依頼No.135『池を守って』 『先日歩きスマホをしていたら歩きタバコをしていた男とぶつかってしまいましたの。その男…ぶつかって来ておいて謝罪の一言も無いものだからつい腹を立ててしまい顔面に催涙スプレーをぶっかけたところ、何とその男……デジモンイレイザー(自称)でしたの。このままでは下手をするとイレイザー陣営と全面戦争になってしまう可能性すらある…ですが、戦いは私の理想とする幸せな暮らしから最もかけ離れた行い…願わくば戦いたくなどありません。そこで熱りが冷めるまで旅行にでも出掛けようと思います。どなたか体のいいスケープゴート…いえ、しばらく留守にするのでU池の管理をお任せできないでしょうか?特に鞍馬りんねさん!夜中なら誰も来ないだろうと高を括ってこっそり(自主規制)していた事を言いふらされたくなければ可哀想な私に救いの手を差し伸べて下さいませ。』 デジモンイレイザーを名乗る男と一悶着あった千本桜 冥梨栖は自身の住居である池の管理を依頼の請負人に押し付け…もとい任せて再び道後温泉を訪れていた。 「良い湯ですわ〜。本館は観光客でごった返しているし、椿の湯は地元住民の巣窟……やっぱり道後温泉を愉しむなら飛鳥乃湯泉が一番ですわ〜(※あくまで個人の感想です)」 湯船から上がった冥梨栖は濡れた体を拭いて脱衣所へ戻った。 脱衣所では客と従業員が何やら揉めている。 「誰も居ない筈の浴室でシャワーが勝手に点いたんです!本当です、信じて下さい!」 冥梨栖は聞き耳を立てながら考え込んだ。 「シャワーから独りでにお湯が出るなんて、妙な事もあるものですわね。……もしやデジモンイレイザーの仕業!?もうここを嗅ぎつけたと言うんですの!?」 更衣を済ませ外へ出た冥梨栖は一抹の不安を抱きながらも、風呂上がりにみかんジェラートを食べるという重大な使命がある為、捨て置く事にした。 みかんジェラートに舌鼓を打った後、冥梨栖はとある場所へ向かったが… 「パチンコ屋が知らない間にタオル屋さんになってますの!?せっかくパチンコ初体験と洒落込もうかと思っていましたのに………これも全てデジモンイレイザーのせいですわ…」 パチンコ屋が無くなった原因はイレイザーにあると勝手に決め付け、怒りの感情を滾らせる冥梨栖。 その後、冥梨栖は気分転換に道後サイダーを飲む事にした。会計を済ませ店員からサイダーを受け取ろうとしたその時、手を滑らせて瓶を落としてしまった。瓶が割れサイダーが床に溢れる。 「申し訳ございません!大丈夫ですか?お客様」 「えぇ、私なら大丈夫ですのでお気になさらず…………………おのれ、イレイザー……」 冥梨栖の中で怒りの炎が沸々と燃え上がる。 「…ソーサリモン!ソーサリモンはいらっしゃいますか?」 イレイザーから身を隠す為の旅行だった筈が逆にその本拠地へ乗り込む事を決意。デジタルゲートを開き、ソーサリモンの案内のもとイレイザーベースへと向かった。 イレイザーベースには多数の配下達が待ち構えていたが、今の彼女の前にそれは意味を為さなかった。 怒りの臨界点を越えた冥梨栖から放たれる呪いのオーラは当てられた者達を次々とギュウキモンに変え、そのギュウキモンの毒牙にかかった者達もまた次々とギュウキモンへと変異して行く。 襲い来る配下達を退け、イレイザーベースの奥へ進んで行くと広い部屋に出た。部屋の壁という壁にモニターが敷き詰められており、中央に取り付けられた椅子には一人の男が座っていた。 ボサボサ頭に大きめのグラサン、クソダサスーツにマント……冥梨栖が以前遭遇した歩きタバコの男とは別人であったが、その男がデジモンイレイザーの一人と見て間違いないだろう。 突然の来客にもイレイザーは顔色一つ変えず、冥梨栖を歓迎するかの様な物言いで話し始めた。 「遠路はるばるよく来たな。君の噂はよく聞いている。日竜将軍を葬ったというクティーラモ…「仏の顔も三度撫ずれば腹を立つ…という言葉がございますわ」 イレイザーの言葉を途中で遮るかの様に冥梨栖が言い放つ。話の腰を折られて若干の困惑が見られるも、気を取り直して話を続けるデジモンイレイザー。 「……何の話をしているかは知らんが、僕の本拠地に単身乗り込んで来るとは大した度胸だ。気に入った…君、僕の配下にならないか?何なら君が従えているデジモン達共々我が軍に迎え入れてやっても良い」 「二度までなら私も目を瞑ります……ですが三度目は無くってよ…デジモンイレイザー」 会話が成り立たない事にイレイザーは次第に苛立ちを覚え始める。 「だから何の話だ!?さっきからお前は一体何を言っていr!?」 「お黙りなさい!!」 突然、冥梨栖が姿を消したかと思うとイレイザーのすぐ目の前に現れ、彼の後頭部を両手で掴みその顔面に膝蹴りを入れた。 冥梨栖は間髪を入れずに蹌踉めいたイレイザーのキン◯マを蹴り上げ、更に追い討ちとばかりに蹲ったイレイザーの側頭部を力任せに蹴り飛ばす。 そして仰向けに倒れたデジモンイレイザーに馬乗りになったかと思うと胸ぐらを掴んで彼の頭を何度も床に打ち付けた。 _______________________________________ その頃、イレイザーベース入口付近で置き去りを食らってしまったソーサリモンはイレイザーの配下デジモン達からひたすら逃げ回っていた。 「俺は何もしちゃいない!ただ冥梨栖嬢がイレイザーベースに行きたいって言うから招き入れただけなんだ!」 命乞いにもならない命乞いを叫びながら、それでも飛んで来る攻撃を確実に躱し縦横無尽に部屋中を駆け回る。 その時、どこからともなく押し寄せて来た洪水が追手のデジモン共々ソーサリモンを飲み込んだ。鉄砲水によって流され次々と壁へ叩きつけられるイレイザー配下のデジモン達。ソーサリモンは近くに居たゲソモンをクッションにする事で何とか難を逃れる事が出来た。 「こんな奴一人相手に何を手こずっているわけ?今日付けで日竜将軍になったこのアナザーラーナモン様がわざわざ出張るほどの事でもないでしょ……ほんと不甲斐ない!」 洪水の出所と思われる壁に空いた大きな穴からアナザーラーナモンと名乗るデジモンがメタルシードラモンに乗って現れた。 その気配を察知したソーサリモンが飛び起きる。アナザーラーナモンの必殺技を諸に食らった筈なのだが何故かとてもピンピンしている様子だ。 「俺のデカ尻レーダーが強く反応している!!おちおち寝てなんかいられないっ!!」 「あたしのお尻はデカくない!!メタルシードラモン!やってしまいなさい!」 メタルシードラモンの必殺技『アルティメットストリーム』がソーサリモン目掛けて放たれた。 勢い良く飛び起きたソーサリモンではあったがやはり先程のダメージは大きかったらしく、まともに動く事すらできないでいる。 万事休す。そう思われたその時、アルティメットストリームが真っ二つに裂け、ソーサリモンに向けて放たれた攻撃は空振りに終わった。 「何!?一体何が起こったの!?」 アルティメットストリームにより巻き起こった硝煙が霧散し視界が晴れて来ると、そこには非常に小柄な一人の少女の姿があった。 「誰なのよ、あんた!?いつの間に…」 「そうか……俺のデカ尻レーダーがビンビンに来ていた原因はあんただったのか!」 突然の来訪者を目の前にアナザーラーナモンが狼狽え、ソーサリモンが歓喜する。翡翠色をした右目から禍々しいオーラが漏れ出ているその少女は気品を感じさせる様な物言いで答えた。 「千年桜 織姫、と申します。どうぞ…終演までの短いお時間ではありますが…お付き合いのほど、宜しくお願い申し上げます…」 「人間のガキに何が出来るって言うのかしら?望み通り速攻で終わらせてやるわよ!」 アナザーラーナモンはダークネスローダーを手元に出現させると声高らかに叫んだ。 「メタルシードラモン、デジクロス!!」 従えていた配下を取り込み、右腕にはメタルシードラモンの頭部の形をしたガントレットが、左腕にはメタルシードラモンの尻尾を思わせる形状の鞭が装備される。 「ご準備の方が出来た様ですね。では……始めましょうか。客席には興奮と感動を……貴女には、死を…」 「死ぬのはあんただよ!アルティメットストリーム!!」 問答無用とばかりに右腕からアルティメットストリームをぶっ放すアナザーラーナモン。だが驚く事に織姫と名乗る少女は回し蹴りでそれを跳ね除けてしまう。 跳ね返された攻撃はアナザーラーナモンの右肩を掠め、イレイザーベースの壁に直撃。壁には大きな風穴が空く。 「ウソ…でしょ!?」 渾身の必殺技を蹴り返されるという予想だにしなかった事態にアナザーラーナモンは思わず慄いてしまう。そしてそんなアナザーラーナモンの隙を織姫は決して見逃さず、その土手っ腹に蹴りを叩き込む。 しかしアナザーラーナモンも七大将軍に名を連ねる存在。織姫の追撃にも瞬時に対応し、蹴りを放った彼女の右脚にメタルシードラモンの尻尾を巻き付けてその勢いを殺した。 が、次の瞬間、織姫の右脚は織姫の身体から離れてロケットパンチならぬロケットキックの如く発射され、アナザーラーナモンの腹部に直撃した。 想定外のダメージに顔を歪ませながらも事態を把握するため目の前に居る敵へと視線を向けるアナザーラーナモン。 見ると射出によって失われた筈の織姫の右脚からは別の何かの脚が生えている。膝と足背に大きな目玉があしらわれた不気味な黒い脚…。 アナザーラーナモンはそのまるで生きているかの様に蠢く目玉と目が合い、視線を奪われてしまう。再び与えてしまった大きな隙。織姫がそれを見逃す筈も無かった。アナザーラーナモンの顔面目掛けて右ストレートを放つと同時に織姫の右腕は竜の頭蓋骨を思わせる手甲に変化。続けざまに左脚を右脚と同様の形状に変化させながらの回し蹴りをお見舞いすると、後退るアナザーラーナモンへ更なる追撃として手甲から伸ばした真っ赤な刀身の妖刀『ブルートエボルツィオン』を振り下ろしメタルシードラモンの頭部をアナザーラーナモンの右腕ごと切断、一連の攻撃を終えたところで織姫の身体は闇の闘士ダスクモンへと完全に変化した。 苦悶の表情を浮かべながらもアナザーラーナモンはすぐさま左腕の鞭で反撃に転ずるが、これも呆気なく妖刀によってバラバラに切り裂かれてしまう。 武器にして配下であったメタルシードラモンを失い、ならばと言わんばかりに一度距離を取ってダークネスローダーを掲げる。 「ダスクモン、強制デジクロス!!」 アナザーラーナモンが叫んだと同時にダスクモンは織姫の姿に戻ると、一本足であるにも関わらず瞬時に距離を詰め手刀による横薙ぎでダークネスローダーを叩き割ってしまった。ダスクモンという対象を失った事で強制デジクロスによる敵の無力化という目論見が不発に終わったばかりかダークネスローダーまでも失い、もう後が無いアナザーラーナモン。 織姫は再びダスクモンへと姿を変え、アナザーラーナモンに視線を向ける。 「そろそろハイライトと参りたいのですが…あなたはどうなさいますか…?二度とイレイザーに関わらないか…この場で私に倒されるか…」 「バカ言わないで!せっかく掴んだネオデスジェネラルの地位、手放せるわけないでしょ!?」 アナザーラーナモンにとって本命の敵はベース内に侵入して来た冥梨栖だ。こんなところで切り札を切りたくなどはなかったがもはや出し惜しみなどしている場合ではない。アナザーラーナモンの頭上で暗雲が垂れ込め、次第に風が吹き荒れ始める。 「レインストリーム弐式!!」 豪雨のみを放つ通常のラーナモンのものとは異なり、ここへ更に氷柱と突風、そして雷撃とを螺旋状に織り混ぜた強化レインストリームがダスクモン目掛けて放たれた。 強化レインストリームは瞬く間にダスクモンを飲み込んでしまう。 「どうよ!?あたしのレインストリーム弐式の味は!なんてったってあのドラヤン先輩からお墨付きを貰った凄い技なんだから!」 奥の手とも言える大技が決まり勝ち誇るアナザーラーナモン。ところがダスクモンを飲み込んでいた暴風雨は次第に縮小して行き、無傷のダスクモンが現れる。『エアオーベルング』。敵の力を吸収し、その力を我が物に変えてしまうダスクモンの必殺技だ。 「私の与り知らぬ者の名を出されても何がどう凄いのかわかりかねますが、まぁ良いでしょう……ここからがハイライトです」 万策が尽き、打つ手の無くなったアナザーラーナモンにダスクモンのとどめの一撃が容赦なく襲う。 レインストリーム弐式を纏った右腕の妖刀で一閃、アナザーラーナモンの背後に着地する。 アナザーラーナモンが真後に居るダスクモンの方へと振り返ろうとしたその瞬間、首が胴体から離れドサリと地面に落ちた。 頭部を失った体も力無く崩れ落ち消滅。スピリットモドキだけがその場に残された。 「………ふぃ〜」 進化を解除してひと息つく織姫。そこへ… 「あー、やっぱりここに居た!」 ツナギを来た女性、奈良平 鎮莉を乗せたタンクドラモンがイレイザーベースの壁をぶち破って現れた。 「奈良平さん……」 織姫が気まずそうに鎮莉から視線を逸らす。 「止めはしませんが行くなら一緒にって言ったじゃないですか〜。なんで一人で行っちゃうんですか〜」 タンクドラモンから降りた鎮莉が織姫に歩み寄った。 「いえ……どうしようもなく窮地に陥った際にお呼びしようかと思っておりましたので…」 「今がそのどうしようもなく窮地に陥った時ってわけですね。さ、ゲートが閉じちゃう前に帰りますよ〜」 そう言って鎮莉は右手で織姫をお米様抱っこする様に抱え上げ、左手で転がっていた義足を拾い上げた。 「あの……奈良平さん、一人で歩けますので降ろしていただきたいのですが…」 「片足だけで何言ってるんですか〜」 鎮莉は織姫を抱えたままタンクドラモンに跳び乗り、発進させる。 「それじゃ、行きますよ!」 「おっしゃあ!リアルワールドまで全速前進だっペ!」 二人を乗せたタンクドラモンは入って来た場所とは別の壁をぶち破ってイレイザーベースを後にした。 その場で一人残されたソーサリモンはと言うと… 「ケツデカ女のスピリット……ゲットだぜ」 乱雑に転がされていたスピリットモドキを拾い、不敵な笑みを浮かべていた。 _______________________________________ デジモンイレイザーは何度も頭を強打し、意識が朦朧としていた。このままでは本当に死んでしまう。 デジモンイレイザーともあろう男が意味不明な理由でブチ切れた幽霊女に嫐り殺されたとあっては笑い種だ。 「やってしまえ!アルカディモン!!!」 絶体絶命のイレイザーは自身のパートナーと思しきデジモンの名を声高に叫ぶ。 次の瞬間、冥梨栖は何かを感じ取り咄嗟にイレイザーから距離を取った。だが彼女が気付いた時にはもう遅かった。イレイザーによって呼び寄せられたデジモンの奇襲により冥梨栖は跡形も無く消滅してしまう。 フラフラと立ち上がるデジモンイレイザーの背後には冥梨栖を葬り去ったアルカディモン超究極体が不気味なその姿を鎮座させていた。 「ざまあないな。僕に歯向かうからこういう事になる!」 「なるほど…あなたに歯向かえば、こうして新しい身体が手に入りますのね」 イレイザーのすぐ後ろで冥梨栖の声がした。 声のした方へイレイザーが恐る恐る振り返ると、背後で起きていた光景に彼は驚愕した。いつの間にかアルカディモンの腹部にクティーラモンの顔を思わせる巨大な人面瘡が出来ており、イレイザーを見下ろしていたのだ。 直後、アルカディモンの身体にクティーラモンの体色と同じ色の腫瘍が出来たかと思うとそれは次第に数を増やして行き、瞬く間にアルカディモンは全身が腫瘍に覆い尽くされてしまった。 心臓の様に脈打ちながら怪しい光を放つ腫瘍の塊。 イレイザーが固唾を呑みながら見つめていると腫瘍は破裂。中から気色の悪い液体に塗れたギュウキモンが出現し、けたたましい雄叫びを上げた。 ギュウキモンが不気味な顔をイレイザーに向けたその刹那、ギュウキモンの身体から進化の光が放たれた。 やがて光が収まり、ギュウキモンはクティーラモンへと進化。だがその姿はこれまでのクティーラモンとは若干の差異が見られた。 アルカディモン超究極体を取り込み糧とした事で到達した新たなる形態、クティーラモン超究極体誕生の瞬間である。 さしものデジモンイレイザーもこれはヤバいと判断したのか、説得を試みる事にした。 「わ、わかった。お前の望む物を何でもくれてやろう。デジモンイレイザーの座を譲ってやっても良い」 「………ゴッドマトリックス」 クティーラモンが呟いた瞬間、イレイザーの四肢が消し飛んだ。 「なるほど…こうやって使いますのね」 達磨状態にされたイレイザーが声にならない声を上げながらのたうち回る。 「た…すけ…てくれ…」 「無理ですわね。あなたの身体は既に分解を始めています。もう、手の施しようが御座いませんわ」 「……」 「それに…あなたに対して投げかけられたその言葉に、これまで一度でも耳を貸した事があなたにありまして?」 イレイザーの命乞いも容赦なく切り捨てるクティーラモン。 「貴、様……こんな事して…ただで、済むと………思う…なよ………デジ、モ…ンイレイザーは僕一人だけ、じゃない……いつか、他のイレイザーが!必ず貴様を…………」 遅効性のゴッドマトリックスによりデジモンイレイザーは完全に消滅してしまった。 「人を呪わば穴二つ……よく覚えておきなさいな、デジモンイレイザー。」 戦いを終え、冥梨栖の姿に戻ったクティーラモンはデジタルゲートを開き帰路に付く。 「依頼を受けてくださった方々へのお土産、どうしましょう… 竜馬さんには私お手製の宇和島鯛めしと鍋焼きうどんを食べていただくので材料を買って帰るとして…… 蓮也さん…この方は確か新婚さんでしたわね。なのでペアルックのTシャツを…… 楽音さんはNEWイレイザーになる…確かそう仰っていましたわ。『デジモンイレイザーの座を譲ってやっても良い』というイレイザーの言質も取れましたし、あの方には一つ空いたデジモンイレイザーの席をお譲りしましょう… あのおじいさんは……お風呂で遊べるイルカの玩具で良いかしら? 祭後さん……この方は難しいですわね…無難に温泉の素の詰め合わせ?…とか?」 去り際にイレイザーベースを跡形も無く消し去った冥梨栖は旅行の続きを愉しむべく、道後へと繋がるゲートの中へ消えた。 _______________________________________ 後日… U池の畔を散歩しているプチマモンとドラクモンの姿があった。 「デジモンイレイザー……アルカディモンをけしかけてこの池ごと私達を消し去るつもりだったらしいよ」 身震いしながら話すプチマモンに対して相槌を打つドラクモン。 「あの時に続いて、俺達はまたおひいさまに救われたって事なんだな」 「お嬢が救ったのって、自分自身だったんじゃないかな?」 「…と言うと?」 「お嬢は日常を脅かそうとする奴を許さない……きっとお嬢は自分の心の中の平穏を守りたかったんだよ」 「それじゃあ、もし俺達がおひいさまの日常の妨げになる様な真似をすれば……」 ドラクモンの問いかけにプチマモンは静かに振り返り、答える。 「……お嬢の敵には、なりたくないよね。」 「おーっほっほっほ!」 雲一つない澄んだ青空の下、水面が静かに揺れるU池に千本桜 冥梨栖の笑い声が高らかに響き渡った。              -終-