アホ面"だのと言った不名誉極まりない称号を欲しいままにしている。というか後者に至ってはただの罵倒である。 ――――これではいけない。メジロのウマ娘として、それ以前に人として。 思い立ったが吉日。早速この決意を伝えに、我が愛しの彼の元へと向かった。 「私、しばらくトレーナーさんと距離を置こうと思います」 「そうか」 私の決心を込めた宣言は、あまりに素っ気なさすぎる一言で一瞬にして流された。 いや、私のトレーナーさんは元々感情表現も言葉も色々と足りてない類の人間ではある。 しかし――自分で言うのもなんだが――彼は割と、いや相当、私のことが大好きである。 なにせ私たちがバカップルと呼ばれるようになったそもそもの原因は、彼が公衆の面前で私に対してキスをした事なのだ。 そんな彼が、他の誰でもない私から「距離を置こう」と言われて迷いなく肯定の返答をしたことは、それはそれは衝撃的であると言わざるを得ない。 「い、良いんですか? しばらくはキスも、添い寝も無しですわよ?」 「……? ああ」 念を押す確認に返ってくるのは簡潔な肯定の一言。 これではまるで、私が引き留めて欲しくてその気もない別れ話を切り出す哀れな女みたいではないか。 「そ、そうですか、ではそういうことで……」 ただ頷いて手に持ったタブレット端末に目を落とす彼に軽く会釈をして退室する。 断固拒否、とまでは行かなくとも苦い顔をされることを想定していたので、こうもあっさり受け入れられたのは少し予想外だった。 いやしかし、あの彼のことだ、すぐに私が隣にいないことが耐えられなくなって翌日には抱きついて来ながら赦しを乞うに違いない。 溢れる笑みを抑えながら3時のおやつを食べに食堂へと向かった。 「それでね、ウララちゃんが…………あの、マックイーンさん、大丈夫……?」 「……えっ? な、なんでしょう?」 上の空で話を聞いていたマックイーンさんに声を掛けると、案の定素っ頓狂な声を出しました。 ここ最近のマックイーンさんは、常にこんな感じです。そして、その理由には心当たりがありました。 それは、最近話題になっている"マックイーンさんとそのトレーナーさんが喧嘩した"という噂。 マックイーンさんとそのトレーナーさんは、とっても仲がいいということで学内でも有名なお二人でした。 二人は常に一緒にいて、食堂や教室でキスをしていることもそんなに珍しいことではありませんでした。 でも、ここ3日ほどはキスどころか、二人が一緒に歩いているところを見た人すらいませんでした。 『あの隙を見せればイチャつくバカップルが。これは何かあったに違いない』 みんな口を揃えてそう言いました。 そして今、ライスの前にいるマックイーンさんは上の空で、時折ため息を漏らしています。 心配になったライスは、マックイーンさんにお話を聞いてみることにしました。 するとマックイーンさんは、ぽつり、ぽつりと今まであったことを話してくれました。 バカップルと呼ばれている現状をなんとかしたかったこと、そのために少し距離を置くことをトレーナーさんに提案したこと、そしてそれを受けたトレーナーさんが本当に距離を置いてしまったこと。 今のトレーナーさんは、二人がお付き合いする前みたいで、まるで本当に別れてしまったようだとマックイーンさんは不安そうに話してくれました。 「最近、何処かへ一人で出かけているそうですし……もしかして、私のことが嫌いになってしまったのではっ……」 「それは無いと思うな……」 そうしてお話を聞いていると、突然周りがざわめき始めました。 なんだろうと思って周囲を見てみると、マックイーンさんのトレーナーさんがいて、しばらく見渡した後、マックイーンさんを見つけるとこちらへ向かってきました。 「マックイーン、話がある。後でこっちに寄ってくれ」 「え、ええ……わかりました」 それだけ伝えると、マックイーンさんのトレーナーさんはそそくさと何処かへと消えてしまいました。 「……」 マックイーンさんは、俯いたまま黙っています。 「マックイーンさんは……どうしたい?」 「マックイーンさんは……どうしたい?」 ライスさんは静かに、私に尋ねた。どうしたいか、と問われれば、その答えは決まっている。 「私は、仲直りしたいです。仲直りして、また一緒にいたいですわ」 「あぁ、まぁ、とりあえず……マックイーン、誕生日おめでとう」 高級ホテルのレストラン、一通り食事を終えて軽く休憩していると、彼はそう言って話を切り出した。 ――あの後、話を聞くためにトレーナー室へ向かうと、彼から夕食に誘われ、こうしてホテルのレストランへと来ていた。 誕生日。そういえば、彼と結ばれた日も自分の誕生日だったことを思い出した。 今と同じようにホテルのレストランで、彼に告白をしたこと。 そんなことを考えながら、私はただじっと黙って彼の話を聞く。 「それで……その、これ。プレゼントだ」 そう言って彼は、私に四角い手のひらサイズの箱を手渡した。 開けていいか、と彼に目線で許可を求めると彼は黙って頷いた。 「――――!」 開いて、箱の中にあったものを見て思わず息を呑む。 それは、指輪。 喜びと驚きで彼の方を向くと、彼は少し恥ずかしそうにしていたが、すぐに覚悟を決めたような顔になっておもむろに口を開いた。 「マックイーン……メジロマックイーンさん、愛しています。 ――どうか、俺と結婚してください」 気が付けば泣いていた。彼は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにそれが肯定の涙であることを察すると、ただ黙って私が泣き止むのを待っていた。 「……返事、聞いてもいいか」 静かにそう尋ねる彼の前に指輪の入った箱を置いて、私は一言だけ答える。 「指輪、嵌めてください」 私は左手を彼に差し出した。 「余りにもトレーナーさんが平然としていたので……私、嫌われたのではないかと不安になりましたわ」 食事を終え、ホテルの一室でデザートのケーキを食べさせ合いながら彼と語らう。 「ああ……いや、最近は指輪のことで頭がいっぱいでな……そういや何で急にそんなこと言いだしたんだ」 フォークに刺した栗を差し出しながら、彼が不思議そうに尋ねる。 「色々ありまして……まぁでも、これで一つ分かったことがありますわ」 彼から栗を口で受け取って椅子から立ち上がり、彼の膝に座っていつかのように口移しで分け合う。 「私、こっちのほうがずっと幸せですわ」 10 トレーナーのホンネを隠し撮り!あのトレーナーたちの裏側に迫る! 夜のトレーナー寮、同僚たちとの酒盛りに興じるトレーナーたちを激写! ここでしか聞けない本音や裏話が目白押し! ※これは実話であり、隠し撮り、専門家の分析、関係者の証言を元に構成しとるで (トレーナー寮の大部屋で酒盛りしている数人のトレーナーが映される) 「そう言えばさ、ぶっちゃけみんな担当とどうなんだ?」 (G.Sトレーナーが話題を切り出す) ※G.Sトレーナーは話の引き出し役として撮影協力しています 「M.Mトレーナーとかなんか面白い話ないの?」 「なんで俺」 「どうせお前ら毎晩のようにうまぴょいしてんだろ」 「ん……そうだな」 「この前のことなんだが……テレビを見終わって一緒に風呂に入ってるとき、あいつが口で迫って来たから、してもらったんだが……」 G.Sトレーナー「だが?」 「……噛まれた」 (スンと静まり返るトレーナーたち) G.Sトレーナー「……うん、よし、次行こう」 G.Sトレーナー「S.Sトレーナーは?」 「この前の風呂上がりのブラッシングのときだけど」 「尻尾をブラシで触ったら声を上げてすごく可愛かった」 「その後の『ウワーッ!』もすごく盛り上がったし」 「『ウワーッ!』してる最中に名前を呼ぶと、すき、すきって返してくれるんだ」 「またやろうかな」 G.Sトレーナー「そりゃよかった」 G.Sトレーナー「んー、よし、次G.Wんとこ!」 「え、あ、俺か」 「そうだなぁ、実はこの前"見せ合い"したんだけど」 G.Sトレーナー「みせあい」 「うん、『ウワーッ!』の見せ合い」 「提案されたときは、それ何が良いんだって思ったけど」 「やってみると、案外良かったよ。なんかこう、アブノーマルな感じで」 「結構盛り上がって……終わったときには2人ともベトベトだったな」 G.Sトレーナー「そうですか」 その後もトレーナーたちは、各々担当たちとのエピソードを語り続け、その酒盛りは深夜まで続いたという。 トレーナーたちの語らいの全編は、DVD & Blu-ray『トレセン! トレーナーたちの本音と裏話』(税込 9900マニー)に収録! トレセン限定裏ショップにてお買い求めください。 ※CMの後は新コーナー『今日のトレーナー 〜ソロだっち編〜』を放送いたします 11 「すぅ……んんぅ……」 肩に感じた重みとそこから聞こえてくる穏やかな寝息によって、意識が本から呼び戻される。 隣を確認してみると、マックイーンがこちらの肩に頭を乗せてすやすやと眠っていた。 どうやら読書に夢中になり過ぎたらしい。窓から外を覗くと既に空は赤くなっていた。 彼女を起こしてやるべきか、それとも少し寝かせてやるべきか。 少々黙考した後、両膝を閉じて枕を作り彼女を起こさないように細心の注意を払いながら、肩に乗っかった頭を膝上へと移動させた。 「んっ……すぅ……」 膝の上へ頭を乗せると、彼女が少し反応を見せた。 一瞬起こしてしまったかと心配したが、膝下の彼女は変わらず寝息を立てている。 それにしても、読書中に居眠りとは。少々疲れが溜まっているのだろうか。 彼女は少し無理をし過ぎる嫌いがある。こうすることで彼女が少しでも楽になればいいのだが。 「すぅ…………すぅ…………」 可愛い寝息を立てる彼女の頭を起こさないようにそっと優しく撫でる。 彼女の長い髪はさらさらと柔らかく、シルクのようでつい、いつまでも触っていたくなってしまう。 そうして髪を撫でるたび、少しへたれた彼女の耳がぴくぴくと動く。 「んっ……ぁ……」 つい触りたくなる誘惑に駆られて耳へ手を伸ばすと、少し身体を震わせて彼女が呻いた。 ――しまった。 つい先ほど彼女を休ませようと決めたばかりだと言うのに。 自身の欲望に負けて彼女の休息を妨害するようではトレーナー失格である。 ゆめゆめ気を付けねば。 耳を触ったことについて自戒していると、彼女が口をまごまごとさせている事に気が付いた。 口寂しいのだろうか? ……いや、流石にそれはないか。 などと考えつつ、何となくぽつんと開いた彼女の口へと指を伸ばす。 人差し指を彼女の下唇へぴとりと当てると、それをおしゃぶりか何かと思ったのか、口へ含んでしゃぶり始めた。 温かい感触と軽く吸われる感触が指を包む。 少しくすぐったかったが、膝の上ですやすやと眠りながら人差し指を懸命に咥える彼女は、まるで幼子のようでとても愛らしかった。 「……なぁ」 ふと背後から声をかけられ、そちらへ振り向く。 そこには彼女の小さな体躯に似合わない大きなハリセンを肩に担いだタマモクロスの姿があった。 何時に無く真剣な表情でこちらをしばらく見つめた後、彼女はおもむろに口を開いた。 「何か申し開きはあるか」 彼女からの問いかけに熟考した後、彼女を怒らせないよう懸命に言葉を選び、答えた。 「タマモクロス」 「なんや」 「図書室では静かにしたほうがいい」 全力のハリセンがこちらに向かって振り下ろされた。 痛かった。 12 塩加減は良し、後は隠し味にこのお薬を入れて……これでお夕飯の準備は完璧ですわ! ちょうどそろそろ彼が帰ってくる時間ですし、お皿に盛り付けて―――― あら、この音は……噂をすれば、ですわね。 ――お帰りなさい、あなた。 ご飯にします? お風呂にします? それとも――んっ…… ……そうでした、まずはお帰りなさいのキス、でしたわね。 はむっ、んっ……ちゅっ……♡ 「「「いただきます」」」 どうですか? ……美味しい? それは良かったですわ! ふふっ、今日のお夕飯は少し気合を入れて作りましたの。 私のおすすめはこのカボチャの煮付けで――あら。 あなたったら、ほっぺたにご飯粒が付いていますわ……もう、仕方のないお方。 あむっ……ふふ、ごちそうさま、ですわっ♡ さて……あ、ライスさん? そこのお醤油取って貰えます? ……ありがとうございます。 ――と、はい、あなた。カボチャの煮付けですわ。 食べさせて欲しい? ふふっ、初めからそのつもりですわ♡ はい、あーんっ……あら? ライスさん、もうご馳走様ですの? ……先にお風呂に入る? あっ、でしたら久しぶりに3人でお風呂に―――― 1人で大丈夫? ……そうですか、でしたら私たちは後で一緒に入りますわ。 …………反抗期でしょうか? …….あなた、あなた。 起きていらっしゃいますか……? いえ、その……あなたは、私と一緒になって後悔していませんか? 私? 私はとても幸せですわ。 ――確かに、この生活は豊かだとは言えませんわ。 お食事は質素ですし、お風呂は2人で入るには少し狭め。 お布団も寝心地が良いとは決して言えませんし、夜は隙間風が入って来ます。 ……ですが、こうして家族3人、川の字になって寝られることが、そんなことはどうでも良くなるくらい幸せなんです。 しかし……時々思うんです、もしかしたら、あなたに我慢させているのではと。 私と一緒になって、本当にあなたは――んっ……ぷはっ。 ……もう、急にキスだなんて。……私と一緒にいるだけで幸せ? 私がいれば他は何もいらない? むしろ信じてくれてなくて少し悲しい? …….そうでしたわね、ごめんなさい。 私も、あなたがいればそれだけで最高に幸せですわ。 ――んっ……ちゅっ……れろっ、んっ……♡ ……! もう、あなたったら、んっ♡ ダメですわっ♡ この娘が起きてしまいますっ♡ あっ♡ あっ♡ あなた♡ あなたっ♡ だいすきで……あら? なんでしょう、ライスさん。 ……仮とは言え寝ている娘を挟んでうまぴょいしないで欲しい? 確かにライスさんの言うことも一理ありますわ。 ですが、娘が寝静まってからあえて娘を挟んでうまぴょいをすることで娘を起こさないよう必死に声を抑えないといけないことや本来推奨されるべきでない行為を行う背徳感から来るスリルがうまぴょいをより一層興奮するものに待ってくださいまし! 待ってくださいまし! ブルーローズチェイサーはやめてくださいまし! あーーっ! あーーーーっ!!