キョート城内アデプト用茶室、ボンボリに照らされるタタミ中央で静かにスズリをするキモノ装束の女ニンジャあり。年の頃は十代後半か、キモノの袖を たすき上げ、髪は後ろに纏められている。やがて見事な筆を手に取ると墨を吸わせ、和紙の前で静かに目を閉じ深く呼吸する。「スゥーッ……」 瞑想めいた数秒の静寂ののち、彼女はカッと目を開きイアイめいた気迫で筆を繰り出した！「イヤーッ！」豪胆なツルギの太刀筋を思わせる線と納刀の 如き止め、ヤリの突きめいた点、下段のナギナタめいた跳ね上げ、払い。和紙に刻まれる墨はさながらイクサ場に咲く血の如く。 和紙は次々と替えられ、またたく間に『格差社会』『三島由紀夫』『ゴジュッポ・ヒャッポ』『与作』『ボストン茶会事件』『どらやき』の恐るべき コトダマのショドーが書きあがっていく！筆を執るのはシラウオめいた繊細な指先。しかしその筆致は力強く、そして美しい。 「フゥーッ……」やがて女ニンジャはザンシンめいて息を吐き筆を置く、そのバストは平坦である。したためたショドーの出来栄えに頷くと共に、その 瞳には表現しがたい感情の色がよぎる。彼女の名はスイセン。ザイバツ・シャドーギルド、パーガトリー派閥アデプト位階のニンジャである。 ……「パーガトリー＝サンのご期待通り、此度も見事な出来栄えですね。スイセン＝サン」「アリガトゴザイマス、フローライト＝サン」仕上がった ショドーを検める緑と紫のグラデーションするキモノ装束のマスター位階ニンジャ、フローライト。恭しくタタミに額を着けオジギするスイセン。 「……まあ、そうでなくては意味がありませんものね」フローライトは口元を袖で隠しクスクスと声を漏らした。「ギルドにおいて……ニンジャとして まるでカラテに欠ける貴女が。こうして必要とされお役目を頂いている」 タタミの上のスイセンの三つ指がぴくりと動いた。フローライトはそれを見逃さず、愉悦に目を細めながら気遣わし気な声を出す。「ああ、これはシツレイ を。今のは言葉の綾というもの。貴女のワザマエは実際非常に高く評価されています」スイセンは不動、フローライトの口は明朗に回る。 「ドージョーをはじめ教練、儀礼、式典、斥候、時にはイクサ場。日夜城内に限らずあらゆる場にショドーは不可欠。そこそこの出来で済ませて充分なら 非ニンジャの屑の奴隷ショドー家で良いわけですもの。誇り高きギルドに相応しき雅、貴女はショドーを以てそれを体現している。誉ですよ」 「身に余るお言葉。有難き幸せです」スイセンは抑揚のない言葉で応じる。やがてフローライトは飽いたように立ち上がった。「では、わたくしはこれで。 嗚呼、泥臭い前線に赴くなどなんとも煩わしい……ですがこれもカラテある者の務め。ノブレス・オブリージュという訳ですね」 嘆きの欠片もない、あけすけな自負をちらつかせながらフローライトは退室する。「スイセン＝サン、今後もお役目ハゲミナサイヨ」「ハイ、ヨロコンデー」 スイセンはその足音が聞こえなくなるまで、タタミに額を着けオジギしていた。その美しく揃えたシラウオめいた指と背中は震えていた。 【エヴリィ・フラワー・マスト・グロウ・スルー・ダート】＃1【前半】 ネオサイタマ、ウグイス・ディストリクト。一大歓楽街ネオカブキチョ、ニチョーム・ストリートに比べればごく小規模ではあるが、負けじと淫猥な風俗店が 所狭しと軒を連ねる区画。重金属酸性雨降りしきる陰鬱な暗い空の下、ネオン看板は極彩色の輝きを投じストリートを染め上げる。 「ふれあい酪農～瓶詰めできます」「モロッコ帰り」「二毛作そして二期作」視界の端々に入る卑猥な看板。『のどごし！』『ちょっとムいちゃいます？』 『イキがいい！娘さんと同年代！』耳に入る耐え難い猥雑な呼び込みと広告音声。その合間をしめやかに歩むフードの人影。 騒々しい表通りから一転、薄暗い裏通りに入る。「アァーン！」「アカチャン……」「イッテキマス！」あちらこちらの物陰から聞こえるストリートオイラン と酔漢の猥褻行為。（なんて醜い町……!）うんざりと目を伏せて眉間に皺を寄せ、仄かに頬を染めるフードの者はやがて雑居ビルの前で止まる。 「ラクーン穴」「朕虹」「ヨメ×ヨメ」の看板を掲げる雑居ビルの入口にエントリーすると、フードの者はようやく一息ついた。もはや呼吸をするのも憚られる 猥褻な町の空気。ガイオンでは振らぬ重金属酸性雨を絶え間なく降らす澱んだ空も陰鬱な湿度も何もかもが耐え難かった。 フードの者は、己の内に沸き立つ弱気を捨てるように頭を振りキアイした。（全てはカラテとイサオシを示すため、この程度は試練でもなんでもない！） ◆◆◆ ヤナガワキラードジョウスクイ・ヤクザクラン、いち早くザイバツの傘下として恭順したこのクランはウグイス地区一体のオイラン、マイコ関連のシノギを 一手に引き受けていた。異変が起きたのは一カ月ほど前だった。 人気どころから場末まで、区内のオイラン、マイコ達が次々と姿を消し、凄惨に陵辱されあらゆる穴が無惨に裂けた姿で発見された。既に犠牲者は十人を軽く 超え、区内の盛り場には不穏なアトモスフィアが蔓延し、売り上げは低下。上納金の減少をザイバツに咎められたクランは下手人の捜索に躍起になった。 下手人は程なく発見された。同時にヤナガワキラードジョウスクイ・ヤクザクランの事務所は襲撃を受け全滅。事務所に掲げられていたザイバツ紋には口に 出すのも憚られる卑猥なシンボルが書き加えられ。ギルドはこれを完全なる示威行為と判断。 かくして速やかなケジメのためザイバツニンジャの派遣が行われることになった。されどソウカイヤ・アマクダリとの支配領域争いが絶えず、ドラゴンドージョー、 そしてネオサイタマの死神への警戒が日に日に強まる状況下、動けるニンジャは限られていた。 小規模な猥褻な地区かつ犠牲者は非ニンジャのみ。かつその短絡的な犯行からして、ニンジャソウル憑依から間もない全能感に酔ったニュービーの仕業と 思われた。マスター級は当然として、アデプトにおいても戦力となる者を割くには躊躇された。 そこに立候補した者があった。 ◆◆◆ そして今に至る。元はキャバレーであったのだろう、猥褻な内装の広間に相対する二人のニンジャあり、待ち構えていたのは7フィート近い居丈高のニンジャ。 レザーパンツとチョッキ姿で隆々とした筋肉を惜しげもなく晒し、ブルーグリーンモヒカンのサイドには「ローク砦」「悪いみかん」等の恐ろしいタトゥー。 エントリー者は目深にかぶった重金属酸性雨に塗れるフードを脱ぎ捨てた。キョート貴族めいた奥ゆかしいキモノ装束の若い女ニンジャ、年の頃は女子高生の 頃合いだろうか。そのバストは平坦であった。 「ドーモ、ペニシリウムです」「ドーモ、ペニシリウム＝サン。はじめまして。ザイバツシャドーギルド・スイセンです」二者はアイサツした。 「そのうち来るとは思っちゃいたが、まさかこんなガキを寄越すとはなぁ？」「……言うまでもありませんが、我らギルドに弓を引く意味がおわかりですか？」 ニヤニヤと見下ろし腕を組むペニシリウムをスイセンは鋭く睨みつけた。 「知らねェ。こちとらもう一回死んでンだ。そしたらニンジャだと。最高よ！だったらもっぺん死ぬまでヤりたい放題遊んでやるってハナシだ」「なんて醜い。 選ばれし者になりながらイサオシの欠片もない。街も街ならそこに巣食うのも下賤で卑しいニンジャですね」スイセンは帯に刺した小カタナを抜き、身構えた。 ペニシリウムは腹を抱えて笑う。「ぶははははは！イサオシて！ザイバツってのはキョートの連中と聞いちゃいたが、カビの生えた教科書のお貴族様か？ それじゃおめぇは箱入りのお嬢様ってか？」「もはや口を聞くのも煩わしい……！速やかに滅却しギルドの誇りと威光を示すのみ！」 怒気を滲ませるスイセンにペニシリウムは更に目を細めた。「誇り！ハッ！その旗に笑えるラクガキだったろ？完全にメスの」「イヤーッ！」飛び掛かる スイセンは横薙ぎのイアイを繰り出す！構えもせず悠々と待ち受けるペニシリウムは無造作なサイドステップ回避と同時にがら空きの背中に廻し蹴り！ 「イヤーッ！」「ンアーッ！？」背中を打たれたスイセンは床に打ち下ろされる寸前にウケミしハンドフリップ！そのままバック転で距離を取り再び構える。 ほんの一瞬の交錯であったが、予想外のペニシリウムのワザマエの片鱗を感じたスイセンの表情には驚きと陰りが浮かぶ。 スイセンは元々決してカラテに長けたニンジャではない。されどザイバツにおける厳しい修練により、アプレンティスを脱する域のカラテ練度は身に着けて いる。ソウカイヤ・アマクダリと言った組織ニンジャ相手ならともかく、野良ニンジャに後れをとる道理はない、筈であった。 「なんだガキ？散々のたまっておいててんで弱ぇじゃねえか。ひょっとして新手のデリバリーか？前後しに来たのか？俺はポルノの前座は飛ばす方だぜ」 「黙りなさい！」スイセンはカタナの握り手から人差し指と中指をピンと伸ばし、下劣ニンジャに照準を向けるかのように向けた。 「リンピオトーシ……カイジンリッツァイゼン！」「グワーッ！？」スイセンの口から謎めいたチャントが唱えられた瞬間、悠々と佇んでいたペニシリウム は突如ニューロンに激痛を覚え、頭を抱えよろめいた！スイセンはペニシリウムの頭に指の照準を合わせつつ集中継続。 マインドブースト・ジツ。対象のニューロンに干渉波を飛ばし感情をブースト、攪乱・破壊する力を持つ。ニンジャに対しては行動阻害程度の威力に留まるが、 イクサにおいては十分な隙である。構えを継続しながらスイセンは小カタナの刃の上に逆の手の人差し指と中指を滑らせ血糊を纏わせた。 チドク・ジツ。己の体液をドク・エンハンスし猛毒化するスイセンのもうひとつのジツ。マインドブースト・ジツで隙を創り出しチドクを纏わせた小カタナの 一撃を致命打とするのがスイセンのベーシック・メソッドだ。 「イヤーッ！」「グワーッ！」マインドブースト・ジツの集中を解除と同時にスイセンは突撃！ふらつくペニシリウムとすれ違いざまにその脇腹をドクの 刀で裂いた！「グワーーーーッ！？」ペニシリウムは膝を着き悶絶！ 既にマインドブースト・ジツの影響は解けているが、触れるだけでも危険な猛毒を打ち込まれたペニシリウムは動けぬ！勝負あったか？「終わりです！」 スイセンは再び跳び、無防備な脊椎に向け刺突を…… 「イヤーッ！」「ンアーッ！？」鳩尾に強烈なケリを暗い吹き飛んだのはスイセンだ！果たして何が起きたのか！？ドクの斬撃を受け膝を着き苦悶していた 筈のペニシリウムは、そのまま両手を地に着き、全身の捻りを加えた変則的メイアルーアジコンパッソを繰り出した！ 弾き飛ばされたスイセンはカタナを取り落としながらゴロゴロと床を転がり、血の唾を吐きながら苦悶した。「カハッ……」「なーんてなァ。俺にゃ毒は 効かねえンだよ！」ゆらりと立ち上がったペニシリウムはゴキゴキと首を鳴らす。脇腹の傷はアイソメトリック力で止血済みだ。 勝ち筋を封じられ、スイセンの眼には絶望的な色が浮かぶ。（まさかアイツもドク・ジツ使い、或いはソウル由来の身体の耐性？マインドブースト・ジツは は効いた。でもジツを展開しながらカラテはできない。どうすれば……） 「最初のジツにはちょいと驚いたが残念だったなァ？どっちにしろカラテで勝ちぁ良いだけよ、やってみろや。イサオシってやつだろぉ？」「……イヤーッ！」 ぶらぶらと手招きする侮蔑に満ちた挑発に、スイセンはウインドミルめいて復帰！近接カラテを挑んだ！ 「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ」「イヤーッ」至近距離で繰り出されるスイセンの短打の数々をペニシリウムは その場を一歩も移動せず両腕と上体移動のみで悠々と受け流し続ける。下段狙いの攻撃はその場で足踏みめいて軽く飛び、躱す。（こいつ……遊んでる！） 格段のカラテ段位の差が可能とする芸当。ペニシリウムはその下劣さに反し確かなワザマエの持ち主であった、だがそれ以上に差を開けているのはスイセン 自身のカラテの不足。スイセンもそれを痛感し、歯噛みした。 対ニンジャの単独ミッションに立候補したスイセンの力量を鑑みて、ネオサイタマ駐屯部隊指揮官のワイルドハントは承認しつつも、手近なニンジャの手が 空き次第即増援を派遣すると釘を刺した。ただでさえ支配領域での示威行為を許した上、派遣したニンジャまで爆発四散したとなれば完全に示しがつかない。 己のカラテとイサオシを示すためと意気込んでいたスイセンは、その判断に憤ったが、今となっては当然の帰結だ。（野良ニンジャ相手だと侮って先走って ……なんてウカツ！このままでは私がギルドの威信に傷を）せめて増援が到着するまでブザマを晒さず耐えきるしか無いのか。 スイセンの焦りと己の至らなさへの憤りは、イクサのさ中においてあまりにも大きなヘイキンテキの乱れを起こした。「……退屈だなオイ」「イヤーッ！」 わざとらしく欠伸を噛み殺したペニシリウムは、スイセンの繰り出したブレた左ストレートを抱え込むように軽々ホールド！ 「イヤーッ！」強烈な右肘をスイセンの肩に打ち下ろした！「ンアーーーッ！？」絶叫と共に竹を割ったような音が室内に響く！スイセンの左肩は無惨に 砕けた。「イヤーッ！」「ンアーッ！」続いてペニシリウムはホールドを解きつつスイセンの鳩尾に強烈なアッパーカットを叩き込み浮き上がらせる！ そしておもむろに背を向けたペニシリウムは、ダン！と力強い踏み込みと共に、肩から背中にかけての広い範囲を壁めいてスイセンに叩きつけた！ 「イィヤーーーーッ！」「ンアーーーーーッ！！？」暗黒カラテ技・ボディチェック！ 全身に先程の変則的メイアルーアジコンパッソ以上の凄まじい衝撃を受け吹き飛んだスイセンの意識はそのまま闇に沈んだ。 ◆◆◆ スイセン。モータルとしての名をナデシコ・オウショウという。オウショウ家は江戸戦争に武勲を残し、共和国軍の重鎮を代々輩出するアッパーガイオン 武家貴族の旧家だ。ナデシコはオウショウ家当主の第一子として生を受けた、ただし家督を継げぬ女子。両親は我が子の誕生を喜び、小さく落胆した。 相応しき家柄のムコを取らせるかヨメに出すか、この時点で将来は既に決まった。娘には貞節であれ、との意味を込めナデシコ（撫子）と名付けられた。 翌年には第二子・長男ハツフネが誕生。オウショウ家の安泰に両親と親族は胸を撫で下ろした。 ナデシコは物心ついてより、オウショウ家の抱える江戸戦争のイクサを描いた豪快なウキヨエや活躍を記した文献、勇壮な武具の類に目を輝かせた。 就寝前の枕元。童話や絵本の物語の代わり、先祖の果たした華々しい武勇伝の数々がナデシコにとっての御伽噺だった。 武家に産まれた者は、女子であっても皆武芸事を嗜みとするのが習わしであり、ナデシコのそうした兆候は周囲にとっても微笑ましいものであった。 そうして5歳の頃、初めてジュー・ウェアに身を包みドージョーに通い始めた。 当初は誰しもがそうである、たどたどしい動きやカタを見守る温かい目は、次第に怪訝な眼差しに、やがて諦めの苦笑に変わっていった。素手のカラテは 元より、ケンドー、ヤリ、ナギナタ、ユミ……あらゆる武芸においてナデシコはてんで適性を見せず、どれだけ続けても進歩しなかった。 両親はそれを決して叱咤する事はなく、むしろなおも熱心に取り組もうとするナデシコを、もう続けなくてよいと穏やかに諭した。一方、弟ハツフネは 弱音と泣き言にまみれながら厳しくカラテを叩き込まれた。やがて数々の武芸を見事に修め、かつ聡明な若武者めいて逞しく成長していった。 周囲からの期待の差……長子として、武家の子として、自分は何も求められていなかった。故にいくらブザマを晒しても優しく許された。幼いながらに それを理解したナデシコの心には深い傷が残った。 カラテにまるで才を持たなかったナデシコであったが、天秤の傾きめいて逆に見事な才を発揮したものがショドーだった。言葉を覚えるよりも先に筆を 握り「羅生もん」の文字を書き上げ周囲を驚かせ、小学校に入学して程なく数々のコンクールを総なめにし、有段者へ。 段位を着々と重ねていき、ミドルティーンの時点でショドー十段に達するという見事なワザマエはキョートの社交界の中でも小さな話題となった。ただし ナデシコは自らのショドーが評価される度、名声を得る度に、心のうちに澱のような物が堆積していくのを感じた。 ショドーは好きだ。だがそれは趣味や特技、日々の手慰みの類に過ぎない。己が最も心沸き立ち惹かれたのは、誇り高き先祖のようなイサオシの輝き。 そしてそれを成すカラテ。生き方。それこそが武家貴族の家に生を受けた己の本懐なのだ。自分にはそれが無い。無意味なものだけを持っている。 「家督を継げぬ形だけの長子」「イサオシを誉とする武家に産まれたノーカラテの落伍者」「それが文官貴族めいたショドーで成り上がり」「もしや血筋の 繋がらぬ養子の類では？」周囲の誰ぞの心ない陰口だったか、己の内に勝手に湧き出したものか。そうした嘲りがしばしば聞こえた。 成長と共に煩悶は更に強く。根深く。だが皮肉にもその度にナデシコのショドーのワザマエは冴え渡っていった。タタミ上で正座するナデシコはセキバハラ めいたイクサ場の中心に立っていた。敵は己の内に沸き立つ煩悶、憤り、淀んだ感情、ままならぬ現状全て。ぼやけたサムライめいた影。 筆はナデシコのカタナであり、ツルギであり、ヤリであり、ナギナタであった。振るわれる筆致は太刀筋。白い和紙の上に刻まれる墨は敵の上げた鮮血の跡。 完成したショドーはウキヨエめいた勇壮なるイクサの図そのもの。 敵が増え、強くなるほどにカラテは高まりイクサは激しく華々しく……あくまでも内なる夢想に過ぎない。高揚は一瞬、すぐに現実に引き戻され、熱は冷め、 また煩悶が湧き立つ。その繰り返しだ。 だがそれでも。筆を執り、ショドーするごく僅かなゼンに満ちた瞬間に広がる世界。そこでナデシコは誰よりも強く、自由だった。 【NINJASLAYER】