登場人物名鑑 ◆賽◆ IRCニンジャ名鑑#506【トワイライトゲーム】 アカシ・ニンジャクランのグレーター級ソウル憑依者。ニンジャソウル憑依時に古代ニンジャ真実のヴィジョンを流し込まれたことで自我が崩壊、常人には理解不能の事実を途切れることなく垂れ流し続けながら、目に付くもの全てに襲いかかるニンジャ災害と化した。 ◆子◆ ◆賽◆ IRCニンジャ名鑑#328【コントーション】 極めて高い柔軟性を利用する奇術めいた我流カラテのタツジン。その軟らかさであらゆる衝撃をも受け流してしまう傭兵ニンジャだ。 クラウンめいた外見はパレード団員だった過去に由来し、必要に応じて路上パフォーマーとして振る舞う。 ◆子◆ (これまでのあらすじ) 謎めいた狂人ニンジャから奪われたカタナを取り返して欲しいというビズの依頼を受けたコントーション。足取りを辿った先で待ち受けていたのは未だ手つかずの謎めいたブッダテンプル遺跡であり、その最奥で遂に犯人であるトワイライトゲームと対峙するのであった。 【ニア・フューチャー・ホールズ・ダークネス】続き 「…ドーモォ!ハジメマシテ、コントーション、デス!」先ずアイサツの口火を切ったのはコントーション。如何なるニンジャが相手であろうと、アイサツは神聖不可侵の行為である。「…ドーモハジメマシテ、コントーション=サン。トワイライトゲームです。トワイライトゲームは挨拶を返す。」答えるはトワイライトゲーム。その見た目は中肉中背の優男であり、顔は死体めいて無表情。だが、目にはあからさまな狂気が宿る。 「何故ここに来た?トワイライトゲームは質問する。」「ソノ、カタナ!」コントーションは彼の持つカタナを指差す。「ワタセバ、ヒドイコト、シナイダヨォ?」「トワイライトゲームは拒否する。トワイライトゲームはこのソード・オブ・ナナホシを使い、目的を達成する。」「ソード・オブ・ナナホシ?ナァニ、ソレェ?」 「トワイライトゲームは回答する。ソード・オブ・ナナホシは聖徳太子の操る二本のカタナ…その内の一つである。」「ワー!スゴイダネェ」コントーションはおどけながらも訝しんだ。あのカタナは持ち主にとって家宝ではあるが、考古学的価値のあるものではないと聞いている。 この時代、もはや価値あるレリックを一般のモータル個人で秘蔵するのは極めて困難であり、大半は暗黒メガコーポ各社が提供する美術品保護サブスクリプション契約を結んでいる。今回のようなインシデントが起きればすぐさま治安部隊や情報を入手した…半ば強盗めいたトレジャーハンターが動くことになり、逆説的にそういった価値が無いからこそコントーションのような傭兵に直接の依頼が届いたのだ。 そして…あまつさえ聖徳太子のカタナだという。聖徳太子が二刀流のブッダウォリアーであり、優れたディバイン・カラテによって多数のアンデッドを抹殺していたというのは有名なフォークロアだ。しかし彼が手にする古めかしいカタナにそのようなオーラは微塵もない。やはり狂人の戯言…なのだろうか? では…何故。彼は暗黒メガコーポすら把握していないブッダテンプル遺跡を見つけ出せたのだろうか?何故ここにあるブッダデーモン像は二刀を持ち、邪悪な存在を踏みつけているのか?何故…それらの像の耳が常人より遥かに巨大なのか!?…トワイライトゲームの話は続く。 「聖徳太子はモータル也。しかしその側にはアカシの影あり。トワイライトゲームはもう一方のカタナを入手しこのカターカ・テンプルでザゼン儀式を行う。それにより失われしアカシの記録…アカシックレコードに接続する!」そう語る彼の表情は変わる事なく、しかしその目はもはや物理的に爛々と輝かんばかりだ!コワイ! コントーションはカラテを構えようとし…ふと疑問に思った。「ナンデ?」トワイライトゲームの存在自体は以前から知っていた。無秩序無軌道に現れ、意思疎通は不可能。謎めいた言動を絶やすことなく破壊を撒き散らし去っていくニンジャ災害として。今の彼は伝聞とはあからさまに様子が違う。少なくとも思考には何らかのベクトルが与えられている。「ナンデソンナコト、スルノ?」 「…トワイライトゲームは再び回答する。トワイライトゲームはニンジャソウルが憑依した際に様々なニンジャ知識を得、その代償として記憶の全てを失った。そしてトワイライトゲームの意識が表層化することはなく、白昼夢めいて過ごしていた。…このカタナが視界に入るまでは。アカシの記録に触れることによりトワイライトゲームは己を取り戻す」そう答える彼の顔にはやはり感情の兆しは見られない。だが、声色は。 …コントーションは目の前の男を初めてアワレに思った。ニンジャ災害として認定された彼は既に暗黒メガコーポの賞金首だ。例え彼の目的が完全に達せられようと、もはやまともな生活など稚気じみた夢であり…遅かれ早かれゲームセットだ。黄昏はとうに過ぎている。「…ヒトノモノ、トッタラ、ドロボー!…デショ?」 「……」トワイライトゲームは無言で恭しくカタナを置き、アイキドーの構えを取った。「ワルイコニハ、オシオキ…ダヨォ!」間タタミ5枚分の距離をコントーションは駆ける!無慈悲なるイクサの幕が…開けた! 「イヤーッ!」コントーションは残りタタミ3枚分の距離を残し大きく飛び上がると、空中で1回転し、トワイライトゲームの頭部へと蹴撃を放つ!「イヤーッ!」トワイライトゲームは右手チョップ迎撃!「さらにトワイライトゲームはこの脚を取り地面に叩……何だと?」おお…見よ!コントーションの脚が掴まれた箇所を起点にあらぬ方向へ曲がり始めたではないか!「イヤーッ!」「グワーッ!」逆さ吊り姿勢からの掌底が腹部に命中!ワザマエ! これこそがコントーションの恐るべきカラテ、アクロス・ドーである!流体めいて肉体を軟化させ、変幻自在かつ攻防一体のカラテを繰り出すのだ!「イヤーッ!」解放されたコントーションはそのままワン・インチ距離を維持し近接カラテ戦に持ち込む!「トワイライトゲームは迎撃する!イヤーッ!」トワイライトゲームはケリ・キックを繰り出す! コントーションはその脚に取り付き螺旋運動による脚部破壊攻撃を行おうとし…訝しむ。ケリの勢いが寸前で弱まったのだ。…ナムサン!これは、罠だ!「イヤーッ!」「ンアーッ!?」無慈悲なる変則アイキ・パンチがコントーションを捉えた!不安定な姿勢から繰り出された為に威力は減衰しているが、それでもコントーションはタタミ2枚分後退! 「トワイライトゲームはスリケン投擲を行う!イヤーッ!」「イヤーッ!」コントーションは跳躍し飛来したスリケンを回避!しかし既にトワイライトゲームは宙返り姿勢!ALAS!あれはまさか!?伝説のカラテ技、サマーソルトキックの動作ではないか!?「イヤーッ!」「ンアーッ!?」 おお…ナムサン!サマーソルトキック命中!コントーションは全身を流体化し受け流すも、衝撃を逃がす場のない空中ではその効果も限定的!コントーションは着地と同時に連続バック転し再びタタミ5枚分の距離を取る! 「…ヤルジャン、キミィ!」コントーションはこの状況下で尚おどけてみせる。無論、あからさまな強がりではある。しかし己のアティチュードを失えばたちまちトワイライトゲームの狂気のカラテに呑まれてしまうだろう。 「トワイライトゲームは確信する。このイクサはトワイライトゲームの勝利で終わる。イカ、スライム、スッパ、カンブリアン…貴様のようなカラテを行うニンジャクランを知り、その対処法を知るトワイライトゲームが負ける道理は無し!」「アッハァ…ソレハ、ドウカナァ?」 コントーションはケラケラと笑いながら高速思考する。実際彼の言葉は詭弁ではない。オーセンティックなアイキドーのワザマエもさることながら、何より厄介なのはもはや未来予測じみたニンジャ動体視力。コントーションの一挙一動に反応し、豊富なニンジャ知識から引き出される的確な対処法で捌かれる。このままではジリー・プアー(徐々に不利)だ。ならば、どうする。 「…イヤーッ!」コントーションは連続側転し壁へと到達!「イヨォーッ!」トライアングル・リープしヤリめいたトビゲリを繰り出す!「イヤーッ!」トワイライトゲームはブリッジ姿勢でこれを回避!そしてトビゲリが向かう先には二刀ブッダデーモン像! 「イヤーッ!」コントーションは右腕をブッダデーモン像の首にかけた!その部分を軸に円運動を描き…「ニダイメェ!」トビゲリのエネルギーを全て反転させ、更にはブッダデーモン像の後ろの壁を蹴り加速!スピードを上乗せしたトビゲリを繰り出す!ハヤイ!「イヤーッ!」トワイライトゲームは再びブリッジ回避!そしてトビゲリが向かう先には二刀ブッダデーモン像! 「イヤーッ!」コントーションは左腕をブッダデーモン像の首にかけた!その部分を軸に円運動を描き…「サンダイメェ!」トビゲリのエネルギーを全て反転させ、更にはブッダデーモン像の後ろの壁を蹴り加速!スピードを上乗せしたトビゲリを繰り出す!ハヤイ! 「イヤーッ!」トワイライトゲームはブリッジ回避…否!さらにその勢いのままコントーションの首に手を掛けトモエ投げめいて投げ飛ばす!「イヤーッ!」「ンアーッ!」ナムサン!アイキドーの禁じ手、カタパルト・スローだ!ブッダデーモン像の無い方向に殺人的加速で飛んでいくコントーション!おお…ブッダよ!このまま彼女は壁に衝突し無慈悲にも爆発四散してしまうというのですか!? …だが、トワイライトゲームはカタパルト・スロー姿勢から直ぐに復帰しカラテを構えようとした。何故ならば彼のニンジャ動体視力は捉えていたのだ。投げ飛ばされる瞬時、彼女が。僅かに笑みを浮かべたのを。 (((トワイライトゲームは状況判断する。敵ニンジャは今のカタパルト・スローを利用しトライアングル・リープによる反撃を試みる。そこを捉え、エネルギーを逃せぬ空中でポン・パンチにより仕留める!)))トワイライトゲームは思考を行動に移そうとし…気づく。口が、身体が、動かない。否、動いてはいるのだが酷く緩慢な状態。そしてタタミ3枚距離の壁に今にも衝突しようとしているコントーションの動きすらも。これは、まさか。 (((…ソーマト・リコール現象?何故?トワイライトゲームは訝しむ。)))古来よりアカシ・ニンジャクランの者は己が死の危険をいち早く察知する為にこの現象が起きやすいという。では今の場合は?何をインセクツ・オーメンめいて察知したというのか?トワイライトゲームは改めて眼前を見た。 彼の視界に映っていたのはもはや壁と一体化する勢いで身を張り付けたニンジャの姿であり…そのコンマ1秒後、鈍化した時間の中でなお、バッファロー殺戮鉄道めいた勢いで迫るコントーションの姿であった!トワイライトゲームは迎撃を試みる!「イ…」だが!しかし! 「ヨンダイメェ!」「グワーッ!?」ゴウランガ!渾身のカラテストレートがトワイライトゲームの顔面をしたたかに打ち付け、両目から血が溢れ出す!コントーションはカタパルト・スローの衝撃をあえて殺さずに極限まで軟体化した身体を屈める為に利用、その反動によりトワイライトゲームのニンジャ動体視力を上回る加速を実現、ジャック・イナ・ボックスめいて飛び出したのである!タツジン! トワイライトゲームはコンマ数秒意識を失い…そして攻撃の反動でいまだ空中に居るコントーションへの迎撃姿勢を整えた!視覚情報が無くとも優れたニンジャ第六感がコントーションの位置を正確無比に捉える!「イヤーッ!」再びのサマーソルトキック!…だが! 「…ゴダイメェ!」「な…!」「イヨォーッ!」コントーションは空中で常人では不可能な程に仰け反りワン・インチ距離でこれを回避!それと同時にサマーソルトキックの回転が弱い太腿に両足を絡め、その勢いで背後に移動!トワイライトゲームの着地と同時に彼の左腕を挟み込み、首に腕を回し…おお…ナムアミダブツ…! 「グワーッ!?…トワイライトゲームは苦悶し困惑する!これはコブラ・サブミッションの変形技の一つ、コブラ・ネジリ!貴様がなぜこの技を…グワーッ!?」「ソンナノ、シラナイダヨォ…ッ!」然り。彼女のアクロス・ドーの研鑽の先にたどり着いたワザの1つが、偶然にも古代ニンジャクランのカラテに合致していたに過ぎない。故に、トワイライトゲーム思考の埒外にあり…「アバーッ!?」咄嗟の対応が出来ぬ!「イヤアアアァーッ!」コントーションは全ての力を振り絞り締め上げる! …トワイライトゲームの主観時間が泥めいて鈍化する。再びのソーマト・リコール現象。記憶の全てを失った彼にリコールするものは無く、あるのはただ現状を打破する為の思考のみ。かつてのアカシ・ニンジャその人はソーマト・リコールから幾度となく逆転のワザを編み出し、イクサに勝利してきたという。では、己は。もはや数秒後に迫る敗北の運命を回避する術は? 幾度もの思考を繰り返しトワイライトゲームのニューロンに残ったものは…無慈悲な『N』『O』の2文字。「…2052年/黒いアクマ/7分割な」「イヨォーッ!」「アバーッ!?」ごきり、という鈍い音がテンプル内に響き渡る!「サヨナラ!」トワイライトゲームは爆発四散した! コントーションはザンシンし…へたりと腰を下ろす。もはや余力など皆無に等しい。トワイライトゲーム。恐るべきニンジャであった。…そして、彼の最期の言葉。辞世のハイクなどではなく、あからさまに予言めいていたあの言葉の真意は。 …彼のニンジャ動体視力は驚異的であったが、未来を直に見ていた訳では無い。彼の古代ニンジャ知識によるものなのか?或いはこのテンプルの何処かに暗号めいて記されているのか?それともただ…狂気に堕ちたニンジャの最期の戯言に過ぎないのだろうか? コントーションは苦笑し、かぶりを振った。少なくとも、今やらねばならぬ事は別だ。本来の目的に加え、トワイライトゲームの爆発四散、そしてこの謎めいたブッダテンプル遺跡を然るべき場所に報告…スシも補給せねば冗談ではなくカロウシしてしまう。そして彼女は、古めかしいカタナと、トワイライトゲームのニンジャ装束の切れ端を拾い上げ、よろりとした足取りでブッダテンプルを後にするのであった…… 【ニア・フューチャー・ホールズ・ダークネス】終わり。