タケルが家に近づくと、庭から母の歌声が聞こえる。  洗濯物を干しながら歌っているのだろう。  彼女は掃除をしていても料理をしていても、お風呂に入っていてもいつでも歌っているサキュバスだ。  ────ウエノハツノ ヤコウレッシャ オリタトキカラー 「あ、タケル君のママの歌……」  いつものようにタケルの周りには何人もの女子がまとわりついている。  彼女達にもタケルの母の歌好きは有名だった。  ────アオモリーエキーハ インフィニッティー! 「!?」  突然テンションの変わった歌声を聞いて女子たちがザワッとする。  途中で飽きたな……とタケルは溜め息をつく。  歌声の美しさには文句がないが、歌の途中でも気が変わったら容赦なく別の歌に飛ぶのが母の歌の厄介なところだった。  最後まで歌ってくれないので母の歌の歌詞はだいたいよく知らない。 「ただいま、おかーさん」 「アラ オカエリナサーイ」  女の子達と別れて庭に入ると、母は細い尻尾をヒュンヒュンと振って嬉しそうにした。  まだ10代にしか見えないが、サキュバス族としてはそれが普通だ。15〜25歳程度で老化が止まり、以後寿命までほとんど老けない種族である。 「おやつある?」  ベランダから家に上がりながら聞くと、後について上がりながら母は聞きなれた答えを返してきた。 「イチゴノノッタ ショートケーキト ヤサイジュースー」 「……野菜ジュースいらない」 「ノメ」  タケルに笑顔を向けたまま有無を言わさない母。  他の事は結構甘いのにこれだけは譲らない。 「苦いのに……」 「カラダニイイノヨー」  冷蔵庫に屈みこむ母。尻尾はまだ楽しそうにヒュンヒュンと振られている。  短いスカートからパンツが見える。  繰り返すがその体は一般的には十代後半くらいにしか見えず、細く瑞々しい太股も、薄緑と白のボーダーのパンツも、最近エッチなことに目覚め始めたタケルにとってはドキッとするものだった。 「っ」 「ドウシタノー?」  母は野菜ジュースを保存した容器を片手に、一瞬挙動不審になったタケルを不思議そうに見る。 「い、いつも思うけどさ、お、おかーさんスカート短すぎねーか?」 「エッチー」 「い、いやそんなんじゃねーよ!」 「ウフフ タケルクンモ ソウイウノ キニナルトシニ ナッタカー」  むしろ楽しそうにジュースを注ぐ母。 「ソンナノ キニスルカラ キニナルノヨー」 「だ、だって……」 「ママノ ハダカナンテ イツモミテルジャナイー」  母はそう言って笑う。  そうなのだ。  もう小学校にも上がって随分になるが、母は今でもお風呂で頭を洗ってくれる。 「な、なんかこういうのってさ……本当は小学校上がったらやめるモンなんだろ? 俺、こないだマンガでそういうの見た」 「ヨソハヨソ ウチハウチ-」 「それですましていいのかな……」 「マカイハ ミンナ ジョウシキ バラバラ ダカラネー」  母はタケルにざばーっとお湯をかける。  湯のカーテンの後には、スレンダーにまとまった裸身を惜しげもなく見せながらタケルを撫でる母の姿。  やや小ぶりとはいえクラスの女子たちに比べれば立派に自己主張する二つのおっぱいが、少年の頭から飛んだ泡をつけて小さく揺れている。 「ハイ オユニ ツカリマショーネー」  タケルの手を引いて湯船に入る。  本来、大人が一人で入るのがちょうどいい長方形の浴槽は、もう小学生になったタケルが母と二人で入ればどうしても狭い。  母に後ろから抱きかかえられるようにしてタケルは湯につかることになり、さっきは正面にあったおっぱいが背中にぷにゅっと当たる。 「…………」  タケルはその感触を拒むことができない。身を前傾させれば離れることができるとしても、やっぱり男として魅力的な感触なのだった。 「オチンチン タッテルー」 「し、しょうがないじゃん、たっちゃうんだから」 「ウフフ カーワイー」  ぎゅっと抱き締める母。  いっそう強く胸が当たる。  ふと、タケルはそのおっぱいは本来母乳を出すものだという知識を思い出す。  自分も、この母のおっぱいを吸っていたんだろうか。 「……ね、ねえ、おかーさん」 「ナーニー」 「俺ってさ……いつまでおっぱい吸ってたの?」 「…………ンー ソーダネー ジツハ ママモ シラナイー」 「は?」 「アカチャンノ コロハ タケルクント ママ ハナレバナレ ダッタカラネー」 「……そ、そうなの?」 「ダカラ ママ タケルクンニ オッパイ スッテモラッタコト ナイノー」 「……そ、そうだったんだ」  そう言われて、改めて振り返って母のおっぱいを見る。 「フフ イマカラデモ スッテミルー?」  母は少年の視線に困り笑いを浮かべつつ、そう提案してくる。 「い、いいの?」 「ママハ タケルクンノ ママ ダカラネー」 「……っ」  ごくんと生唾を飲み込む。  そして。  そっと、その乳首に……舌を、つけた。 「アンッ」  母はくすぐったそうに鼻声を上げる。  タケルはその反応に険悪なものが含まれていないのを感じ、ペロペロと乳首を嘗め回す。  右を嘗め回し、左を吸い上げ、手も添える。揉みしだきながら乳首をひたすら本能に従って味わう。 「ン……アア……アッ……」  湯気の中で乳首からの刺激に喘ぐ母の姿は、なんとも美しい。  湯の中で尻尾が揺れているのを感じる。よろこびを感じている証だ。  そっとタケルの首の後ろに母の手がかかる。狭い湯船の中でサキュバスと少年がいっそう密着する。  二つのおっぱいを吸いまくり、舐めまくり、だんだんと勃起する乳首に興奮し。  タケルは母の体に溺れ始める。  成熟したサキュバスの肉体は、発情し始めれば例え息子として育ったタケルといえども誘惑せずにはいられない。  たった二人家族の吐息が風呂場に反響する。閉じた世界で悦楽に支配され始める。  だが、湯気の中で極度の性的興奮に包まれ、暴走をするのはタケルの小さな体にはちょっと負担が大きすぎた。 「……は、はあ、はああっ……はむ、ん……」 「……タケルクン?」  気が遠くなる。鼻血が出る。  そう自覚した時には、もう体がいう事を聞かなくなっていた。 「キャーーー!? タケルクンシッカリー!!」  母の甲高い悲鳴を聞きながらずるりとその胸に血痕をつけ、ずり落ちるタケル。  意識はそこで途切れる。  気がつくと母の膝枕で、リビングに寝転がっていた。  二人ともまだ裸のまま。ただ、タケルの鼻にはティッシュが詰まっていた。 「んが……」 「オキタ? ヨカッター」 「……あれ、俺……」 「サンケツニ ナッチャッタ ミタイネー ヤッパリ オフロデハ アアイウノハ アブナイカラ ツギハ ホカノ トコロデネー」 「……つ、次?」 「シナイノ?」  裸身の母が困ったように首を傾げて微笑む。  拒めるわけはない。 「つ、次は……うん」  タケルは視線を逸らして頷く。  母がはたはたと振る団扇が心地いい。 「そういえばおかーさんってさ、昔はアイドルだったって本当? ユリスがこの前、ユリスのおかーさんに聞いたって」 「ムカシノ ハナシヨー」 「……本当なんだ」 「ワカカッタ カラネー イロイロシテタノヨー」 「今でも若いじゃん……」 「デモ モウ タケルクンノ ママ ダカラネー」  魔界の夜が過ぎていく。  昔の魔界はマグマと鬼火と稲光だけの世界だったが、今はマグマは遠く光る観光名所。  鬼火は天高く上り、地上の星々のように。  幸せな母子を見下ろしている。