────両親共々、私が高校の時に他界したのだ。
もちろん悪い事情があった訳ではない。家族仲は良好であった。その後は疎遠ながら親族の助けを得てここにいる。しかし、産まれてから目一杯愛情を受けて、暖かく、真っ当に育った彼女に対して、言っていいものだろうか。
濁したとて追求されるだろうし、嘘はいずれバレるだろう。困る、困る、困った────
はたと意識を戻すと、じっとこちらに刺さる視線。
不満げな顔をした彼女が、こちらを見つめていた。
これは何を言っても叱られるだろうと観念して、洗いざらい吐き出すと、意外にも彼女はフラットに聞き入れてくれる。
これが育ちの良さか、と感心しながら胸を撫で下ろすと、おもむろに立ち上がった彼女がこちらに向かってきて────隣に落ち着く。
テイオー第二の定位置と化した私の左隣から、声が上がる。

「じゃあさ、ボクの家の子になる？」
「へぁ？」
思わず返事がすっぽ抜ける。何を言い出すんだ。
確かに突飛な言動は割とある方だが、冗談にしてももうちょっと────そう思った矢先、彼女は二の矢を継いでいる。
「だってさ、ボクの家はパパもママも居るし。お姉ちゃんが増えるなら嬉しいけどな」
「いやいやいや」
至極真っ当な反応をしていると信じたい。なにせ彼女は冗談が下手な上、真剣な顔をしているもんだから、こちらがおかしいような気持ちになるのだ。
上流層でウマ娘のご家庭に私が混ざってたら、色々と問題だろう。そうでなくとも、二十代を半分過ぎてなんとか一丁前に暮らしている成人女性を、今更子に迎えるっていうのはどんな判断か。婿養子か何かか。……婿養子？
はたと気付いてしまったような気持ちをそんなバカなと拭い去ろうと努力していると、彼女の三の矢が飛んできた。

「それとも、ボクと結婚する？」
今度は矢のサイズが随分と大きい。ほとんど投石機である。ちょっと、それは聞いていない。
そんな矢を放ったテイオー自身は、極めて真剣な目をしていた。
困る、困る、困った。
「ボクが歳下だからさ、そっちに籍が入るね」
レース中に等しいほど、本気の表情。
笑顔の中に、マジな空気を内包した表情。
どちらか承諾するとして、ひとまず彼女が成人するまでは待って欲しいが、それを許してくれるのだろうか、この乙女チック王子様は────

ド直球なアプローチで攻めるテイオーか…

私の性癖にはあっていますよ

たまたま開いたスレがトレーナーちゃんでとても嬉しい
それで続きは？

お姉ちゃん…？結婚…？

どうあれ家族に迎えてしまえばトレーナーちゃんを独り占めし放題というわけだね？

良バ場◎

このテイオーステップコース外なのにえらい伸び方するな

王子様なテイオーは健康にいい…

テイオーステップが決まったようです

かかり気味かもしれません
大丈夫でしょうか？

お姉さんなのに年下の女の子にいいようにされるのいい……

お姉ちゃんでもいい嫁でもいい
僕のものになって

結婚したらウマ娘って苗字どうなるんだろ
田中テイオーとかになるんか？

ずっと一緒に歩むって決めたからね
簡単に離さないよ

マヤのトレーナーちゃんと仲良さそう

マヤのトレーナーちゃんも家族ぐるみの付き合いになってたな…