※太線(━━━━━━━━━)は語り手の変わる場面転換、細線(─────────)は語り手の変わらない場面転換を表しています。 ねえシャウトモン、私…会いに行こうと思うんだ。鏡華さんに」 八重練・H・鏡華。ほむらの上司。 「本当なのか…そいつが母親…ってのは。」 もしかしたら、そいつがほむらの母親かもしれない。 そう聞かされた時、正直俺は懐疑的だった。ただ、彼女の推理を聞く限りは、それなりに説得力もある気がする。 「わからない。けど…わからないから会いに行くんだよ。一回しか上司に会ったことないってのも、不自然だしね」 そもそも、この世界にそう何人も錬金術師はいねえだろ。 「止めねえよ。でも、俺も付いてくぜ、ほむら」 ただ、俺はほむらのことが心配だ。彼女とパートナーになってからしばらく経つが、どうもほむらは自分を大事にしていない気がする。 俺が守ってやらないと、すぐ死んでしまいそうな気すらする。 まあ、これが杞憂ならいいんだけどよ。 ━━━━━━━━━ 私のマンションから、電車に乗って数十分。 「シャウトモンは電車乗るの初めてだっけ?」 「向こうでトレイルモンに乗るこた何回かあったけど…こっちじゃ初めてだな」 昼下がり人はそれほどいないし、私の隣の席は空いてるから…透明化してるシャウトモンに話しかけても…まあ大丈夫かな。 「トレイルモン…ってどんなの?」 「まあ…この電車みてえなデジモンだよ。長距離移動する時は乗ったりするんだ」 「あれ?ロコモンも電車みたいなデジモンだったよね?」 「あー…結構似たデジモンっているからな〜」 途中に乗り換えが一回。 「ちょっと〜!離れると置いてくよ〜シャウトモン」 「待ってくれほむら…!俺様…身長的に…人混みだと動きにくいんだよ…!」 「もー…しょうがないなぁ」 シャウトモンを抱き上げる。なんかでっかいぬいぐるみを持ってるみたい。 「お…おい…離せよ…!」 「この方が楽でしょ!」 それにここは”夢の国”の近く。ぬいぐるみを持っている人は他にもいるし、実体化しといても不自然じゃないでしょ。 乗り換える先は、モノレール。 「おー…いい眺めしてんな〜!」 オノゴロ島は観光でも有名だ。そのためか、島へと向かうモノレールは窓の大きい、外がよく見えるものだ。 シャウトモンは景色を見ながら、まるで子供かのようにはしゃいでいる。 「もー…子供じゃないんだからさーシャウトモン」 「だってこれ…流石にテンション上がるだろ!」 「デジタルワールドにモノレールはないの?」 「ねぇな〜こういうの乗ったの初めてだよ!」 彼はいくらでも乗っていたいと思っているかもしれないけど、このモノレールは、すぐにFE社のあるオノゴロ島につく。 ───────── オノゴロ島中心部、ファイブエレメンツ社本社。 私はそこの受付にいた。 「インターンで一度お邪魔した出海です。八重練さんにお会いしたいのですが…」 「八重練…ですか…少々お待ちください。」 受付の女性が、手元の端末で何かを調べている。 「申し訳ございません…そのような社員は当社に在籍しておりませんが…」 「そうですか。ありがとうございました。」 受付を後にした私達は、本社ビルの外へ一旦出ることにした。 「やっぱダメかぁ〜」 「なんだよほむら、落ち込んでねえな?」 シャウトモンは不思議そうな顔をする。 「今のはダメ元だったの。五行は裏の戦闘部門…だから表に出てない人が結構いるんだって。鏡華さんもそうなんだろうね。」 「お前…そんなとこで働くつもりだったのかよ…」 「だって…給料結構いいし…早期内定だったから就活ほぼしなくてよかったし…」 そんな私を見て、シャウトモンはまたしてもため息をついていた。 「さ…て、ここからは錬金術でいこう。」 私はリュックサックからアマルガムの正八面体を取り出す。 水銀をベースにいくつかの金属を混ぜて作られているこれは、錬金術の補佐をしてくれる。 「汞和金よ、我に錬金術の痕跡を教えよ」 ───────── 「んで…ここがその、錬金術の痕跡があるところなのか?」 オノゴロ島北部の倉庫地帯。ここに錬金術が使われた痕跡がある…らしい。 多分…私の錬金術がちゃんと機能してたなら… 「倉庫しかないね〜…」 ここに鏡華さんがいたりは…しないだろうなぁ。 「おい!…ちょっとアレ見ろ!」 慌てた様子のシャウトモンが示す先には規制線が貼られ、バリケードが作られていた。その向こう、そこには…破壊された建物の痕跡があった。 「…あったかくなってる」 アマルガムが発熱している。どうやらここで錬金術が使われたらしい。 「……血の匂いがする。多分人が死んでるぜ」 「鏡華さんがやったのかな」 「戦闘部門なんだろ?戦いの跡って感じは…するな。」 とりあえず、ここにはいなさそうだ。次を探そう。 ───────── いちいち直接現地に行っていたらキリがない。とはいえ、今の私の力では方角をなんとなく探せるぐらいで、具体的な場所を導き出すことはできない。 この街ではあちこちで錬金術が使われているらしく、方々を回っているうちに日が落ち、暗くなってきてしまった。 「ほむら、今日はもう帰ろうぜ…」 「ちょっと待って…あと一箇所…こっちの方…」 どの痕跡に残る錬金術の残滓も、同じ力を感じる。多分術者が同じなんだ。 「!あっつ!…多分あの建物だ!」 特に強い力が残留しているのか、アマルガムが今までより激しく発熱している。 いるんだ…あそこに…鏡華さんが…! 「おい待てよほむら!」 シャウトモンを置いて私は走り出した。 「─────!揺れてる!何これ地震⁉︎」 地響きと共に激しい揺れが私たちを襲う。 「…多分違う!デジモンがいるんだ!」 揺れが一瞬収まったかと思うと、一層激しい揺れが来た。 「この感じ…究極体…しかも複数⁉︎どうなってやがる!」 その激しい揺れはすぐ収まり、後ろからシャウトモンが駆け寄ってくる。 「逃げるぞほむら!どんなことが起こってるのかわかったもんじゃねえ…けど、きっとヤバい!」 「やだ!あそこに行くんだ!」 アマルガムは発熱し続けている。たぶん…示しているのは残滓じゃない。これって… 「今…錬金術が使われてる…?」 いるんだ…あそこに…今! 「早く行かないと!」 「何言ってやがる!こういう時は大体ロクなことに───────── 建物の方向から、強い光が見えた。 少しだけ遅れて、爆発音と衝撃を感じた。 ───────── 「………ラウド…モン?」 目を開くと、目の前にラウドモンがいた。 耳が痛い… 気を失っていたようで、時計を見ると20分ほどが経過していた。 「危ねえ…ところだった…ぜ…」 ラウドモンが倒れ、シャウトモンに退化する。 「ちょっと!大丈夫なのシャウトモン?」 「こんぐれー…平気…だよ…!俺様をなんだと思ってやがる!」 ふらふらと立ち上がるシャウトモン。 「クソが…なんなんだあの爆発はよ…」 「大丈夫?まだ動ける?」 「そらこっちのセリフだよ…!大丈夫か、ほむら?」 少し痛いぐらいで、血は出てない。彼のおかげ。 「平気だよ。ありがと、シャウトモン。」 「よし…さっさと向こう行こうぜ。ムカついてきた…こんなとこで爆発起こしやがって!」 ───────── オノゴロ島中東部、あの建物があったはずの場所。 「なにこれ…」 そこには瓦礫の山しかなかった。 「アレだけデケェ爆発だ…こうもなるか…」 「そんな…だって…鏡華さん…きっとここに…!」 瓦礫の下に人影が見えないのは、爆発でバラバラに吹き飛んでしまったからだろうか。 私はそんな想像を振り払うように、瓦礫を掘り起こし始めた。 「おい何してんだ!手ぇケガしちまうぞ!」 「でも…鏡華さんが…」 「こんな爆発で生きてる人間がいるかよ!」 「そんな事わかってる…けど…」 私は手を止める気になれなかった。 ━━━━━━━━━ ワタ…わたし…私は…エル…だー… デーたー…ソん傷…致めいテキ… 瓦れキ…行動フ能… ───華さん!だ────── オと…聞こエル…キき覚え… 「鏡華さん!誰か!」 ホム…ら… 「コイツ…まさかあの時の緑野郎か!?」 ゔァル…使う… 「何!?」 「テメェ!ほむらを離しやがれ!」 ━━━━━━━━━ 「何!?」 当てもなく瓦礫を素手で掘り返していたほむらの前に現れたのは、彼女らの前に姿を現したことのある、緑服のデジモンだった。 「テメェ!ほむらを離しやがれ!」 それはほむらの手首にあるデジヴァイスを掴み、データ損傷により死にかけだった自分の身体を癒していた。 「はァ…はぁ…すまない…ほむら…驚かせた…」 「あの…あなた…もしかして前に…」 「ああ。……もう隠す意味もないだろう。私はエルダーワイズモン。八重練…いや、出海鏡花…君の創造者にして、私が知る限り…世界最高の錬金術師。そのパートナーだ。」 「じゃあ…やっぱり…鏡華さんが…」 ワイズモンはそれに答えることをせず、ただ頷いた。 「お…おい!アレ見ろ!」 そんな二人に声をかけたのは、ブラックシャウトモンだった。 彼が指差す先には十数人ほどの特殊部隊と、それを率いる白いスカルナイトモンがいた。 「ふむ…時令狼渡の部隊か…」 「それ…確か取締役の?」 「ああ。言葉足らずな性格のせいか、彼と鏡花は折り合いが悪くてね…この機に乗じて潰しに来たのかもしれない。」 「そんな…じゃあ早く鏡華さんを助けないと!」 そう焦るほむらを彼は静止する。 「おそらく…鏡花はもうここにはいない。それより、今はここから逃げるのが先決だ。」 ワイズモンは地面に手を着く。 「我、全宇宙の叡智を得たりて、一切全てを操らん!」 周囲の地形が一瞬歪む。その歪みは壁となり、彼らを囲む。 瓦礫からブラストモン達の欠片やガラスの破片が宙を舞い彼の元に集まり、一枚の鏡を形成した。 「この鏡に入りなさい。」 「…わかった。」 すぐに従うほむら。 「あ、おい!」 「さあ、君も早く。」 「んなこと言われてもよ…」 尻込みするブラックシャウトモン。 「…ならば仕方がない。」 ワイズモンが手首を返すと鏡は彼に向かって動き出し、彼を飲み込んだ。 「あの時と一緒じゃねーかぁぁぁぁ!!!」 「…だから自分から入れと言ったのに。」 ワイズモンはそう呟き、自らも鏡へ消えた。 ━━━━━━━━━ これが、1週間前に起きた『オノゴロ島研究所爆発事故』。その現場で私が経験したことの全てだ。 私たちは、エルダーワイズモンのスピリットを使った能力で家へと転送された。 彼はそれで力を使い過ぎてしまったのか、あれから1週間…私の家にあるパソコンの中で動かない。 世間ではあの事故の具体的な理由は報道されず、深夜だったのが幸いして死者はいなかったと報道された。 嘘だ。私はあの現場で、辺りに飛び散った肉片を見た。 不自然に報道は少なく、世間は数日でそれを忘れ去った。 誰が死んでようが興味ない。けど、気になるのは鏡華さんだ。ワイズモンはここに鏡華さんはいないと言った。じゃあ…今どこに? ━━━━━━━━━