とある満月の夜。 帰りが遅くなり帰宅を急いでいたあずきとガルルモンの前に飛び出してきたのは、鞄を抱えて走る男とそれを追う土色の鋼鉄の獣だった。 巨大な身体に長い牙。ディノタイガモンだ。 「ガルルモン!」 「おう!ガルルモン進化!メタルガルルモン!」 進化の光に包まれ、加速しながら男を拾い上げ背に乗せる。 男は少し驚いていたが、危なげなく慣れた様子であずきの後ろへと座った。 「助かった、ありがとう。」 表情こそ硬いものの、走り続けていたのもあって安堵の色が見える。 「いえ。追われる理由に心当たりはありますか?」 「目の前でゲートが開いて、サーベルレオモンと飛び出してきたんだ。それを倒して、次の獲物として目についたのが俺だっただけだろう。」 後ろを向くと未だに追いかけてくる巨体が見える。速度はメタルガルルモンに分があるのか追いつかれてはいない。 「ずいぶんデジモンに詳しいな。」 「……仕事で少しな。」 「攻撃きますよ!」 巨大な爪が迫るが、それをひらりと躱す。 「コキュートスブレス!」 躱すついでに反撃をするが、あまり効いるようには見えない。 「硬いな。どうするあずき?逃げるぶんには余裕だが、倒すには俺だけじゃ時間がかかりすぎる。」 「逃げ回るにしても広いところに移動したほうがよさそうですね。この辺の公園は……。」 「……少し遠いが向こうの広場まで行けるか?」 男が声をかける。 「ディノタイガモンとやり合うなら、それなりに距離を取って攻撃するのが安全だ。広いほうがいい。それに手数も多いほうがいいだろう。」 その手にはデジヴァイスiCが握られていた。 夜闇を素早く静かに駆けて、広場へと到着した2人と1体の元にドタドタと走ってきたのはルガモンだった。 「ご主人!」 「来たなルガモン、久々にやるぞ!」 「デジソウルチャージ!」 「ルガモン進化!フェンリルガモン!」 現れたのは白い魔狼。蒼い炎を纏う神話の獣。 遅れてディノタイガモンが広場へ到着した。 逃げることを止めた獲物を前に咆哮をあげる。 「来るぞ!」 「メタルガルルモン!」 「ラグナロクハウリング!」 「コキュートスブレス!」 神話の魔炎と最下層の冷気が鋼鉄の身体を熱し、冷やし、また熱し……。 爪を振るっても、白い影、蒼い魔炎の分身に透かされる。 牙を突き立てようとも、黒い身体は闇夜に溶ける。 満月の下で白と黒の狼が踊る。 次第に装甲はボロボロになり、ディノタイガモンは力尽きた。 静かな夜が戻ってきた。 「いや、本当に助かった。あのまま隙をみてルガモンを呼んで、来るまで逃げ回るのはさすがにきつかった。」 「いえ、無事で何よりです。そういえば自己紹介がまだでしたね、渡辺あずきです。こっちはガブモン。」 「どーも」 「戌井星一だ。子供の頃はルガモンと仲間達とデジタルワールドで冒険していた。君もデジタルワールドに?」 「私は特にそういうのは……。ガブモンも偶然拾っただけでして。」「拾ったってなんだよ。」 「あぁ、最近はこっちと向こうで繋がりやすいみたいだからな……。今日みたいにデジモンがこっちに来ることも多いぶん、そういう事もあるか。」 「ご主人、急がないとお子さん方が……。」 ルガモンが急かす。 「そうだった。せっかく珍しく早く帰れそうだったのにとんだ災難だ。」 名刺入れから1枚抜き取り渡された。 「いちおう連絡先だ。頼ることはそうないだろうが、何かあったら。」 あまりおおっぴらには言えないがデジモンの研究なんかをしている。らしい。 それは渡していいものなのかと思ったが、テイマーなら大丈夫だろう。と。 「それと……本当についでだが、もし源浩一郎という男に会う事があったらたまには連絡くらいしろと伝えてくれ」 そう言って戌井とルガモンは去っていった。