「さあ千束殿。この鉄壁の布陣崩せるものなら崩してみるがいい!」 「権現坂の場にはビッグベン-Kを要とした高守備力のモンスターが3体。対する千束さんの場に はユニオンモンスターのチューン・ナイトが1体だけ……これは厳しいわね」 「ここから連続でモンスターを特殊召喚出来たとしても並の攻撃力じゃ返り討ちに遭うだけだし、 逆転の目を狙うならサンボルみたいな全体除去がないとキツいよね〜……」 「千束さん……」 「おやおやお客さんたち。もしかして私がこのまま負けちゃう〜なんてお想いで?」 いやぁ厳しいだろう……などと周囲の常連客の声がまばらに聴こえてくるが、千束は明るい表情 のままでいた。 「よぉ〜し、ならばこの状況をひっくり返すエンタメをお見せしてあげましょう!私のターン……ド ロォオオオオッ!っし、きたきたぁ!逆転のカード!ミストデーモンをリリースなしで召喚!」 「おおっ、強そうなモンスター!」 「しかし攻撃力2400……破壊出来るとしたらベン-Kの隣にいるカブ-10だけかぁ」 「まぁまぁギャラリーの皆さん、お楽しみはこれからですよ。んじゃまずは墓地のスキル・サクセ サーを除外してミストデーモンの攻撃力を800ア〜ップ!」2400→3200 「一気に800も上がった!」 「でもまだビッグベン-Kの守備力3500には届かないよ〜」 「まだまだぁ!装備魔法ビッグバン・シュート を発動!ミストデーモンに装備して攻撃力400アッ プとさらに貫通効果をプラス!これで守備力を上回ったぶんだけダメージを与えられま〜す!」 3200→3600 「ミストデーモンの攻撃力がビッグベン-Kの守備力を上回ったわ!」 「ユニオンモンスターのチューン・ナイトをミストデーモンに装備!そして魔法カードダブルアタック を発動!手札のローガーディアンを捨ててミストデーモンはこのターン2回攻撃可能!」 「ぬぅ……だが、例えベン-Kと2体いるカブ-10の内一体がやられたとしてもまだ俺の場にモン スターは残る!」 「ちょいちょい権ちゃん。誰が攻撃を2回で終わらせるって言ったのさ?」 「何だと?」 「その答えを今から見せてあげるよ!バトルフェイズに突入!ミストデーモンでカブ-10ニ体を破 壊!そして速攻魔法発動!コンビネーション・アタック!」 「そ、速攻魔法だって!?」 「このカードはユニオンモンスターを装備したモンスターが戦闘を行ったバトルフェイズに発動し、 攻撃したモンスターは装備されているユニオンモンスターをフィールドに特殊召喚した後にこの ターンもう1度攻撃できる!」 「なっ、何いいいいっ!?」 「ミストデーモンでビッグベン-Kに攻撃!そして特殊召喚したチューン・ナイトでダイレクトアタッ ク!it's Show Time!」 「ぬおおおおおっ!?」 「これにてターンエンドでございます」 千束がそう宣言した直後、大きな歓声が湧き立つ。 この華麗な逆転劇を目の当たりにした遊矢達も興奮を隠せずにいた。 「す……すごい!すごいよ千束さん!あのピンチな場面を乗り越えるなんて!」 「どぉ〜よ遊矢くん!盛り上がったでしょ!?フィニッシュを決められなかったのは残念だけどそ れは次のターンで────」 「……あ〜!」 「ど、どうしたのよアオ?いきなり大声出して……」 「……ミストデーモンってリリースなしで召喚したらエンドフェイズに自壊して1000ダメージ受ける 効果があるんだよ」 「……え。ちょ、ちょっと待てよ。って事は今千束さんの残りライフは700だから……」 「ライフが0になってゲームオーバー……だね〜……」 「……あ、あああああっ!忘れてたああああっ!」700→0 歓声に溢れたエンタメデュエルは、思い掛けないことで呆気なく幕を閉じる。 シーン……と静まり返る店内。しかし─── 『……あっはっはっは!』 常連客の笑い声と拍手で再び活気が戻っていた。 「ぬぅ……この男権現坂、まだまだ精進が足りん!千束殿、また手合わせを頼む!」 「おーよ!いつでもかかってきんしゃい。今回は負けちゃったけど私も次はもっと進化したエンタメ を見せたげる!」 「応!俺の不動のデュエルも更に高みを征く事を約束する!」 「いや〜でも凄かったよ千束ちゃん!前のターンでチューン・ナイトを必死に守ってたのはあの為 だったんだね!」 「えへへ〜、流石米岡さん見る目あるぅ!」 「ミストデーモンの効果忘れてるのはダサかったけど〜」 「ちょちょっ、アオちゃ〜ん!?」 「お〜お〜、まーた盛り上がってる」 「ミズキさん」 「ホンットあのバカは勝敗関係なくデュエルを楽しむんだから……ま、アイツらしいっちゃらしいか」 「……オレも」 「ん?」 「オレも、あんな風に勝っても負けてもみんなが笑顔になれる様なデュエルをしたい」 「……出来るわよ。あのバカが近くにいるんだから」