sceneEX1 末堂有無は斯く語りき 「ん?わざわざボクを訪ねてくるなんて何の用?」 「兄ちゃんのこと…?ああ、別にいいよー」 「うん?いや、キミが兄ちゃんの敵でも味方でもそんな事どうでもいいよ。どっちだろうとボクの利にはなるからね」 「さて、それじゃ兄ちゃんがどんなメンタルか解説しようか」 「兄ちゃんはお父さんお母さんの離婚の原因は自分だと思ってるけど…落ち込んでる訳じゃないんだよ。陰を落としてるって言うのとも違って…」 「自分に対してずっと怒り続けてるんだ。原因なこともそうだけど、離婚までのあの時間で何もしなかった事もね」 「ボクはそう思ってないよ?あの時の兄ちゃんに何が出来たのって話だし、兄ちゃんにもそれ言ったしね」 「でもそれじゃ納得できないんだってさ。夜中に「ごめんなさい」とか「俺がもっと…!」とかうなされて起きるくらいには」 「離婚した当初はそれどころじゃなかったんだけどさ。ボク達に心配かけないように一人でどっか行って、帰ってきたら部屋に籠もってね。あの頃が一番酷かったんじゃないかなあ」 「でもある日、汗だくで帰ってきてそのまま部屋に籠もって一晩経ったら暗さが消えてて、驚いたよ」 「ボクはあのまま行けば爆発してメンタル反転すると思ったからね。残念…いやまあそれはいいよね」 「観察して気がついたけど、兄ちゃんは別に自分への怒りが消えたわけでも減ったわけでもないんだよ。寝てる時は相変わらずだしね」 「兄ちゃんは、自分自身に対する事をどうでもいい事として扱ってるんだ。感情に蓋をしてるならいずれ爆発したのにもう…」 「そうだね…例えて言うなら骨折して痛みで動けなかったのが痛みを大したことないと無理矢理思い込んで歩いてる…そんな感じにね」 「そうしてる間に骨が変に固まっちゃった上に痛みに対して慣れた…感覚が麻痺したって言うべきかな?それが今の兄ちゃんなんだよ」 「一回ツーくんのバッドメッセージ当てたことあるんだけど、どうなったと思う?」 「ウチのバッドメッセージが効かなかったのー!なんでー!」 「ありゃ、ツーくんが答え言っちゃった。まぁつまり、そう言うこと」 「ただ、そうやって自分へ向ける目を無くした分、他人のことがよく見えるようになっててね。当たり前だよね、本来自分に向ける分も他人に向けてるんだもん」 「でもね、人が出せる感情には限界があってね。限界値を10とした時、兄ちゃんは自分への怒りに9使ってるんだ」 「それを踏まえると兄ちゃんが他人に向けられる感情は10のうち1。だから激しい感情が起きないわけ」 「結果できあがったのが客観的に相手を判断して少しでも感情が動いたらそのまま突っ込んじゃえるヤバい奴」 「元々兄ちゃんは頭より先に身体が動くタイプだったんだけど…昔の冒険だと頭脳担当が居たからそれで良かったんだって」 「でも他人を見るようになると問題はただ突っ込むだけで済まないような複雑さだし自分は何も出来ないな…ってそれで勉強やらするようになったのは良い面なのかな?」 「兄ちゃんの本質は変わってなくて、壁が目の前にあったらできるとかできないとか考えずに壊れるまでぶつかり続けるタイプなんだよ。その時に発生する苦労とか、あるいは痛みに愚痴る事はあっても止めないの。少なくとも今まで一度も」 「根が負けず嫌いで意地っ張り。さらに言うとやられたらやりかえすまで忘れない、これは恩も仇もだね。それを今は頭を使ってやるようになった、ただそれだけ」 「良いことなのかな?悪いことなのかな?それに足してちょっと人より諦めの悪さが悪いものだから、命かけるくらいまでなら当たり前みたいにできちゃうんだよね…」 「それが元々で、さらに自分の事どうでもいいって扱いしてるからそれに拍車がかかって…。でもそれで何があっても俺が選んだ結果でそうなるんなら仕方ない、んだってお兄ちゃんは言ってた」 「だからボクは兄ちゃんを闇墜ちさせたいんだ。きっとすごく墜ちるし、でも兄ちゃんの諦めの悪さならきっとそれも越えるはずだもん」 「ボクから言えるのはこのくらいかな?」 「それでキミはどうする?何をするも何をしないも、キミに任せるよ」