その日逆井平介がハロウィンへと参加することになったのは、アパートの大家に頼み込まれたからだった。  ハロウィンのお菓子を配る人を探しているとのことで、暇そうにしていた平介へ急遽白羽の矢が立ったということらしい。    近所の公民館が会場ということで、平介も簡単な仮装(頭に犬耳のカチューシャをつけている)をしての参加だ。  用意したお菓子のセットを抱えたまま、ぼんやりと仮装したまま走り回る子供達を眺めてみる。突拍子もなくトリックオアトリートと叫んだり、突然転んだりと動きが目まぐるしい。  あまり子供と接したことのない平介としては非常に新鮮である。参加してよかったかもしれね、そう思いながらも、ふと違和感に気が付く。さっきまで机にあったかぼちゃが動いている。  この時点ですでにホラーであるが、真昼間からお化けが出てもらっては困る。改めてそのかぼちゃを凝視する。と、かぼちゃに胴体があることに気づく。マントまでつけているとなれば明らかにお化けではない。デジモンだ。  ハロウィンというイベントにつられたのか、まさかのパンプモンである。こそこそと、子供たちのために並べられたお菓子を盗み食いしている。なんとも違和感のない組み合わせだが、さすがに子供の走り回る中、デジモン騒ぎはまずい。それに子供たちのためのイベントで、子供たちのためのお菓子である。盗み食いを見過ごすわけにはいかない。  どうにかして子供たちに見つかる前にパンプモンをここから連れ出さなくてはならない。気楽なイベント中、急に発生した緊急事態に平介は気が気でない。  パンプモンがどう動くかわからないうえ、かぼちゃを持って歩き回るのは非常に目立つこと請け合い。こんなことに使う羽目になるとはと、若干うしろめたさを感じつつ、ご神体を取り出してヴォルフモンへと姿を変える。  子供たちに見つからず、速やかにパンプモンを連れ出すこと。無軌道な動きを繰り返す子供たちから姿を隠しながら、パンプモンが暴れる前に連れ出すのは、とんでもなく大変だった。なぜ楽しいイベントでこんなにも苦労することになったのだろうか。パンプモンと共に抜け出した公民館の屋上で、やや黄昏てしまう。  そんな苦労はさておき、パンプモンへ事情を聞いてみる。なぜ子供たちのお菓子を盗み食いしたのか。  するとパンプモンがおいおいと泣き出すから困ってしまう平介である。なんでも、紛れ込んだみんなが楽しそうでうらやましかったから。子供のために用意されたお菓子が妬ましくて、ついお菓子を取ってしまったのだという。悪いことだと思いつつも、人のお菓子を盗み食いするのがやめられなかったと涙ながらにパンプモンは語る。  完全体として十分な実力を持つだろうに、あまりにも哀れである。さすがに泣きじゃくるデジモン相手に強くいうのもかわいそうになった平介は、用意していたお菓子セットを一袋パンプモンへと手渡す。 戸惑うパンプモンに対して言葉をかけてやる。  「これをあげる。んで、次のハロウィンはおれのとこさ来ればいい。お前のためにお菓子を用意しておいてやるから。だからあんまり悪さするんじゃないぞ。」  その言葉とお菓子に小躍りを始めるパンプモンをなんとかなだめ、見送る。そしてなんとも疲れた気持ちで会場へと戻るのだった。    会場に戻れば平介が子供にお菓子を渡す番が回ってくる。この日のために用意していた平介特選のお菓子セットを子供へ渡す。みすゞ飴に南部せんべい、あんずボーなどなど。どれも平介にとってなじみ深くおいしいお菓子だ。きっと喜んでくれるだろう。平介はそう疑わない。  しかし受け取った子供たちの顔は明らかに曇っている。 「え、どうしたみんな?みんな、あんずぼー!知ってるでしょ?ほら、美味しいよ?」  反応を返さない子供たちに、周りの大人も苦笑いで首を振っている。    お菓子を受け取ってもらえない。つまりノートリート! お菓子がないなら結論は一つ。  子供はお菓子も好きだが、いたずらだって大好きなのである。怖そうなところがかけらもない、程よく無茶の利きそうな大学生男子。そんな遊べる人間を子供が放っておくわけがないのである。  結局いたずら相手として、そして動く遊具と見なされた平介は、無限に飛びかかってくる子供たちをさばき続ける羽目になるのであった。  体力を使い果たしへたり込んだ平介にも容赦なく乗っかってくる子供たち。とうとう平介はつぶやく。   「ハロウィンはもうこりごりだよぅ…!」  終わり