「ああっ真菜ちゃんこんな素敵なプレゼント…私もう感激しちゃいますっ、一生大事にしますね!」 「…ありがとう魚澄さん」 DWのとある町の一角、皆が集まり催されたクリスマスイベント会場のひとつ 異世界の冒険の中で普段お世話になった者たち、親しくなった者たちが日頃の感謝や親愛を込めてプレゼントを送りあっていた 「良かった…あとは雪菜ちゃんとクロウさんにも渡さなきゃ」 渾身の出来栄えとなった真鍮細工というプレゼントへのリアクションに手応えを感じ、小さなガッツポーズのまま踵を返す真菜。背を見送り詩奈と竜馬さえもどこかホクホク顔でいる 「…そう言えばアイツは戻ってきてるのか?」 「ぐえーっ!!」「いやーっ!!」 「「!?」」 「クロウ…?」 「あっ思い出した。彼さっきまで遭難してたみたいで、帰ってくるなりタマネギのスープ仕込むとか言ってどこかへ行ったと良子ちゃんが言ってましたね。あと知らない方が彼の頼んでたケーキを届けにきたと」 「(マジで?という顔)」 おそらく聞こえたもう一つの悲鳴はその届け人のものだろう。2人共とは穏やかではない悲鳴だ 「ぎょえーっ!!」 「わぁあ今度はルドモンの声!?」 詩奈らが辿り着いたそこで、おおよそクリスマスの聖夜に起こるべきではない惨劇の跡在り 「…食いかけのケーキ…こっちは、タマネギスープの鍋の前」 クロウルドモンの手前に勢いよく齧られたケーキの残り。届け人───織姫の手前には消火したコンロの鍋にみっちりと詰まった丸ごとタマネギたちがコンニチワ 「し…死んでる」 「「………甘すギルティ」」 「た…たまねギルティ」 ガクッ 「「なんて?」」 かすかな気力からまろび出た遺言(?)に首を傾げるもそのまま意識を手放した彼等からそれ以上の返答はなかった ともかくこんなところで寝られては困るので詩奈は織姫を抱っこしへ、竜馬はクロウとルドモンの足を引き摺り近場へと運ぶのだった 「───あっクロウさん、こんなところで寝てる…もうっ。直接渡したかったけどポケットにでも入れておこうかな」 ───────────────── 「「───はぁぁぁっ!?」」 「ぬぉぉぉっ!?」 「えっ、誰だおっさん!」 「ウワーッここドコ!」 「びっくりしたー年寄りを脅かすんじゃあない。生きとったか異邦人よ、いや半分死んどるみたいじゃがワシまで死ぬとこじゃったもん声デカっ」 「半分死んでる!?」 「アーックロウ脚透けてる!オレも透けてるー!」 「クソッまさかクリスマスケーキ…こんな恐ろしいモンを食ってんのかみんなクリスマスこえー!」 「ってかイホージンって何だ」 「「「長老ォオーーーっ!!!」」」 ドドドド! 「長老、砦の前でいったい何事…もしや新たな『カタシロガミ様』がお目覚めに!?」 「おおっ、アナタが新たなカタシロガミ様…向こうが透けて見えるクリア素材とはなんとハイカラな!」 「ははーっ!」「何卒、我ら民をお救いください!」 「ギャーーッなんだこのオッサンども!」 「でえええいマッチョが寄ってたかって暑苦しいわ俺の相棒に何すんじゃコラ!」 「な、何だこのガラの悪いトゲトゲ頭は!」 「ヤンノカオラー!」「ダッテメッコラー!」 「……いやウチの鍛冶職人どもが先走った真似をすまんかった異邦人どの、カタシロガミ様」 「「「スンマッセンッシター!!」」」 「ゼェ…ゼェ…なかなかやるじゃねーか!だが生憎ただのマッチョに負けてやるつもりはねーぜ」 「ほぼ相撲だったけどなー」 先程までウキウキでケーキを齧っていたはずなのだが、目覚めた途端巻き起こった息もつかせぬ大騒ぎが血気盛んな若者とマッチョな大人たちの性分でヒートアップ 一通り鎮圧し、なんとか話し合いの場に漕ぎ着ける長老……が、最終的に相撲の行司役を率先し一番はしゃいでたのは内緒だ 「死ぬほど甘いモンぶちこまれた寝起きの運動には丁度良かったわ。そーだなぁ…まずココどこなんだ。俺の世界ともDWとも違う気がするんだが」 「DW…おおっ古文書に書かれた並行世界のことですじゃな!」 「「こっ古文書ォ?」」 「お…俺生きてんだよな?天国にしちゃ埃っぽい場所だとは思っちまったが」 ひどい寝ぼけ方をしてると一考するタイミングを当に逃していたものの、なんともピンと来ないワード たしか雪菜が言っていたウィッチェルニーというのが、己の記憶の中ではそれに近しいモノらしい気はするが… 「「わ、わからん…」」 クリスマスイヴに遭難し、生還後ケーキを食ったらいきなりそのような場所にいましたとか胡乱か? そう言われても是非もなし。頭を抱えるしかない とにかく深呼吸し周囲を見る 前方には山の麓に人工的な手が加えられ物々しい丸太の壁などが見える…砦というやつだろうか そして後方、こちらは青々とした立派な木々が連なる森 「…ん、なぁ森の向こう?に"見える"でっけえ柱と建物はなんだ」 ふとそこに、ぼんやりと霧に沈んだような人工物が見えた気がしたことを指摘する 「…む、今なんと。まさか異邦人どのにも見」 「おいクロウ、あの柱のあたりで煙が上がってるぞ」 先の言葉に被せルドモンが立ち上がって大声を上げた途端、長老と呼ばれた男の面持ちが険しくなる 「……ッ!いかん、あれは子供達に持たせた敵の危険を知らせるための煙玉じゃ。何故禁足地に…って、異邦人どのどこへゆく!?」 「よくわかんねーが子供が助けてくれっつーんだろ、なら行くしかねえだろ」 「待て、あの煙の色はヤツら…闇の眷属の───足速っ!最後まで聞かんか!」 「───はぁっ…はぁっ…砦が見えてきたよ、もうちょっとだからっ…走って!」 息絶え絶えに少女が手を引いた幼い子を鼓舞する。彼女が痛いほど握りしめた手の強さと同じほど、幼子もまた土に汚れた掌に薬草を握りしめていた ……危険を承知であんな場所に行ってまで採ったのだろう。事情を知るからこそ、少女は強く言えなかった 「ごめんなさい…ごめんなさい…!」 「それも、絶対離さないで……それがあればぜったい良くなるから、大丈夫だよっ」 追手が容易く見つけられぬよう来た入り組んだ木陰を抜け、砦へと続く長い一本道へと転げるように飛び出した背後… 「グオオオオ!」 「きた…!」 彼女らを庇う並木を荒々しく踏み砕きながら黒い恐竜が吠える 人間の数倍の歩幅はあっという間に少女らの背へと追いすがり、バクリと牙を剥いて 「───見つけたァァー!」 突如何処からともなく盾が躍り出て、恐竜───"ダークティラノモン"の顎を足蹴と共に支え食い止めたではないか 「!?」 「オイオイ、ヤツら(敵)ってのはデジモンのコトかよ。なら話が早え───だしゃああっ!」 会合一番、あまりに慣れ親しんだシチュエーションをさっさと飲み込んだ青年。豆鉄砲をくらったような間抜けな横っ面を躊躇なくゲンコツで叩き揺らす 「グオオ!?」 おおよそ人間らしからぬ予想外の痛撃。たまらず吐き出し反撃の恐竜の尾を返す……が、盾から移り変わったルドモンがカットインし体全体で弾き上げることでかわしつつ子供達の前へ 「うお…なんか力が振り絞りきれてねぇ気がする」 「俺も手ごたえが浅えな。やっぱ体が透けてるせいか」 あの程度の成熟期ならば何度も戦った質感というものを覚えているが、いつものそれよりやけに重く硬く感じる。取り立てて強い個体というわけでも無さそうだ…という彼等のカンは当たっていた 何らかの(おそらくあのケーキの)原因で転がり込んだこの世界において、やはりクロウとルドモンのチカラはDWに置き去りとなった肉体のデータを欠いているぶん実力を発揮しきれておらず、とりわけルドモンは己を構成するデータの不足はもろに最大出力に現れていた 「おいオマエら、怪我ねえな?」 「た…盾がしゃべって変身した…」 「お、おう。なんか平気そーだな」 …が、それでもなお自分らがこの場において何も出来ぬ死人や亡霊では無さそうだというのは、右手に返ってきた微かな痛みと煌々と宿るデジソウルが物語っている 「だったら、ちいっとばかり本気でやんぞ。デジソウルチャージ!」 「ルドモン進化───ティアルドモン!」 「グルル…!?」 土煙をあげ視界から消える姿。ダークティラノモンの巨体に由来する僅かな緩慢さは、木々を縫い加速するティアルドモンを捉えることができない さらにティアルドモンの本来持つ青い体色は……亜種ゆえの『茶』。獣のような毛並みはこの鬱蒼とした地で迷彩能力を遺憾無く発揮し、獲物を追い詰めるハンターへと仕立て上げる 「くらえアサルトクロー!」 会心の一撃、恐竜を捉え打ち砕く 「───ダークティラノモンがやられた跡はこの近くですか。ふむ、人間の子供を見つけたと聞きましたが…おや、これはこれは」 痕跡を辿り着いたそこに妙な霧と空間のノイズが見え、彼の目はニチャリと笑みを浮かべていた 「セキュリティウォールの類、でしょうか。この古臭い世界に我々の目を欺くだけの偽装防壁……やはり白いカタシロガミの入れ知恵でしょうか」 ですが、と続けその奥を見やる 「前からこの辺りは何か臭うと感じてましたが……ようやく"綻び"を見つけましたよ」 「いかがいたしましょう」 「擬装は看破したとはいえ結界はまだ機能してるようです、クラッキングに優れたデジモンをかき集めなさい。この穴を起点に侵入させていただきましょう…」 ───────────────── 「わーホンモノのカタシロガミさまだーすごーいかっこいいー!」「カタシロガミさまーあそんで!」「カタシロガミさまはわたしとあそぶもーん」 「よ、よせやぁいテュフへへへへ」 地下深くに隠された施設の中でこの世界の子供達と出会うと、たちまち人気者となり浮かれ尽くすルドモン 騒動を聞きつけた大人たちも徐々に集まってきたようで、皆複雑な面持ちの中に確かな安堵を浮かべていた 「勝手に外に出るなって言われてただろお前。ユハナもだ!」 しかし、その空気をぴしゃりと咎め憤りを見せる少年がいた 「なんだアイツは…?」 少し離れた場所で見ていたクロウが身を乗り出すと子供達が何かを言い合っており、ふいに彼等へ指を指す 「ごめんなさい…でも」 「でもじゃないんだ。砦はただでさえカタシロガミ使いや戦える大人が少ないのに禁足地に近づいたんだぞ…迂闊にもほどがある」 「お兄ちゃん、この子のお母さんの病気のことは知ってるでしょ?薬の材料だって禁足地の近くじゃなきゃ調達できないのも… 「だからってユハナが助けに行くことはないだろ…!」 すると突如、先に助けたユハナと共にいた少女から話を聞いていた子供たちが一斉にクロウらを指差し声を上げる 「この人たちが助けてくれたんだよ」 「こんな大きな黒トカゲをね、カタシロガミ様の盾で防いでー」「どっかーん!ってパンチで追い返しちゃったんだって」 「え…!?」 「お…おう、そうだ。心配ねえよちゃんとぶっ倒してきたかんな。だからカッカすんのもそのへんにしとけって」 ここはいっちょ年長者として場を取り持つべきだと目論むクロウへ、不信感を露わにした面持ちでしばらく睨みを効かせたのち足早に踵を返す少年 「あ、オイ待てよ」 「…クロウ怖がらせちまったんじゃねーの」 「俺のせいかよ!」 「───改めて礼を言わせてくれ異邦人どの、カタシロガミ様───ここは《ヘパイストス》。かつてDWと呼ばれる世界から降臨なさった《カタシロガミ様》に救われた世界だ」 長老に連れられて砦の横穴をゆく道中、あらためて彼の口からこの世界について知りうることが語られ始める 「…聞く限り、DWにいた貴方がたはどうやら何らかの方法でこの世界に迷い込んだようじゃの。ルドモン殿は我々のカタシロガミ様とちと違うようじゃし…やっぱなんか透けとるしコワっ」 「俺だって嫌だわこんなカラダ」 「つかさっき戦ったせいか余計に薄くなってねーか?オレたち消えちゃう!?」 「と、とにかくもっと色々教えてくれ長老。まずその…カタシロガミ様って何ださっきから」 あれじゃ。と指差したそこに、光る石で囲われた空間が出迎える 「壁一面に絵が彫られてる…!」 「アレが原初のカタシロガミ様の御姿じゃ───片腕には雄々しき剣を、そしてもう片腕には…すまんだいぶ昔に崩れてわからん」 ずっこけるクロウルドモン。改めてまじまじと見上げる微かな崩落と風化に晒された巨神の絵 長老の言う通り右手には剣を、左腕には辛うじて獣の頭のようなものを携える姿が垣間見える。その特徴を照らし合わせ、ふと合点がいく 「もしかしてオメガモンじゃねえのかこれ」 「オメガモン?知っておるのか」 「俺らの世界じゃそう呼んでる『ロイヤルナイツ』っつーえらいデジモンサマだ。って事はそのカタシロガミ様ってのがこの世界のデジモンなんだな」 それからしばらく情報をやりとりし、異邦人たるクロウたちに吹き込まれた未知の世界に思いを馳せる長老 「ほほぉ…お主らのいた世界、カタシロガミ様の故郷ではデジモンとは野生動物のようにありふれた存在なのだな」 「その言い方だとこっちは違うんだな?」 「左様。我らの世界においてカタシロガミ様たちは"武具に宿る化身"なのだ」 「武具に宿る…?」 「『武具を型取り依代とし、人と共に戦う神の化身』───我ら人間は一度異世界から現れた強大な闇の住人らに脅かされておった。それを原初のカタシロガミ様に救われたのち、その権能から神器の作り方を授かった。人々は自らこの世界を守り戦うため鍛治に励み様々な武具を生み出した」 ……やがてそこに宿ったという武具を模る化身、人と肩を並べ戦うカタシロガミ様たちの姿。まるでデジモンとテイマーという関係そのもののように綴られていく壁画の物語 「武具のデジモン…オイオイマジかよまるで」 「Legend-Arms…オレたちのコトみたいだ。ってことはその宝珠は…デジコアみたいなもんか?」 「何せそれも400年も前の事じゃ。闇の残滓と戦いやまぬこの世界ではその伝承を継いでいくのもやっとでな…世代を跨ぐほどに詳しい事も、奴らと戦う術もじりじりと削れている」 「ちょっと待て、今も戦いは続いてるのか?」 「…これを天啓と見て良いのだろうか。だが他に思いつかぬ」 滅び迫るこの世界に迷い込んだ若者たちに語るには苦々しく、長老は重い口を開いた 「アナタはカタシロガミ様と共に戦ってきた戦士と見込んで頼みがある。闇の根源を討つ"新たなカタシロガミ様"を生み出すためのお力添えを願いたい。引き続き砦を案内しよう」 ───────────────── 「織姫さーん!どこですか?!?早く私をシンさんのところへ届けて下さいよ?……ぅぁ!?(気絶しているクロウに躓き転倒)」 ───────────────── 「───ぐえーっ!」 「うおお今度は何じゃ!」 「み、鳩尾を急に踏まれたような痛みが…」 「クロウ殿たちの本来の身体に何かあったかもしれんのう」 「マジかよ…何とかしてさっさと帰りてえが」 「…そうも言ってられねーよなー」 「だなァ…こんなもん見せられちまったら、何にもしねえでサヨナラは漢が廃るぜ」 地上から見た森のさらに向こうに広がっていたのは、ほとんどが灰褐色に統一された石レンガ調の街並みと城だった しかしその殆どが…おおよそ崩れ摩耗し久しい寂れた雰囲気に沈んでいた。特に城は火災に見舞われた独特の黒いグラデーションが焼き付いており、天災や人災ではなく怪物たちとの激しい戦いがあったのだと予期させる 「あれはこの大陸の王都じゃ。納める主も喪い久しい……今は街にすら迂闊に踏み入れられん」 住まう場所をも追われ、この砦の後ろにはさらに逃げ延びた人々が身を寄せ合う数少ない人間の安息地があるのだという 無論彼らがここを離れられぬ理由はもっと別にあるのだが、それらの使命を成していく過程で多くの血が流れてしまった 「…カタシロガミ様たちの武具のほとんどは、長い戦いの中で敗れ葬り去られてしもうた」 「マジでジリ貧だな…」 「原初のカタシロガミ様がその命と引き換えに封印なさった闇の根源、その眷属はココ最近急激に勢力を伸ばし始めており、封印の効力が弱まってるのだろう……あの子の幼馴染も連れ去られてしもうた」 さっき独りどこかへ逃げていった少年のことだろう。やはりその面持ちに宿した影は… 「カタシロガミ様と心通わせ力を引き出すことは我々大人では上手くいかん。若き子供達にこそ可能───なればこそ、闇の者たちは子供達を狙い連れ去りはじめた。この子らはせめてものとこのような地下へ匿っているが、やがては戦いに赴かねばならんだろう」  だからこそ新たなカタシロガミを生み出す必要に迫られているのだと、改めて助力を求めた意義を述べる 「ここじゃ、我々の反抗のための要…砦の大工房───カタシロガミ様の宿る武器、神器を生み出すための場所じゃ」 カタシロガミ様を宿すため、残された里のものたちの総力を上げて打たれた神器。そして過去に作られたものの、ついにカタシロガミを宿す事なく使い手を失い役目を終えた武具たちが工房に並べ立てられた その中で中央のテーブルに置かれた一対の武具が目を引く 「この盾に剣…ルドモンとズバモンの武器モードにそっくりだ」 「神器の覚醒には未知の要素が多い。何を必要としてカタシロガミが生まれ、そしてカタシロガミ使いを選ぶのか……世界は違えど、偶然にもカタシロガミ様に似た存在を連れた貴方ならば何かヒントを得られぬかと思うてな」 理屈はわかる。しかしルドモンの生まれに立ち会ったのは前のパートナー…恩師の秋月光太郎だ さらにいえば自らが気合とフィーリングでこれまで何とかしてきた弊害だろう、うまく説明できる要素が少ない気がして余計に冷や汗が湧いてきた 「ちょ、ちょっと待ってくれ…こういう説明あんま得意じゃねーんだ」 ……とは言い難い雰囲気であり、尚のこと気まずい 「ふむ…どのみち今、我々に残されたのは未だ覚醒せぬこの剣と盾…そしてあの柱をもって配置した術式のみ。何とかせねば」 そこでまた気になる事を先に尋ねる 「あの遺跡に見えたあの柱は何と関係があるのか」 「…我々がカタシロガミ様と共に長い時間をかけて編み出した闇の者を今度こそ討ち払うためのため編み出された術式じゃ」 それはカタシロガミの武具を作る過程でマテリアルに織り込まれる術式回路の技術を応用した巨大な柱……闇の根源を封じた原初のカタシロガミが用いた権能を人々が解読し、叡智を束ねさらなる昇華を経て、遺跡を囲うように大地に埋め込まれたオブジェクトを長老はこう呼んだ 「名を《ディスラプターコード》…うまくいけば、原初のカタシロガミ様でも討ち滅ぼせなんだ闇の根源……不死の怪物の力を奪い、トドメをさせるやもしれぬ」 「不死の怪物!?そんなんとアンタらはずっと…」 「でもそれをぶっ倒す方法を作ったってスゲーな!」 「今は異邦人どのたちが見えたと言ったあの森の奥に認識阻害をかけて遺跡とともにあの地を守っている……あれを視認できるのはカタシロガミ様との繋がりをもつ少年少女のみ」 戦いを終わらせるために大人たちが出来るのはこの程度しかないと彼は言う だが結局そ未来ある子供達を戦場に送り込むなど…今まで奴らを止められなかったことを不甲斐なく思っていた。きっと先祖たちも同じ悔いを抱えてきただろう 「やはりアナタも神の加護を受けた戦士なのだろう」 「俺とルドモンは苦楽をともにした対等な相棒だぜ、そんな堅っ苦しいもんじゃねーよ」 「ふむ…相棒か。戦いのみではない、主従でもないその関係、羨ましくあるな」 そこでルドモンがずっと気になっていたことを尋ねる 「そういやさっきの子供達の中で怒ってたヤツもテイマー…じゃねえやカタシロガミ使いなのか?」 「あれはワシの孫兄妹じゃ。カタシロガミ使いとしてはまだ芽吹いておらぬが…息子たちのように立派な戦士になれるはずじゃ」 「ま、孫!」 「俺が言うのも何だがよ……随分と苛烈な孫だな」 「敵に囚われた我々の同胞にあの子の幼馴染もおったせいじゃろう。戦いたくても戦えない自分に焦っておるんじゃ……」 ───────────────── 『大丈夫だよユージン』 『私がんばるね。怖いけど…カタシロガミ様に選ばれたんだもん』 『やったよユージンっ、私たちちゃんと戦えたの。ユージンたちのことを守ってあげられる…だからそんな悲しい顔しないで』 「…ミナ。僕だって君を守りたかったのに」 血豆の潰れた掌の痛みを悔しさと共に握りしめ独りごちる 最後に見た彼女の笑顔、少し年上の幼馴染《ミナ》は怖がりなのに不安を隠して笑うクセがあった。カタシロガミに選ばれ戦っていたあの時だってずっと怖くてたまらなかっただろう だのにユージンは戦うための力を持てずに、戦いに征く彼女の背を見送ることしかできず……結果このザマだ 「生きて、生きてるよね…絶対」 はやく取り返さないきゃいけない 立ち止まってなど… 「よう、ようやく会えたなボウズ」 不意に飛んできた声に驚き背が跳ねてしまう。振り返るとそこに、見慣れぬ衣服を纏うトゲトゲ頭の青年がいたことで不信感半分、疑問半分といった感じでユージンが目を細める 「だーっ待て待て怖がんなよ?俺ぁ確かにこんなナリだがこう見えて…」 「別に怖くないよ。アイツらに比べたらお兄ちゃんなんかヘでもないよ」 「あぁん?それはそれでちょっと納得いかねーな。……稽古してんのか、颯乃みてーに剣を使うんだなオマエ」 「オマエじゃない、僕は"ユージン"だ」 「へぇ俺はクロウ。そんでルドモンな」 「おうよろしくユージン!」 挨拶への返答はなく、彼はまだ成長途中の身体には似つかわしくない重厚な鉄の剣をキレよく素振りし始める なんとも無愛想で生真面目な素振りだが、ここは根気よく会話を投げつける 「じゃあもういい?僕は暇じゃないんだ……さっきみたいに爺ちゃんたちと話してていいよ」 「爺…やっぱ長老の孫か。大変だな」 「そうだよ、だから僕はみんなを守るために一番強くなきゃいけないんだ。……あの黒トカゲをパンチでやっつけたってホント?」 「へっへん、すげーだろ」 「嘘はドロボーのはじまりだよ。カタシロガミ様みたいに戦える人間なんているわけないじゃん」 「それは…!困ったユージンの意見がめちゃくちゃ正しくねーかクロウ」 「オマッ…俺が今まで何やってきたか目の前で見てんだろー自信持てよー!」 デジソウルパンチのモーションを繰り出しながら威勢を見せるが、ユージンは相変わらず冷めた様子で告げる 「それにあの黒トカゲを1匹倒したくらいじゃぜんぜん足りない…やつらはもっと沢山仲間がいるんだ」 「こういう時に竜馬らがいりゃなぁ」 「仲間がいるの?」 「おう、みんなスゲー連中だぜ」 自らの旅で同行し肩を並べてきた仲間のことを自慢げに話すクロウ 「特に俺の相棒ルドモンはな。アイツはやるぜぇ」 「…カタシロガミ様に随分気安く喋るんだね。変なの」 「あーそういやこっちのデジモ…じゃねえやカタシロガミ様ってのはもっとお堅いモンだったな。オマエは他のカタシロガミ様と世間話とか喋った事ねーのか」 「カタシロガミ様は貴重なんだ。長老や使い手以外が気軽に話しかけられる存在じゃないし……爺ちゃんから聞いてるんだろ、僕がまだカタシロガミ使いじゃないって」 カタシロガミ(使い)というデジモンとテイマーに似た関係への他人行儀なユージンの物言いに、やはりクロウとしてはしっくり来てなかった 「そりゃ寂しいじゃねーの。せっかくお互い話せるんだからもっと喋ってもらえたほうがカタシロガミ様も嬉しいんじゃねーか」 「……」 「俺はルドモンとバカやってケンカして、メシ食って笑って…まぁそれなりにいろいろやってきたからな。そんでひとりでウジウジ悩んだ時とかは一緒に考えてうまいこと乗り越えてもきた。ルドモンとも仲間とも」 暗に言われている気がした、今独りで悩む自分の振る舞いが愚かではないかと 「だからよ、その…幼馴染を助ける事とか」 「……そんな事!これは僕は、僕が……やらなきゃいけない事なんだ。ただそれだけで」 「……ま、まずは意地を通すのも男の子ってな。オマエの得意なやり方で好きにすりゃいい。人に向き合うのも、孤独に向き合うのも人生には必要だかんな」 ただ、と付け加える 「"好きな女"助けてえなら、喜んで手貸すぜ少年」 「……ッ!!? す、すすす…好き……いいや待った、違う!違わないけどッ…こう」 「ハハッようやくその仏頂面を崩したな。やっぱ堅いんだよオマエ、もっと肩の力抜いてなるようになるって思っとけ。実際なんとかならぁ」 「ア、アンタはちょっとフザケすぎだろっ。こっちは真剣に悩んでるんだぞ!」 「おう見りゃわかる。俺の戦い始めた理由にくらべりゃ、誰かのために必死になれてるオマエは本当にスゲーやつだってな」 「……ッ」 スッと返された含みを感じる言い方、その裏に何かを伴ってきたかのような言い方だとユージンの額に汗が浮く 「……何者なんだ、アンタ」 「ただの悪ガキだよ。あっ一応元、な」 『聞こえるか、人間ども』 不気味な声が響き、空に血染めたような面皮を歪ませ嗤う───闇の眷属の隊長《フェレスモン》の姿が浮かび上がる そのやり口は、まるでゲームを楽しむかのように今まで幾度も人間たちへ向けられてきた宣戦布告の合図だとユージンは知っていた 『単刀直入に言おう、貴様らが隠してきた遺跡は我々『教団』が占拠した』 「な、遺跡が見つかった…!?」 プロジェクターのように空に投影された景色、森の奥にあった遺跡をまるで虫が這うように無数のデジモンが蔓延っているではないか そして頂上に一際目を引く『繭』が見え…敵の首領がその糸を毟ると中に絡め取られて意識を失っていた幼馴染の姿が在った 「ミナ!?」 『この中には我が主君の生贄とするため捉えた人間とカタシロガミがいる。このまま我々が我が主君を復活させ此奴らを捧げるのも簡単だが……私は慈悲深いのだ、最後のチャンスをやろう』 『要求を告げる、我々に二度と逆らえんようキサマらの持つカタシロガミを全て差し出し降伏しろ。そうすればこの人質たちは返してやらんでもないぞ?』 「どの口が…!」 あの時のように感情をむき出しに吐き捨てるユージン 「教団…?」 「闇の根源から生まれた化け物たちだよ…アイツらはずっと僕らと戦いながら、主人を復活させようとしてる」 「ああ、闇のケンゾクとかいうヤツか。ったく回りくどい連中だな」 「……ミナを、みんなを助けなきゃ」 「おいユージン待てって、武器も持たずにどうすんだ」 「うるさいっ!」 ドゴォ 「ヴッッッ!?」 「ワ゛ーッキンテキは反則だ!?」 「ハァ…ハァ…ごめんなさい、でももう時間がないんだ。僕が…僕が今やらなきゃいけないんだ!」 「ま…待ちやがれ…」 「ユージン…ユージン!ダメだどこにもおらん…」 「まさか…遺跡に向かったのか!」 「くそっ剣の神器も見当たらない。施錠しておいたのに…」 「なんということだ…まさか1人で」 「オイみんな、こっちに来い!」 呼び寄せられたそこに石畳をてこの原理で引き剥がした跡と、奥へと続く子供が通れるかどうかの狭い通路が見えた 「これ昔崩落したっていう遺跡への非常通路じゃないか…?」 「……」 「ユハナ、何か知っておるな」 「…はい。少し前に下の子がいたずらで入った時に、実は私たちくらいの背丈の子供なら通れそうな隙間が残ってるのがわかって少し掘ってみたんです。そうしたら遺跡に続いてたみたいで」 「なんということだ…」 「長老ォ!」 「クロウ殿、カタシロガミ様!」 「すまねえ、ユージンを止められなかったすぐに追う。……それと長老、ディスラプターは完成してるんだよな。どうすりゃ動かせる」 「なんじゃと!?」 「逆に考えようぜ。今ならあそこにいる大ボスとその下っ端どもをまとめてぶっ倒せるんじゃねえか」 そのような案が出せたのは、おおよそ異世界という他所から転がり込んだ者ゆえの発想だろう 結論から言えば不可能ではない 「……最終調整がいる。それと陣の中心たる遺跡とその外周に6つ、起動するための石碑がある。そこに皆が辿り着き一斉に起動術式を詠唱すれば」 だがそれは現地で完成したばかりの試運転などもないぶっつけ本番 何より人質が生きている可能性がある…迂闊に発動すれば彼等も巻き込む可能性がある 「んじゃ俺はアンタらが無事に石碑を動かせるように囮役で暴れ回って、アイツを助けるついでに敵陣ど真ん中にもある石碑まで道を切り開きゃあいいんだな?」 「なっ…お主どんな無茶をするつもりじゃ!」 「どのみち黙って好き勝手されりゃ大ボス出てきて纏めてアウトなんだろ?…こうなりゃとことん付き合うぜ。みんなを助けてディスラプターってやつで闇の根源ごと倒して、めでたしめでたしといこうじゃねーの」 グーーーー…… 「…しまった、めちゃくちゃ腹減った!」 「そういや遭難から帰ってからまともに食ってなかったな俺ら…。タマネギスープも味見しか出来てねえし」 「いかん…!何かすぐ食べられるものを持ってきてくれ。果物やパンじゃ」 「はい!」 全速力で飛び出し約30秒後、転げるように戻った男が差し出す食材を詰め込んだ籠を覗き込んで、クロウとルドモンが思わず目を丸くする 「こちらに。異邦人のお二人の口に合うかはわかりませんが…」 「……口に合うもなにも、こりゃDWの食材まんまじゃねーか?」 「カタシロガミや他のデジモンがいるからココもちゃんとDWなんだなー……あっクロウ、黒白がよく食ってる"アレ"があるぞ!」 「アレ…あっコレか!なあコイツをもう少し持ってきてくれねえか」 「コ、コレだけでよろしいのですかな?」 彼らが嬉々として指差した果実を訝しげに見る長老 「おう、多分今の俺らに一番必要なモンだ。食った後は作戦ともども───頼んだぜ」 ───────────────── 「おお、おお…ようやく見つけました我が主君。全く小賢しいものを作りおって人間どもめ」 「さて、そちらは遊び終わったか?」 一瞥。階段の下、人影を囲い動く眷属たちの元へフェレスモンが降りていくと、なんとも無様な体たらくで横たわる人間の少年がいた 「フフ…カタシロガミも繰り出せぬガキが、我らに敵うはずなかろう」 「…せ」 「んん?」 「かえせ…みんなを……かえせよ…」 「ハハハッ。ならばまずはその神器の刃を無謀に振りかざす前に、真っ先に引き渡す利口さを持つ事だな」 「誰が、渡すもんか」 「甚振られても剣を手放さないその気概は認めよう。それに比べて…あの"杖のカタシロガミ使い"の何とも他愛無かった事よ」 杖のカタシロガミというワードにかっと頭に血が上る 「追い詰められ、仲間の命を懇願し…まだ戦えるというのに自ら武器を易々と手放した弱き者だ」 戦いなど似合わない優しい子だった きっと卑怯な手段で脅かされた仲間の命を慮り、そのような選択を迫られたのだろう… 悔しいさに噛んだ口角に血が滲む 僕が不甲斐ないから…カタシロガミ様を目覚めさせられないから 全部自分のせいだ。弱さのせいだ 悔しい。悔しい…なのに、今も何もできない。目の前の敵1人の命を道連れに一矢報いることすらも 涙と血に滲んだ瞼を開き仰ぐ 遺跡の鉄壁に括り付けられた雁字搦めの鉄線を固めたような繭。そこからは悲鳴すら聞こえない 本当に彼女らが生きているかもわからない …ただ、あんなに近いのに遠い 「そろそろ片すとしよう」 思わず差し伸ばしていた手を痛いほどに掴まれ、遺跡の絶壁へと体が宙吊りとなる…それでも最後の意地だろうか、ユージンは神器を手放す真似は見せなかった 「さらばだ。弱き者」 「ちくしょう…ちくしょおおおーーーっ……!」 悲鳴が遠退き、末路を見届けるまでもなく踵を返す。神器は後で回収すれば良い… 「ああ、拾う際に血に汚れるのは面倒だが…どのみち破壊してしまうのだ、かわりないか」 1人ごち、そろそろ頃合いのはずだと耳を澄ます ……だが耳に飛び込んだのは、俄かに騒がしくなった部下の声 「馬鹿な…カタシロガミ使いにあんなヤツがまだいたとは」 「何事だ!」 「「───邪魔だオラーっ!」」 「グッハァ!?」 壁を駆け上り、薙ぎ倒した敵を飛び越え、頭上に見下す赤い面皮を足蹴に叩き伏せた1人と1匹の肩に担がれたユージンが腫れた目を見開く 「え、なんで……どうやってここに」 「フン!俺たちゃまだガキのオマエと違ってさんざん鍛えてっからなぁ。片っ端からぶちのめしてきたんだよ」 …今なんて言った?聞き間違いかと一体が背後の塀から地上を見下ろすと… 「たっ…隊長ォー!みんなやられてノビてますぅゥ!?」 「ンン゛ー!?」 「生きてっかー!」 「その声…ル、ルドモンさんなの?姿が全然違う。それになんかさっきまで透けてたのにちょっと見ない間に…くっきりしてる」 「おう進化したんだ、今のオレはティアルドモンだぜ」 「たまたま砦で"ヘビーイチゴ"を見つけてよ、食ってきたからちょいとばかりホンキを出せるぜ」 力こぶを作り自慢げなクロウもまた足元が先ほどよりも輪郭を強めており、栄養補給も相まってやる気に満ち足りた顔をしている 「そんなことよりよかったーこんなボロボロになるまで1人で頑張って、オマエってやつはさぁ!」 「ご、ごめんルドモンさん…」 「バッキャロー、さんはいらねーよ。オマエも大したヒーローだぜかっこいいぞ!」 「ほらよ、落としモンだぜ無くすんじゃねーぞユージン」 「神器……ありがとう、クロウさん」 墜落の瞬間とうとう情けなく手放してしまった神器を返され、再びキツく握りしめて涙を拭う。まだ泣いていられない、やるべき事がある 「ルドモンの言う通り、オマエは大した男だ。胸を張れ」 「キサマら…いつまでワタシの顔を踏んづけt」 「おやすみァ!」 「ギャーーッ!」「「隊長ーーっ!!!」」 「さーて俺らだけであとどんだけやれるかわかんねーが、とりあえずは…」 ユージンが降り立ち剣を身構える隣、遺跡の頂上に括り付けられた繭を睨み据えて指差す 「世界を救う基本中の基本、人助けからおっぱじめんぞティアルドモン!」 「おお!」 「───いたぞ囲め!」「お、お前らーっアイツ隊長を倒しちゃったぞはやく加勢しろ!」 「チッ残りももう追ってきやがったか。んじゃあ人助けついでに」 振り返った視線が冷徹な怒りに燃え、敵の群れに緊張が伝播した 「ユージンをひでぇ目に合わせた落とし前、キッチリ払ってもらおうじゃねーの…あぁ!?」 「よーし何時でも来いクロウ。見てな、コレが俺たちの世界のカタシロガミ……いいやデジモンとテイマーの戦いだぜ!」 「───デジソウル、フルチャージ!」 「ティアルドモン進化───ライジルドモン!」 「か、カタシロガミの姿が変わった!?」 「ヒーローのお通りだ、オラオラー!」 猛る獣盾が今度は銀に赤色を刺した鋼鉄の盾へと転ずる 「…本当にすごいや。けど、僕だって!」 「「「ウオオオオオッ!!」」」 雷・斬・拳が折り重なり薙ぎ払われる有象無象。冷静さを取り戻したユージンの剣技は冴え渡り、カタシロガミ使いとして在るために鍛え抜かれた太刀筋は怪獣たちの骨身を次々捉え。その隙を埋め、時に引き立てるよう攻防一体の電撃と人並外れた殴打が追従 統率を欠いた群れの風穴はたった三名の暴にあっという間に広げられた 「長老、みんなはどうだ」 クロウの耳にはこの世界の通信機にあたるイヤリングを借り受けており、それを通して石碑の場所へ向かった大人たちとの連絡をとっていた 『間もなく最後の部隊が到着する。ワシらもそちらへ追いつく…うおっこの暴れっぷり無茶苦茶じゃの!』 「よっしゃ。…そういう訳だ、後はまとめてぶっ飛ばすぜ!」 「チャージ、デジソウルバーストォ!」 「ライジルドモン・バーストモード!」 「今度はカタシロガミの色が変わった!?」 ───バーストモードは鍛錬の末にさらなる洗練を経たことで、正式名称"BMプラス"へと昇格。本来三本爪であるところを人間と同じ"五指のマニピュレーター"を用いて格闘戦、さらには器用な雷撃制御ができるようになった 「ライトニングバスター広域拡散モード…纏めておねんねだぜド三流ッ、オオオオッ!」 蓄積された紫電が鉄爪を伝い、振り広げた両掌から解放された稲光の網が"敵の群れのみ"を貪り……爆発 「す…凄すぎるよルドモン」 一息に全てを蹴散らした静寂の中、少年の感嘆に対しライジルドモンBMプラスは得意げに人差し指を立てて舌を鳴らす 「チッチッチ…今のオレはライジルドモン・バーストモードプラスだぜユージン」 「な、名前が随分コロコロ変わるんだね…?」 「まぁ進化だからな。そこもデジモンの醍醐味だぜ。さて…コレで全滅か?呆気ねえな」 鼻をつく焦げた匂いをそよ風が拭い、土煙の中何かが蠢く 「…よくも、やってくれましたね……トゲトゲ頭の猿め」 「うわ起きやがっ誰が猿だこのヤロー!」 「生憎、闇の眷属にも忠義はある…主人のためなら命の一つや二つ安いもの」 フェレスモンは未だ余裕を崩さぬ面持ちで不気味に告げる 「故に、最後の封印は……道連れにさせてもらう」 「待ちやがれ!」 遺跡の頂上、繭絡む台座に縋り付くように叫ぶ 「───お目覚めください我が主君…《ズィードミレニアモン》様ァァーーーアハハハハハハ!!」 自爆の衝撃に封印の要石が砕ける 瞬間…地の底から闇が吹き出し、根源が揺蕩う空が嵐雲に黒く捻じ曲がり初め、太陽を飲み込んだ 「ぐ…間に合え、雷速化だ!」 「みんなを返してもらうぞ!」 「───愚カナリ」 黒煙が蠢き象られた巨大な爪が人々を捉える繭を掴み、同時に雷の如く駆け上る彼等を羽虫のように払った 「ぐはぁっ!?」 「無事かライジルドモン!」 さらなる闇が集い吸い寄せられ双頭をもたげた邪竜が、長き時を経て再び、この地に蔓延るあらゆる命を見下し蔑む 「我ガ名ハ、ズィードミレニアモン……矮小ナル下等生物ヨ、再会ヲヨロコボウ……ワレガ此ノ世界ニ何度デモ破滅ヲ与エヨウトイウノダ」 「ズィードミレニアモンだぁ…!?」 「本当に…蘇ったアレが闇の根源……!」 世界に蔓延る闇の眷属が泥のように溶けていく。幾星霜ヘパイストスの大地を蝕み、人を脅かし。闇を蓄えてきたそれらはやがて、主君へと供物を捧げるように糧となりズィードミレニアモンの躯体が膨れ上がっていく……かつて原初のカタシロガミと戦った時よりも強く、悍ましく …この世界を覆う闇の根源は時を超えて尚強大に在った 「ライトニングボンバーッッ!!」 雷球が闇の空が紫光に切り裂いて 「うぉおおおらぁっ!!」 直後硬直したズィードミレニアモンの横顔へ、雷速で激突硬く握りしめられた鉄爪のマニピュレーターの主が猛々しく舞い戻る 「キサマは…コノ世界ノカタシロガミデハ無イナ」 「さっきはよくもやってくれたな。オレはライジルドモンBM、お見知り置き願おうか闇の根源さんよ!」 「我ニ傷を穿ツカ…オモシロイ。シカシ、ワレヲ討ツコト、カナワズ…!」 「クロウが言ってたぜ。ケンカってのは結局、やってみなきゃあわかんねーぜ!!」 激突する闇と雷神 地上に見届ける彼らの元へ、最後の石碑を起動させるため駆けつけた長老たちが必死に呼びかける 「ユージン!」 「爺ちゃん…ごめん、僕はひとりじゃ何にもできなかったよ」 「ユージン、お前たちは逃げなさい。……我々大人が道連れにしてでも蹴りをつけてみせる」 崩落した遺跡の穴の底、傾きながらも健在であった最後の石碑を覗き込み、大人たちが長老を過ぎりながら瓦礫を降り始める 「カタシロガミ様たちが目覚めぬ以上、この遺跡と我々大人ごとディスラプターを暴走させ葬るしかあるまい…」 「ごめん…爺ちゃん。僕がうまくやれなかったから、カタシロガミ使いとして使命を果たせないから…」 「……違うわい。お前独りに全てをなすりつける真似など誰がした」 「え…」 「みんな自分の大切なもののために命懸けで自分に与えられた役割を、自分の意思で果たしてきた…そのはずじゃ。ミナもまたそのように」 『大丈夫だよユージン』 『私がんばるね。怖いけど…カタシロガミ様に選ばれたんだもん』 『やったよユージンっ、私たちちゃんと戦えたの。ユージンたちのことを守ってあげられる…だからそんな悲しい顔しないで』 ミナの言葉が脳裏にリフレインする 「みんなが必死にやった、その結果お前には遥かな重積を背負わせることになってしまったのだろう。本当にすまないユージン……」 「……謝るなよ。僕だってもう自分の意思で決めたんだよ」 「ユージン…?」 「なのにそれをやらされせてるとか押し付けたとか、そっちこそ勝手に責任感じてるだけじゃないか!」 「……互いに心配してくれるたぁいい親子じゃねーか…いやジジ孫っつーのかコレ?」 剣呑なやりとりを沈黙を破り割って入ったのはクロウ 「羨ましいぜ。そんだけ思いやりがあんのが血の繋がってる家族の本来のカタチなんだろーなぁ…俺は」 言い淀み、しかし思った言葉を絞り出す 「どっちも死んで欲しくねえんだわ。あの繭くれぇは…何が何でも奪い返してやらあ!」 「「……」」 「お兄ちゃん!」 「ユージン兄ちゃん!」 「ユハナ…お前たち、なんでこんなところに来て」 「良かった…バカ、お兄ちゃんのバカ!お爺ちゃんも!急に空が真っ暗になって、あんな化け物が出て…死んじゃったかと思ったもん…」 ユージンと長老を抱きしめて大粒の涙を流す孫/妹に何も言えなくなってしまう2人 「ほれ、心底心配してくれるヤツがこんなに身近にいるじゃねーか……悲しませんじゃねーよ」 「…すまない」 「ごめんユハナ…」 「アンタらもな!ディスラプター起動したならさっさとこっち上がってこいよ、ライジルドモンBMでまとめて担いで地の果てまで逃げてやらぁ!だから、最後まで───」 石碑に群がる大人たちへもクロウが啖呵をきり、刹那 「オマエら伏せろォ!ぐあああっ!」 ライジルドモンを直撃した攻撃の一部が遺跡へ流星のよう降り注ぐ 「やらせるか…ライジルドモンBM・シールドフォームだ!!」 「ぐっ…ま、か、せろォオーー!!」 「ヌゥ…!?」 直撃の間際、ズィードミレニアモンに弾き飛ばされながらライジルドモンがロケットメッサーで牽制し加速。クロウの手に手繰り寄せられ大楯と成り、ドーム状の電磁バリアが包み込む 僅かな拮抗の末に砕ける間際、力尽くで流れ弾を弾き飛ばしてみせた 「ヘッ、Legend-Armsの真価は"遣い手"と力を合わせた時に発揮されるってな。パワーダウンなんざチャラにしてやったぜ……うおっと」 「クロウさん!」 「だーっ心配すんな、ガキの前でぶっ倒れるなんざカッコ悪くてできゃしねーよ。けど…揃いも揃ってこんな所に来やがって、ホントお前のいうとおり砦の連中は悪ガキ揃いだなユージン」 膝を降りながらも強がるクロウに肩を貸すユージンに子供達が駆け寄る 「お兄ちゃん、もう一個のカタシロガミ様の武器持ってきたよ……僕らも戦うよ!」 「オイオイマジか…!」 「フッ…カタシロガミ様ノ目覚メヌ神器ナド、小童共ガ幾ラ束ニナロウト…!」 再びズィードミレニアモンの口角より黒い炎が襲う。エネルギーを消耗したライジルドモンの盾とクロウの身体が再び透け、電磁バリアが揺らいでいた 「うっ…!」 「まだだぜ、俺は…」 脳裏に蘇る旅の始まり。そしてひとつの決着に学び誓った 大切な人との出会いと別れに…理不尽な悲しみなど不用だと 「俺は、俺たちは死ぬほど諦めが悪いんでなァ!」 「カッコつけさせてもらうぜ。ユージン、長老、みんな。それと目かっぴらいて見てろよ───」 この土壇場において吹き出したある不満と怒りごと握りしめ、再び盾を振りかざす 「───何が神の化身だ。テメーらの大事なもんくらい…テメーで守りやがれ寝坊助なカタシロガミがよォオーー!」 「ダメだ…死んじゃうダメだ。誰も、誰も……お願いだカタシロガミ様!」 「命を、消さないでくれえぇーー!」 「───……我を呼び覚ましたのは主らの祈りか、人の子よ」 その一撃を凌いだのは、"新たな盾" 「何…?」 「盾の……カタシロガミ様?」 闇の根源と人、その間へ煙を裂き立ち塞がる深緑の鎧甲纏う新たなカタシロガミ その生誕にとりわけ驚き固まるクロウと、エネルギー切れに退化したルドモン。なぜならその姿形は、 「オ、オレにそっくりだ…!」 ルドモンのそれと瓜二つといって差し支えないものだったからだ すると何かを察したのか盾のカタシロガミが深く頷く 「…成程、おそらく我々の遠き"末裔"にこのような場所で合間見えようとは」 「ウワーッ喋り方めちゃくちゃインテリ!」 「ヒィイッ頭良さそう!」 「フ…愉快な者たちだな。この戦いに力を貸してくれるのか」 「いいや、貸し借りなんてしゃらくさいこと言わないでくれ。同じルドモン同士ここは力を合わせようぜ!」 「成程面白い…が、主ら限界であろう。よくぞそのような身体で戦い抜いたな」 「うげっバレてら…」 「ならば知恵を合わせよう。ルドモンよ、お主の知恵と記憶を我に合わせてくれ」 盾のカタシロガミの指先がルドモンの額に触れ、微かな電流と共に頭が冴える感覚がし目を丸くするルドモン 「おおわっ何だ!」 「…ラーニング完了。お主の記憶から読み取った"紅き竜の姿"ならば奴に抗えるか」 「ま、まさか進化できるのか!」 「我らは"かたどる者"、造作もなし。そして『彼』もな───いけるか…剣の」 「───ああ、問題ない」 『彼』。名指しされ応えたのはユージンの前に現れた、もう一体のカタシロガミだった 「……あなたが、剣のカタシロガミ様」 「少年。君の願いは何だ」 「…っ」 「我が刃、我が力は救済と破滅を導くもの也───故に今一度問う、我々カタシロガミが君らと共に成すべき願いを」 破滅、救済 かつて、なぜかこれほどに実感を伴って聞いたことのない言葉に胸が詰まる 自らの願い、それは 「僕…僕は、幼馴染を……助けたい、みんなを助けたい。この世界の命を踏み躙るあんなヤツらをやっつけてもう終わりにするんだ。こんな辛い事も、悲しい事も、全部ぜんぶ」 「……」 愛しい人と守りたい者への救済 そして、闇の根源の破滅 二つにひとつ 「僕たちが今この世界を救うんだ、だからカタシロガミ様。一緒に…一緒に戦って!」 願いを受け深く頷いた剣のカタシロガミ 「承知した。征くぞ───選ばれし子供たちよ」 「さぁ正念場だぜ。オレとクロウみたいにカタシロガミ様と…パートナーとチカラ合わせてアイツをぶっ飛ばすぞォ!」 激励に、決意に、子供らの震えが止む。その姿を指差し、祈り蹲った長老へとクロウはニヤリと強気に笑う 「…最後のカタシロガミ様よ、どうか子供達をお守りください」 「いいや違うな、アイツらは間違いなく俺たちの世界と同じ伝説の武具Legend-Arms。そして一緒に戦うパートナーたち───」 子供たちが剣のカタシロガミと、盾のカタシロガミと手を繋ぐ 幼き希望は闇を見据えたまま瞳に勇気を激らせて、奇跡を叫ぶ 「つまり最高にイカしたヒーローたちになるんだぜ。……あぁ今この瞬間だ。さぁいけみんな!」 光が降り注ぐ。神器の化身が力の脈動に身を任せ、己が身を新たなる境地へと創り変える ───其れは、金色の聖剣 ───其れは、紅き竜の盾 「「「デュランダモン!」」」 「「「ブリウエルドラモン!」」」 2体のカタシロガミがLegend- Armsの究極体へと進化。子供らをその身に寄せながら、光と炎が闇へ牙を剥く 「ヌゥウ!」 上空で加速する3つの影が格闘戦が繰り広げ、うち2つのコンビネーションが挟撃を主軸に剣で斬り、炎を撃ちつける やがてそこに闇の根源の致命的な隙を呼ぶ 「ツヴァングレンツェ!」 「グレンストーム!」 「グ、オオオオオ…!?」 そこ目掛け叩き込まれる最大火力必殺、今までのカタシロガミを遥かに超えた究極体の力。剣と盾ふたつの権能が繰り出した同時攻撃にズィードミレニアモンの躯体が崩壊して光芒に飲まれる 「やった…闇の根源を倒───」 「まだだ離れろユージン!」 クロウの声にデュランダモンが弾かれ、背後から空間を抉り飛翔する"もや"から身を捩るように回避 直後別方向から黒炎が追い縋る…が、ブリウエルドラモンがこれを迎え撃った事で難を逃れた だが… 「───ヨモヤ、我ニ不死ノ権能ヲ使ワセル者ガ他ニ居ロウトハ…ナカナカ愉快デハナイカ」 「チィッ、やっぱ長老の言ってた通りマジで死なねえのかテメェは!」 デュランダモンとブリウエルドラモンの最大火力を叩き込まれ散り散りになった残滓が、霧となり不気味に蠢き瞬く間に双頭の邪竜へと回帰する 「アノ忌々シキ《白キカタシロガミ》モ、我ガ権能ヲ破ル事ハ不可能ダッタ…哀レヨノウ人ノ子、ソシテカタシロガミ…」 「我ハ『死』ソノモノ───……遊ビハ終ワリダ、人ノ生ミ出セシ贋作共ヨ。我ニ平伏セ!!」 ズィードミレニアモンが嗤い、掲げた繭が怪しげな風に吸い込まれて空へ落ちていく…否、大地を震わす唸りと共に空もまた彼らの頭上に迫り来るではないか 「あの黒い渦は…」 「空が…嵐が落ちてくる!?」 「あれは、壁画に描かれた多くのカタシロガミ様を葬ったあの技を…まさかずっと上空で力を溜めていたのか───!?」 「今更何ヲシヨウト無駄ダ。アノ矮小ナ有象無象ト同ジ、コノ世界ゴト闇ノ果テヘ……我ガチカラノ前ニ消エロ───《タイムデストロイヤー》!!」 敵対する相手を時空のかなたに葬り去る、ズィードミレニアモンの奥義。この技によって吹き飛ばされた時空間から生還した者は存在しないとされる終焉の黒 「…まだ、あそこに居るんだ。僕の大事な人が」 しかし彼の目に映るのは絶望ではなく、 「ッッ……負けるもんかァァァッ!」 睨み上げた空へと、かつてないユージンの咆哮が木霊す 「繭を…みんなを取り返す───飛べデュランダモン、ブリウエルドラモン!」 少年たちの覚悟へ今こそ報いるべき時だと、大人たちもまた一つとなり祈りを捧ぐ 「カタシロガミ様ぁーー!」 「どうか…どうか、子供たちに届いてくれ!」 「皆の者、準備は良いか───法陣を起動せよ!」 合図を受け詠唱が始まった 石碑に刻まれたおびただしい数の古代文字が瞬き大地へ走る。大地が炎のような温かな光を沸き立たせ、巨大な紋章が現れ闇の根源を包囲する 「ヌ、グゥ…クダラヌ真似ヲ…!」 …だが、 「だ、ダメだ…闇の嵐で大地が、陣が崩れる…!」 「くそ…くそぉ…オぉおおお!」 コードが完全起動するより早く放たれていたタイムデストロイヤー、そしてコードの発する予想外のエネルギーに柱やオブジェクトが次々とヒビ割れ、崩れ上がり嵐へ呑まれていく 万事休す… 「「───この世界に生きとし者よ」」 「…!?」 声が響く 闇に飛び込み、時空に飲まれ消えたはずの聖剣と竜盾の胎動が膨らむ 「「汝らが祈り、決して此処に潰える事無し───"ディスラプター…Accept(承認)"」」 彼等もまた、未来を掴むため…終極を征く者となりて、 「デュランダモン」 「ブリウエルドラモン」 "───ジョグレス" "覆す" 闇の彼方、後光刺す背輪が青き鎧を聖剣を、竜盾を映し出す 壁画の伝承…否 闇を封じた原初のカタシロガミの力…否 今度こそ永遠に闇を祓うため、人々が何百年もの時を掛けて紡ぎ出した《神魔を穿つ破滅と救済のプログラム》は今ここに結実する 「ナンダ…何ガ起コッタ!?」 「あの光の紋章───ディスラプターコード……カタシロガミ様に宿ったのか」 「なんと…雄々しく、美しい騎士の姿よ…!」 瞬く間にタイムデストロイヤーの暗黒を侵蝕し昇る"暁"に、剥がれ落ちる黒天のスノウドーム 嵐から掬い上げた繭を守るように、双肩へ選ばれし子供達を宿したままズィードミレニアモンを睨み据え立ちはだかるシルエット 傷一つ与えられぬまま己の権能の一切を否定した青騎士へと結ばれた濁った眼が揺れる 「───見えるかズィードミレニアモン」 「…ッ!?」 言霊に宿る覇気は凪のように静かで、曇りなき刃のように重く胸中へ滑り込み、まるで皮膚が泡立つようだ 「この光が……この者たちが、この世界に生きる者がかつてこの世界を救ったデジモンから託された思いを繋いだ祈りより、"我ら"は生まれた」 「キサマハ…キサマハ一体!?」 「我らは《終極の騎士》───其の祈り我がチカラと成して貴様を討つ。贖え……闇の根源よ」 「───"救滅の刻"だ」 「ホザケ…───ッッ!?」 「遅い」 紅き竜盾に打ち抜かれた胴から破裂する痛み。ガラスのように全身のデータを劈く衝撃が空気を白ませ、 「イグニッションプロミネンス」 竜の咆哮。闇の根源へ紅蓮が殺到する ひび割れた全身を灼熱が噛み潰し灰燼に帰される痛みが、終極の騎士の何倍もの質量を誇る其れを殴り飛ばし、不死の身体が悲鳴を上げた 「ガァァァッ!ヤ、ヤツハ───ギァアッ!?」 「此処だ」 背へ抉り込まれる掌底。不死の権能に僅かな時間で回復させかけた躯体がバキリと悍ましい音を奏でひしゃげる 二度、三度…埃を払うかのような拳撃に、玩球の如くズィードミレニアモンが宙を乱れ舞う 児戯に伏せられながらも反撃に腕を引き絞り、闇を固めた醜い爪を繰り出して そこで気づく ───右腕にあった剣はどこだ!? 「 クイと曲げた指先に虚空を駆け抜けて飛来する金色の聖剣。折り重なった斬撃に巨腕が塵となり、ズィードミレニアモンの片首を背中からすれ違いざまに奪い 剣の把握と共に切り上げ瞬きの間に両頭を潰した騎士が消え、 「ディレクトスマッシャー」 遥か天空より叩き落とされた聖剣の一刀両断 闇の根源の半身を千切り消すも飽き足らず、剣圧は吹き荒び山々の果てまでえぐり轍を刻み込んで 「!?!?!?」 その先へ騎士が掌底を翳す 乱れ吹く風に揉まれ転げるように飛ぶ身体へ十字の光が貫き、幾度も爆ぜた 「ガ…ァァ…ア!?」 回復が追いつかない 明らかに遅くなっている 何かおかしい…全身を駆け巡る闇の力が薄れる。奪われる。喰われ続ける それだけではない…まるで長い年月をかけ害虫が大樹を内から喰み続けたように、気を抜けば躯体の末端が今にも砂のように崩れてしまいそうだ その感覚が騎士と斬り結ぶ……いや、もはや一方的な蹂躙だといえる。不死の身体が幾度も蘇り、しかし奴に触れられる度に虚脱感が加速しデータの身体に決して消えぬ激痛を刻み込んでゆく 「バカナ……我ガ権能ヲ、我ガ闇ノチカラをヲ蝕ム、コノ光ハ…!?」 募る焦り 憤り そして自らを苦しめる未曾有の現状と、闇の根源へと生まれ変わった何時かに捨て去った…死という畏怖 もはや己そのものが成り代わったはずだった滅びという恐怖の意味 「貴様の闇もまた我が救滅に等しく裁かれる存在に過ぎぬのだと知れ」 「ヒ…ヒィ…ッ!?」 再び騎士の背が紋章を掲げ 正眼に突き出した竜盾の顎へ紅蓮が湧き立つ 番わせた聖剣の刃を包み込む温かな光りが天へと駆け上る終極の一刀となりて、追い縋る闇の根源の下へ 「デュエルエッジフロージョン」 天空に一条の紅光───…閃く 剣の烈火を振り払い、残滓の青騎士 黎明が夜影を染めるように…断滅を描く軌跡の内から炎が飽和し、コアをも塵と残さず焼き尽くしながらズィードミレニアモンを爆ぜ潰してゆく 「ヤメロ…ヤメロ…ワレガ敗レ、消エ……イヤダ………ア゛ァァァAAAAAAAAAAAAA AAA※※※──────………!!!」 ───────────────── 「…ミナ、ミナ起きて」 「……ん、ユージン……っ!?」 微睡に注がれた想い人の優しい声 日差しに滲む瞼をあげ、 「わ……!」 目覚めた者たちを見守るよう揺蕩う終極の騎士 そして周りには闇の根源との戦いを共に超えた大人、子供…そして新たなカタシロガミ使いとして選ばれし子供たちとなったユージンの仲間が喜びを称え合っていた 「おはようミナ、おそくなってごめんね……会いたかった」 ぎゅうと抱擁を受け、恐怖と不安と気丈さに押し殺していた涙が溢れる どれほどそうして生まれて初めての深い安堵を享受しただろうか、改めてユージンにミナが問う 「あのカタシロガミ様は…?」 「剣のカタシロガミ様と盾のカタシロガミ様、そしてみんなが作り上げたディスラプターコードが力を合わせた……最高のヒーローだよ」 「……我らは感謝する。我々カタシロガミはこれからも人間と共にあろう、闇を払いし気高き者たちよ。……そして異世界の戦士たち」 終極の騎士の目線が注がれる足元、腕を組み頷く1人と1匹 だがその面影が解けて、急速に夕日に溶けていくではないか 「クロウさん、ルドモン…!?」 駆け寄るユージンを手の平で制し、彼らは首を横に振る 「俺らはここまでらしい。あー…心配すんな、多分元の世界に戻れんだろ」 「ほ、本当…?」 「さっきから口の中にいやーな甘さが押し寄せてきてんだよな。元のカラダで食ってたケーキの味の残りがよ……うわコーヒーほしいなこれ!」 「甘…甘いぁぁ!元の体との繋がりが強まってるんだろーけど甘い!」 「えっええ…?」 悶絶する彼等に困惑のあまり涙が引っ込んでしまった。ため息をつき、そして妙な笑いが込み上げてきた こんなひょうきんなヒーローも悪く無いな 「…本来にありがとう。騒がしくてカッコ悪いところも多いけど」 「「何をぅ!?」」 「それでも、やっぱカッコよかったよ」 褒められ同じタイミングて頭をかき照れる挙動は、やはりカタシロガミのような主従関係とは違う相棒なのだなと思わせる 「…達者でな、ユージン。長老や彼女さんにもよろしく言っとけよ」 「かっ彼女…!」 「いやまだ告白してねーのか。ハハッちゃーんとやれるのかー?」 「そ、そっちこそ……クロウさんモテ無さそうだし自分の心配したほうがいいんじゃない?」 「うっぐえええ!」 「ダーッハッハ、言われてやんのクロウ!」 「この…あっ、ちょ、消えんの早え!と、とにかく…」 「ご先祖様ーーーありがとーーー!」 ルドモンのカタシロガミたちへの謝意と共に、異世界からの来訪者はついに消えてしまった 「「───はぁぁぁっ!?」」 「ぬぉぉぉっ!?」 「うおっ戻ってキターーー!」 「口んなか甘っっめええ!あっ竜馬コーヒーくれコーヒー!」 「な…何があった」 急いで入れたインスタントコーヒーを一気に飲み干し、なんとか一息ついたクロウとルドモン。その手足は元通りくっきりあり、目覚めたそこもクリスマスに皆が集まった施設の一角であった 壁掛け時計の針は8時を刺している 「…夢?なんかすげー体験をした気すんな」 「えーっと戻ってきたのが深夜だったから…7時間とか寝てたのかオレら」 「20」 「「ん?」」 「20時だ…25日、夜の8時」 「あーっようやくお目覚めですね鉄塚さんたち。20時間くらい寝るとか寝坊助にもほどがありますよーみんなおパーティーの夕飯食べ終わっちゃいましたし…あっタマネギスープ美味しかったですよ」 「シードラおばさ……20時間」 「「クリスマスがああああああっ!!!」」 ──────────────── 「ども、海里さん」 「(めちゃくちゃ嫌そうな顔)」 1日後、ある海辺でクロウたちは魚澄海里を訪問していた 「なぜ…ここを」 「近くのデジモンから目撃情報仕入れて、あとは空からシラミ潰しっす」 「はぁぁ……君と喋る事なんて無い」 「ああ、用事があんのはエンモニ様のほうで」 「…?? アイツが会うと思うか?」 PPPPP… 『あら、電話越しに呼ばれて飛び出てなんとやらよ』 「うおいきなり出た!?」 「───教えてくれエンモニ様、ヘパイストスって世界はあるのか」 『ヘパイストス───あら、その世界なら一万年も前に滅んでいるわよ?』 電話越しに始まった突拍子もない話に海里は思わず釣り針を上げるタイミングを逃してしまった 「一万年…!」 『んーDWとリアルワールドの時差のようなものが他の世界にもあるから、アナタたちの世界を基準にするとだけどね』 「じゃあ、あの闇の根源をぶっ倒したのは…」 ラグナロードモンの必殺により、ヘパイストスを脅かすズィードミレニアモンを振り払ったはずだった。しかしその後あの世界の者たちは本当に助かったのだろうかと不安が過ぎる 『勘違いしないで。私の観測できる限りではあの世界はその後平和そのものだったわ…おそらく世界としての"寿命"、天寿を全うした文明ってところかしらね』 「……そうか、わかった」 『不思議な世界よ。人間とデジモンの世界が同一次元に重なり合っている…そういう意味ではあそこに住まう人々もまたデジモンだと定義できちゃうかもね。なかなか面白い話をしてくれるじゃない?』 「ユージンたちがデジモンかぁ…」 と、その名前にエンシェントモニタモンが反応する 『ユージン……ラグナロードモンの始祖らしきデジモンの相棒を勤め、ヘパイストスを復興に導いた英雄の1人じゃない。よく知ってるわねアナタたち、本当に見てきたみたい』 「…!!」 「ちょ、ちょっと聞いてくれ」 途方もない時間。しかしそこにいたという実感を握りしめて、クロウとルドモンは自らの始終を告げた 『……あらま、普通の人間には貴重な体験にも程があるわねー。もしかして』 『アナタたちを異世界にトリップさせたそのケーキを食べれば、私も直接ヘパイストスに行けるのかしら』 「「絶対ぇやめとけ!!」」 「ところでそのピンズはなんだ」 「え、ああ。アンタの妹さんがクリスマスプレゼントにくれたんだぜ。イカしてるだろ」 「……」 「無言でクロスローダー構えんなって!」 《ヘパイストス》 ウィッチェルニーのようなDWの並行世界 鉄鋼・鍛冶が盛んであるこの世界のデジモンは武具に宿り化身として現ることから《カタシロガミ(型代神)》と呼ばれており…一説には"Legend-Arms"のルーツとなるデジモンが生まれた地ではないかとされる (※サヴァイブのように直接的にデジモンと呼称することがない世界) 現実世界との時間差比で約1万年前に寿命を迎えている またDWと現実世界という境界が非常に密接に交わり同一世界で存在しているため、原住民の人間からすればデジモンは身の回りに存在する精霊や神の遣いという認識である ───異世界からの闇の根源ズィードミレニアモンおよび封印後も蔓延った眷属どもの脅威に数百年もの間争い続けてきたことでカタシロガミとその使い手となる子供達は常に脅威に晒されており、やがてオメガモンの活躍に封印されていたズィードミレニアモンを今度こそ抹消するため……長い年月を経てカタシロガミの武具『神器』に用いられる術式をと、原初の白きカタシロガミが用いたとされる『闇祓いの権能(正体がオメガモンであるならばオールデリート?)』を人類が英知を結集し解読・さらなる発展進化させた終極結界術《ディスラプターコード》を編み出す そしてその権能は、復活の闇の根源へと立ち向かった『終極の騎士』へと宿り見事打ち払ったとされる 《剣のカタシロガミ/盾のカタシロガミ》 疲弊したヘパイストス各地の生き残りの鍛冶屋を集め創った一対のカタシロガミ 当初は未覚醒だったが闇へ立ち向かう子供たちの想いに応え顕現し、直後接触したルドモンの記憶をラーニング。伝説の金色の聖剣と紅き竜盾へと姿を変え、そしてディスラプターコードと込められた無尽の人々の祈りをその身に宿し終極の騎士と成った 《終極の騎士》 剣のカタシロガミ(ズバモンオリジン?→デュランダモン)と盾のカタシロガミ(ルドモンオリジン?→ブリウエルドラモン)のジョグレスにより誕生した存在 ラグナロードモンと全く同じ容姿をしている その際に地上で展開されたディスラプターコード(※実際には発動直後に破壊されたのだが)を直接その身に宿すことで、タイムデストロイヤーの時空の彼方から生還したばかりかズィードミレニアモンの無限の闇を侵食しながら不死の権能を物ともせず一方的に蹂躙、崩壊・破滅する活躍を見せた ───ディスラプターコードの権能は次元を超えて彼らの因子を持つ末裔たちへと受け継がれているが、今この世界に知る者は居ない 《遺跡》 砦から一望・観測できる古代遺跡。かつてオメガモンとズィードミレニアモンとが争った古戦場に鎮座しており、闇の根源を封じている禁足地 遺跡を取り囲むように大地に埋め込まれた柱などには闇の眷属に探知・侵入されぬよう森に囲われた外部には結界と認識阻害術式が施されており、外界からは限られたカタシロガミ使いにしか本来視認・侵入できない (───だが今回ユージンの妹らを追ったダークティラノモンの暴走により長年の結界に綻びが生じてしまい、闇の眷属たちに看破されてしまった) またその『カタシロガミの技術で作られた柱』と付随する構造物そのものが巨大な術式の法陣を描いており、ズィードミレニアモンを因子すらこの次元から完全に滅するため、闇の勢力との戦いを繰り返しながらヘパイストス文明の全知をかき集め数百年の時を経て編み出された終極結界術《ディスラプターコード》の礎である