今日は久しぶりのお休み! 友達とカラオケ行ったり、ゲーセン行ったり!すごい充実してたって胸を張って言えるね! けど、そんな時間ももう終わり。 夕焼けに染まった帰り道。スキップしながら帰っていると。 「……うん?」 向かう道の先に、誰か居る。 普通じゃない。ふらりふらりと、広い道の全部に足跡をつけようとしてるみたいに、ユラユラ進んでる。 その人は、ゆっくりと、こっちに向かってきて……。 近くに来て見えた顔。その人は、すごい見知った人物だった。 「……トレーナー?」 何を隠そう、ボクのトレーナーだったのだから。 「ど、どうしたの!?っていうか、大丈夫!?」 今も上半身をユラユラさせるトレーナーに、慌てて近寄る。 近寄って目の前に立って……思わず顔をしかめちゃった。 「ふぎゃ!お、おさけくしゃ〜!?」 よく見たら、トレーナーの顔が真っ赤! それに、顔は前に立ったボクに向いてるけど、目はどっか遠くを見てるし! 「トレーナー……ほ、本当にだいじょーぶ?」 一応、確認。 「……あ〜……こん……にちは」 ……ダメそう。 トレーナーの腕を引いて、オレンジ色の道を歩く。 あのままにしてたら、何処に行くかわかったもんじゃないし! 夜になる前から酔っ払っちゃうダメダメトレーナーにも、テイオー様は寛大なのだ! 「ほら。こっちだよ、トレーナー」 「……ありがとう、ございます」 ……むぅ……なんだか、他人行儀だ。 「……貴方……テイオーに、似てますね」 「へ?」 「知ってますか?……トウカイ……テイオー」 ……知ってるも何も、本人なんだけど……。 ぐでんぐでんになってるトレーナーは、ボクが誰なのかわかってないみたい。 いくら酔っ払ってるとはいえ、担当してるウマ娘の顔もわからないなんてさ!酷くない!? ……担当ウマ娘っていうか……もっと、大事な関係なんだけどなぁ……。 「はぁ……」 ボクが漏らした大きな溜息にも気づかずに、トレーナーはぼんやりと連れられてる。 ちょうど、横断歩道で立ち止まったタイミング。トレーナーが、呟いた。 「先輩たち……ひどいんですよ……」 「え?」 「仕事忘れて羽目外せなんて言った癖に……次の大きなレースは誰が熱いとか言い出すんですから……」 「……」 ……愚痴だった。真面目に耳を澄ませたのが、バカみたいじゃないか。 でも、めずらしいな。 ボクの前では、トレーナーはずっと真面目だったから。 ……ううん。 きっと……いいや、絶対、ボクの前じゃなくても真面目だね。 トレーナー室には、教本ばっか。そこ以外でたまに会う時も、考え事してる事が多いし。 となると、今のトレーナーは、普段人には見せない姿ってわけだよね。 そう考えてみると、なんだか嬉しくなってくる。 トレーナーの……好きな人の、これまで知らなかった事が、知れたんだもん。 今まで引いてきたトレーナーの手を、腕を、今度は抱き寄せて歩く。 好きな人のすぐ隣。あったかさを、すぐ近くに感じる。 ……そうして歩いてたら、ふと思いついちゃった。 嬉しい気持ちが、ちょっと試してみたくさせたのかな。 「ねぇ、トレーナー」 さっきトレーナーが話してた次の大きなレースっていうのは、多分ボクも出るレースだ。 「次のレース、さ」 ……だから。 「誰が勝つと思う?」 「テイオーが勝つ」 即答だった。さっきまでふにゃらふにゃらしてたのに、ハッキリと言い切った。 慌てて、隣のトレーナーを見上げる。 迷いなく、前を見つめてた。 思わず息を呑んで、見惚れちゃったよ。 だって、いつもの困り顔なんかじゃなく、たまに見せてくれる顔なんだもん。 ……ボクの大好きな……恋した、カッコいい顔だ。 もしかして、酔いが醒めたのかな? と思ってたら、カッコいい顔のまま見えてるはずの電柱に真正面からぶつかった。 ……締まんないなぁ……もう……。 帰り道も、あとわずか。 ボクがくっついてたおかげか、電柱にぶつかった後は静かについてきてくれた。 トレーナーの寮まで、もうすぐだ。 このトレーナーと一緒に居れる時間も、終わりが近づいてる。 ちょっと寂しい……けど、トレーナーは変わらずぼんやりしてる。 ……今なら、聞けるかな? 不思議と二人だけしか居ない道。ちょうど、いいかも。 「トレーナー」 歩きながら、トレーナーに声を掛けた。 「トレーナーは……テイオーの事をどう思ってるの?」 ずっと、気になってたんだ。 ボクは、トレーナーが好き。大好き。 ……でも。トレーナーは、一回も、ボクに好きって言ってくれた事が無い。 トレーナーは、ボクの事が、好き……だよね。 普段真面目だから、恥ずかしくて言えないだけだと思うけど。 だから……今なら、聞けるかなって。 「俺は……」 「……」 「俺は、テイオーの……」 ゆっくりと言葉を紡いでいくのを、見守る。 もうちょっとだ。もうちょっとで……。 「……うぶ」 「え゛」 突然、水が混じったような音がした。 今まで静かにしてたトレーナーが、飛び跳ねるようにボクから離れて。 すぐそこの草むらに顔を突っ込んで……え? 嘘でしょ?こんなタイミングで、ウソだよね?じょ、冗談キツいよ!?ねぇ!? ……あ〜〜〜〜〜〜〜。 結局、聞きたかった事は聞けなかったや。 「わわっ!?トレーナー!?こんなとこで寝ちゃダメだってぇ!」 けどまぁ、いっか。 「ちょっ!ボクは枕じゃな……抱きしめちゃ……ダメぇ……」 このテイオー様は、ダメダメでろでろトレーナーにも、とーっても寛大なのだ! ……けどね? いつか、トレーナーからね! トレーナーからじゃないと、ダメなんだからね! ……“好き”っていう証明!して欲しいな!