「うおおおおおッ!」 「いくぜえええええ!!」  テーブルを挟んだゴールドシップと俺は、互いに腰溜めにしていた拳を抜き放つ。 「「最初はグー!」」 「「じゃんけんぽん!!」」  互いに突き出した手。その形を視界に収めた瞬間俺はヘルメットへと手を伸ばす。そしてゴールドシップが掴みに行くのはハリセンだ。  ウマ娘の膂力から繰り出されるハリセンの一撃は、おそらく頭蓋を激震させるほどに重いものとなるだろう。それを受けるにはヘルメットが必要不可欠である。  ゴールドシップは俺の頭をハリセンで叩こうとする。俺はヘルメットを被ろうとする。刹那が生死を分ける真剣勝負は、ほんの僅かな差で、それこそ間一髪と表現すべき差で俺の優位に傾いた。  すぱぁん。  乾いた音がターフに響き渡る。ハリセンがヘルメットを叩いた音だった。 「やるじゃねえか……!」 「簡単に負けるようじゃウマ娘のトレーナーなんてやれないんでな」  互いに額の汗を拭う。  勝負は5戦5引き分け。どちらもヘルメットに阻まれて有効打を与えられていない状況だ。 「今度こそ決着を付けてやる!」 「こい! アタシに勝てたら噴水で木魚養殖してやるよ!」  ばちんと頬を張る。これまでの応酬で俺の神経は研ぎ澄まされていた。 「「最初はグー!」」 「「じゃんけんぽん!!」」  ゴールドシップが出したのはグー。俺が出したのはパー。  すぐさまハリセンを握りしめる。いまだけはゴールドシップがヘルメットをとるより早いという確信があった。なぜならば俺のパーは彼女の目線と垂直方向に出したのである。すべての指が重なり一本の線に見えた手は、すぐにはパーと認識できまい。  ゴールドシップがヘルメットを掴む。だがもう遅い。俺は既にハリセンを振り上げていた。  勝った。  すぱあん。 「……な、何ッ!?」 「ヘッ、あめーな!」  プラスチックを叩いたような硬質な響き。それもそのはず、俺のハリセンはゴールドシップの頭でなくヘルメットを叩いていた。彼女は俺の小細工によって僅かに出遅れ、しかし大きく頭を下げることでヘルメットとの距離を短くし、高速の防御を実現していたのである。 その時、ふと閃いた! このアイディアは、メジロマックイーンとのトレーニングに活かせるかもしれない!