デジモンイレイザーを名乗る男と一悶着あった千本桜 冥梨栖は自身の住居である池の管理を依頼の請負人に押し付け…もとい任せて再び道後温泉を訪れていた。 「良い湯ですわ〜。本館は観光客でごった返しているし、椿の湯は地元住民の巣窟……やっぱり道後温泉を愉しむなら飛鳥乃湯泉が一番ですわ〜(※あくまで個人の感想です)」 湯船から上がった冥梨栖は濡れた体を拭いて脱衣所へ戻った。 脱衣所では客と従業員が何やら揉めている。 「誰も居ない筈の浴室でシャワーが勝手に点いたんです!本当です、信じて下さい!」 冥梨栖は聞き耳を立てながら考え込んだ。 「シャワーから独りでにお湯が出るなんて、妙な事もあるものですわね。……もしやデジモンイレイザーの仕業!?もうここを嗅ぎつけたと言うんですの!?」 更衣を済ませ外へ出た冥梨栖は一抹の不安を抱きながらも、風呂上がりにみかんジェラートを食べるという重大な使命がある為、捨て置く事にした。 みかんジェラートに舌鼓を打った後、冥梨栖はとある場所へ向かったが… 「パチンコ屋が知らない間にタオル屋さんになってますの!?せっかくパチンコ初体験と洒落込もうかと思っていましたのに………これも全てデジモンイレイザーのせいですわ…」 パチンコ屋が無くなった原因はイレイザーにあると勝手に決め付け、怒りの感情を滾らせる冥梨栖。 その後、冥梨栖は気分転換に道後サイダーを飲む事にした。会計を済ませ店員からサイダーを受け取ろうとしたその時、手を滑らせて瓶を落としてしまった。瓶が割れサイダーが床に溢れる。 「申し訳ございません!大丈夫ですか?お客様」 「えぇ、私なら大丈夫ですのでお気になさらず…………………おのれ、イレイザー……」 冥梨栖の中で怒りの炎が沸々と燃え上がる。 「…ソーサリモン!ソーサリモンはいらっしゃいますか?」 イレイザーから身を隠す為の旅行だった筈が逆にその本拠地へ乗り込む事を決意。デジタルゲートを開き、ソーサリモンの案内のもとイレイザーベースへと向かった。 イレイザーベースには多数の配下達が待ち構えていたが、今の彼女の前にそれは意味を為さなかった。 怒りの臨界点を越えた冥梨栖から放たれる呪いのオーラは当てられた者達を次々とギュウキモンに変え、そのギュウキモンの毒牙にかかった者達もまた次々とギュウキモンへと変異して行く。 襲い来る配下達を退け、イレイザーベースの奥へ進んで行くと広い部屋に出た。部屋の壁という壁にモニターが敷き詰められており、中央に取り付けられた椅子には一人の男が座っていた。 ボサボサ頭に大きめのグラサン、クソダサスーツにマント……冥梨栖が以前遭遇した歩きタバコの男とは別人であったが、その男がデジモンイレイザーの一人と見て間違いないだろう。 突然の来客にもイレイザーは顔色一つ変えず、冥梨栖を歓迎するかの様な物言いで話し始めた。 「遠路はるばるよく来たな。君の噂はよく聞いている。日竜将軍を葬ったというクティーラモ…「仏の顔も三度撫ずれば腹を立つ…という言葉がございますわ」 イレイザーの言葉を途中で遮るかの様に冥梨栖が言い放つ。話の腰を折られて若干の困惑が見られるも、気を取り直して話を続けるデジモンイレイザー。 「……何の話をしているかは知らんが、僕の本拠地に単身乗り込んで来るとは大した度胸だ。気に入った…君、僕の配下にならないか?何なら君が従えているデジモン達共々我が軍に迎え入れてやっても良い」 「二度までなら私も目を瞑ります……ですが三度目は無くってよ…デジモンイレイザー」 会話が成り立たない事にイレイザーは次第に苛立ちを覚え始める。 「だから何の話だ!?さっきからお前は一体何を言っていr!?」 「お黙りなさい!!」 突然、冥梨栖が姿を消したかと思うとイレイザーのすぐ目の前に現れ、彼の後頭部を両手で掴みその顔面に膝蹴りを入れた。 冥梨栖は間髪を入れずに蹌踉めいたイレイザーのキン◯マを蹴り上げ、更に追い討ちとばかりに蹲ったイレイザーの側頭部を力任せに蹴り飛ばす。 そして仰向けに倒れたデジモンイレイザーに馬乗りになったかと思うと胸ぐらを掴んで彼の頭を何度も床に打ち付けた。 「やってしまえ!アルカディモン!!!」 絶体絶命のイレイザーは自身のパートナーと思しきデジモンの名を声高に叫ぶ。 次の瞬間、冥梨栖は何かを感じ取り咄嗟にイレイザーから距離を取った。だが彼女が気付いた時にはもう遅かった。イレイザーによって呼び寄せられたデジモンの奇襲により冥梨栖は跡形も無く消滅してしまう。 フラフラと立ち上がるデジモンイレイザーの背後には冥梨栖を葬り去ったアルカディモン超究極体が不気味なその姿を鎮座させていた。 「ざまあないな。僕に歯向かうからこういう事になる!」 「なるほど…あなたに歯向かえば、こうして新しい身体が手に入りますのね」 イレイザーのすぐ後ろで冥梨栖の声がした。 声のした方へイレイザーが恐る恐る振り返ると、背後で起きていた光景に彼は驚愕した。いつの間にかアルカディモンの腹部にクティーラモンの顔を思わせる巨大な人面瘡が出来ており、イレイザーを見下ろしていたのだ。 直後、アルカディモンの身体にクティーラモンの体色と同じ色の腫瘍が出来たかと思うとそれは次第に数を増やして行き、瞬く間にアルカディモンは全身が腫瘍に覆い尽くされてしまった。 心臓の様に脈打ちながら怪しい光を放つ腫瘍の塊。 イレイザーが固唾を呑みながら見つめていると腫瘍は破裂。中から気色の悪い液体に塗れたギュウキモンが出現し、けたたましい雄叫びを上げた。 ギュウキモンが不気味な顔をイレイザーに向けたその刹那、ギュウキモンの身体から進化の光が放たれた。 やがて光が収まり、ギュウキモンはクティーラモンへと進化。だがその姿はこれまでのクティーラモンとは若干の差異が見られた。 アルカディモン超究極体を取り込み糧とした事で到達した新たなる形態、クティーラモン超究極体誕生の瞬間である。 さしものデジモンイレイザーもこれはヤバいと判断したのか、説得を試みる事にした。 「わ、わかった。お前の望む物を何でもくれてやろう。デジモンイレイザーの座を譲ってやっても良い」 「………ゴッドマトリックス」 クティーラモンが呟いた瞬間、イレイザーの四肢が消し飛んだ。 「なるほど…こうやって使いますのね」 達磨状態にされたイレイザーが声にならない声を上げながらのたうち回る。 「た…すけ…てくれ…」 「無理ですわね。あなたの身体は既に分解を始めています。もう、手の施しようが御座いませんわ」 「……」 「それに…あなたに対して投げかけられたその言葉に、これまで一度でも耳を貸した事があなたにありまして?」 イレイザーの命乞いも容赦なく切り捨てるクティーラモン。 「貴、様……こんな事して…ただで、済むと………思う…なよ………デジ、モ…ンイレイザーは僕一人だけ、じゃない……いつか、他のイレイザーが!必ず貴様を…………」 遅効性のゴッドマトリックスによりデジモンイレイザーは完全に消滅してしまった。 「人を呪わば穴二つ……よく覚えておきなさいな、デジモンイレイザー。」 戦いを終え、冥梨栖の姿に戻ったクティーラモンはデジタルゲートを開き帰路に付く。 「依頼を受けてくださった方々へのお土産、どうしましょう… 竜馬さんには私お手製の宇和島鯛めしと鍋焼きうどんを食べていただくので材料を買って帰るとして…… 蓮也さん…この方は確か新婚さんでしたわね。なのでペアルックのTシャツを…… 楽音さんはNEWイレイザーになる…確かそう仰っていましたわ。『デジモンイレイザーの座を譲ってやっても良い』というイレイザーの言質も取れましたし、あの方には一つ空いたデジモンイレイザーの席をお譲りしましょう… あのおじいさんは……お風呂で遊べるイルカの玩具で良いかしら? 祭後さん……この方は難しいですわね…無難に温泉の素の詰め合わせ?…とか?」 去り際にイレイザーベースを跡形も無く消し去った冥梨栖は旅行の続きを愉しむべく、道後へと繋がるゲートの中へ消えた。