ウグイス・ディストリクト。規模そのものは決して大きくはないが、違法合法を問わず無数の性風俗店が乱立し、ストリートオイラン・マイコが跋扈する地区。 現在この地区は日に日に賑わいを増し、大きな人とカネの流れが産まれつつある。 ネオサイタマ各地は月破砕の日に受けた傷ましい被害から未だ復興段階にある。特に甚大な被害を受けた地区の一つである、ネオサイタマ最大の歓楽街 ネオカブキチョそしてセクシャルマイノリティの聖地ニチョームストリート。 被害の大きさを逆手に取った大規模な復興開発が進み、いわば新生ネオカブキチョと呼ぶべき新たな区画に生まれ変わりつつあるが、性産業に留まらず従来の 店舗の多くは未だ休業或いは縮小営業中だ。 しかし灰色のメガロシティに渦巻く極彩色の欲望は受け皿が減ったとしても日々留まる事を知らない。そしてストリートを拠点としていた大量のオイランや マイコ達もまた日々の食い扶持に追われることとなる。 そうした動きの中でネオサイタマ各地の小規模猥褻区画がオイランや客の取り込み、店舗の移転・新規出店を誘致。さながらセンゴクめいた様相を描き出す事 となった。従来より性産業に特化したウグイス地区はその流れにいち早く順応。ストリートには新たな猥褻店が次々と参入し、稼ぎを求めて他地区から集った、 或いは大災害と国家崩壊の動乱で生活を失い身を堕とし新たに誕生したオイランやマイコたち。さながら古代ローマの猥雑極まる街道の宿場町めいた様相である。 その片隅、マイコセンター「まわる花」。短時間低価格帯による回転率を強みとする、低所得体の労働者に人気の店舗だ。ビルの中にはマイコ達が割り当てられた 実際狭い浴室とベッドのみの薄暗い小さな部屋が無数に、ここが仕事場だ。 その一室、右手にサテン生地めいた黒い手袋を着けた猥褻な下着姿の美しい黒髪のマイコがドアの前に正座し恭しくドゲザする。 「ドーモ、モネです。本日はヨロシクオネガイシマス」モネの一日が始まる。 【エヴリィ・フラワー・マスト・グロウ・スルー・ダート】#2 …………「…………ン」コケシカットヘアーの肥満体の客、モゴモゴと動かす口は何を言っているか聴き取れぬ。モネにとっては特に問題ない。「シツレイします」 モネは跪き、股間のジッパーを口で咥え下ろす。手は使わない。この客は口だけでされるのを好む。 そこに顔を突っ込み更にまさぐるように下着の合間から肉塊を引き摺り出す、慣れたものだ。鼻をつんざくような酷い匂い、そこにモネは目を閉じ静かにキスをする。 いつものことだ。 …………「3.1415926535 8979323846 2643383279……」 この客は行為の最中に腕を組み延々と円周率の暗唱をする。直ぐに達さない為の集中なのだという。 「8628034825 3421170679 8214808651 3282306647 0938446095……」モネはザブトンめいて客の尻の下に敷かれている。モネの舌は穴の表面をなぞり、やがて唇で 吸い付く。両手は耐え生区ボーとその根元に添えられ上下し揉みしだく。「6446229489 5493038196 4428810975 6659334461……」 舌をグリグリと奥に捻じ込み ながら、モネの手のペースは上がる。手袋のサテンめいた生地が先端部を包み擦る。 「 1339360726 0249141273 7245870066 0631558817 48815っ20920 96……!28292で540 9171出5364る36ウッ!」手の中で弾けた熱が納まるまで擦り続けると、 モネは穴から舌を抜いた。 いつものことだ。 …………ブンズーブンズーブンズーブンズー!ブンズーブンズーブンズズブンズー!「アーイイ……イイーーッ!」持ち込まれたスピーカーから流れる重低音 テクノサウンドの中、それを上回る嬌声が室内に響く。 サウンドに合わせモネの艶めかしい脚は丸い塊を力強くストンプしては、グリグリと踏み躙った。「ンアーッ!もっと体重をかけて!もっと強く!もっと 踏み締めて……ウッ!」 床に敷かれたPVCビニールシートの上、練った小麦粉の塊を踏み込むモネの真横で寝転ぶ客は達した。「これで今週も生きていける」今日もこの客は神妙な面持ちで モネの踏み込んだウドン玉を大事に包み持ち帰った。 いつものことだ。 ……変装めいたティアドロップサングラスとボリューミーなレインボー・アフロヘアウィッグを外した年老いた客。スキンヘッドには、年輪めいた深い皺と神聖なる ホーリー・カンジが刻まれる。纏う厳粛なアトモスフィア、いずこか由緒正しきテンプルの高位なボンズとみられる。 「ハンニャーハンニャー……」「ンアーッ」「ゲート、ゲート……」「ンアーッ」「パラゲート、パラサムゲート……」「ンアーッ」客は表情も呼吸も一切乱れず 般若心経を唱える。モクギョめいたリズムで四つん這いのモネに激しく腰を打ち付けながらだ。 本来ブディズムにおいて姦通は厳しい戒律で縛られている。ただし「男でありながら女人の如く見目麗しい者は実際ブッダの生まれ変わり」「交わると功徳が高まる」 「あえてボンノを燃やして打ち克つ修行」「肛門は性器ではないので可」「時代は男女平等」など。 長き歴史の中で重ねられてきた欺瞞的アティチュードにより、狡猾な抜け道に耽溺する者は後を絶たない。次の客入りまでの間、暫くモネはトイレに籠った。 いつものことだ。 …………「ウッ!」浴室の床で跪くモネの顔めがけ、今日最後の客は達した。「う……」額から鼻先にかけ直撃。髪にも飛んだ。萎びた肉で顔中に塗り広げられたのち、 モネはそれを咥え、残った滴りも吸い取り清める。 「モネチャンいつものね」「ハイ」モネは口を離し、三つ指を着いた。「ドーモ、此度もお使い頂きアリガトゴザイマシタ」恭しくドゲザしながらモネは感謝を述べた。 満面の笑みで見下ろす客は返事の代わり、粘液に汚れた艶やかな黒髪めがけジョロジョロと音を立てて生暖かい液体をぶちまけた。「フゥー……」浴室のタイルに 黄色い水たまりが広がっていく。この客は必ず最後の時間に来てはモネを汚すのを好んだ。髪の手入れで退勤時間が遅れる。 いつものことだ。 ……これが場末のマイコ、モネの一日だ。日が変わるごとに毎回違う「いつものこと」が繰り返される。