某日昼過ぎ。千年桜 織姫は是非来て欲しい所があると講義中の逆井 平介を強引に連れ出し、大衆食堂『助平飯店』を訪れた。 「大至急来で欲しいとこさある言うから来て見だら…飯屋でねか…。ほだなところ連れて来る為に講義さ乗り込んで来ただか?」 「単位の事でしたら何も心配要りません。その気になればどうとでもできますので…」 とんでもない事をさらりと言いつつ店の中へ入って行く織姫。 相変わらず財力に物を言わせて滅茶苦茶やるお嬢様だべ…内心思いながら平介も後に続く。 助平飯店では経営者の娘である薄帯 瑠璃が愛想悪く迎えてくれた。二人を席に案内し、急かす様に注文を求める。 「注文は?」 「…鯖味噌」 織姫の突飛な発言にまたも平介は驚かされる。 ここは洋食屋だ。鯖味噌などあるはず… 「…はいはい、鯖味噌ね」 「どだなだず!?」 オーダーが通った事にまたまた驚かされてしまう平介。 驚きの連続で唖然としている平介にも瑠璃が容赦なく注文を急かす。 「そっちのヒョロガリは何食べんの?」 「すまねぇ……ん~と…ほんじゃ、このナポリタンお願いするべ」 「はいはい、じゃあ出来るまでちょっと待ってて」 平介がメニューのナポリタンを指差し、オーダーするや否や瑠璃は厨房へと向かって行った。 _________ しばらくして瑠璃が出来上がった料理を持ってやって来るが、問題が一つ発生した。どうやらオーダーを取り違えた様で平介の前に置かれた料理がナポリタンではなくミートソーススパゲティだったのだ。 瑠璃の母親と思われる女性もやって来て謝罪をしている。 「気にしねで欲しいっす。おれはミートソースでも大丈夫だがら」 そんなやり取りをしている最中、別の席に座っていたであろう眼鏡の女性がやって来て鯖味噌を食べている織姫の隣に座った。 クールでミステリアスな雰囲気を醸し出すその女性は徐にミートソーススパゲティの皿を手に取り、平介に尋ねる。 「これ、食べても良いかしら?」 しかし女性は平介の返事を待つ事無く、ズルズルと豪快な音を立ててスパゲティを啜り始めた。 突然の事に驚く平介、瑠璃、そして瑠璃の母親。唯一、隣に居た織姫だけは興味津々な目で見ている。 あっと言うにスパゲティを完食した女性__橘樹 文華は口の周りにミートソースが着いた顔で瑠璃、並びにその母親に笑顔で尋ねた。 「おかわり、貰える?」