二次元裏@ふたば

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62292 B26/10/17(土)22:12:02No.1478793182+ 23:29頃消えます
アグネスデジタルの脳内には何百万もの告白シチュエーションが渦巻いていた。
アグネスデジタルは「スラムダンク」が好きであった。
だが好きと言っても少々ベクトルが違っていて、スラムダンクを恋愛漫画として消費していたのだ。
物語終盤の山王工業戦で、いよいよもって追い詰められたところで桜木花道が言う。
「大好きです。今度は嘘じゃないっす」
このページを見てアグネスデジタルは大きくため息をついた。大胆な告白シーン。エモすぎる。
あたしの理想の告白シチュエーションは何だろう。それから毎晩妄想にふけるようになった。
…126/10/17(土)22:12:56No.1478793572+
「すみません、ご注文を……」
そこまで言われてアグネスデジタルは正気に返った。今は令和、ここは鳥貴族だ。
「あ、生ビールジョッキふたつと、あとつくねとねぎまとぼんじり二人前ください」
トレーナーが代わりに注文してくれる。トレーナーと言っても”元”トレーナーだけど、名前で呼ぶのがなんとなく気恥ずかしい気がして、ずっとトレーナーさんで通している。
鳥貴族は居心地がいい。しきりに「もっと高いところに」「デジタルも飽きるだろ」と勧められているが、いつも固辞している。鳥貴族のほうが庶民的で話しやすい。妄想はちょっと裏路地の臭いがするくらいがちょうどいいのだ。
そうこうしているとジョッキが届いて、二人は笑顔で乾杯を交わした。
生ビールが疲れた体に染み渡って、アグネスデジタルはすぐにいい気分になった。
「さて、今日も聞いてもらいましょうか。あたしの理想告白シチュエーションを……」
…226/10/17(土)22:13:20No.1478793759+
それはエアグルーヴ”課長”という妄想であった。トレーナーは部下であった。
「部下なのにトレーナーなの?」
「いいんです! 細かい設定に突っ込むのは野暮ですよ!」
トレーナーは会社の仕事に慣れようと奮闘していたが、生来の鈍さでミスを連発してしまう。
そのたびにエアグルーヴから厳しい叱責を浴びせられるのが常だった。
この仕事自分に向いていないのかもな……と落ち込んだところに、エアグルーヴから直々に飲みに誘われた。
まさか上司の誘いを断るわけにもいかない。内心びくびくしながら一緒に居酒屋に入った。
エアグルーヴはうわばみであった。いくら飲んでも顔が赤くならなかった。
しかしだんだんと口調が変化していくのをトレーナーは肌で感じることができた。
「理想の実現には貴様のようなチャレンジ精神が必要だ」
…326/10/17(土)22:13:43No.1478793915+
「貴様はたわけだが、見どころはある。普段はきつく言っているがそれは愛情の裏返しだ」
「これからも期待しているぞ。今度家に掃除しに行くからな」
飴と鞭を使い分けられ、トレーナーは骨抜きになっていた。
いつもとげとげしい眉があんなにも優しく垂れ下がっている。鬼の課長が労ってくれる。
トレーナーは嬉しいやら、自分が情けないやらで、ジョッキを空にすることしかできなかった。
気づいたときには終電を逃し、エアグルーヴに肩を支えられながら千鳥足で繁華街を歩いていた。
酷く痛飲したのか頭がふらふらになって、言わなくていいことまで口をついて出てしまう。
「エアグルーヴ課長……すみません、俺、俺……」
「すぐにタクシーを呼ぶ。まずは水を飲め」
「課長、好き、好きでしゅ……」
「……ふん、たわけが」
二人の姿は夜の街に消えていく……。
…426/10/17(土)22:14:11No.1478794089+
話が一段落したところでアグネスデジタルはつくねの串を一口頬張った。
タレと肉汁が絶妙なハーモニーを奏でている。麦焼酎が進んだ。
「デジタル。続けてくれ」
言われなくても続けるつもりであった。このアグネスデジタル、妄想に関しては余人に引けを取らない自信がある。
次の話はセイウンスカイであった。ある池に、釣り上げたら巨万の富が舞い込むという主がいた。
トレーナーは釣りの素人であったが、人生を変えるべく池の主に勝負を挑んだのだ。
「にゃはは、トレーナーさんも数寄者だね〜。さて、うまくいくでしょーか?」
池の守り人を自称するセイウンスカイは好奇心半分からかい半分で何かと突っかかってきた。
何日もボウズの日が続いたが、辛くはなかった。
秋の雲のようなセイウンスカイがちょっかいをかけてくるのが心地よくて、二人で何度も笑い合った。
…526/10/17(土)22:14:36No.1478794240+
「ねえ、トレーナーさんが池の主を釣り上げちゃったらさ、私たちの関係も終わりになるんだよね」
「そしたらスカイはどうするんだ?」
「また、どこかに流れていくよ。自分、風来坊ですから。なんちゃって〜」
トレーナーはすでに手段と目的を見失っていた。池に行くのもセイウンスカイに会うためだった。
ある晴れた日の朝、水面に大きな魚影が動いているという報告を受けて、トレーナーは急いで釣り糸を投げた。
魚影は大きく旋回しながら餌の方に近づいてくる。すると。
セイウンスカイがこれまで一度も見せたことがないような切ない表情でトレーナーを見上げた。
トレーナーの袖をぎゅっと握って、懇願するような仕草を見せている。
そこで釣り竿が弓なりに曲げられて、糸に強いテンションがかかった。食いついたのだ。
…626/10/17(土)22:15:02No.1478794392+
トレーナーは即座に反応した。釣り竿ごと池の中に放り投げて、主との戦いを放棄した。
「なんで? トレーナーさん、絶好のチャンスだったのに」
「いいんだ」
秋晴れはどこまでも広く、池の水は鏡のように山並みを反射していた。セイウンスカイの肩を抱く。
「本当に大切なものを、俺はここで見つけたから」
それからのことは多く記されていない。二人の夫婦と思しき風来坊が、街道の宿場町に逗留していたことだけが記録に残っている。
締めの鶏釜飯を噛みしめながら、アグネスデジタルはうんうんと一人頷いた。
妄想ができる。そして妄想を語り合えるトレーナーがいる。これほどまでに幸せなことはない。
「お客様、もう少し声のボリュームを……」店員が注意しに来た。
気づけば、鳥貴族の他の客は全員アグネスデジタルのテーブルに注目していた。
…726/10/17(土)22:15:28No.1478794547+
酔い覚ましに立ち寄った公園で、二人はブランコに乗っていた。
「どうしますかね。あのお店、出禁になっちゃうかも……」
「これくらいの酔客はざらにいるよ、大丈夫」
深夜の公園は人通りもなくひっそりしていて、月がよく見えた。
トレーナーは立ち上がって、アグネスデジタルを導いて、遊具の間を抜けた。
そこにあるのは鉄棒であった。低いものと、高いものがある。高鉄棒は220cmの高さだった。
「理想の告白シチュエーションを聞いていて思い出したよ。俺の親戚のおじさんがいちご100%が好きでね」
「いちご100%、ジャンプの恋愛漫画ですね!!」
アグネスデジタルがまだ生まれていないころの古典漫画だが、さすがに漫画通なだけあってよく知っている。
「そこで主人公の真中が西野に告白するんだけど、その方法というのが鉄棒なんだよ」
「あっあっあっ、わかります! 懸垂して告白するんですよね! 懸垂して告白ってかなり謎ムーヴですけど勢いでなんとなく押し切られちゃうやつ! いいですね〜!」
…826/10/17(土)22:15:55No.1478794706+
トレーナーは両手にぷっと息を吹きかけて、鉄棒にジャンプして掴まった。
だらりと垂れ下がる形になって、単振り子の要領で前後に体をぶらぶら動かした。
「そう! そんな感じです! それで懸垂して『西野、好きだああ!』って――」
あれ?
なんでトレーナーさんは鉄棒にぶら下がっているんでしょう?
酔いに任せてふらふらしていた思考が急激に冷えていく。夜空には星が瞬いている。
え? 嘘。
ひょっとしてあたし、今から告白される――?
あの、デジたんは、東城派ですよ? 西野派じゃなかったですよ? トレーナーさん?
トレーナーの腕に力が込められて、手首に二本の筋が立った。勢いをつけて体を持ち上げる。
均整の取れた体格のトレーナーが懸垂している姿は、自衛隊の訓練のようで、不思議と様になっていた。
…926/10/17(土)22:16:24No.1478794885+
いつまでたっても、待っている言葉は来なかった。
トレーナーは告白しなかった。一回懸垂しただけで着地して、何事もなかったかのように戻ってきた。
アグネスデジタルには様々な感情が渦巻いていた。ほっとしたという気持ちがあった。でも同時にもっと深いところで残念だと思ってしまった。
りりりりという虫の音がしていた。トレーナーは心残りがある表情で、しみじみと呟いた。
「妄想ならば簡単に言えるのに、現実は真中のようにはいかないな……」
その言葉は聞いていいものだったのか。聞き流してもよかったものだったのか。
「トレーナーさん、鳥貴族を爆破しましょう」
アグネスデジタルは熱に浮かされたような顔でそう提案した。
「あたしたちの妄想力で、鳥貴族を崩壊に陥れましょう。ありえないくらいに騒いで、お客を全員妄想の渦に巻き込んで、二人仲良く出禁になりましょう!」
そしてきっと次こそは告白させてみせる。その決意を胸に秘めて、高らかにそう宣言した。
「そうだな」
鳥貴族府中駅東口店、最新の口コミは「ウマ娘がうるさい」で星の数は5であった。
…1026/10/17(土)22:27:42No.1478798930+
鳥貴族に何の恨みが…
…1126/10/17(土)22:28:56No.1478799380+
まあママで担当バとか師匠で担当バとか相方のツッコミ担当で担当バとかいるし上司で担当バくらいいるよな


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