・01 「今日の道徳でやってた立派なオトナってさー、シュウはわかった?」 「ンなもんわかんねー!オレずーーーっとダイシューのコト考えてたゼ!」 夕焼けの中、二人の少年がランドセルを地面に引きずりながら授業の話をしていた。 シュウと呼ばれた少年が頭をボサボサにかきむしっていると、背後から駆け寄って来た少女が驚いた顔で話しかけてきた。 「ちょっと祭後くん、結城くん!何やってるの!」 「おつかれさまです〜」 それは黒い長髪を揺らすいかにも真面目そうな少女と、眩いばかりの金髪が華奢な白い肌に映えるおっとり気味な少女だった。 「いやだってシュウがよ〜こうした方が楽だってよ〜」 「タ、タカアキ!そんなコトより立派なオトナの話しようゼ!」 慌てて黒色のランドセルを背負った少年・祭後終は親友の言葉を遮って強制的に話を変える。 「授業の振り返りなんて祭後くんにしては真面目じゃない?」 「うるさいやい」 ジト〜っとした目でそう言われたシュウは少し怒った顔で悪態をつく。 「ん〜誰かの為に頑張れるヤツ…とか?」 「あら。良い答えじゃないですか?」 金髪の少女に褒められたタカアキは僅かに顔を赤くしながら、パッと逸らした。 シュウはニヤっと笑いながらタカアキの背中をバシっと叩き「ソレを授業で言えよな〜!」と笑う。 「ん〜?それもそうか!」 タカアキの大きな笑い声に釣られ、少女二人も笑うとそれぞれの帰り道に別れていった。 ・02 デジモンイレイザーに囚われた異父妹ミヨを助けるために異世界の冒険を続ける青年・祭後終はデジビートルから顔を覗かせるとその景色に息を飲んだ。 崖に挟まれた参道を通り抜けた先に見えたのは、目の前に果てしなく広がる広大な丘だった。 中心には蛇が絡み付いたような構造をした大きな塔が地の底から生えるように建設されており、無理矢理引き伸ばされた丘は細かい崖や縦ズレの断層がいくつも入り組んでいた。 「ぼーっとしてどうしたンだよ!」 シュウが塔の所々に見える小さな穴を凝視していた所、下から頭を突き上げたユキアグモンによってデジビートルから転がり落ちてしまった。 ユキアグモンも目の前の景色にほえーっと呆けるが、デジビートルの足元でシュウは不満気な顔をしていた。 「お前な…人は階段二段目から死ねるんだぞ?」 「生きてるからいいじゃねぇかよ」 シュウは「よかねぇよ…」とブツブツ言いながらデジビートルを収納する準備を始めた。 丘は通り道として使いやすいように足元が慣らされているようで、シュウの考え通り何かしらの拠点のようにもなっていた。 彼等の予想通り、その影から複数の獣デジモンが飛び出すとシュウとユキアグモンに襲いかかってきた。 「おうおう。当たりだったな」 「準備運動にしてやるゼ!」 ユキアグモンはこちらに向かってくる飛びかかるガジモンに対して獰猛な笑みを浮かべると、体勢を低くしてからダッキングのように懐へ潜り込む。 そして敵の腹をアッパーで殴り、上空へ吹き飛ばしてみせた。 ガジモンがドサッと頭から落ちると他の敵はザワつき、それでもユキアグモンへ向かって牙を仕掛けてくる。 「っしゃあ!かかってこい!」 ユキアグモンは飛びかかって来たサイケモンを捕まえると、振り回しながら他の敵の集団に投げ飛ばした。 突然投げられたサイケモンを受け止められず転倒し、その間にユキアグモンは周囲の敵を蹴散らしていく。 そしてものの数分で獣デジモンの群れを追い返したのだった。 シュウはその様子にほっと息をついてユキアグモンと拳でタッチするが、一人と一匹の顔に影がかかる。 それは上空を飛行していた焦げ茶色の鎧に身を包み、耳のような翼のようなパーツを目立たせるサイボーグデジモン・ブラックラピッドモンであった。 「その程度じゃミヨの元へは行けない…いや、ボクがたどり着かせない」 ブラックラピッドモンの言葉にシュウは目を鋭くさせる。 「お前は何か知っているようだがな」 「ご察しの通りこの塔がイレイザーベースだ。君たちのような障害を排除するためのね」 「ああそうかい。だが今はそれよりも、てめぇがミヨの名前を気軽に呼んだ事が気にくわねぇ」 「警告だけのつもりだったけど、痛い目に会ってもらおうかな」 ブラックラピッドモンはそう言うと各部のスラスターを噴射して飛び上がり、背中のシリンダーのようなパーツからミサイルをバラまいた。 シュウはユキアグモンに体当たりされると、そこに着弾したミサイルは轟音と共に地面を抉っていた。 土煙でブラックラピッドモンの姿が完全に見えなり、今さらシュウのデジヴァイス01に警告音が流れた。 【完全体:ブラックラピッドモン】 「…デジヴァイス01の認識が遅れている?」 「ブラックラピッドモンは気配を消すのが得意だって聞いたことがあるゼ!」 ユキアグモンはそう言いながら周囲に気を配るが、次の瞬間には背後を取られてしまう。 咄嗟に振り向きながら拳を振るうユキアグモンだが、逆にその手を痛めて跳び跳ねた。 「い〜〜っ!?」 ブラックラピッドモンはユキアグモンを無視してシュウの膝・腹に連続で打撃を与え、踞ろうとした所で顔面を蹴り飛ばした。 「障害は排除する。ミヨのために」 ゴボッと血と涎を吐きながら転がるシュウを鼻で笑い、再びスラスターを噴射すると断層の上まで舞い上がって着地する。 なんとかフラつきながらもシュウは立ち上がり、血を吐き捨てる。 「ミヨを助けるまで俺は…いつまでも粘着してやる…」 「おうおう!オレもおめーみたいなスカし野郎は嫌いだからな!ブッ飛ばしてやるゼ!」 ユキアグモンは指をビシッとブラックラピッドモンに向かって突き立てる。 「ちょっと待てそれは俺の事か?」 「…シュウもしかして自分のことをクールな男だと思ってるのか!?」 「俺はクールで頼れる男を演じて…いや、クールそのものだが」 シュウの言葉にユキアグモンはブッと吹き出し「その顔でクールは無理があるぞ!」と笑いだした。 一人と一匹が喧嘩を止めた時、既にブラックラピッドモンはその姿を消していた。 「あ、あれ…」 「アホなことやってる内に逃げられちまった…」 所々に引っ掻きキズをつけたシュウのデジヴァイス01がまたも警告音を鳴らし、再び敵デジモンの接近を伝えた。 「そんじゃまずはアイツらだゼ!」 「た、たすけて…!」 その時飛び出してきたデジモンはイレイザー配下の獣系デジモンだけではなく、ボロボロのエレキモンだった。 ・03 「大丈夫か?エレキモン」 イレイザー配下を追い払ったシュウたちはエレキモンの手当てを済ませた。 「みんなのおかげで助かったよ」 「どういたしまして。それで、どうして追われているんだ?」 シュウの言葉にエレキモンは拳をグッと握り締めて言葉を絞り出した。 「ヤスヒコを助けないと…ヤスヒコはあの塔にいるんだ」 シュウとユキアグモンがその口から聞こえたのは意外な者の名前であった。 猿田ヤスヒコ…かつて出会った彼はエテモンと共にそこら中で迷惑行為を働く少年であった。 その活動は段々とエスカレートし、次第にただのイタズラやデジモンを匿うといったものから”悪行”という領域にまで発展していった。 ヤスヒコが憧れの視線を向けられているエテモンはその言動と裏腹にヤスヒコを公正させようと悩んでいた。 エテモンから放たれる技が人を傷つけたことはなく、イタズラも最終的には毎度失敗という事になる形で終わっていた。 やがてエテモンからその真意を伝えられたシュウとユキアグモンは密かに手伝う事を約束する。 しかし、以前ヤスヒコたちにイタズラを仕掛けられた西城会の面々による総攻撃によってエテモンは死亡(デリート)。 西城会の撃退には成功したものの、シュウは己の無力さに歯を強く噛むのだった。 エテモンのデジタマを抱えたまま行く場所が無いと言うヤスヒコを暫く家に泊めていたが、ある日を境に彼は姿を消してしまった。 「そのデジタマから生まれたのがお前だったのか」 「でも、おれじゃダメだったんだよ…おれは、エテモンじゃなかったんだ」 デジモンは死を迎えるとデジタマへ戻り、再び生まれ変わる。 しかしその記憶を保持したままでいられるのはレアケースであり、ヤスヒコはそれを受け入れる余裕がなかったのだ。 逃げるヤスヒコを追いかける内に一人と一匹はデジタルゲートに巻き込まれ、その果てに危険なイレイザーベースに迷い混んでしまった。 エレキモンはヤスヒコを逃がすために危険なデジモンを引き付けて別方向に走った。 その先でシュウたちに出会い、助けられたのが今の出来事だった。 「ひでーヤツだな!ヤスヒコは!」 「ヤスヒコをせめないであげてね」 「そうだぞ。人っていうのはあんまり簡単に過去を乗り越えれたりはしないんだよ」 エレキモンの頭をぐしゃぐしゃと撫でたシュウは笑顔を見せて立ち上がると「じゃ、ヤスヒコくんを助けにいくか」と伸びをする。 「でも、おれエテモンになれなかったから…記憶がないから…」 「いいか?お前はエテモンだったかもしれない。でもその過去に振り回される必要なんて無いんだ」 エレキモンの言葉を聞いたシュウはそう言うとユキアグモンの頭をぺしぺし叩いて話を続ける。 「見ろコイツを!コイツは記憶あるのにバカだから気にしてないぞ!」 「おい!オレだってけっこー繊細なんだゼ!?」 「お前は他の誰でもない。お前自身になったんだからな」 「おれ…自身…」 「そ。だからお前がやりたいようにすればいいんだよ。お前はなんでヤスヒコを助けたいんだ?」 「ヤスヒコは、おれをここまで育ててくれた。おれがエテモンになれなかったとしても、それは変わらない…!」 エレキモンは感情が高ぶっている証として半泣きのまま電気を纏いだす。 「うおーーっ!エレキモンわりぃ!オレもいくゼ!」 ユキアグモンはエレキモンに謝ると肩をガッシリと掴んで叫んだ。 「あびゃーーーーっ!?」 電気に全身を痺れさせたユキアグモンを前にエレキモンは泣き笑いのような表情で何度も頭を下げた。 ・04 「エレキモン、いけ!」 「おりゃーっ!」 【スパークリングサンダー】 ユキアグモンによって1ヵ所に誘導された獣系デジモンたちはエレキモンの放つ電撃でまとめて気絶した。 どさどさと倒れ落ちる彼等を後ろにシュウたちはようやく塔の外壁をぺちぺち触って調べていた。 エレキモンが「ヤスヒコはなんとなくあそこに向かってる気がする」と丘の塔を指差したため、当初の目的通り一人と二匹は塔へ向かっていた。 石で編み込む様に作られた巨大な塔には扉などは無いものの、金網のようになっている所から隙間を覗くと大きな空洞が広がっていた。 「…なんにもなさそう?」 「向こう側の光も見えるな…となると」 ユキアグモンは「はやくこいよー」と跳ねているが、シュウは彼の足元にある坂を見て大きくため息をついた。 先程、塔に巻き付いた蛇のように見えたモノの正体はどこまでも続くような緩やかな坂だったのだ。 「見りゃわかるんだけど…嫌だなぁ」 「ヤスヒコもこんな所を登っていったのかなぁ」 「そう言われると行かざるおえん」 エレキモンの言葉にシュウは頭を掻き、意を決すると(腰痛めるだろうなぁ)と思いつつも長い長い坂を歩き始めた。 ユキアグモンは「おさき〜」と言って坂を駆け上っていく。 「あっ、バカ。突っ込むな」 「そうだニャ。迂闊だニャ」 直後ユキアグモンの足元に光線が降り注ぎ、慌てて左右に踊るような動きでなんとか避けることに成功した。 「ぜーっ、ぜーっ…誰だオメーら!」 それはイレイザー配下の成熟期デジモン…翼を生やした猫ようなトブキャットモンであった。 複数からなる彼等は編隊を組みつつ、壁に沿うように旋回移動すると至近距離から光線を放ち始めた。 「くっ…一方的だ!」 シュウは大きな石の手すりを盾にするようにしゃがみこむ。 「うう、あいつこわい…」 「シュウ!コレじゃ近づけねーぞ!」 統率の取れた遠距離攻撃に二匹は反撃が出来ず、ただひたすら隠れる事しか出来なかった。 このままではじり貧だと危機感を抱いていたシュウは眉間を親指で叩きながら状況を整理する。 (考えろ…考えろマクガイバー…!) シュウは手すりにヒビが入っているのを見るとハッとした顔をし、すぐにニヤっと笑う。 「壁に背中をつけてくれ!そうしたらギリギリまで引き寄せてから反撃だ!」 二匹は頷くと再び迫った光線が命中する直前に氷と電撃を放ち、エネルギーをぶつかりあわせて爆発を起こした。 「へっ!死んだニャ!」 「待つニャ!煙の端を見るニャ!」 その爆発にトブキャットモンたちは勝利を確信してニヤつくが、リーダーと思わしき個体が注意を促す。 「そうニャ!どっちからか出てく…ぐぼっ!」 他の個体がそう叫ぶものの、直後に墜落していった。 慌てるトブキャットモンたちはその場を離れようとしだすものの、次々と撃ち落とされていく。 煙が晴れた所にいたのはいくつかの石礫を抱えたストライクドラモンであった。 「よォ…やらねぇか?石合戦」 「フニャーっ!」 怒りと焦りに飛び出したトブキャットモンだが、ストライクドラモンに簡単に捕まってしまう。 そのままストライクドラモンはバックドロップで詰まれた石の上にトブキャットモンの頭を叩きつけた。 「煙で視線を逸らした隙に進化、壁を破壊してそこから落ちた石ころを投げる…俺の作戦通りだな」 「お、おのれ…」 「ありがとなシュウ、助かったゼ!」 「へへっ…いいってことよ。それよりさっさと行こうぜ」 ストライクドラモンが手をパンパンと叩き、笑顔でシュウのほうを向くと互いに親指を立てた。 ・05 少し塔を登るとそ遠くから見ていた穴の正体が踊場である事に気づいた。 「休憩できるゼ」 「できたらいいんだがな」 シュウは入り口を潜ると飛び出してきた影に押し倒される。 「お、おっさん!こんな所でなにやってんだよ!」 マウントを取って拳を振り上げていたのはエレキモンのパートナーである少年・ヤスヒコだった。 「なんだよこんな所まで来て…オレの事なんかどうでもいいだろ!」 「どうでもいいわけあるか!お前は…!」 シュウがヤスヒコの襟を掴み返そうとした時、亡き親友の顔がダブって思わず手を止めた。 「ヤスヒコやめて〜」 エレキモンの声を聞いて思わずビクッとしたヤスヒコをようやくシュウの上から退くと、彼は頭をかきながら立ち上がった。 「どうして出ていったんだ?」 「おっさんにもう迷惑かけてらんないなって…」 シュウは踊り場の外壁に背を預けて座り込みながらヤスヒコの話を聞いていた。 大きくため息をついたシュウは足を組みながら「俺は迷惑だったなんて思ったことは無いぞ?」とヤスヒコに視線を合わせる。 「オレもオレも!というかシュウが仕事ばっかで暇だったからよ〜ありがたいくらいだったゼ!」 「へへ…そうか…?」 ストライクドラモンからそう言われ、照れくさそうに笑うヤスヒコに思わずシュウも笑みが溢れる。 「え、えっと…」 【デスキャノン】 エレキモンが緊張した顔でヤスヒコに話しかけようとした時、辺りで爆発が巻き起こった。 咳込みながら顔を見上げると、そこにはブラックラピッドモンが空中で静止していた。 「ここまで来れるとは正直思ってはいなかったよ」 ブラックラピッドモンを睨み付けたまま何も言わないシュウにしびれを切らしたのかブラックラピッドモンは舌打ちをする。 「君たちはミヨは助けるどころか、彼女を殺す障害でしかない」 「はっ。言ってろ」 エレキモンとヤスヒコは殺気立つ雰囲気に思わず後ずさりする中、ストライクドラモンだけは「やるか?」とでも言いたげに前傾姿勢になる。 「仲間を連れてきたか…だが結果は変わらない」 「は…?オレは今たまたまソコで会ったばかりで…」 ブラックラピッドモンはヤスヒコの背後に現れており、振り返った彼の首を絞めながら持ち上げる。 「ヤスヒコっ…!」 エレキモンは反射的に飛び出して体当たりを仕掛けるが、鉄の体に弾き飛ばされてしまう。 そのままヤスヒコを投げ飛ばしてエレキモンにぶつけ、彼をプニモンへ退化させてしまう。 「なんで…もうお前とオレは関係ないだろ…!」 「関係ある!ヤスヒコはおれをここまで育ててくれた…だから、おれは戦う!」 『ボクがミヨを守るよ!』 プニモンの叫びにブラックラピッドモンの脳裏にかつての自分がフラッシュバックし、思わず動きを怯ませる。 【ドラモンクロー】 ブラックラピッドモンの側頭部にストライクドラモンの強力な回し蹴りが命中するとそのまま振り抜く。 「─ぐあっ!?」 何度か地面を跳ねて壁に激突したブラックラピッドモンは地面にずり落ちる。 「うおーっ!よく言ったゼーっ!」 「そうだ。オレたちは戦う」 「やはりお前たちは障害だ…」 ボディを凹ませたブラックラピッドモンは怒りと絶望を混ぜ込んだ表情でそう呟くとその両腕を地面に突き立てから強く発光させた。 【ジゴワットレーザー】 そのエネルギーは地面を引き裂きながらもヤスヒコたちに迫る。 咄嗟に体が動いたストライクドラモンは体で防ごうと前に飛び出すが、強烈なエネルギーの風圧によって吹き飛ばされてしまう。 プニモンを守ろうと抱き締めたヤスヒコのポケットから携帯電話が落ちた時、シュウの懐からナガトから貰った石が一人でに飛び出した。 ギューン!という音と共に石が放った光を受けた携帯電話はテクスチャーがバグったようにノイズが走り、桃色のデジヴァイスへと変化していた。 ヤスヒコが反射的にソレを掴むとデジヴァイスの内側から膨れ上がった進化の光がジゴワットレーザーを弾いた。 「!?」 予想外の展開にシュウも、ブラックラピッドモンもヤスヒコでさえも目を大きく見開いた。 光はプニモンだけを包み、浮かび上がると膨れて恐竜のようなシルエットを形成する。 辺りに四散したジゴワットレーザーの残留エネルギーを装着するように纏わせていく様に嫌なものを感じたブラックラピッドモンは、咄嗟に背部のシリンダーからミサイルをバラ撒く。 【完全体:メタルティラノモン】 「ヤスヒコを傷つけさせはしない!おれがこの鉄の体で!」 光を破裂させると現れたのは鉄の装甲に身を包んだサイボーグの恐竜…完全体・メタルティラノモンであった。 メタルティラノモンは大きな口で空気を揺らす咆哮を轟かせると迫る小型ミサイルを打ち落とした。 「ジゴワットレーザーの持つ機械性質を吸収したのか…!」 シュウはデジヴァイス01に表示されたデータを元に推察するが、ヤスヒコは綺麗に広がる爆風を前にどっしりと構えたメタルティラノモンに見惚れていた。 【ツインミサイル】 両腕から放ったミサイルで天井を爆破したブラックラピッドモンはそこから外へと抜け出す。 ヤスヒコはすぐにメタルティラノモンへよじ登ると「追いかけよう!」と楽しそうな声でそう言った。 「ヤスヒコくん、コレは俺たちの戦いだ!」 「そーだゼ!オマエが完全体でもコイツは遊びじゃねェぞ!」 「ストライクドラモンたちには世話になりすぎちゃったから…あいつを倒すならおれたちも行くよ!」 シュウは少し考えるとゴーグルを装着してニッと笑い、ヤスヒコとメタルティラノモンを見た。 ヤスヒコも微笑み返すと額に上げていたエテモンの形見であるサングラスをかけた。 「じゃ、行くか!」 上の階層に繋がる外の坂へ二人と二匹は飛び出していく。 ブラックラピッドモンは上空から高速で飛来しており、シュウたちの横を通り過ぎる。 遅れて小型ミサイルが坂に着弾し、爆発が巻き起こった。 「くっ…!」と呻きながらシュウは手すりから下を覗くが、既にブラックラピッドモンの姿は無い。 すると塔の外を一週して背後から現れたブラックラピッドモンがシリンダーと腕から大量にミサイルを展開し、放った。 【ラピッドファイヤ】 【エナジーショット】 「させないっ!」 メタルティラノモンの手のひらにあるシャッターが開くとそこから大きなエネルギー球が発射される。 それは空を飛び交うミサイル群の中心をぶち抜き、その爆風でミサイルを誘爆させて打ち落とす。 ブラックラピッドモンが凄まじい風圧に姿勢を崩しかけると、煙を引きながらも矢のようにストライクドラモンが飛び出していた。 「うおおおおーっ!」 青い炎を纏ったその姿は流星とみまごう程に素早い突撃であり、ストライクドラモンが突き出した太い腕はブラックラピッドモンの鉄を再び凹ませた。 「いくぞ!駆け上がれ!」 シュウはストライクドラモンにデジヴァイス01で指示を送ると、ブラックラピッドモンとの空中戦を横にヤスヒコとメタルティラノモンに向かってそう叫んだ。 ブラックラピッドモンはストライクドラモンの足を掴むとジャイアントスイングで外壁に叩きつける。 ストライクドラモンはガゴっという音と共に体を壁に埋めこまれてしまい、同時に放たれていたミサイルが連続で命中した。 「障害が…ようやく黙ったか…!」 ・06 屋上闘技場へたどり着いたシュウ・メタルティラノモン・ヤスヒコの前にブラックラピッドモンが静かに着地する。 「─俺の後ろ!」 シュウの声にメタルティラノモンは振り向きながら拳を振るうと、回り込んでいたブラックラピッドモンに命中させた。 直撃を受けたブラックラピッドモンは大きく吹き飛ぶが、全身のスラスターを利用して空中で静止した。 「メタルティラノモン!」 ヤスヒコがそう叫ぶとメタルティラノモンの手のひらが開き、再びエナジーショットを放った。 ブラックラピッドモンも両腕にデスキャノンのエネルギーをチャージすると、発射しないままに迫る光弾を殴り付けて打ち消した。 メタルティラノモンが驚いた隙に素早く距離を詰めたブラックラピッドモンは力をこめた拳を胴体に叩き込んだ。 「がっ…!?」 メタルティラノモンが大きく仰け反るとすかさず至近距離からの小型ミサイル連射で追撃の手を緩めない。 煙の中からボロボロになったメタルティラノモンが現れるが、それでも諦めないとばかりに放った咆哮でミサイルを打ち落とす。 しかし全てのミサイルは防ぎきれておらず、装甲の一部から火花が散っていた。 「メ、メタルティラノモン…大丈夫なの!?」 当のメタルティラノモンはヤスヒコを安心させようと「任せて!」と強がる。 「僕の行動が何故読めたんだ」 「お前は音も無く高速移動ができる…だけどソレを後ろに回り込む事にしか使ってないのさ。ワンパターン戦法は-2000点だぜ?」 シュウは鼻の前で指を二本立て、閉じるとそのままブラックラピッドモンを指差した。 「祭後終…君も障害だ…!」 「はっ。事情があるみたいだけどよ…詳細も語らねぇで否定しかしねぇテメェの話なんか聞いてられねぇんだわ」 明らかにイラついたブラックラピッドモンを前にシュウはそう鼻で笑った。 「どの道、君は死ぬ運命だ!その前に僕が苦しむよりも早く消してあげるよっ!」 ブラックラピッドモンが両腕を振り上げ、地面にめり込ませる程に力を込めて片足立ちをするという独特の構えを取る。 やがて凄まじいエネルギーが空間を揺らし始め、シュウのデジヴァイス01から大きな警告音と共に画面へ【ゴールデントライアングル】の文字が表示される。 両腕の端と爪先に高エネルギーの力場が形成され、そこから放出された電撃がそれぞれを繋いだ。 その姿は正に黄金の三角形であり、更にエネルギーが高まり始めた。 メタルティラノモンも咆哮を上げて気合いを込めると背鰭をバチバチと光らせはじめる。 やがて左腕に光が移り行くと先程のエナジーショットとは段違いのエネルギーが生まれた。 【ヌークリアレーザー】 二つの光線はぶつかり合うとその場で拮抗し、周囲に小さなデジタルゲートが発生させる。 二匹のエネルギーのぶつかり合いは究極体の存在に匹敵するものであるとシュウは推測した。 「終わりだ障害!なにもかも!」 そう言うとブラックラピッドモンはエネルギー光線の威力を上げ、一気にヌークリアレーザーを押し返す。 強烈な眩しさにメタルティラノモンは思わず目を細めると、必殺技を放つ間も無く押し負ける直前にまで追い込まれてしまう。 「ここまで来た意味なんてなかったな!素直に消えればよかったんだ!!」 「はっ。意味ならあるさ」 シュウはヤスヒコとメタルティラノモンを見る。 彼等は一緒にいれることがとにかく嬉しいといった表情をしており、追い込まれているのに笑顔を絶やさない。 「コイツの笑顔、悪くないだろ?」 『ロップモンの笑ってるところ、私好きだよ』 【ガードブレイク】 シュウはニヤっと笑うとブラックラピッドモンの足場が突然爆発を起こした。 飛び退こうとしたブラックラピッドモンだが、技の発動故に片足であった事からその体制を大きく崩してしまう。 【とうしのこぶし】 爆煙の中から飛び出してきたストライクドラモンはそのままブラックラピッドモンの顎に気力を込めた拳を叩き込んだ。 「ミサイルを利用してストライクドラモンを塔の内側へ潜り込ませたのさ!あとはお前が調子に乗るのを待つだけってなぁ!」 「ぐうううーーーっ!?」 「ざまーみろってんだ!」 ストライクドラモンはそのまま床に落下するとシュウの横で構えた。 空中へと突き飛ばされたブラックラピッドモンはスラスターでなんとか姿勢を整え、不安定なままゴールデントライアングルの再発射を試みる。 「また来る!でもヌークリアレーザーじゃ…」 「ギガデストロイヤー2…いや、これは不味いか」 シュウがデジヴァイス01でメタルティラノモンの技を確認していると、焦るメタルティラノモンの脳裏にか細い声が伝わる。 「おれは、それに賭ける」 「メタルティラノモン…?」 ヤスヒコが心配そうな顔をする横でメタルティラノモンが両手を合わせるように組む。 中心に漆黒の電撃がバチバチと音を立て、やがて球体を生成された。 球体が数度巨大化し、一気に収束するとその大きなエネルギーを特濃に圧縮した。 その球体をみたシュウは画面に現れた新たな文字に驚き、ヤスヒコは目を大きく潤ませながら叫んだ。 「やっちゃえええっ!メタルティラノモーーーンッ!」 「行くぞ!」 【ダークスピリッツ】 メタルティラノモンその球体を放り捨てるように上空へ投げ飛ばすと、今度は放たれたゴールデントライアングルを打ち破った。 ブラックラピッドモンに激突したダークスピリッツは巨大な爆炎を巻き起こし、エネルギーの余波はシュウとヤスヒコを吹き飛ばしそうになる。 しかし、そこへストライクドラモンが割り込むと変異種防壁(イリーガルプロテクト)を展開して二人の盾となった。 「やっ、やりすぎーっ!」 「ごめんねヤスヒコ〜調子がまだわからなくて〜!」 一人と一匹が慌てる前でストライクドラモンは「オレもアレやりてぇな〜っ!」と笑顔を輝かせる。 ようやく爆風が収まり、ブラックラピッドモンのいた場所を見るとそこに誰もいなかった。 「どうなったの…?」 ヤスヒコが辺りをキョロキョロ見回していると、チャリンと音を立てて何かが床に落下してきた。 シュウがそこへ駆け寄ると、そこには焦げ茶色のタグが落ちていた。 それを拾い上げると「俺たちは勝ったみたいだぜ?」とヤスヒコたちの方へ微笑んだ。 「コイツはただの石じゃあ無さそうだな」 シュウは先程のキラキラした石を拾い上げて少し睨むと「ま、今はいいか」と懐に仕舞い込んだ。 立ち上がりながら振り返ると真面目な顔をしたヤスヒコがシュウに話しかけてくる。 「…なぁオッサン。オレも着いていっていいか?」 「んお!?ヤスヒコとエレキモンがいれば百人力だゼーーーっ!」 戦いが終わり、成長期へ退化していたユキアグモンが楽しそうに跳び跳ねているのを横目に、シュウはヤスヒコに抱き抱えられたエレキモンの目を見てからかつてエテモンが言っていたことを話し始めた。 「君には言っておきたい事があるんだ」 ・07 「ヤスヒコがイタズラをしてるとき、アチキを見ていたのは気付いていた。本当は学校に行った方がいい…そんなのはわかってた」 迷い込んだデジモンをデジタルワールドに追い返したのはいいものの、終電を逃していたシュウは偶然にもエテモンを見つけた。 シュウが分厚いコートなどで着飾っていたエテモンをデジモンと認識できたのは、日頃から彼等と騒ぎを起こしていたからだろう。 「でも、アイツはアチキの歌を褒めてくれたんだ!初めてだった…歌を褒められたのも、友達ができたのも!」 わずかに肩を震わせながらエテモンはそう続ける。 「だから気持ちがいいここに留まりたくなっちまった…でもソレだけじゃヤスヒコのためにはならないだろ?」 「アイツはもっとちゃんとした才能があると思う。今からでも遅くない。学校に行って虐めてきたヤツらも、助けてくれなかったセンコーもバカ親もブッ飛ばして堂々と卒業しようぜ!」 シュウは自動販売機のボタンを押してコーヒーを選ぶ。 極端に甘い期間限定のソレは不評で値段が少し下げられており、シュウには好都合だった。 「そう言いたいんだけどさ、アチキはヤスヒコが思うほどにはワルじゃなくて、強くなくて、カッコよくもないから…それを言う勇気がないんだ」 「…自分に勇気が無いって言えるのは勇気のあるヤツだけだよ」 シュウは缶コーヒーをエテモンに渡し、自分も暖かいコーヒーを飲み込んだ。 ”俺がそうじゃないから”その言葉と共に、少し。 「─なんでエテモンが俺にそんな事を話したかはわからない。けど、まぁそういうコトだ」 「オレ、デジヴァイス01の中で爆睡してたから全然知らなかったけどよぉぉぉ…アイツいいヤツだったんだなああっ!!」 ユキアグモンはだばだばと涙と鼻水を垂れ流しにしている。 話を聞いたヤスヒコは更に強くエレキモンを抱き締めると「悪い!オレ、やっぱ学校に行くよ!」と顔を上げた。 「じゃあおれも一緒に行くぞ!」 エレキモンもそう言ってヤスヒコの頬をぺたぺた触り、涙を拭う。 「それがいい。エテモンとの約束、果たそうぜ」 「音楽だな!音楽やるぞ!」 ヤスヒコとエレキモンはそう言いながら笑い合う。 「オッサ…シュウさん、ありがとな」 「今更名前で呼ばれても恥ずかしい。やめろ」 シュウに手をしっしっと振られるとヤスヒコはニヤニヤしながら彼の名前を何度も呼ぶ。 幾つかのデジタルゲートにデジヴァイス01を向けると、そこに表示された数値は偶然にも二人のいた世界と時間に繋がるものだった。 「少し出来すぎな気もするがここから帰れるぜ…あ、俺の家に置いてあるお前の私物は持って帰れよ」 「考えとくよ!」 そう声を張り上げたヤスヒコはエレキモンと手を繋いでデジタルゲートに飛び込み、その姿をゲート共に消した。 辺りから吹く風がシュウの気分を爽やかにさせた。 「よかったのかシュウ」 「当たり前だろ?ヤスヒコくんは平和に暮らしてて…」 「いや、そうじゃなくてこの塔倒れて来てるゼ」 「…は?」 凄まじい攻防の果てに塔は既に限界を迎え、倒れ始めていた。 シュウの悲痛な絶叫が辺りに響いた。集めるべきタグは、あと二つ。 おわり 上空を飛んでいたのは全身の装甲をボロボロに砕かされ、内部の機械を激しく露出したブラックラピッドモンであった。 「デジモンイレイザー様に許可も取らないで動いた末にそのザマとは。実に勝手で、実に情けないね」 ブラックラピッドモンを聖なるエネルギー球体に包み込み、その装甲を回復させるプログラムを発動しているのはデジモンイレイザーが信頼を置く協力者・ブラックセラフィモンである。 「うるさい…うるさい…!」 「君から奪った進化の力を何故返したかわかるかい?」 「知るか…早く答えを言え!」 ブラックセラフィモンは楽しそうな上擦った声でその理由を語りだした。 「イレイザーベース本来の主をデリートしてタグの守護者に成り変わり、祭後終を相手にするものの敗北して惨めな姿を晒しながら大嫌いな私に命を救われることになると思っていたからさ!」 ブラックラピッドモンは絶望の表情と共に力を奪われ、再びその姿をロップモンへと退化させるのであった。 「彼がタグを集めることも、君が無様を晒すのも計画通り…全ては、ワタシの手のひらの上で転がされているんだよッ!はははは!!」 .