ナヤムには今まで目を向けてなかった事がある。 いや、向けようとしなかったというべきか。 「ナヤム~!」パーカーとTシャツにパンツルックの少女が走ってくる。 「遅れて申し訳ないデス。待ちましたか?」 「…いや大丈夫。待ってないよ」 黙ってるわずかな間、ナヤムは先ほどまでの走ってくるスーザンを脳裏に焼き付けていた。 揺れる胸、シャツの胸元から覗く谷間…。 (おっぱい、目に焼き付けたぞ…!) そう、彼は一番身近な少女の胸が大きい事を意識してしまったのだ。 目を瞑って意識を切り替える。 「さあ、『活動』に必要なもの買い足ししていくか!」 キリっと何も無かったかのようにカッコつけたすまし顔でナヤムは少女に向き直った。 ――――――― (ナヤム…すごく胸の方見てましたね…) 少女は歩きながら考える。妙に違和感を覚えてそこから整理した末に考え付いたのが『ナヤムは私の胸を見たいんじゃないか』と言う結論だ。 (…恥ずかしいんですけど、ナヤムなら二人きりならいいんデス。街中でナヤムに見られるのは、それほど目立ってるって事なのでしょうか) パーカーのチャックを引き上げる。最近さらに大きくなった気がする胸を気にしながら歩いていく。 (ブラジャー、買い直さないといけませんね…) デザインがお気に入りではあったのだが、よく揺れるという事はあまりフィットしていないのかもしれないと少女は考える。 少し複雑な気持ちを抱きながら少年との買い物を終えた。 ――――――― (うーむ…ナヤムは気が付いてござらんが、スーザンめっちゃ機嫌悪くなってるでござるな…) コウガモンは帰ってきたパートナーを見て少し考える。 彼にとっては地味だが確実に面倒な事になってきている。 スーザンは抱え込みがちなのでこの場は取り繕う事が出来るだろうが、ナヤムが帰った後にコウガモンに思いの丈をぶつけて正解のない問答に付き合わせる事が多いだろうと予測していた。 そもそも男女云々の話は、雌雄すらも曖昧な事も多いデジタルワールドで落ちこぼれ忍者をやっていた彼にとって、非常に興味がわかない物だ。 だが、その話を解決しないと爆弾は日々成長してどのような形になるか予想がつかないのだ。 (うーむ…十中八九ナヤムの話という事は…) 袋から物を出して整理している最中の二人に対してコウガモンは切り出す事にした。 「二人とも!収納が終わったら今日思ってる事、話し合おう会しようでござる!」 コウガモンは自然な会話の切り出し方をするのがすこぶる下手だった。 ――――――― 収納が終わり、コウガモンの他愛のない話が進む。 (コウガモンがわざわざこんな事するのって、何があったかわからないけど…思った事を言った方がいいよって事デスよね…?) あまりにも不自然だった為スーザンは訝しんだが、受け入れる事にした。 「…というわけだったんでござるなあ!次スーザンの番でござるよ!」 「あー…えっと…」 恥ずかしさがスーザンの体中を駆け巡る。だが、ここを逃したら機会が無いと思って踏み込む事にする。 「………ナヤム、今日待ち合わせの時…おっぱいみてましたよね?」 ナヤムは裁判にかけられた気分だった。 わかっていたはずだ。胸を見られるという感覚がどれほどわかりやすいか、フェアリモンの姿で痛感している。 その上で性欲に負けてしまった。これは別れを切り出されてもおかしくないのでは? ――――――― 「………はい。罪状を認めます」 抗弁して完全に関係が更にこじれるよりも潔く認めて傷を浅くした方がいい。 責任を全て背負うつもりで構えていたナヤムは次の瞬間、驚いた。 「え…?天音、さん?」 少女が正面から抱き着いてきて少年の耳元で囁き始めたのだ。 「まじまじと人前で見られるのはちょっと恥ずかしい…デス」 「デスけど、ハグで感じてもらうのは…人前ならまだ大丈夫なのでして…」 「おっぱい好きなら…二人きりでおねがい出来ますか…?」 少女は少年の耳元から離れて赤面した顔で少年を見つめる。赤面しつつ安心からの涙目の想い人がそこにはいた。 「天音ぇ!」 逆に今度はナヤムが抱き着き返した。 ――――――― 「まああそこまでお膳立てしたら後はどうとでもなるでござろう」 一仕事終えた感のコウガモンは街の散歩を始めた。 どのくらい時間を潰せばいいかはわからないが、今日はパートナーの話をデジモンの仲間に話すとしようとだけは決めていた。 ウケがいい話が新たに出来て気分が軽やかになった。