あらすじ テラケルモン率いる軍勢に、汐音とディノビーモンが立ちはだかる。 「行軍の邪魔だ。退け」 圧倒的威圧感と共に、テラケルモンが言葉を発する。森の中、自分たちの行軍を阻んだ少女とデジモン。 自身と比べれば大した力を持っていないように見えるが、その佇まいから力量差は把握できるものだと判断した。 「悪いがそうもいかない。あんた達の目的は元水竜将軍たちだろ?」 汐音の脳裏に浮かぶのは、従兄妹と彼と婚姻したデジモン。 二人とも間違いなく強者であるが、彼らの性質は共に竜。テラケルモンが持つドラモンブロッカーとは、致命的に相性が悪い。 「もう一度だけ言おう、退け。力量差も相性も分からぬ身ではないだろう」 …まあ、相性の悪さで言えばジョグレス元にエクスブイモンがいるディノビーモンも大概なのだが。 それを理解しているからこそ、彼女は準備をしてきたのだ。 「そうだな、確かにディノビーモン一体だと無理だ」 テラケルモンの問いに肯定で返す汐音。しかして余裕の態度は崩さず、ポケットから一枚のIDプレートを取り出す。 「だから、無理にでも追いつかせてもらう」 様々なムシクサキのデータを詰め込んだそれ。通常であればデジモンにデータをロードするだけの代物は、彼女の調整により方向性を固定した進化を促すものになっていた。 そしてそれを、デジヴァイスの端子へと読み込ませる。 「ディノビーモン進化…」 ディノビーモンの甲殻が成長し、その全身を覆い隠す。深緑であったそれは深い紫へとその色を変えた。 六対の羽はすべて虫の物へと変質し、尾は足と同化し蠍の如く。頭部には雄々しき兜の角を戴いた。 「タイラントカブテリモン!」 昆虫型、ウィルス種の究極体デジモン。様々な虫の要素その身に宿し、全ての昆虫型デジモンを治める「蟲の王」。 本体の戦闘能力もさることながら、その最大の特徴は昆虫型デジモンを意のままに操るその能力。 昆虫型デジモンは虫型のデジモンのほとんどの割合を占め、その数も多い。ましてや、今回の戦場のような森林地帯ともなれば… 「…なるほど、木竜軍のごとき威容だな」 カブテリモンクワガーモンを筆頭とし、ヤンマモンやサンドヤンマモン。その他昆虫型が、森より飛び立ち王の下に集う。 空を覆いつくさんとするその数は、今回進軍に来た火竜軍に迫るほど。 「これで、五分だ」 汐音の戦意に応えるように、蟲の王は咆哮を上げた。配下たちは顎を打ち鳴らし翅を震わせ、一斉に戦闘態勢を取る。 実のところ、戦力差としては未だ火竜軍の方が上手である。昆虫型になったことによりドラモンブロッカーの効果から逃れたものの、連携含め訓練を積んできたであろう相手方に対し、こちらはタイラントカブテリモンに統率されているとはいえ寄せ集めだ。 援軍の期待はない。相手の全力はいまだ未知数。だがここで退けば、自らの誇りを失う。 ならば戦う理由は、それで充分だ。 「強敵として名前を聞いておこう」 「タイラントカブテリモンとカノン。覚えていけ」 この誇り(プライド)こそが、自分たちの正典(カノン)なのだから。