「昨日はボクの言った通り……ちゃんと家に帰って寝た?」 テイオーが扉にカギをかけて振り向く。 笑顔に妙な圧を感じるのは気のせいだろうか。 「いや、その、テイオーのマッサージが気持ちよかったから、そのまま……ここで……。」 『あのキスで腰が砕けた上、股間が大変なことになってて動けなかった。』なんて流石に言えない。 「へぇー。ボクの言ったこと、無視したんだ。」 「その、眠くなっちゃったから、無理して帰るのもあれかなって。ごめん。」 「まぁ、いっか。今日こそは家に帰りなよ?」 「あ、ああ、もちろん。」 呑まれそうな迫力を感じる。 昨日のことを意識してしまう。 「じゃあミーティングしよっか。ボクのレースプランと、あと何かある?」 助かった。変わった話題に飛びつく。 「そ、そうそう、定期健診!いつにするか決めなきゃ。テイオーケガしやすいんだから。」 「うぇー。まぁケガしたくもないし行くけどさ、来週の土曜日でいい?」 「うん、いいよ。じゃあ、後はレースプランだねー。ちょっと待ってね。」 テイオーから逃げるように、レースの資料を取りにデスクへ向かう。 デスクの引き出しをゴソゴソ漁って資料を見つけると同時。 ふと視界に影がかかる。 テイオーだ。 背中に柔らかなものを感じる。 首に両手が回される。肩に顎が乗る。 ぞわり、と鳥肌が立つ。 「何に出よっかなー。大阪杯とかどう?今年はG1尽くしにしちゃおうよ!」 「その、テイオー、距離が、」 「え?2000mとかチョートクイな距離だよ?」 キョトンとした顔でこっちの顔を覗いてくるテイオー。かわいい。違う、そうじゃない。 『異性なのだからあまり距離が近いのは』……と注意をしようとして気づく。 昨日のキスを咎める事が出来ない時点で、もう何も注意出来ないのでは……? 「どしたの、トレーナー?」 「い、いやなんでもないよ。うん、大阪杯からにしようか。そのあとは宝塚記念とか?」 「うん、そうしよ!」 とりあえず現実逃避してレースプランを練る。 また今度、注意する理屈は考えよう。 「……こんなところかな。じゃあミーティング終わり。今日は解散。帰ろっか。」 ミーティングも終わったし、今日はテイオーにも言われた通り家に……。 「んー?ミーティングは終わりだけど解散はまだでしょ?」 え。と言う間もなく、テイオーが俺の体ごとイスをくるりと回す。 肩に置かれた手は柔らかいが力強い。 「昨日家に帰れてない、疲れたトレーナーへのマッサージとー。言うこと聞かない悪い子へのお仕置きがまだだよね……?」 テイオーがニッコリと笑った。