「できればもっと有名な温泉地がよかったよなあ…」
申し訳なくこぼす。けど、テイオーはしっかりと首を横に振る。
「ううん、ここはここで楽しいよ！ボクら以外のお客さんほとんどいないから、
　温泉も貸し切り状態で！怒る人もいないからって、いっぱいふざけちゃった……えへへ」
小さく舌を出して笑う様に、ちょっと救われる。
「そうか？」
「うん。それに昼間だっていっぱい遊んだじゃん？」
言われてみればそうか。
渓谷以外には本当に何一つない辺鄙な場所だが、それ故自然のスポットは有り余ってる。
拓けた高台まで山道を登って渓谷を眺めたり、鮎釣りをしたり、宿の庭でバドミントンしたり。
有意義といえば確かに有意義ではあったと思う。

「よかったよ、楽しんでくれたなら」
「うむ。元よりトレーナーのポケットマネーでの旅行、さほど期待しておらんぞよ」
「コイツ、言ってくれる！」
ポーズだけの拳を振り上げると、テイオーも大げさに驚いて逃げてくれる。
茶化してくれたおかげで変な気がかりはすっかり消え去ってしまった。
「あ、トレーナー。あれ見て」
ふとテイオーの目線が一方向に定まる。
それを追うと廊下のどん詰まりにUFOキャッチャーが置いてあった。
「こんなのあったんだ、着いた時は気付かなかったや」
興味を示したようで、テイオーは筐体に走り寄る。
「あ、これボクだ！」
「どれどれ……お、本当だ」
こちらに背を向けているが、赤いマントを羽織った貴公子のような勝負服は間違いなくテイオーのそれだ。
こんな僻地にもウマ娘グッズはしっかりと浸透してるらしい。

「こんなサビシーとこにいちゃかわいそ。よしよし、ボクが連れ帰ってあげるよボク♪」
そんなおふざけを口にしつつ、テイオーはお金を投入してクレーンを操作し始める。
「奥行きはこの辺で、ここで止めれば……ほらドンピシャ！」
得意げなその言葉通り、アームはターゲットのぬいぐるみをガッチリと掴んで払い出し口まで運んでくる。
「楽勝、楽勝！いらっしゃーい♪」
トサリと軽い音を立て落ちてきたぬいぐるみをテイオーは屈んで取り出したが、
「なんだよコレぇぇーーーーーっ！？！？」
その直後に素っ頓狂な叫び声をあげる。一体なんだと手に抱えたそれを覗き込んだ俺も、目が点になった。
全体的なデザインは確かにテイオーなのだが、顔が朱に染まり白髪はワンポイントでなく髪の中央部を広く占めている。
後ろ髪は存在せず、房もないひょろ長な尻尾を付けたそれは──……
「これじゃあまるでサルじゃんっっ！！！！」
やっぱりそう見えるよな、とテイオーのツッコミについ頷いてしまう。
「──あ。どうやら本当にそうみたいだぞ」
「えぇ？」

付属しているタグに書かれている一文。

「ボクが猿山の帝王様だー！」／トウカイエンオー

「な、な、なんでえぇーーー！！？なんでボクがサルなんだよぉーーー！！」
「どうやら悪質なパチモンらしいな……」
語るまでもないことだがウマ娘は世間から愛される存在であり、グッズの売り上げも相当なものだ。
なので無許可の偽グッズを販売して儲けようとする輩が後を絶たず学園側も対応に追われてると、以前たづなさんがぼやいていたのを思い出した。
それでもまともな店は取り扱わないのだが……さすが僻地。
「それにしても……ブフッ！」
改めてぬいぐるみを眺めて、思わず吹き出してしまう。

明らかにそれと分かる偽物ながらも、製作者のこだわりだろうか。パーツの一つ一つは確かにテイオーを丁寧に模倣したものなのだ。
だからこそ、サルとして仕上がってるそれを見ると──
「ブッ！ぷふっ、ハハハハハハッ！！！」
「ああ〜〜！？笑わないでよトレーナー！笑うなあぁ〜〜〜〜！！」
「いや、そう言われたってこれは……あはははは！！」
「なんなんだよ、もうーーー！ひどいよーー！！」

こっちの態度にテイオーはすっかりむくれて、そっぽを向いてしまう。
「わ、悪い、悪かった。機嫌なお、ふ……くくっ……」
「むうぅ〜〜！フーンだ！！」
さすがに声を震わせながら謝罪しても、許してくれないようだ。
やれやれ……と何気なく筐体に向き直ると、あるものに目が留まった。
「……テイオー」
そっぽを向いたままのテイオーの肩をチョンチョンと指でつつく。
「知るもんか。トレーナーなんて嫌いだよ、もお！」
「テイオー。ちょっと、ちょっとあれ」
「むうぅ〜〜しつこいなあ！なんなのー！？」
肩への刺激にこらえきれずにだけど振り向いてくれたテイオーに、筐体内部の片隅を指し示す。
眉を吊り上げたまま覗き込んだテイオーだったが、途端にポカンとした顔になる。
「え、あれって……」
「……だよな？」

数多のぬいぐるみの中に埋もれ、下半身だけ飛び出てるその一体。
その衣装は俺達にはよく見知ったもので。
「取れるか？」
「一発じゃ難しいかな。でも１クレジット内でいけるよ」
さっきまでの怒りはどこへやら、テイオーはまたお金を入れクレーンを動かし始める。
クレーンは迷うことなく目標に向かい、そして吊り上げるが……
さすがこの手のゲームに慣れたテイオーの読みは鋭い。引き抜いて宙ぶらりんにはできたものの、そのまますっぽ抜けてしまった。
落下したそれはワンバウンドし、こちらに向き直る。
「「ぶわーーーーーーっははははははははははっっっ！！！！！！」」
その顔を確認した途端、俺達は大爆笑した。
「うははははははは！ぶっはははは！！！！」
「うひゃひゃひゃ！あは、あははは！！！」
痙攣を続ける腹を抱え、二人して膝をついてしまう。

「テ、テイオー、あれ、あれ、どうする？」
「取るっ！取る取る、絶対取るっ！」
涙をちょちょぎらせながら、テイオーは筐体を支えにしてなんとか立ち上がる。
そしてプレイを再開しようとするが……
「ご、ごめ、指が震えて、タイミングが……っぷ、ぷははははは！！」
「しっかりしろテイオ〜……プククク！」
こうして俺達はバカみたいに何度も吹き出しながら悪戦苦闘して。
予定より５クレジットも費やして、お目当てのそれを手に入れたのだった。

「やっほーマックイーン！」
「あらテイオー、なんだかおひさしぶりね」
それから二日後のカフェテリア。
一人優雅に紅茶を味わうマックイーンのテーブルに、テイオーが駆け寄ってきた。
「確か担当トレーナーさんとご旅行だったかしら？」
「そーそー！楽しかったよ〜♪これ、お土産ね」
そう言って紙袋から取り出したそれがテーブルに置かれた瞬間、
「ブッ！！」
マックイーンは紅茶を吹き出してしまった。

「な、な、なあああぁ〜〜〜〜！？」
置かれたのは一体のぬいぐるみ。
黒のシックなドレスに身を纏った、薄紫色したロングヘアの──ピンクの丸鼻の豚令嬢。
「なんですの！？なんですのこれはぁぁーーーー！？！？」
「『目黒の土地は全て我が家のものですわ！／メグロピッグイーン』……だってさ」
「テ、テ、テイオーーーーーーーーッッ！！！！！」
テーブルに両手を叩きつけて立ち上がるマックイーンに、テイオーはとぼけ顔で首をすくめてみせる。
「ボクじゃないもーん。どっかのパチモン業者のしわざだも〜〜〜ん！」
「あ、あぁ……なんたる、なんたる侮辱！！メジロ家の名誉に懸けて、絶対に悪徳業者を叩き潰してやりますわあぁーーーー！！！」

「やれやれ……」
怒り狂うマックイーンと、机に突っ伏して笑うテイオーを見て俺は苦笑する。
そして自分のスマホに目を移す。
表示されてるのは、正規品の巨大テイオーぬいぐるみを抱きしめピースするテイオーの写真。
昨日旅先から戻ってきた時、どうせならと駅前ゲーセンのキャッチャーでゲットしてきたものだ。
その写真をしばらく見つめ、うん、と一人頷く。
「やっぱり本物は比較にならない愛らしさだな」
それがぬいぐるみのことか、テイオー本人のことかは──想像にお任せする。

おわりです。たまにはKENZENで。

良い…

うーん可愛いテイオーは睡眠不足に効く...

こういうのが口直しにちょうどいい

>うーん可愛いテイオーは睡眠不足に効く...
はよ寝ろ！

良バ場◎

やる気が上がった

パチモン業者の命運はいかに

練習上手になった

うーんこれは癌に効く

私の性癖にはよく合いますねぇ！

>パチモン業者の命運はいかに
業者「良いデートになったろ？後はがんばんな…」（連行されながら）

学園とメジロ家の両方を敵に回すのはさすがにヤバすぎる

ありがとう健康になった気がした

それこそションボリルドルフちゃんストラップとか一部のマニアで人気出してそう

温泉宿の宿泊券って行き場所も予約も取れてるもんじゃないの…？

>温泉宿の宿泊券って行き場所も予約も取れてるもんじゃないの…？
なんとか協会共通無料クーポン的なアレかもしれんし…

晴れ良バ場の皐月賞で大差1着のようなテイオー怪文書ありがたい

>温泉宿の宿泊券って行き場所も予約も取れてるもんじゃないの…？
よく読んで
前回はアプリの通り宿泊券で行けたけど今回はトレーナーの発案だ

寝る前のテイオー怪文書助かる

この清涼感たすかる

ピッグイーンは面白すぎる

ブタスワンダーとかもありそう

しょんぼりルドルフ人形は多分すごいタレ目

モグリキャップ

スペシャルシープ

タイヤスカーレット

ダイスシャワー

>スペシャルシープ
(可愛かったので摘発前に問い合わせて大量購入したサイレンススズカ)

(ひねりにくい名前なのでウオッカはいない)

>(ひねりにくい名前なのでウオッカはいない)
ウォッカになるんだ…

エルコンドルマザー

スーパーブリーフ

魚ッカ…

>ウォッカになるんだ…
見た目がロシア的な感じに…

ピッグラスワンダーはどこデース？

ヘルコンドルパサー

正に温泉地にあるパチモンのそれだ…

>魚ッカになるんだ…