「ハッピーバースデ〜♪今日は君のバースデ〜♪」 学生なら恐らく一度は聴いたことがあるであろう、有名な合唱曲。 その合唱曲のサビを楽しげに口にしながらスキップする少女がいた。 「いや〜、自分の誕生日をたくさんの人にお祝いされたら素敵な笑顔にもなるってもんですよ えぇ!」 そう、本日9月23日は彼女───錦木千束の誕生日である。 たきな達喫茶リコリコのメンバー、常連客、ランサーズ、神浜や二木等の魔法少女達と言う面々 に祝って貰い、千束はこの上ない程に上機嫌だった。 「明日誕生日のフキにも自慢してやろーっと♪」 同僚のリコリスであるフキが聞いたらキレる事間違いなしの発言をしながら、千束は手に取って いるモノに視線を向ける。 「遊矢くんから18時に舞網スタジアムに来てってこのチケット渡されたけど、何やるんだろ?確か 今日は特に重要な試合とかはなかったハズ……」 ま、着いてからのお楽しみか。 千束はそう独りごち、スタジアムへの往路を進む。 「えーっと、確かこの辺りに席が……あ、たきな!」 特に困難もなくスタジアムへと辿り着いた千束は指定席を探していると、自らの相棒(バディ)であ るたきなの姿が視界に入る。 たきなも千束に気付いた様で、声を掛けてきた。 「千束!席はこっちです」 「サンキュー!お、柚子ちゃんとアオちゃんも最前列なんだ」 「わたし達以外にもいるよ〜。ほら」 アオに習い千束も周囲を見渡す。すると、自分の見知った人物達が客席にぞろぞろと並ぶ光景 が存在し、彼女の口から驚きの声が漏れる。 「わ!ユートくんやユーゴくん達だけじゃなくていろはちゃん達もいるじゃん!」 「みんな今日行われるイベントの為に集まったんですよ」 「イベント?」 「ふふっ、もうすぐ始まるわよ。ほら、ステージを見て!」 柚子がステージへと視線を向けると、そこには─── 『Ladies&Gentlemen!これよりエンタメデュエリストである私榊遊勝と息子・遊矢が繰り広げる 今日一日限りのバースデーデュエルが幕を開けます!』 「ちょ、え……ええええぇっ!ゆ、遊勝さん!?それに遊矢くんも!」 彼女の憧れの人物であるエンタメデュエリストの榊遊勝と、その息子である榊遊矢の姿があっ た。 この状況に混乱している千束を置き去りに、二人の観客席への挨拶は続く。 『客席の皆様!お集まり頂き誠にありがとうございます!今宵は是非私達親子によるエンタメ デュエルをお楽しみ下さい!そして────錦木千束さん』 「はっ、はいっ!」 『このサプライズは如何だったでしょうか?驚きましたか?』 「いや、驚きすぎて口が開きっぱなしだよ!」 「それはいつものこったろーが」 ミズキのツッコミを他所に、遊矢は今回の趣旨に至った理由を語り出す。 『貴女が以前私と父の決闘を目に出来なかったとお嘆きになっていたでしょう?それで今回のサ プライズをご用意させて頂きました』 「ぁ……」 アカデミア。覇王龍ズァーク。アラン機関とGODと言う強大の敵達との闘いの後、千束はGODの 中に存在するひとりの魔法少女を救った代償として、この世界から存在が消え掛けていた。 遊矢達決闘者とたきな達魔法少女が諦めずに奇跡を起こしてくれたお陰で、千束は無事ズァー クとレイと共に帰還する事が出来た。 その奇跡の最後のピースである榊親子による決闘を彼女は目にする事は叶わなかった。 「しかし、サプライズはこれで終わりではありません!これから始まるエンタメデュエルをどうか最 後までお見届け下さい!必ず笑顔と満足をプレゼントする事をお約束します!最後に───』 ───誕生日おめでとう、千束さん。オレはあなたに会えて本当に嬉しい 「…………」 「千束。ハンカチです」 「……ありがと。たきな」 「お楽しみはこれからですよ、千束。泣いてるヒマはありません」 「うん……うん。わかってる。ね、たきな」 「はい」 私、生まれてきて本当に良かった!