襲撃側の被害が拡大し一時後退、防衛側も補給のために一旦下がる。 状況が小康状態になった今がチャンスだ。 「破星巨砲(ばすたあらんちゃあ)、三連射!」 レイヴモン・雑賀モードの本来の必殺技、それを一気に三発も放つ。 そのうちの一発だけは、特殊なトリプルタンデム弾頭だ。 死者蘇生ポーションの「生存」にステータス書き換えを強制するコードを「破壊可能」に置き換えた、破壊不能属性無効化の第一弾頭。 レッドデジゾイドを情報圧縮コードで高密度化した徹甲弾の第二弾頭。 そして転送プラグイン「ショートカット」の転送先マーカー弾の第三弾頭。 破壊不能無効化・装甲貫通・マーカー設置・転送の四段構え。 「当たれぇ!」 初弾と三弾を陽動にして二弾を本命にする。エントランスの巨大な扉に着弾し、爆炎が覆い隠す。 マーカーの設置信号を受信すると即座に発動待機状態のショートカットプラグインが起動する。 一瞬だけ視界が暗転し、すぐに復活する。天井の高い、幅の広い通路だ。少し涼しい。 僕はマトリクスエボリューションを解除し、ホークモンをシュリモンに進化させる。 人類の兵器を使えなくなったレイヴモン・雑賀モードは継戦能力が低い。ましてや屋内戦で飛行型は不利だ。 「シュリモン!警戒しつつ先へ急ぐぞ!」 「あいよ戦友!……だけど敵の気配とか感じられへんで?」 「……みたいだね?」これは何かの罠か?正直言って一華の戦術は予想がつかない。 穂村君と出会う前の彼女だったら負ける気がしないが、今の彼女の性格は昔とはまるで別人で優先順位が読みきれない。 ここに伏兵や自動迎撃ユニットを薄めかつ多重に配置して消耗を狙うと思ったのだが……本当に変わったな、一華。 ……何かの罠だとしてもこちらに今出来ることは限られている。僕とシュリモンは先へと走り出した。 走り出して程なく茜から通信が入った。 「もう一度言ってくれ、茜!それは本当なのか!」 『マジのマジよ!図書館の扉が開いているの!私たちも突入するけどいいわよね!』 「……ああ、頼む。十中八九罠だが、今のところ通路に脅威はない。来れるメンバーは連れて来てくれ。」 『罠、ねぇ……やっぱり分かってないか。いいわ、雷切と砂霧さんは艦の直掩に、蜈蚣切は入口に留まって警戒、他は私についてきて!』 茜の言葉に少し引っかかるものを感じながら先を急ぐ。……分かってない?僕とシュリモンのコンビで察知できない罠はそうそう無いはずなんだが……。 結構な距離を進んだ先に一人の女性が立っていた。青白くて長い髪の若い女性……しかしその頭にかぶるヘルメットのバイザーは見た記憶がある。 スプシモンのバイザーと同じもの。つまりこの白いワンピースの女が……! 「首魁自らお出ましとは随分な歓待じゃないか。」僕は100メートルの場所で一度止まり、そこから歩きながらゆっくりと近づく。 シュリモンは……今から影に隠れても遅いか。不意討ちを警戒して出したままにしたのは失敗だったな。 相手の様子を窺いながら、腰に提げたXP-100に手を伸ばす。 こいつはハンドガンと言いながらかなり大きい。しかも単発式で一度撃ったらおしまいだ。 そのかわりマークスマンライフルのような命中精度を誇る。 僕の技量で究極体相手に絶対外さない距離……50メートルまでは近づけるか? 「はじめまして、エンシェントモニタモン。……と言っても、君は僕のことは知ってるんだろう?」 90メートル、相手は動かない。 「でも一応名乗っておくよ。名張蔵之助、いわゆる『忍者』ってやつだ。もっとも……」 80メートル、息づかいにあわせてわずかに動きが見える。置物ではなさそうだ。 「君たち、というかこの世界の『忍者』とは異なる存在、ということは知ってるよね?」 70メートル、相手の影は周囲の照明に対して不自然な点はない。立体映像でもなさそうだ。 「こいつの弾は特別製でね、上位存在であっても『死』は免れない。」 60メートル、銃口を相手に向ける。女性の拳が固く握られている。緊張しているのか? 「この距離ならたとえ裏十闘士であっても外さない。」 50メートル、ここまで近づけば必中の間合いだ。 「さあ、僕のお願いを聞いてくれないかな?」 「……よくも、」女性の口から出た声に聞き覚えがあった。あれ、この声? 「よくも!わたしが置いてったポーションを!あんなことに使ったなあ!」え?ちょっと? 「歯ァ食いしばれバカ親父!」デジメンタル解除音が響く。女性の姿が消え、そこには…… 「い、一華!?」 「パパなんてもう知らない!」同時に出現したゴースモンを置き去りにしつつ一華が猛スピードで吶喊してきた。 「シュリモン!」声を掛けたが反応がない。突然の一華の出現に動揺してるのか!?らしくない! だが問題ない!一華は忍者としては最低クラスの身体能力!僕よりもちょっと下だ! ちゃんと見極めれば避けて取り押さえることなど……なんか速いな?別れる前に見た時の倍近い速度になってない? そう言えば、出発直前からマジメに毎日トレーニングするようになってたっけ。 手にした銃を一華に向けて撃てるわけがない。僕と茜の自慢の娘だぞ! あれ、まずいなコレ。命中精度を上げるために両手で撃てるよう左手フリーだったから、手裏剣とか間に合わないな。 0.3秒で50メートルの距離が詰められる。うわぁ僕より速い! 落ち着け僕、よく見極めて回避できれば、カウンターでワンチャン……脚が、動かない? あっこれアレだ、分身の発生に使う次元多重化技術を逆用して、空間固定化力場を発生させて敵を拘束する技だ。 ただ密着状態でないと使えないから攻撃方法が限定されて…… 一華が右手をより強く握りしめる。拳から次元貫通波動の放射光が漏れる。 やっぱりアレだ、忍者以外が使うと命を引き換えにすると言われる幻の忍術奥義! 「美愚蛮煩魑(びっぐばんぱんち)!!!」 一華の右拳が、僕の顔にクリーンヒットする。 ……ああ、そうか。 一華は、変わったんじゃなくて。 成長、してたんだね……。 気がつくと、僕はその場で仰向けになって倒れていた。 その僕を一華がすごい形相で見下ろしてた。左足で銃ごと僕の右手を踏みつけている。 「あなた!……って一華!無事だったの!?」 追いついてきた茜が一華の姿を見て声を上げる。 「一華!」「一華ちゃん!?」侘助とエンジュも同じような反応をする。 「……一華主任!」「主任殿!」大吾と髭切も追いついてきて……アレ? 「あっ一華さん、お久しぶりです……。」鴇緒君、君まで来たのか! っていうか、誰も僕の心配しないで一華の事ばっかり気にしてるよね!? 「あっママ、エンジュお姉ちゃん、髭切さん、春原さん、鴇緒お姉ちゃん、ついでにお兄ちゃん、久しぶり!」 一瞬だけ笑顔になるけど、すぐにまた憤怒の形相で僕を見下ろす。 「さて、パパ?これは一体どういうことかしら?」 「どう、って何が?」 「ふ・ざ・け・な・い・で!図書館の破壊不能属性をなんとかするために、わたしの死者蘇生ポーションを使ったでしょ!」 やっぱ作った張本人にはバレるよね、うん。 「で、この鉄砲は?さっきの話からすると『不死殺しのポーション』使ったよね?」 右足グリグリしないで!痛いって!父親の威厳が死んじゃう! 「わたしはね、こんなことのためにポーション置いてったんじゃないよ?家族に死んでほしくないからって置いてったんだよ?」 うわぁまるでラスボスみたいな威厳と怖さ。でもここで引き下がっては家長として情けなさすぎる! 「茜!一華を止めてくれ!」 「……えー、でも、母親が娘に暴力振るったら児童虐待って言われちゃうし。」 いや今更どの口が言ってんの!?なんでそんな困ったような顔してるのさ!! 「シュリモン、もう動けるか?」 「いやぁ、無理や。ワイはお嬢に向ける刃は持ってへんねん。」 !!……さっき動かなかったのはそういう事か、この裏切り者! 「じゃあ侘助!一華を拘束しろ!」僕の命令に対して最初に答えたのは侘助じゃなかった。 「蔵之助さん、私はこれは蔵之助さんのほうが悪いと思うなあ。」エンジュが口を挟む。 「悪ぃ父ちゃん、俺、エンジュの豚だから。」 「せめてそこは犬って言ってよ!息子が豚を自称するのちょっとキツイんだけど!?」 ええい、どいつもこいつも!仕方ない! 「鴇緒君、頼む、一華を……鴇緒君?」なんでそんな冷たい目で見てるのかな? 「名張さん……私の本当の姿を知ってて言ってます?」 「そりゃもちろん、由良比女にして須勢理毘……あっ。」 由良比女はあの島での須勢理毘売命、大国主命との結婚に際して父神である素戔嗚尊と対立した逸話のある…… 「私が、父と娘の喧嘩で父親の味方をすると思いますか?」 …………そりゃそうだあああ!しまったあああああ!! こうなったら最終手段だ、もう彼らに頼るしかない! 「春原君、髭切君、いちぶごわぁぁっ!」こっちが言い終わる前に髭切君がジャンプして馬乗りになってきた! 重い重い!重装型ガードロモン重すぎ! 「社長、今我々に、グランドテイマーである一華殿への攻撃を命令しようとしたか?」 おかしいなガードロモンって表情変わんないはずなのに髭切君の顔がすごく怖いよ。 動きを完全に封じられた僕の手から、一華がXP-100を取り上げる。 「もうこんなことはやめようパパ?」言いながらボルトハンドルを操作して排莢する。 ………………おかしいな。ついさっきまで全てが順調、計画通りだったのに。なんでこうなるんだ? 「あー、その顔、やっぱりまだ分かってないのねあなた。」茜が近づいてきて僕を見下ろす。 「分かってない?さっきもそんなこと言ってたけど、何がだい?」 「私はね、今回の助ちゃんの作戦が失敗するって分かってたのよ。」 「……だから、なんで?」 「あのね、一華にはあるけれど、あなたには欠けているものがあって、それが決定的な差になってるのよ。」 「だからそれは何なんだよ!教えてくれよ!!」 僕が叫ぶと茜はひとつため息をついて、腰に手を当てて言った。 「あなた、ビジネスパートナーはいっぱいいるけど友達は全然いないのよ、一華と違って。」 「…………………………それが、理由?」 「そうよ。利益でしか繋がってない相手は、利益がなくなれば繋がってくれないの。」茜はそう言うと一華を見る。 「利益以外のことで動く者、利益以外で繋がってくれる相手には、たとえ利益が無くなっても繋がってくれる、助けてくれる。」 その言葉に一華の顔が少し赤みを増す。照れてるんだ。 「砂霧さんもドウモンさんも、みんな一華のこと心配してたのよ?聞いた話だと希理江ちゃんや竜馬くんも心配してたらしいわ。」 ……そうか。家族から離れて、穂村君と旅するようになって。一華には、たくさんの友達が、できたんだな。 「あの外の大戦力を見ればわかるでしょう?エンシェントモニタモンの戦力も多いけど、かなりの数が一華の呼びかけで集まってるのよ。」 「わたしじゃないよ、映塚さんがすごいだけ。」そう言う一華はもう真っ赤だ。 「……子はいつか親の背中を越えていくって言うけど、こうも早くに越されちゃうかぁ。」 ああ、一華は、僕なんかの手には収まらない、立派な娘だ。認めよう。 「わかった、僕の負けだ。図書館のことは諦める。」 ああ、負けだ負けだ。でも……なんでだろう、そんなに悔しくはないな。 負けること以上に嬉しいことがあったから、なんだろうね。 「あの、そのことなんだけどね、パパ?」一華が何やらモジモジしてる。 「モニタお姉ちゃん、終わったからもういいよ。転送して?」 モニタお姉ちゃん!? 突然視界が暗転する。この感覚には覚えがある。「ショートカット」の空間転移。 ただ、あれとはいろいろとデータの流れ方が違う。これは……現実改変、いや、事象編纂能力による空間の入れ替えか! ……そこは広大な空間だった。しかし何も無いというわけではない。数十のモニターディスプレイが、様々な光景を映し出している。 そのほとんどが、『図書館』の周辺での戦闘の様子を映し出している。 それらのモニターのほど近く、置かれてるソファーに座っている女性がいた。 ぱっと見は先程の一華の変装と見分けがつかない。しかしその雰囲気は全く違う。 とてつもない情報圧を感じる。そう言えばそうだった。裏十闘士ってこれぐらい凄みがある奴らだったよ。 エンシェントアンドロモンの時にも僕は終始圧倒されっぱなしだったじゃないか。 ということは、彼女こそが、本物のエンシェントモニタモン……。 ソファーの後ろには若い男とワイズモンが立っていた。おそらく彼女の直衛なのだろう。 警戒感もあらわに厳しい目つきで僕を睨んでいる。 「はじめまして、見れば分かると思うけど、私がエンシェントモニタモンでーす。」 その威圧感に対して口調はずいぶんとフランクで軽い。 「こちらこそはじめまして。僕は名張蔵之助、忍者だ。こんな格好で失礼するよ。」 髭切君、いい加減どいてくれないかな? 「話は一華ちゃんから聞いてるわよ。『要検証』データについて調べたいんだって?」 「要検証?……そっちではそう分類してるのかい?まあそうだね、明らかに内容に齟齬のあるデータの再検証を行いたい。」 髭切君が僕の上から退いた。同時にすぐ近づいてきた春原君が細い鋼製ワイヤーで僕の両手両脚を拘束する。 そこまで信用無いの僕!?ちょっとショックなんだけど? 「そんなもの出るはずがないのになぜか出てるから、スプシモンたちも不思議がってるのよね?」 顎に人差し指を添えて考えるようなモーションを取る彼女。 「あなたならその謎を解けるのかしら?」 「確証はないけど、心当たりならある。」 このエンシェントモニタモン、以前に聞いた話とはだいぶ性格が違っているようだ。 おそらく封印から目覚めてから今までの間に何かがあったのだろう。 そしてこの尋ね方。おそらく一華は大まかな説明しかしてないらしい。 ……と言うよりも、細かい説明が出来なかったのだろう。この世界の生まれである一華には、世界が違うという実感を抱くことが出来ない。 「説明しよう。その前に拘束は解いてくれないかな?」 「茜、君の刀を見せてくれ。」 茜が自分の短刀を差し出す。 「これは細雪兼定といって和泉守兼定の最高傑作のひとつとして僕の家に伝わっていたものだ。」 少しだけ刀身を見せて、また戻す。 「この世界にはそんな名前の刀の記録はない。次に侘助、君の刀を見せてくれ。」 侘助が二振りの刀を差し出す。 「これは八丁念仏と団子刺し、その写しの刀だ。元の刀は水戸の博物館に展示されている。」 侘助に刀を返しながら説明を続ける。 「僕の実家には同じものが伝わってて、水戸には存在していなかった。」 今度はシュリモンの影から短刀を引っ張り出す。 「これは千子村正の打った短刀、これも僕の家にあったものだ。」 短刀を僕の前に置く。 「全く同一の物が桑名市で展示されている。」 「つまりどういうことなのかしら?」 「細雪兼定と村正の短刀には共通点がある。」そこで一旦言葉を切る。 勿体ぶってるわけじゃない。ただちょっと、これを話すと辛い記憶を思い出すから……OK、行ける。 「僕と茜が13歳の時、僕らの住む隠れ里が何者かに襲われ、僕らはデジタルワールドに逃げ込んだ。その時に持っていた刀が、この短刀二振りだ。」 一同は僕の話を黙って聞いている。 「僕らは一年近くデジタルワールドを旅し、デジタルゲートを見つけて戻ってきた時は飛騨の山奥だった。」 『あのなんか妙なゲートか!』インカムの向こうから蛇走さんの声が聞こえた。 「実はそこで戦闘になった後、数日間の記憶がない。気がついたら、三重の山奥、隠れ里のあった場所にいたんだ。」 「記憶が、無い?」春原くんが訝しむ。 「建物とか何もかも吹き飛んでた形跡があったよ。だけど死体の類は一切残ってなくてね。今考えると随分雑な隠蔽処理だったけど……しばらくは特に疑問も抱かずに過ごしていた。」 「それが先ほどの刀の話とどう結びつくのだ?」自分も刀剣の名前を付けられたからか、髭切君が食いついてくる。 「後で説明するよ。僕たちは7年前に東京に引っ越してきた。そこで初めて、古いゲーム機を売ってるお店があることを知った。」 「古いゲーム機?それが関係するのですか?」鴇緒君が困惑するのも無理はない。 「そこにあった古いゲーム機……シェア競争に負けた悲運の名機、そう銘打たれて売りに出ていたゲーム機を見て僕は思い出したんだ。これ、世界で一番売れてたゲーム機じゃないか、ってね。」 「???」事情を一度説明した家族以外の全員が頭に疑問符を浮かべている。そりゃそうだよね。 「その直後、いろいろなことが頭の中に流れ出してきた。まるで堰を切ったようにね。」 「……記憶を制御されてたってこと?」エンシェントモニ……いや長いな!もうエンモニさんでいいよね?エンモニさんが確認するように尋ねる。 「そういうことだね。まず、ゲーム機のシェアが本来知ってるものと大きく違うことに気付いた。次に、隠れ里を襲った存在が違っていたことを思い出した。」 茜が眉をひそめる。そう、彼女も僕と同様の記憶操作を受けていた。 「それから、知らない忍者がいた。僕達は六角などという公安所属の忍者なんか知らなかった。あれだけの実力者なら知らないはずがないのに。」 「六角さんが!?」「六角のおじさま!?」侘助とエンジュが驚く。そうか、コレまだ二人には話してなかったっけ。 「自分の記憶がまるで二重になっているかのような感覚に混乱した後、僕は調査を開始した。そこで最初に発覚したのが、さっきの日本刀の話だよ。」 遠くから戦闘の音が響いてきた。小康状態が終わったのだろう。 「結論から言おう。僕と茜が元々いた世界は、こことは別の世界だ。そして、僕達がデジタルワールドに行ってる間に、この世界と融合した。」 『!?!』春原君髭切君鴇緒君の三人、そしてインカム越しに蛇走君が息を飲むのが聞こえた。 「その時発生した差異が、君たちの言う『要検証』データになっている可能性がある。」 「なるほど……私が『起きている』時ならともかく、『眠っている』間に起きたことだとしたら辻褄が合うかもしれないわね。でもね?」 エンモニさんのバイザーがキラリと輝く。 「私以外の『上位存在』がそれに気づいてないはず無いのよね?これは説明できるの?」 「……可能性は二つある。ひとつは、世界の融合による影響が小さすぎて無視できるものだった可能性。『世界』の側の修正力で遡って世界が改変されている可能性も非常に高い。」 「ふうん?」……威圧感強めながら相槌打つのはやめてほしいなあ。 「更に言うなら、影響が小さすぎてわざわざ君に言うまでもない些事だと思ってるのかもしれないね。」 「なるほどなるほど。それでもうひとつは?」 「……何者かが、世界の融合を隠蔽している。これは可能性というより、おそらく事実だ。」 「……その根拠は?」エンモニさんの威圧感が更に増す。 「目に見えにくい所の差異が修正されてない。というより、修正が『甘い』。」 「甘い、だと?」髭切君がオウム返しに言う。 「そう、例えば僕達の記憶は変わっているのに、持ち物はそのままだった。『世界』による修正が記憶だけにしか作用しない――そんな訳はない。」 僕はシュリモンのほうをちらりと見る。 「前に僕が使った戦艦主砲と核弾頭、あれは『僕達がいた世界』にあったもの、正確には『公的記録から抹消され地下に隠匿されていた物』だ。」 「ああ、あんな物どこから、って思ったけど……」春原君が腑に落ちたような声を出す。 「そう、君の思ってるとおりだよ春原君。あれは元の世界で存在してる場所と同じ場所に隠してあった。そういった厄モノを利用して米軍とのパイプを強化したんだけど――」 おっと、いけない、いけない。 「これは別の話だからまたいずれ。ともかく、修正が徹底していないんだよ。こんな不完全な修正は――」 「『世界』による修正ではありえない、という訳ね?」頷きながらエンモニさんが言う。 「これはあくまで僕の主観だが、この作業には『人格』の存在を感じる。」 「人格、ですか?」鴇緒君が首を傾げる。 「そう、人間、あるいはデジモンのような、人格を持った存在による……そうだね、面倒くさいとか、仕事したくないとか、そういった意思の痕跡を感じるんだ。」 「感情のないシステマティックな存在によるものではなく、何らかの感情を持つ存在がやったことだって言うのね……あり得るのかしら?」 エンモニさんは考え込む仕草をする。 「そういう存在がいたとして、私がそれに気づかないなんて……エンデス君の目を盗んでそんなこと……」 今のは前にゴースモンから聞いたエンシェントデスモンの事かな?それが聞いた話通りなら確かにあり得ない、でも…… 「おそらく何らかのギミックが働いてる。君たちのような世界を見渡せる上位存在のことを認知し、なおかつ対処方法を持つ何者かが仕掛けた、ね。」 「……もしそうだとしたら、ちょっとほっとく事は出来ないわね。」 ここが交渉のポイントか。 「だからお願いだ、エンシェントモニタモン。君たち、いや、あなたたちの持つ『要検証』データの再検証作業をさせて欲しい。」 すっと正座する。前に両手をつく。そのまま額を床につける。 「図書館の位置情報をバラ撒いて、襲撃を煽って混乱を誘い、侵入したことについては謝罪する。だから、どうか僕の願いを聞いてもらえないだろうか。」 土下座してるのでエンモニさんの表情……いやあれ表情でいいのかな?は見えない。 「僕のことは好きにしてもらって構わない。ただ、妻や子供のために、事実をはっきりとさせたいんだ。」 僕の横にいつの間にか茜がいた。同じ用に彼女も土下座をする。 「私からもお願いします。私はどうなっても構いませんから、どうか夫の願いを聞き届けてください。」 「バカな事言うな茜!君に何かあったら三つ子はどうなるんだ!」 思わず僕は顔を起こして茜の方を見る。 「バカはあなたよ!あなたがいなくなったら誰が私の『主認証』を制御するのよ!」 「一華がやったみたいに制御解除すればいいだろ!もともと君のは制御ナーフしてるんだから出来るだろ!」 「そう言う問題じゃないのよバカ!そんなんだから友達出来ないのよ!」 「なっ!……茜!いくら君でも言っていいことと悪いことがあるぞ!」 「何よ!」 「何だと!」 「あーもう、こんな所で夫婦喧嘩なんか始めないでよ!」 一華が僕を後ろから羽交い締めにする。 「母ちゃんも落ち着いて!そんなことしてる場合じゃないだろ!」 侘助も茜を羽交い締めにして僕から引き離す。 「ぶっ、あはははは!あーもう、わかったわ。」エンモニさんは急に吹き出すとお腹を抱えて笑い出した。 「いいわよそれぐらい。こんな面白いもの見せられて今更どうこうとかもう言わないわよ。」 「えっ……いいのかい?」僕はその言葉に呆気にとられた。 「ええ、構わないわ。私はこう見えても面白いものを見るのが大好きなのよ?」 そう言って彼女は笑う。屈託なく、無邪気に、それ故に恐ろしさを感じる笑顔で。 「そこは昔から変わんないからね、エンモニっちは。」ゴースモンが呆れたように首を振った。 検証作業は僕と一華、それから合流した海津君の三交代で行うことになった。 彼は彼で何事かあったらしい。一華が持ち込んでいる簡易ハウスを譲ることを条件に協力を申し出てくれた。 検証作業の途中から、エンモニさんに頼んでいた応援が来た。 「よろしくお願いします!……あの、僕みたいな新人で本当にいいんでしょうか?」 最近スプシモンに進化したばかりだという新人が申し訳無さそうに言う。まあ不安になるよねそりゃ。 「いいと言うよりも、むしろ必要なんだ。君みたいな。まっさらな新人こそがね?よろしく頼むよ。」 僕の仮説が正しければ、おそらくこの新人こそが謎を解く鍵になる。 そして、後になってから振り返るとちょうど防衛戦が終盤に差し掛かった頃になって、検証の結果が出た。 最初のきっかけになったのは、とある録音データだった。内容は……思い出すと腹が立ってくる。 スプシモンを攫って弄って、一華の様子を覗き見していた様子が録音されていた。 そのスプシモンは壊れた状態で回収され、中の動画記録が破損して録音だけが再生可能になっていたようだ。 話していた内容からして、僕達の世界のことを知っている様子なのは明らかだ。 これと同じ声の持ち主の記録が他に無いか、僕達で探しても見つからなかった。 そこで新人のスプシモンにこの音声を聞いてもらい、それから要検証データの中から音声記録だけを、動画やキャプション等を一切取り除いた状態で聞いてもらった。 「……ありました。この人、何者なんですか?」 そのスプシモンが指摘したデータは、いずれも僕ら三人が一度以上チェックしていた記録だった。 予想は的中した。この新人君を中心として、音声記録化したものや、同一である可能性があるものを絞り込んで再度チェック。 閲覧不可でチェック出来ないデータも少なくなかったけどそれでも膨大なデータ量で、新人君には大変な仕事となった。 「お疲れ様、差し入れ持ってきたけど食べる?」 一華はこのスプシモンがお気に入りになったらしく、度々お菓子を持ってきていた。 レナモンが作ったのと一華が作ったので半々ぐらいだったかな? ともあれ、いろいろなことが判明した。 それと僕の記憶にある、僕達の世界についての情報、そして僕達が最初にデジタルワールドを旅した時に見つけた情報。 ……それから、僕らの隠れ里が襲われた時の記憶。それらをまとめて推測するとおそらく真相はこうだ。 僕らの世界にもデジタルワールドは存在していた。当然ながらデジモンもいた。 しかしある時……おそらくは、僕らがデジタルワールドに行く7年前に、デジモンたちはいなくなった。 原因は、デ・リーパーの勢力拡大による根絶。 ただしデ・リーパー側もその後勢力を衰えさせ、大きく数を減らす。 どうやらデジモンとの争いの中でデ・リーパーたちはデジモンを取り込み学習して能力向上を果たし、その一方でデジモンに近い存在に変異したようだ。 それが原因で互いを攻撃対象と誤認する事態となり、数を減らしたのだろう。 そうして細々とデジタルワールドにいた変異デ・リーパーたちはある日、他のデジタルワールド……このデジタルワールドから侵攻してきた勢力に襲われた。 ナイトモンを主力とするその軍勢に弱体化した変異デ・リーパーたちは為す術なく逃走、開いたままで固定されたデジタルゲートを通ってリアルワールドになだれ込んだ。 その変異型デ・リーパー……『オーガモンに変異したデ・リーパーの集団』はゲートに隣接した集落を襲撃。 ……そう、僕達がいた『忍者の隠れ里』だ。 彼らにしてみれば、逃げた先に完全体レベルの強敵が屯してたんだからさぞや怖かったことだろう。 最終的にデ・リーパーは忍者軍団が里もろとも自爆したことで全滅、僕達を除いて里の忍者も全て死んだ。 そして僕達はデジタルワールドに渡った……のだが、おそらくこの時すでに『あちら側』のデジタルワールドは『こちら側』のデジタルワールドと融合していたと思われる。 いや、ニュアンス的には融合というよりも吸収というほうが近いかもしれない。 『こちら側』が『あちら側』をリソースとして一方的に吸収合併した感じだろうか。 ただ、融合したのがデジタルワールドだけで収まらなかった。 『あちら側』のデジタルワールドには施設による固定式・常時開放型のデジタルゲートがあった。 それも一つではない、かなりの数が。 そのせいで、デジタルワールドの融合にリアルワールドまで巻き込まれ、引きずり込まれるように融合してしまった……と推測される。 その際に、『あちら側』の人や物は、対応する『こちら側』の同一存在に統合される形で消滅。 ただし、対応する存在が『こちら側』に無い場合はそのまま持ち込まれてしまった。 『忍者の概念と歴史』、そしておそらくは『隠れ里の廃墟と忍者たちの死体』までもが持ち込まれた『こちら側』の『世界』は、整合性を保つために過去に遡って事実改変がなされたのだろう。 結果として、本来忍者ではなかった人物が忍者とされてしまった六角さん、そして忍者因子が混じったことで高い身体能力とサイコパスの性質が発現した『春原大吾』が生み出された。 おそらくは他にも忍者ということにされた人、忍者の因子でおかしくなった人が少なからず発生しているはずだ。 そして、そういった一連の動きから取り残されたのが僕と茜だった。 僕らが持ち出した短刀はそのまま融合後のリアルワールドに持ち込まれ、元の世界の忍者二人もそのままでリアルワールドに『戻って』きてしまった。 ……『ソイツ』にとってかなりまずい事態だったのだろう。僕達は記憶操作を受け、元の里があった場所に戻された。 里に残っていた死体はその時か直前になって処分したのだろう。 全く、全部片付けてただの野原にするか、死体とかも全部放置しておけばよかっただろうに。 あんな中途半端な隠蔽処理をするから、結果的に気づかれるんだよ。 実は何らかの深謀遠慮とか綿密な計画の可能性?無い、無い! それは例の一華を覗き見してた録音から明らかだ。 『ソイツ』は何をやるにしても雑で、詰めが甘くて、適当なんだ。 スペックは間違いなく高いよ?悪知恵もかなり回るよ?でも自身のその性分で全部台無しにしてる。 おそらくはそういうヤツだからこそ、『あちら側』のデジタルワールドは、そこのデジモンは滅んでしまったんだ。 さっきから言ってる『ソイツ』が誰かだって? ああ、『ソイツ』はね、イグドラシルさ。 ただし『こちら側』じゃなくて、『あちら側』のデジタルワールドの、イグドラシルさ。 エンモニさん立ち会いのもとで検証したんだ。 あの新人君に視覚機能をカットした状態である記録映像を視聴してもらったんだ。 「このDr.ポタラって人と話してる人、一華さんを覗いてた人と同じ声です。」 「!?」海津君が表情を変えるレベルで反応した。そりゃそうだろうね。 次に、ある配信者の動画を新人君に見てもらった。めもりちゃんね……じゃなくて、ハムお姉さんの動画だ。 「……これ、何か関係があるんですか?」新人君は疑問を口にしながらもちゃんと視聴する。真面目ないい子だ。 最後に、つい先程見た記録映像をもう一回見てもらった。 「おんなじ動画を何回も見る意味なんて……え!?」 「何?どうかしたの?」 「話している人がハムお姉さんになってます!声も!全部変わってる!なんで!?」 「……やっぱりか。」 この映像、僕と一華と海津君で全く違う人物が見えていた。 僕が見た時はロードナイト村の住人・イヴに。 海津君が見た時は先程のハムお姉さんに。 そして一華には……ゴースモンの記憶にあった、イグドラシルの端末に。 「……パッシブ型認識改変。」海津君が呟く。 「これ……巧妙に隠されてるけど、視覚データにかなり高度な認識改変コードが埋め込まれてるわね。」 さすがエンモニさん、すぐにそこまで判るとはね。 「……なるほど、これ、『自分が直接見ていることが事実ではないかもしれない』という疑問を持たないとカウンターすら出来ないようになってるわね。」 「そんなとんでもない認識改変が……!?」 「その反動で、逆に疑いを持ちはじめると簡単に解除できるわね、このコード。」 「そうなのかい?」 「だってもう私には全然効かなくなってるから、それ。ちょっと今までのデータを再スキャンするわね。」 さすが裏十闘士……ヒント一つであっという間に紐解いてしまう。 「ふむふむ……『見ている』ことと『知っている』ことの両方が揃ってはじめて発動するのね……?」 ちょいちょいっと軽く指先を動かすエンモニさん。 「ついでにあなたたちの認識改変も解除しとくわね〜。」ついでにできちゃうんだ……怖いな。 「あっハムお姉さんが元に戻りました!」新人君が声を上げる。 「あっホントだ……えっこの人、じゃなくてこれ人じゃないよパパ!」 「人じゃない……?いやでもこれどう見ても人間……」一華の言葉に海津君が口を挟む。 「いや、一華が言うなら人間じゃないんだろう。」なるほど、『認識』した後の情報を改変するなら、一華の『目』も誤魔化せるって寸法か。 そもそもエンモンさんやエンシェントデスモンすら騙してきた偽装だ。そんな芸当が出来るとなると…… 「多分こいつは、『あちら側』のイグドラシルじゃないかと思う。どうかなエンモニさん?」 「そうみたいね。」エンモニさんの緑のアホ毛……葉っぱ?が揺れる。 「自分が『イグドラシル』であることを利用して『こちら側』のイグドラシルとして誤認するように誘導、見た者の記憶の中にあるイグドラシルやその端末なんかにすり替えをしてるわね。」 なるほどやはりそういうことか……。 ということは、コイツに誤認されてたイヴさんやハムお姉さんがイグドラシルの端末とか関係者ってことになるんだけど…… 「名張さん、それじゃあハムお姉さんってもしかして……」 「海津君、それ以上はやめよう!」なにか危険な匂いがしてきたぞう! 「確かにスペックは優秀みたいだけどホントにやってることが雑ね―……あら?」 エンモニさんが素っ頓狂な声を出す。 「どうかしたのモニタお姉ちゃん?」 「過去に収集されたデータの中からあなた達の世界のものらしいものが出てきたわ……あら結構あるわね。」 「!!」 「そっちのデータにも認識阻害がかかってたのね。……ついでに、他の並行世界のあなた達の観測データも見つかったわよ。」 「他の……並行世界?」どういうことだ? 「あなた達に関してはなぜか存在が確認できない並行世界がいくつかあったんだけど、それらのデータも出てきたのよ。そっちにまで認識阻害や認識改変が影響してたのね。」 そこでエンモニさんはずいっと僕の方に身を乗り出してきた。 「興味ある?見たい?」やめてくれよ可愛い見た目で強者のオーラ出しながら近寄ってくるのは! 「いや、後で暇があったら見せてもらうよ。」 「わたしも。今はそれどころじゃないし。っていうか並行世界のわたしって嫌な予感しかしないよ。」 一華が眉をひそめる。そりゃそうだろうね、今の一華の存在が相当なイレギュラーの末にある以上、並行世界の一華はイレギュラーのなかった世界ってことだからね。 ……穂村拝君に出会わずそのまま育った一華か。親の自身が揺らぐようなのはもう勘弁してほしいんだよねえ。 「あともう一つ、コイツ今、図書館の近くにいるわよ。」 「……なんだって?」流石にそれは聞き捨てならないぞ!? 「あなた達がなにかしてたから様子を見に来てたみたいね。どうする?捕まえる?」 僕達にとっては、いろいろな物事の元凶、か……。 「……アイツを『記載』してくれ。」 「いいの?記載したら気づかれて逃げられるわよ?」 「別に恨んでるわけじゃないからね。知ってるだろ、僕は憎悪とか怨恨っていう感情が極端に薄くなるよう『調整』されてるんだ。」 そう、僕がそういった感情を持ってるのはただ一人、『ラボ』に所属してギズモンを生み出したあの―― 「……『記載』されてしまえばアイツは誰にでも認知可能になる。そうすれば今までみたいな好き勝手はできなくなるさ。」 一華を覗き見してたことは気に食わないが、それで怒る役目は穂村拝君に任せよう。 「僕としては、茜や子供達に危害が及ばないかが心配だっただけさ。」 「じゃあそうするわね。ポチッとな。」 ……なんなんだろうねこの裏十闘士とは思えないノリの軽さは!いや一華のゴースモンもかなりそっちよりだけど! もしかしてエンシェントアンドロモンのような支配者気質丸出しって少数派なのかい? こうして僕らは目的を達成できた。 当初の予定とは大きく異なるけど、大した問題じゃない。 ……いや大問題だな!自体が僕の目論見を超えて大きくなってる! しょうがない、自分で蒔いた種は自分で刈らなきゃ。 襲撃勢力を全部追い払って、それから帰るとするか。 これからは、いや、これからも。 平和島にある僕達の家が、『僕達の帰るべき世界』なんだから。 (了) 解説 破星巨砲(ばすたぁらんちゃあ) レイヴモン雑賀モードの本来の必殺技。左側から構える東塔(いーすたんたわー)と右側から構える西棟(うえすたんたわー)、それらを両肩に構える双塔(ついんたわー)がある。 片方だけ撃つ時は精密射撃モードや連射モード、両方撃つ場合は広域殲滅モードとなる。 エネルギー消費が激しく長期戦には不向きなため、蔵之助は自衛隊などの人類の武器を使用していた事情があった。 彼の退官によって人類武器の弾薬補給が不可能になったためにこの必殺技が復帰することになった。 変装 蔵之助が何らかの方法で侵入してくることを予測して一華は自身がエンシェントモニタモンに変装することを提案。 面白い展開になりそうなのでエンシェントモニタモンはこれを快諾。 18歳の姿になるデジメンタルをベースに、足りない胸はゴースモンをパッド代わりに詰め込んで、帽子をヘルメットに偽装した。 帽子のつばが偽装の邪魔になるといけないので前後逆にしてかぶっている。 「うふ、拝くんとおそろい!」 美愚蛮煩魑(びっぐばんぱんち) 忍者が分身に使う次元制御能力を敵の拘束に使用する伝説の忍術奥義。 敵が拘束される代わりに次元障壁で覆われてそのままでは攻撃が通らないため、次元貫通エネルギーを拳に纏わせて殴りつける。 忍者パワーを持たない者がこの技を使うと命と引き換えになるとも言われている。 実は忍者パワーはデジソウルで代用できる。 認識改変 アナザーイグドラシルを直接間接を問わずに視認し、なおかつイグドラシルあるいはそれに関連する存在を何らかの形で記憶している場合、アナザーイグドラシルへの認識が記憶しているイグドラシル関連の何かに置き換えられます。 これは常時発動のパッシブ型で、「自身の直接見たイグドラシル関連のものが実は別の存在である」という疑いを持つことで打破判定が出来るようになります。 イグドラシルを知らない者にしか認識されなくなり、正体を調べようとするとイグドラシルを知った瞬間に認識誤認を引き起こすというギミックで正体を隠し続けていました。 しかし「見ること」がトリガーであったこと、そして自身のうっかりで録画データではなく録音データを残してしまったことで正体がバレることとなりました。 忍者のいた世界 彼らの世界はテクノロジーの進歩が若干早く、そのためイグドラシルの性格が人間的になり、結果デジタルワールドからデジモンがいなくなった世界です。 メタな視点では、セガのゲーム機開発とたまごっちの発売が早まった結果、セガの勢力が強まる一方でバンダイの経営危機が早期化し合併が実現して「セガバンダイ」が誕生した世界、それによってデジモンアドベンチャーのプロジェクトが液晶玩具だけで終了しアニメのデジモンアドベンチャー放映までに至らなかった世界の裏側です。 この世界のイグドラシル、仮にアナザーイグドラシルと呼称しますが、彼は自身をデジタルワールドの管理者ではなく支配者であるという認識を強く持つようになります。 そして、自身の地位を脅かすデジモンの出現を恐れ、完全体になったデジモンを次々と片っ端からデリートしていきました。 「だって俺より強いヤツが出たら困るじゃん?」 結果、このデジタルワールドには成熟期までのデジモンしか存在せず、競争による進化も半ば意図的に鈍化していくことになります。 当然ながらロイヤルナイツのようなデジタルワールドを守護する存在も生まれません。 その一方でリアルワールド側のテクノロジーは進歩し、調査するために大型の持ち込むための設置型・常時開放型のデジタルゲート施設がいくつも作られました。 忍者の隠れ里の近くにも設置され、そこから数多くの忍者たちがデジタルワールドの探索に出ていきました。 人類側のテクノロジーの進歩はデ・リーパーの出現と進化を促進し、ついに彼らはデジタルワールドへの侵攻を開始します。 意図的に進化を抑制されていたデジモン側に対抗できるはずもなく瞬く間に制圧・絶滅。 デジタルワールドはデ・リーパーのものとなり、アナザーイグドラシルはデジタルゲートを通って他のデジタルワールドに逃亡します。 管理して発展させることも戦力を育てることも面倒くさがって、安易な支配の維持だけを求めた当然の結果と言えます。 アナザーイグドラシルがいない中、残されたデジモンは必至に抵抗しますが完全に絶滅し、その抵抗でデ・リーパー側も弱体化。 さらに一部のデ・リーパーが倒したデジモンのデータを学習してデジモンの性質を獲得します。 これによりデジモン化したデ・リーパーと、それをデジモンと誤認したデ・リーパーによる争いが発生。 新たにデジタルワールドの支配者となったデ・リーパーもまた衰退し、オーガモンに擬態した一群が残りました。 一方その頃、他のデジタルワールドに逃げ込んだアナザーイグドラシルはこそこそと隠れて過ごす状態に我慢できなくなっていました。 もしこちらのデジタルワールドのイグドラシルに見つかれば、どのような処遇を受けるか分からなかったからです。 最悪、力を奪われたり吸収されたりすることを恐れていた彼はある日、自分の元いたデジタルワールドでデ・リーパーが大きく数を減らしていることに気づきます。 同時に自身をこの世界のイグドラシルとして認識させるコードの開発に成功。 これを使ってイグドラシルになりすまし、ナイトモン軍団を誘導して自分の元いたデジタルワールドを襲撃します。 といってもデジタルワールドの支配者に返り咲くつもりはありませんでした。 彼は支配者の権利よりも管理者の責務から逃れる方を選びました。 「このデジタルワールドのリソースを使って、あっちのデジタルワールドであっちのイグドラシルのふりして楽しく遊んで過ごせばいいや。」 襲撃は成功し、残っていたオーガモンモドキのデ・リーパーは常時開放型デジタルゲートを通って忍者の里に逃亡。 そこで忍者軍団と遭遇戦になり、最終的に忍者側の里丸ごとの自爆でデ・リーパーも消滅。 忍者も逃亡した二人を除いて全滅しました。 アナザーイグドラシルはナイトモン軍団を生贄にして二つのデジタルワールドの融合を開始。 融合が終了すれば発生した余剰リソースで自身が大幅に強化される、はずでした。 しかし実際には『あちら側』のデジタルワールドに多数存在する常時開放型ゲートによって『あちら側』のリアルワールドも巻き込まれました。 引きずり込まれるように融合するリアルワールドの影響でアナザーイグドラシルの持っていた制御権が喪失。 さらに融合したリアルワールドの整合性を取るために『世界』の側が執った修正作業に余剰リソースが使われました。 何も得るものが無かったアナザーイグドラシルですが当然の報いです。 「でもまあこのまま隠れながらこっちのイグドラシルのフリをしてたらそのうち……」 その甘い目論見を脅かす存在が出てきます。デジタルワールドにいたためにリアルワールド融合の影響を受けなかった忍者カップル(当時)です。 こいつらが切っ掛けで俺の存在がバレたらヤベーじゃん!となったアナザーイグドラシルはリアルワールドにやって来た二人を襲撃。 手持ちのオーガモンモドキを多重融合させ頭が二つあるオーガモンモドキをけしかけますが撃破されます。 しかし力を使い果たし昏倒した彼らに記憶操作を施すことには成功。 リアルワールドで自身の尖兵として利用するためにとりあえず忍者の里に運び込んで普通の忍者として過ごさせようとしました。 「だって生体兵器の忍者が究極体のテイマーなんだよ!ぜってー使えるやつじゃん!」 忍者の里に辿り着いてみるとそこは建物の残骸と多くの忍者の腐乱死体が。 「うわっ臭っ!汚っ!これ処分しといてよ!」 二人と二体を運んだオーガモンモドキに死体を処理させ、そのまま彼らをそこに放置させました。 しかしながらアナザーイグドラシルの記憶操作技術が稚拙で、なおかつシナリオが破綻していたために記憶操作は不完全なものに。 結果忍者カップルはアナザーイグドラシルの尖兵とはならず、故郷を滅ぼしたオーガモンを探す復讐者となりました。 「なんでこうなるんだよ!俺の何が悪いんだよ!」主に性格と頭と根性ですね。 自身の記憶操作技術を完全なものにするために、彼はその技術を持つ者に接触します。 Dr.ポタラに記憶操作技術を教えた所、彼はそれを見事にレベルアップさせました。 更にアナザーイグドラシルは彼から教わった記憶消去技術を彼に施し、自身のことを忘れさせました。 もっともこの記憶消去は処置が不完全で後に思い出されてしまいます。 更にDr.ポタラはこの記憶転写技術を手土産にファイブエレメンツ社に入社、人事部長の地位を手に入れます。 そこで記憶操作技術は更に向上するのですが待てなかったアナザーイグドラシルはその事に気づいていません。 そして大した力も振るえないまま、アナザーイグドラシルはあちこち覗き見しながら、今日も『こちら側』のイグドラシルの振りして隠れ潜むのでした。