「なぁ、ラーバル。お前好きな子とかいるの?」 「唐突になんだよ!このバカ長男! そういうアンタこそ好きな女とかいるのかよ?!」 「その日暮らしの冒険者に惚れた女なぞいるわけないだろ! 常識的に考えろラーバル!」 「何だよ!俺にだけ言わせようとしていたのかよ! ふざけんな!ぜってー言わねぇ! ライトは好きな子とかいるのかよ?」 「僕、近々で振られたばかりだから…」 「あっ、何かごめん…」 男連中が3人、火を囲んでしょうもないバカ話をしている。私はそれを呆れながら見ている。どうしてこうなったのかというと…。 ―――この出来事の始まりは数日前、コージン=ミレーンとホワイトライトという二人の冒険者が、我が国の参謀であるクァン=ヴェイクロードに会わせろと皇城に乗り込んできたことにある。 当然ながら警護の兵士達が鎮圧に当たったが、彼らはそれを赤子の手を捻るかのように圧倒。私もラーバルも成すすべもなく倒された。 後で知ることとなったが、このコージン=ミレーンという男はラーバルの兄で元聖騎士。あのカンラーク事件に巻き込まれ死亡したとも行方知れずとも言われていた。 普通ならば涙の再会となるところであるが、複雑な気持ちや溜まった鬱憤が抑えきれなかったのであろう、ラーバルは顔も見たくないといった感情が露骨に現れ終始キレ散らかしていた…。 結局事態は偶然居合わせたレストロイカ帝により仲裁がされたが、テロ行為とも取れる彼らの行いには見過ごすことはできず国外退去の処分が下されることとなった。 「―――ということになったが、彼らが素直に我が国から離れるとは思えん。よって立ち合い人を付けることとする。ラーバル、お前がやれ」 「はぁ?! なぜ自分がですか? 俺はコイツらの顔なんて見たくもありません!」 「お前がこの者の身内だからに決まっているだろ。身内の不始末は身内がつけろ。そういえば彼らは二人だな…。ならばジーニャ、お前も立ち合い人となれ」 同期の不始末(?)のせいで、私まで巻き込まれる羽目となった。まぁラーバルの奴と旅をするのは悪い気持ちではないが…。 何だか知らんがその瞬間、陛下とコージン=ミレーンがさりげなくサムズアップし合ってのが妙に気になる…。 「なぁラーバル、いい加減にしろよ。こうやってお前を付き添いにしたのも兄弟仲良くして欲しいという陛下の温情だろ。少しは前向きな話し合いをしろよ」 「ハァッ?! 家庭の事情に首突っ込んでもらいたくないんですけどぉ! 俺がこのバカ長男のせいでどんだけいらん苦労してきたかわかんないだろ!」 「知るかよ! どうせお勉強がキツくなったとかそんなレベルだろ! これだから世間知らずのお坊ちゃんは困るんだよ!」 「それもあるけど、こっちも色々あるんですぅ! あのプレッシャーに比べたら新兵の訓練なんて目じゃないわ」 「へぇ~、泣いてゲロ吐きながらギリギリでクリアしてたやつの言うことは違うなw」 「ちょっ!おまっ!ふざけんな!」 ヤイノヤイノ… ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ ラーバルくんとジーニャちゃんは今日も口喧嘩をしている。しかし険悪な雰囲気はなくむしろどこか楽しそうだ。きっと通じ合っている二人だからこそのコミュニケーションなのであろう…。 以前一緒に旅をしていたゴウさんがよく言っていた。 「なぁライト、今は無理かもしれないが落ち着いたら誰かと恋をしろよ。恋はいいぞー! 気持ちがふわふわして今生きていること全てが幸せに感じる。そんな気持ちを一度味わうと周りの人全てにやさしくなれるんだ。他人の幸せもひがむどころか微笑ましく見届けられて、もどかしい連中には何かしてやりたいって思えてくるのさ。世間じゃこれを気ぶるって言うらしいぜ!」 僕の恋は第三者の策略で偽りのまま終わったけど、あの甘くて優しい気持ちは僕の中に残り続けている。 そしてラーバルくんとジーニャちゃん、二人を見ていると何とかしてやりたい、背中を押してやりたいという気持ちに駆られて行く。そうか…これが気ぶるという感情なのか…。 そんな風に彼らの様子を微笑ましく見ていたところ、ミレーンさんが僕らだけにしかわからないアイコンタクトをする。 「なぁライト、小便に行きたくないか? 悪いがちょっとトイレに行かせてもらう」 「あ~そうですねぇ~。僕、大きい方がしたくなっちゃったからちょっと時間かかるなぁ~。最近便秘気味だから、ひょっとしたら一時間ぐらいかかるかも…」 そう言うと僕はジーニャちゃんをチラ見して小さくサムズアップをした。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ 「ちょっ!お前らどこ行くんだ! 逃げるのか?!」 ラーバルが彼らを追いかけようとすると、彼の兄であるコージンが右手をかざして制する。 「俺たちは用足しに行くだけだ。それともお前は人が脱糞する姿を見たいのか?」 去って行く彼らを見ながら、彼らは何のために私たちを二人きりにしようとしたのかと思考を巡らせた。 逃亡する?それをするなら私たちを倒して幾らでもする機会はあったであろう。 私とラーバルを二人きりにしたい? 会って間もないコイツらから見ても、あまりにも見え透き過ぎてるのかと思うとクソ恥ずかしくてそんなこと考えたくもない…。 その時私に逆転の発想とも言うべきか、天啓が降りた! 「そうか! 彼らは私たちの目を逃れて二人きりになりたいのでは!!!!!!!」 その衝撃的な天啓にはあーうーという唸り声も聞こえたが私はスルーした。 私は追いかけようとするラーバルを引き留める。 「大丈夫だろ…。それともお前は私と二人きりになるのが嫌なのか…」 「な、なんだよ急に…」 おとなしくなったラーバルが私の隣に腰掛ける。 「あいつら一時間ぐらい帰ってこないんだろ…。だったら少しぐらい気を休ませろよ…」 私はラーバルの肩に体を預ける。未だに華奢で頼りない体つきだがなぜだか妙に安心できる…。 時間は私が作ってあげた。あの二人上手くやっているといいな…。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ 「くそ~!じれってー! 何であの二人何もしないんですか?! ミレーンさん!」 物陰からラーバルとジーニャを見届ける不審者が二名がいる。 「待て、あぁいう強情っぱりな人間は周りから言われると余計に否定をする。俺たちにできることは二人きりにさせてアシストすることだ…」 「そういえばレストロイカ帝からこんな気持ちになったら開けろと言われていた包みがあったな…」 「何?そのニッチな条件?!」 『この手紙を見ている時はきっと君たちもあの二人にやきもきしている頃であろう。ぶっちゃけた話をすると私はあの二人をくっつけたい。なので君たちにはその協力をしてもらいたい。彼らがくっつくまではこの国に滞在する許可を特別に与えるので、何なら道に迷ったと言って適当にグルグル廻ってくれ。特命の証としてこの仮面を二人に与える。頼んだぞ気ぶり仮面ホーリーナイトそして気ぶり仮面ドラゴン!』 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ 一時間経ったが特に何も進展しない様子なので俺たちは帰ってきた。 俺たち二人が帰ってくる様子をジーニャがやたらキラキラした目で見ていたが、とりあえずスルーした。 このミッション、オジ=ダハーカ討伐よりも難敵かもしれない予感がした…。