吾輩はスプシモンである、今はアリーナのフードコートでポテト頬張るポテトスプシモンである。 なぜ吾輩がポテトスプシモンとなったか、それは今日の観察対象と決めた者達のせいである。 最近アリーナにやって来た二組でかたやランカーとして稼ぐ先原マイトとツカイモン、かたや医務室の雇われな包善平とオーガモン。 ヤンキーで傭兵で柄悪くて正直怖い近寄りたくない先原マイト、デジ波羅蜜に属し各地で分け隔てなく治療を行う温厚な包善平。 奇妙な組み合わせに知的好奇心を刺激された吾輩はより詳細に観察しようと接近し、接近しすぎて二組が陣取るテーブルについてしまったのだ。 吾輩には後ろめたい事など一切ないが部外者が無言で椅子に座って許可無く撮影しているという状況。 温厚な包善平はともかく人間の凶暴種とされるヤンキーの先原マイトには何をされるか分かったものではなく、注がれる視線に全身から汗が噴き出したものである。 それでも逃げずに観察を続ける吾輩の勇敢さに感じ入ってか包善平が動いた。 彼が自分のポテトとシェイクを分け歓迎してくれた事で吾輩はそのままテーブルにつくことを許された、先原マイトは何もくれなかったケチ。 「それで先原は今何してるんだ、こっちでもバイト?」 「バイトもするけど傭兵…一緒か?色んなとこでドンパチやっとる、幸いうちの相方ちゃんと面倒見てやりゃ強いんでな」 「強いんでな!」 褒められたツカイモンは腕組みして自慢気である、食べていたスパゲティのソースがちょっとほっぺについてるせいですごくバカっぽい。 どうやら2人はデジタルワールドに来る以前からの知り合いらしい。 正反対の人種に見えるがどうしてこんなにも親しげに近況を報告しあう仲になったのだろうか、興味は尽きないがポテトは尽きた。 吾輩はスプシモンである、今はアリーナのフードコートでシェイク味わうシェイクスプシモンである。 包善平達の会話は続く、どうやら2人は近い時期にデジタルワールドにやって来たらしいが何故今まで出会わなかったのかと包善平が疑問を投げた。 「俺達も色んな所回って傭兵の類ともわりと顔合わせてるんだけど不思議だな」 「そりゃ辻医者の世話になるようなヘマ踏まねえからな、勝つより生き残る方に重点置いてるし」 「重点だしね!何より強いからねボク達!すっごく!強いからね!」 ツカイモンのドヤ顔とパートナーの言葉を繰り返すのがやかましい、記録しなくていいかなこれ。 傭兵と辻医者で行動範囲は被っているがタイミングが合わぬが故のすれ違い。 しかし同時期にデジタルワールドの同じ大陸にやって来た人間同士、生活必需品等を手にする為に寄る所の選択肢は少なくどこかで出会う確率は高いはず。 吾輩と同じ疑問を彼等も抱いていたようで更に質問が飛ぶ。 「戦場より生活拠点で顔合わせなかったのが変な感じするぜ俺様は、実際こうして会ったのも大手拠点のアリーナだしオマエらどんな旅の仕方してたよ」 「あー…その辺はな…、あんまり長居しねえし顔隠す事も多くてな…ここはアウトロー多めだから気にせずいんだけど」 友人のパートナーからの直球な質問に先原マイトはそれまでとは変わって妙に口籠っている。 その変化に記録すべき大事な何かを感じ取った吾輩は端末を構えシェイクスプシモンからスプシモンへと戻る、シェイク飲み切ったし。 「ボクらね…ワケアリのワルなんだよ、追われてるから闇に隠れて旅するんだ」 したり顔のツカイモンの言葉に包善平とオーガモンは首を傾げ先原マイトはそっぽを向いている。 「ん…ん?」 あまりすべきでないがどういう事か気になり思わず先を促してしまった、吾輩発声は得意ではない。 自称ワルはそんな周囲の反応を見てはニヤニヤしている、うざいな早く言え。 「ボク!はじまりの街からデジヴァイスを盗んじゃいました!」 「盗んだ?」 「デカい声で言うんじゃねぇって」 スポットライトを浴びている気分なのか、パートナーが持っていたデジヴァイスを誇らしげに掲げツカイモンは自らの悪行を告白した。 確かにデジヴァイス盗難とはまさしく犯罪行為でありスプシにもその旨は記載されていた、だがこのコンビを追っている者がいるなど聞いたことがない。 「デジヴァイス…ICだっけそれ?はじまりの街でツカイモンであれだと思うかオーガモン」 「あれだろ他に聞いたことねえよ」 「なになに!?やっぱりボクの伝説広まってた!?どんなんなの聞かせて!!」 包善平とオーガモンには心当たりがあったらしい、自分の罪が知られているのがそんなに嬉しいのか身を乗り出す盗人に2人は困ったものを見る顔で真実を語りだした。 「お前な…盗んでねえんだよ」 「……へ?」 「それは最初から君達の為に用意されてたんだ、正式に渡されるより前に君が持って行ってしまったけど…盗んだ事にはなってない」 「いや…いやいやいや!?ボク盗んだよ!?見張りすり抜けて部屋に入って盗って窓から逃げたし!」 「見張りはお前が持ち主だからスルーしただけなんだよ、はじまりの街で聞かされたわ元気有り余ってるツカイモンがパートナー来る前にデジヴァイス持って飛び出したから見つけたら教えてくれってな」 衝撃の事実である、んなこったろうと思ったわ、とうんざりした顔で頬杖付いている先原マイトには大体の事が分かっていたようだが。 「お前に出し抜かれて貴重品持ってかれる監視とかいるわけねぇからな…」 「いやだってボク盗み盗ん」 「アリーナで名前売っても誰も取り返しに来ねえのが証拠だろうが」 自らの無実を認めようとしないパートナーにヤンキーがトドメを刺した、哀れな自称盗人はあまりのショックに真っ白になり力無くうなだれているウケる。 吾輩はスプシモンである、今はアリーナのフードコートでソフトクリームいただくソフトクリームスプシモンである。 これはくれたのはまたしても優しいデジ波羅蜜「布施」の包善平。 燃え尽きた元自称盗人を見兼ね慰めようとソフトクリームを購入し吾輩にもくれたのだ、先原マイトは何もくれないケチ。 「まぁ元気そうでよかった前からの知り合いがいるとちょっと気が楽だ、ここにはいつまで?」 「良さげな仕事見つかったんでな、今日の夕方にはここ出て現地行って…その後は分かんねえわ」 「ありゃ、せっかく会えたのに仕事は傭兵の方か?」 「ん、しばらく森の方には近付かねえ方がいいぞ相当な事になりそうだから」 じゃあな善平、と席を立ち去っていく先原マイトを食べ切ってないソフトクリームを持ったツカイモンが追いかけていく。 森とはどの森だろうかはっきり言わなければ分からないのに、それとも森とだけ言えば分かる程にどこかの森で大きな戦いがあるのだろうか。 そうなら既にスプシに載っているかもしれない、探し出す吾輩をよそに包善平とオーガモンも席を立ってしまった。 「じゃあね小さい子、なにかあったら医務室に来なさいしばらくいるから」 「一緒に行かなくていいのか?デカい戦いに行くっぽいぞあいつら」 「ここには期間決めて雇われてるから勝手に飛び出すわけにいかない、それに先原は強いから大丈夫さパートナーがいるなら尚更」 「まぁアリーナの戦いっぷりはいい線行ってたけどよ」 「そういう事じゃなくってさ、先原はあれで守りたいものとその順位を間違えない奴なんだ」 話しながら行ってしまう、後を追いたいが吾輩の端末はアトラーカブテリモンの森争奪戦なるシートを見つけてしまった。 特別な森の巫女を狙い始まった戦い、きっと先原マイトはこれに向かったのだ。 先原マイトを追えばこの大きな戦いの様子を傭兵の視点から記録する事が出来るだろう。 包善平を追えばアリーナの医務室にやって来る様々な者達の事を知れるだろう。 どちらに行くべきか、とりあえず残っているソフトクリームを食べてから考えるとしよう。