どうも、召喚師のみなさん。管理官です。 異世界調停機構<ユクロス>の情報管理システムを担うみんなの頼れる機械人形、管理官です! そんな私ですが絶賛対人用インターフェースに乗り換えたマザーに呼び出されています。 完全防音・盗聴妨害電波・監視カメラの有無チェックセンサー搭載の完全に機密事項を話すお部屋に、です。 なんでも極秘で頼みたい任務があるとのことですが。 ぶっちゃけマジ緊張しています。 発汗機能があったら今頃汗ダッラダラだったと思います。 手汗もヤバいと思います。 そんなこんな言ってたら付いちゃいましたよどうしましょう。 呼ばれてる以上部屋に入るしか選択肢はないんですが……。 備え付けのインターホンをポチリ。 『ラディリアですね?』 「は、はい」 『入りなさい』 自動ドアが開いて私が通ると即閉まりました。 あっぶな、スカートのスソ挟むかと思った。 「お久しぶりです、マザー」 「毎日会ってるじゃないですか」 「いえまぁ、電脳上ではそうですが……」 「あぁ、そうですね。このインターフェースで会うのは久方ぶりですね」 「そうですよぉ……」 うーんやっぱり。 こういうととても失礼ですけど。 マザーはどこか人間味が薄いと言いますか……。 や、我々機械人形なんですけどもね? 感情表現以前に人間の機微に疎いというか……。 「疎くないです」 「ヒエッ」 え、なんでいま心読まれたの。 怖いんですけど。 「貴女の考えくらいお見通しですよ……フフフ」 「ひええ」 すいません前言撤回です人間らしさすごいですこの人。 「まぁ冗談は置いておいて……いつまでも立っていないで掛けなさい」 「は、はぁ……え? 冗談……?」 何処から何処までが冗談だったの……? この人漫才好きな所あるし本当に底が見えない……。 「さて」 「今回呼ばれた理由はわかっていますね? ラディリア」 「──はい」 おっとここからは真面目な話です。 しゃんとしなければいけません。 「他でもない貴女に極秘任務を頼みたいのです」 「はい」 ……どんな任務なんだろう。 「私はこの通り、対人用インターフェースがありますが、常時これ、というわけにも行きません」 「日常の通常業務がありますからね」 「はい、存じております」 「ですので、私の代わりに頼みたい事があるのです」 「マザーの……代理?」 えっ。 うわぁ、なんだかすごいことになっちゃったぞ。 情報管理システムのチェックとかどうしたら……。 「いえ、日常業務の代理ではありません。安心なさい。貴女の任務行動中はAIを向かわせます」 「え、AIですか? 大丈夫なんですか?」 「大丈夫ですよ。渾身の一作なので……フフフ」 「ひええ」 その含み笑い怖いので辞めて下さい。 「オホン、さて。肝心の任務内容ですが」 「は、はい」 ついに来たぁ。 ドキドキしてきました。 「大校長はご存知ですね?」 「え? はい、以前までは都市伝説の類かと思っていましたが、実物を見ましたので……」 「大校長を見てどのように感じましたか?」 「えぇ? えぇっと、魔剣の魔力がすごくてあまり……。あ、でも強いて言えばどこか寂しそうな人だなと」 「────…………。……そうですか」 え、え? 返答間違えました? 今の意味深な間はなんですか? 「ラディリア」 「は、はい!」 「やはり貴女を指名して正解でした」 「え……?」 「任務を言い渡します」 「──!」 今度こそ来た!? 大校長のことを聞いてきたということは大校長関連!? まさか大校長を探ってこいとか……そういう!? いやいやいやいやいくらなんでも無茶で 「大校長の日々のお世話をしてきなさい」 「え?」 「…………………………」 「   え?   」 ◆  「やあやあ。君がラディリア君だね。こうして話すのは初めてかな。俺はレックス。よろしくね」 「は、はい……よろしく……お願いいたします……大校長様……」 「ほらそんな硬くならずに、お菓子食べる?」 「あ、はい……いただきます……」 「お茶もあるよ」 「ど、どうも……」 「うんうん」 ………………。 どうしてこうなった? 都市伝説で、存在が秘匿されていて、ユクロスでもその詳細は補足できなくて、曰くセイヴァールの秘密兵器で。 そんな人が。 何故……目の前に……? しかもやけにニコニコしてこっち見てるし……。 私なにかしました……? 「いやぁ、実は事前にクノンから聞かされたんだよね。自慢の愛娘が行くので大事にしてやってくださいって」 「えっ、マザーが?」 あ、それはなんか嬉しい。 「うん、でも、こうして実際まじまじと見てみると納得した。──クノンが自慢したがるわけだ」 「……え?」 私の容姿に何か……? ていうか、さきほどから大校長様、マザーのお名前を気軽に口にしていますけど……。 お二人に何か繋がりが……? 「あの……大校長様」 「おいおい、そんな大校長様なんて堅苦しい呼び方やめてくれよ。気軽にレックスでいいって」 「いいいいいいいいえいえいえいえいえいえ!!! そんなわけには!!!」 「えぇ? 俺は別にいいのに」 「こっちがよくないですよぉ!! じゃ、じゃあせめてレックス様で……」 「────。……うん、それもしっくり来るかな。昔のクノンみたいだ」 「昔……の……?」 やっぱり……何かあるんでしょうか? 「あの、レックス様」 「なんだい?」 「マザーと……何かお関わりが?」 「俺とクノンかい? そりゃあもう、うん……うん? あれ? ……なんて形容すればいいんだ? ……あれ?」 「え?」 「ちょ…………っと待ってね、色々と複雑すぎて……俺とクノンの関係をなんて呼べばいいか……どれが的確か……」 「ええええええ!?」 のっぴきならない関係なんですか!? 恋のABCなんですか!? そういう話大好物ですがってお二人でそれは失礼すぎますねすいませんごめんなさい!!!! 「────あぁ。でも、うん。そうだな。わかりやすく、これがいいかな」 「先生と生徒、だよ」 「──へ?」 ◆  「“機械仕掛けの新入生”俺から見たクノンは、そう言うのが一番いいかな」 今明かされる衝撃の真実です。 マザーは大校長様……もとい、レックス様の生徒さんでした。 それも……かなり昔からの。 「昔のクノンは本当に感情が薄くてねえ」 「ア……いや、クノンが担当していた融機人(ベイガー)の患者曰く、今まで自分以外の知的生命体と接してこなかったから感情ユニットが未発達だったそうなんだ」 え……、あれだけ私達に気を配ってくれているマザーが? 他人と接してなかった……? 「え、と……それは、どうして?」 「うん、ラディリアはこのセイヴァールの成り立ちは知っているかな?」 「え、はい、“忘れられた島”と呼ばれる無色の派閥の実験場跡地が基盤になった都市だと……」 「そうだね」 「狂界戦争ではそこが拠点になったとも聞いていますが……」 「うん、その前の、狂界戦争が起こる前の“忘れられた島”の事は知っているかな?」 「……いえ、データベースにありませんでしたので」 「そっか」 ……そうか、レックス様は忘れられた島の抜剣者(セイヴァー)。 データベースにもない過去を……知っている? 活きた伝説ってそう言う……!? 「無色の派閥の実験場跡地なのは知ってたよね」 「えぇ」 「じゃあ……、そこに取り残された……“召喚獣”たちが、どんな気持ちで島で過ごしていたか、想像できるかい?」 「────────!!!」 まさか。 「排他的になるのも、しょうがないよね」 まさか……。 「散々実験されて、捨てられた……なんてさ」 まさか………………。 「マザーも……そのような……酷い目に……?」 「え? あぁそれは違うよ」 「はいィ?」 肩透かしくらったんですけど。 「融機人の女性がクノンを召喚したんだ。融機人は適切な治療を定期的に行わないとリィンバウムで生きていけないからね」 「あ、なんだ……そうだったんですか……」 私はてっきり……。 あ、いえ、まぁ、実際酷い目にあった方もいたんですからそう思うのは失礼ですが。 「でもまぁ、融機人の女性は被害にあった側だからね。当然他人との関わりを立つし、クノンもそれに付き合っていたから……」 「あ……なるほど」 「“自分のせいで感情が育たなかった”なんて後悔してたけど、俺は仕方のない事だったと思うよ」 「そう……ですよね。私には想像しかできませんが、無色の被害者となると……」 「そうだね。俺も想像しかできない」 「……でも、今のマザーは感情豊かですよね? 何があったんですか?」 「え? そりゃあ君……」 「俺が無理矢理押しかけたんだよ」 「えええええええええええええ!?」 無理矢理!? 無理矢理言いましたかこの人!? 「無理矢理て!!!」 「いやぁははは」 「はははではなく!!」 「いやでも、ホントにね」 「無理矢理にでもこっちから会話をしなくちゃ、口も開いてくれなかったんだ。当時の彼らは」 「────────」 ……そんな。 そこまで……? そこまでの、事を……されたの? 「当時の俺は必死だったなぁ、島の住民に話しかけない日はなかったんじゃないかな?」 「それでもなかなか仲良くなれなくてねぇ。四苦八苦してたなぁ」 「こっち側の人間たちも、“はぐれ”っていう先入観が強すぎてなかなか交流しようとしなくてね」 「苦労したもんだよ、いや、ホントに」 ……? ……はぐれ? それはともかく……。 「……それで、レックス様の献身で心を開いたと?」 「いやまぁ……それだけじゃないんだけどね?」 「え?」 「名も無き世界の言葉だと『ゴエツドウシュウ』っていうのかな? あれ? 今は名も無き世界って言わないんだっけ? まあそれはいいや」 「とにかく敵が多くてね~」 「敵!?」 「俺が故意じゃないとは言え魔剣をギっちゃったもんだから、元の所有者だった帝国軍が怒って責めてくるし」 「ギったんですか!?」 「帝国軍となんとか和解したと思ったら、帝国軍から裏切り者が出て無色の派閥が侵攻してくるし」 「無色!? 裏切り者!?」 「無色もなんとかしたと思ったら、今度は島の中枢が暴れだしてさぁ~」 「中枢!?」 「それをなんとか鎮めてようやく一件落着……と思いきや2~30年したら狂界戦争だからね~。いやぁ動乱の時代だったよ」 「は……はぁ……」 敵とかいう規模じゃないでしょう。 CPUパンクしそうなんですけど。 「まぁ要するに、俺の無理矢理も功を奏した……と信じたいけど、共通の敵が出来たから仲良くなれたってのも大きいかな」 「敵の敵は味方……ということですか?」 「最初はそうだったね。次第に仲良くなれて、共闘関係から仲間になれたけど」 「そうだったんですか……」 人を信じない四界の住民との軋轢……。 共闘で芽生える絆……。 この都市の基盤になった地で、そんな出来事が……。 「あ、これ一応部外秘だから、箝口令よろしくね?」 「えっ!? は、はい!!!」 急にそんな!? 記憶容量にプロテクトプロテクト……。 パスワードもかけて……ヨシ。 「その戦乱の中でマザーも心を開いたと?」 「……んー、クノンに関してはちょっと事情が違う……かな」 「え?」 「今思えば、俺も少し意固地になってたんだろうな」 「どうしても“人間の感情がわからない”っていうクノンに、あれもこれもって、教えこんでさ」 「なんでもかんでも世話焼いて……思い返すと少し過保護になってたのかも」 「そのせいで……ちょっとね」 「……ちょっとってなんです?」 「……聞きたい?」 「……はい」 「……怒んない?」 「私が怒るようなことなんですか!?」 「場合によってはね」 「えええええええ!?」 き……気になる! けどいいんでしょうか……。 マザーの許可も得ずに……。 「あ、クノンからは“知りたがったら言ってもいいですよ”って許可貰ってるから大丈夫だよ」 「なんであなた方そんなに私の心読むの上手いんですか」 そんなにわかりやすいですか。 そうですか。 ならもういいですよふんだ。 「えぇと……じゃあ……聞かせて下さい」 「うん。わかった」 「──俺が干渉し続けた結果、確かにクノンは感情を得られた」 「でもそれは、良い感情だけじゃなかった」 「融機人の女性……あぁ、もう言いづらいな。クノンのマスターだね、とにかくマスターへの“好き”って気持ちも自覚して」 「それで、マスターと仲がいい俺に嫉妬したんだ」 「嫉妬…………」 嫉妬……他人を妬み、嫌う、明確な──悪感情。 あの、マザーが……? “母”の名に相応しい、あの優しさの塊のような人が……。 「でも、当時のクノンはそれを“悪性のバグ”だと断定した」 「だから────────」 「自らをスクラップにしようとしたんだ」 「────────は?」 なんて? 「なんでですかッ!?」 「うん、まぁ、俺のせいだね」 「俺が彼女に感情というものを急激に詰め込みすぎた」 「だから情緒が未発達だった当時のクノンは早まった行動に出た」 「いやまったくもって、俺のせいだよ、本当に」 「………………ッ!」 笑顔でよくもそんな事語れますね……! こういうととても無礼かもしれませんが。 いまマザーがご壮健でなかったらブン殴っていたかも知れません。 「まぁ、別にクノンに別状はなく、俺とマスターで説得して止めて、そういう感情も人間らしさだよって教えて、よかったねはははと笑い合えたんだけどね?」 「ズコーーーーーッ!!!!!」 あっけなさすぎる……!! 私のシリアスな怒り返して下さい!!!! 「それからクノンは感情についてより知りたがるようになった」 「積極的に自分から他人に関わるようになっていった」 「島の看護師さん、なんて自称して。各集落の回診に廻ったりしてねぇ?」 「……私の知るマザーに、近くなっていった気がします」 「そして何より……教師をしていた俺によく教えを請いに来るようになった」 「いつからか、彼女の俺への呼び名は“レックス様”から“先生”に変わっていたよ」 「……それで」 先生と生徒、なんですね。 「島の動乱が終わった後、クノンは俺に頼み事をしたんだ」 「外の世界が見てみたい」 「島の外を知ろうとしなかった自分が、島の外に出てみたい」 「でもまだ一人では怖いから」 「先生に付いてきて欲しい」 「ってね」 ………………。 ……!? そ、それって……!? なにやら甘い気配!? ラブコメの波動を感じます!? 「それから俺とクノンは帝国を見て回ったりして……やぁ、懐かしいなぁ」 「女の子らしくって、甘いもの食べて回ったりしたっけな」 そ、それは、デ、デデデデデデデデ…………! デートじゃないですか!? 「まあそういうわけでクノンの感情は育ったし、先生と生徒って関係になったんだ」 「……はい」 「……ん?」 え…………。 あ、終わり!? ウソ、ここで!? ま……まだ続きを……続きは!? 「続きは無いんですか!?」 「え、なんの?」 「レックス様とマザーのデ、デ……デ!」 「デ?」 「ででででで、出会いと馴れ初めの感動話ィィをですよ!!!!」 「それは今話さなかった?」 あぁッ! 私のチキン野郎!!! でも当人に色恋話を聞くのって凄い勇気いります、これ!!!! すっげ聞き辛いですよね!? ね!? 「えっと……聞きにくいことなのかな?」 アアアッ! しかも察せられてしまう地獄!!! ベッドの下に隠した恋愛小説がリビングの机の上に置かれていたときの気分!!!! 「大丈夫、俺基本的に仲間を侮辱されない限り本当に何されても怒らないから」 それはそれで情緒が不安になるんですが!? 大丈夫なんですか!? 殺されても殺した相手に怒らないってことですよね!? メンタル無事ですか!? 「じゃ、じゃあ、じゃあ!!! き、聞きたいことがあるんですが!?」 「俺に答えられることならどうぞ」 よよし……聞きますよ、聞きますよ……! 唸れ私の乙女回路……! フルパワーでオーバーロードですよ……! 「レ、レックス様は!!!」 「うん、俺は?」 「ま、まままままままマザーと!!!!」 「クノンと?」 「き、きぃ、くぃいいいい、キィイイイッッスはしたんでしゅかッ!?」 「したけど」 「あっさり!?」 そんな馬鹿な!? 照れの感情が見受けられない!? 口づけとは恋仲がすることでは!? わ、私の情報容量域にありませんよ!? 「で、でででででは!!! どどっどおどどおおお同衾はしたんですか!!!!!」 「したけど」 「またあっさり!?」 馬鹿な……!!!! こういう話はもっとこう……! こう……!! 甘酸っぱい……!!!! 「で、では…………!!!! その、せ……せ……セッ………………!!!!」 「セックス?」 「あっさり言わないでくださいよォォォォォォォォォォォォ!!!!!」 乙女を何だと思ってんですかこの野郎!!!!! 「レックスがセックス、なんてね」 「自分の名前をもっと大事にしてくださいイイイイイイイイイイ!!!!」 ピースサインまでして、ホント何考えてんですがこの人!!!!! 「したよ」 「しかもしてたーーーーーーー!!!!!!!!!」 なんなんですかこの野郎!!!!!!! 「────まぁ、あまりにも特殊過ぎたけどね」 「……へ?」 「忘れられた島には仲間がたくさんいたよ。集落の住民もね」 「でも今はこの都市には俺とクノンだけ。……まぁ、亡霊の人もいるけど」 「亡霊?」 「あ、そこはあんま気にしないで」 気になるんですがすごく。 「何ていうか、まぁ、ねぇ」 「遺された者同士……傷の舐めあい……かな」 「愛情がなかったとは言わないけど」 「少なくとも……うん」 「世間で言う普通の行為では、なかったと思う」 「────」 ……勝手に盛り上がりすぎました。 地雷、踏んじゃいました。 何故、レックス様が自分に何をされても構わないのに、侮辱されただけで怒るというお仲間さんが居ないのか。 何故マザーだけが遺っているのか。 寿命。 ですよね。 若しくは。 狂界戦争で……亡くなったか……。 ……………………。 「……申し訳ありません、レックス様。踏み込んではいけない場所まで、勢いで……踏み込んでしまいました」 「いやいやそんな沈まないで、別に俺は気にしてないから」 「ですが……」 「俺とクノンは……みんなが過ごした“この場所”を今も護っている」 「それだけで、まだ前に進めるんだ」 「今は、それでいいと思ってる」 「それで……いいんだ」 「レックス様」 ああ。 なるほど。 マザーに命じられた任務の意味が今、やっとわかりました。 この方は……この『人』は、重荷を、背負いすぎています。 過去の人の分から、現代の人の分まで。 全てを、自分で、背負い込めて“しまっている”。 それほどまでにこの人の力は強すぎるんです。 だから……事情を知らない方々がホイホイと気軽に重荷を放り投げて。 この人は、笑顔で受け止めてしまうんですね。 ……受け止められて、しまうんですね。 誰かに……止められるまで。 ずっと。 マザーは……。 止められなかった……んですね……。 ずっと。 「レックス様」 「なんだい?」 「私、マザーからレックス様の身の回りのお世話を仰せつかってここに来ました」 「うん、俺もクノンからそう聞いてる」 「私、仕事に手は抜かないタイプなんです」 「うん……うん?」 「仕事に関わる人にもビシバシキツく言うタイプなんです!!」 「うん??」 「私が来たからには!!! もう!!! 甘えは許しませんよッ!!!!」 「うん?」 「うん????」 ◆  「大校長! 本日の承認書類に目を──」 「クレシアさんッッッ!!!!」 「え!? あ、管理官さん!?」 「レックス様にすぐなんでもかんでもやらせようとしないッ!!!!」 「ええええ!?」 「抜剣者殿、火急の案件が──」 「ジンゼルア総帥ッッッ!!!!」 「む? ん、ラディリアか? 何故お前が此処に」 「その案件は本当にレックス様が出張らないといけない案件ですか!?」 「何故お前がそのような質も」 「本当にレックス様が出張らないといけない案件ですか!?」 「いやだから」 「本当にレックス様が出張らないといけない案件ですか!?」 「…………いや、うむ、まぁ、現地の部隊でも、可能……といえば……可能だが……抜剣者殿に出向いてもらったほうが早く……」 「犠牲は!! 出ないんですね!!!」 「………………まぁ、その……慎重にやれば……可能……」 「なら遅くでも片付けて下さい!!!! 以上!!!! 回れ右して帰還!!!!!!!」 「あ……はい……」 「大校ちょ」 「クレシアさんッッッ!!!!」 「ひいいいいいいい私でも出来ます私がやりますううううううう!!!!!!」 「抜剣バ」 「ジンゼルア総帥ッッッ!!!!」 「あーーーーっといい策が思い浮かんだぞーすぐに実行しなければー」 「ねえラディリア、セイヴァールの周辺で異界出身同士の小競り合いが起きてるって聞いたんだけど、俺が行って止めて」 「レックス様はここにいてください。もしもしー!? ユクロスー!? 緊急任務でーす!!!!」 「はい」 「…………」 「」キッ (管理官さんいるから逃げよ) 「…………」 「」キッ (うん現地でもなんとかなるなうん) 「ねえラディリア、警察騎士団が手を焼いている犯罪組織がいるらしいんだけど、俺が行ってこらしめて」 「レックス様はここにいてください。もしもしー!? ユクロスー!? さっさと出撃してくださいー!?」 「はい」 「ねえラディリア、響界学園からウワサの大校長を一目みたいって要請が来てて、全校集会でスピーチを」 「レックス様はここにいてください。もしもしー!? 響界学園ー!? 大校長とか都市伝説ですからー!!!! いませんからー!!!!!」 「はい」 「ねえラディリア、ウワサの大校長が実在するなら是非指南役に来てほしいって、道場から」 「レックス様はここにいてください。もしもしー!? ライジンさーん!? あんたふざけてんですかー!?!?!?」 「はい」 「ねえラディリア、アルカ君からヒマならバイト手伝ってほしい、って」 「もしもしー!? アルカさーん!? ぶちのめしますよー!?!?!?」 「はい」 「ねえラディリア、犯罪組織が」 「もしもしー!? 警察騎士団ー!? 仕事してくださーい!? 給料泥棒ですかー!?」 「はい」 「ねえラディリア」 「もしもしー!?」 「はい」 「レックス様、本日はマザーの休日です」 「そうだね」 「おサボリのお時間です。行ってらっしゃいませ」 「わぁい」 「ねえ」 「もしもしー!?」 「はい」 「おう抜剣者来てやっ」 「誰ですか貴女」キッ 「いやお主こそ誰ぞ」 「あぁラディリア。俺の知り合い。仕事押し付けてくるわけじゃないから大丈夫」 「そうですか。お通り下さい」 「う、うむ……。このからくり娘どこかで見たような……」 「ところでオウレン何の用?」 「名前で呼ぶな馬鹿者っ!」 「ねえラディリア」 「今度は何処に電話ですか?」スチャ 「俺と一緒に釣りに行かない?」 「────いいですよ」 ・ 「あれー!? いつの間にかいなくなってた管理官さんが先生といるー!?」 「やあアルカ君」 「かいきげんしょう」 「極秘任務中ですので話しかけないで下さい、召喚師アルカ」 「あ、はい」 「しおたいおう」 「釣ってくかい?」 「いいんですかー? 是」 「」キッ 「ちょっと用事思い出したんでお邪魔しましたー」 「ありゃま、残念」 「せんりゃくてきてったい」 ◆ 「レックス様、解ったことがあります」 「なんだい?」 「この都市は、レックス様に頼りすぎています」 「レックス様に厳しすぎます」 「レックス様の負担をまるで考えていません」 「レックス様をモノのように扱っています」 「この都市は……レックス様にとって害です」 「…………今すぐ離れる事を推奨します」 「うん、知っている」 「俺はセイヴァールの最終兵器」 「つまり、武器扱いだ」 「それに思う所がないわけでもない」 「でもね」 「それだけは──できないんだ」 「ごめんよ、ラディリア」 「……………………」 「……はい」 「……知っていました」 ◆ 「ただいま任務から帰還しました、マザー」 『ご苦労様です。ラディリア』 「…………」 『大校長……いえ、“先生”はどうでしたか?』 「……とても、お元気そうでした」 「…………笑顔も、朗らかで」 「………………。………………見た目だけは」 「マザーの話もしてくださいまして」 「島のことも話してくださいまして」 「ご旧友とも歓談なされて」 「釣りにも誘っていただいて」 「それで……」 「それで……ッ」 「それでも……ッ!!!」 「私は、なんの一助にもなれませんでした……ッ!!!」 「あの人の重荷を……背負えなかった……!!!」 「ただの一つも背負えなかったんです!!!」 「なにがマザー自慢の愛娘ですか……!!!」 「自己嫌悪でスクラップになりたい気分です……!!!」 『……ふふ』 『そんなことをすれば、先生がすっ飛んできますよ?』 「………………はい」 「……知って、います」 『ラディリア』 「……はい」 『私にも、先生の重荷は背負えませんでした』 『貴女が気にすることではありません』 「ですが……!!!」 『ラディリア、私は』 『先生の現状を貴女に知ってほしかったんです』 『少しでもあの人の苦しみを』 『誰かに知ってほしかった……』 『私の……自慢の愛娘に』 「…………クノン様」 「私は……」 「私は、レックス様の現状を知って」 「あの人のために、何が出来るでしょうか?」 『…………』 『それを考えるのが、貴女という機体に課せられた課題です』 「……え?」 『私が、先生から感情を──全てを、世界の色彩を頂いたように』 『貴女も先生から多くのものを頂いたはずです』 「…………」 『私は今も先生のために出来ることを考え続けています』 『頂いた分だけ、お返しできるように』 『貴女も……そうして下さい』 『一緒に先生を支えて下さい』 『それが私の願いです』 「クノン様……」 「……はい」 「任務、了解です」 ◆ やあ、いい天気だ。 今日もセイヴァールは平和だね。 セイヴァールは……ね。 未だ狂界戦争の爪痕が遺っている地域も多い。 俺が力になれれば……。 ……なんて、烏滸がましいんだよなぁ。 ここから離れられない、いいや、離れたくないってのに。 世界全てが、平和であればいいと考え続けてしまう。 「ははは」 「俺はバカだなぁ」 オワリ