シオナがサイコアトロンにヘルメットをプレゼントする話 「サイコアトロンテメェーーー!!!!指示聞こえなくなったら止まれって言ってんだろォーー!!!」 「あ、そこにいたんすね先輩」  軽く身動きした瞬間体が当たりばしーんと飛んで遠くなっていくシオナの声を聞きながらサイコアトロンはまたやっちまったなぁと空を見上げて激怒状態のシオナが帰ってくるまでの間に建設修復部隊へと来ることになった時の事を思い出すことにした。シーサーペントだって現実逃避くらいするのである。  所属していた魔王軍海軍が解体となり同僚達が実家(海)に帰ったり他の部署に移動したりと早々に次の仕事を見つける中サイコアトロンは1人悩み続けていた。これから先どうすっかなぁ…と。  あの恐ろしい海に帰りたいとは思わないだからと言ってこれから別の部署に突っ込まれても何だかやる気が起きない、そうしてちょっとしたニート生活でだらだらと魔王城の上を飛び回っているだけの日々に突然その妖精はやって来た。大きさの違いか話しかけられても全然気付けなかったせいで特大の氷をぶつけられてしまったがサイコアトロンにとってそんな事どうでも良くなってしまう程この後の人生全てを変えてしまう、そんな衝撃の出会いだった。 「なぁ、アンタ建設に興味はねぇか?」  快活な笑顔が似合う青い作業服に身を包み黄色いヘルメットを着けた小さな妖精はシオナ・テタと名乗りサイコアトロンを建設の道へと引っ張り込んだのだった。 「なぁんて事もありましたっけ」  ぜぇはぁと荒い息遣いを隠しもせず超速急で戻って来たシオナは記憶の中と違い完全にブチ切れた顔でサイコアトロン目掛けて突撃してきている。20cmしかないシオナの体当たりなど当たってもちくりともしないがシオナ側はそうもいかないだろうととりあえず衝突する瞬間に念動力で出来るだけ勢いを削り痛がる体を取っておく。 「あいたぁ!」 「テメェ何度目だ動くなって言ってんだろうが…!」 「いてて。小さくて気付きませんでした!おかえりなさい先輩五分台は新記録っすね!」 「ふざけた事言ってんじゃねぇぞ…!クソ蛇がぁ…!」 「わぁ怒髪天ごめんなさい」  後ろによくないものが見え始めているシオナに平謝りをして何とか怒りを収めてもらう。 「このっ本当…!はぁ〜〜…もういいわ。これについてはこっちで対策考えとく。海軍でもこんな感じだったのかよお前…」 「あっちでは正直作戦なんてあって無いようなもんでしたし声掛けなんてのもあんまり無かったすね。結構みんな好き放題やってました、どかーんと誰かがかまして俺がちょいと整えてやるだけで壊滅させられたし」 「お、おう…結構自由だったんだな海軍…。あー、とりあえず今日はこれで終いだ。次の修復は明日に回すから帰っていいぞ」 「えっいいんすか」 「どいつもこいつもお前も当たり前のようにぶっ壊しやがるし直す箇所なんてクソ程あるのに人数足りねぇって何度言っても増員されねーんだからこっちだってこの人数でやれることしかやらなくて良いんだよ。早く直して欲しかったらそれなりの人数寄越せっての…あの人事部共…なにがでもそれ君1人で出来るから大丈夫だよねだ…クソが…確かに出来るけどよぉ…」 「あっじゃあお先失礼しまーす…」    ぶつぶつと文句が止まらないシオナに引きつつサイコアトロンは帰路についた。あぁなったシオナは基本的に放置が安定なのだとスカウトからの数日でしっかりと学んでいた。 「それにしてもやっぱりここ来て良かったなぁ〜」  初日からシオナの指示で建材を運ぶ途中上空へ行きすぎて声が聞き取れずサイコアトロンの独断で建材を置いた結果修復箇所が広がるという事を4、5回繰り返した所、シオナの血管が切れかけるほどの説教をブチかまされた時は(ちなみに何方も飛べるため魔王城上空で説教していた所静かにせよと怒られたのは内緒だ)流石に海軍にいた時でさえされた事のない対応にサイコアトロンは1日程へこんだが辞めようとは思わなかった。なんて言ったって楽しいのだ。いつ落ちるかもわからない恐ろしい海の上を飛び必死に撃ち落とされないように念動力を使い続けていた頃に比べるとちょっと怒られるけど自身の能力で壁を修復したり直って行く魔王城を見るのは面白いし楽しい。  つまりは今の職場サイコー!である。 「海軍も別に悪かったわけじゃないけど海の上飛ぶのはしんどかったし俺の力を上手く使ってくれるし建設隊に拾ってもらえて良かったなぁ俺…」  寝床で丸くなりながらゆっくりと息を吐き明日はちゃんと指示を聞けるように頑張らなければとサイコアトロンは目を閉じた。  翌日、いつもの集合場所である資材置き場に行くと既にシオナが点検を始めていた。サイコアトロンが遅れたわけではなくただシオナが速すぎるだけなのだがなんだか申し訳なくなりスピードを上げて挨拶に向かう。 「おはようございまーす」 「おう、おはようさん」 「今日も速いっすね先輩」 「おー、まあ帰ってないからな」 「えっ!?」 「ちょっとやる事があってな、それよりついて来いお前に見せたいもんがある」  ふらふらと飛んでいくシオナに心配になりつつも後ろを出来るだけゆっくりと着いていく。案内された場所は開けた広場の様な所だった。 「ここ何かあるんすか?」 「ふっ…これを見てみろ!」 「これって何す、か…!?えっ!?」 「はっはっはっ!!」  どーんとその場に置かれていたのは黄色い下地に緑で十字が描かれたヘルメットだった。サイコアトロンは慌ただしくヘルメットと何故か大笑いしているシオナを交互に見る。 「はー…笑った笑った!お前のそーいう顔が見れたなら夜なべして作った甲斐があるわ」 「寝てないってこれ作ってくれてたんですか…?」 「おうよ。お前にもいやまぁシーサーペントには要らねえかもだけどちゃんとこういうのあった方がいいよなとは思ってたんだ。これ着けてれば建設部隊だってすぐ分かるしな」 「…………」 「んだよ。デザインが嫌だとか言うなよ要らねえならそのまま解体すっから置いとけ」 「いや!いやいやいや!いる!超要ります!!」    呆然とヘルメットを見ていたのが不満気に見えてしまったのか、シオナがバツの悪そうな顔を逸らしたのが見えてすぐに否定する。超能力でヘルメットを浮かし早速装着してみると採寸もされた覚えがないのにぴたりとまるで最初からあったかのようにサイコアトロンの頭部に収まった。シオナの様な丸いタイプではなくちゃんとサイコアトロンの頭部に合わせて少し平べったくなっているのはシオナが作る時に変えてくれたのだろう。嬉しくて今にも空へ昇って見せびらかしたいくらいだ。 「まぁ…なんだ?俺からの転職祝いっつー事で」 「ありがとうございます先輩!大事にします!」 「おう…気にいって貰えたんならよかったぜ。あ、あとそいつにはちょっとした機能をつけてあるんだ。お前いっぺん空登ってみろ」 「?何すか機能って」  シオナに言われるがまま魔王城上空へと駆け上がる。風がヘルメットを撫でるのが何だか気持ちいい。ある程度登った所で浮遊しシオナを待つがどうやらまだ地上にいるみたいだった。 「シオナ先輩ー?」 「なんだ」 「こっち来ないんすか」 「そっちに行くと意味ねーからな」 「へ……ん?あれ?会話出来てる!?」  耳元に聞こえるはずのないシオナの声が響きキョロキョロと辺りを見渡すがやはり地上に豆粒の様になっているシオナが見える 「ヘルメットにそう言う通信系の魔法だとか術式だとか練り込んだんだよ。これで離れてても指示も聞けるだろ」 「ありがとうございます!うわーこれ新鮮だなぁ俺のテレパシーとかとは違う系統な奴っすよね!?」 「あーまぁそこら辺企業秘密って事にしといてくれ」 「仕事がんばりますね俺!」 「はは、まぁ城壊さない程度に頑張れよ」  サイコアトロンはヘルメットに嬉しさを隠しきれずぐねぐねと自身の体を揺らし魔王城の周りを駆け回る。 「そろそろ降りて来いよ、仕事始めっぞ!」 「はい!」  シオナの声掛けにサイコアトロンが戻ろうとした瞬間魔王城から響く爆音に2人して固まった。 「……あのー先輩?」 「ふ、ふふふふふ!!またか!またなのか!!!朝からどこのクソったれがやらかしやがったんだぁ!?!?クソが!行くぞサイコアトロン!今日は修復からだ!!!」  爆音にキレ散らかしながらシオナが飛ぶ先には既に煙が上がっているのが見える。途中の池から水を超能力で引き上げながらサイコアトロンは後に続く。今日も建設部隊の仕事は山盛りになりそうだ。だがヘルメットを貰いテンションの上がったサイコアトロンにはそれら全てが楽しい仕事であった。 「あとそれつけて俺の指示無視したら今度こそ氷漬けにしてやるからな」 「あはは…うす!」